馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[1]12月3週:中山:朝日杯FS(GⅠ)

 ブランディッシュの時代、後に世代の中心と呼ばれるのは三頭。

 メジロマックイーン産駒のブランディッシュ、トウカイテイオー産駒のハマノロマンス、ツインターボ産駒のアクセルターボ。

 しかし、それは古馬の成績も含めた時の話であり、3歳の時はまだ他にも注目を浴びている競走馬は多くいた。

 

 あの時代の産駒は、本当に混迷を極めており、

 古馬では、ライスシャワー産駒やマチカネフクキタル産駒が良い成績を残している。

 そんな時代だからこそ、誰も血統だけで予想なんて付けられなかった。

 

 それでもまあ、最も安定していたのはサンデーサイレンス産駒であったし、ダートだとブライアンズタイム産駒が強いのは変わらなかった。

 トニービン産駒も強かった。特に東京競馬場が得意であり、コンスタンスに東京優駿と優駿牝馬に勝つ産駒を生み出していた。

 そんな環境だからこそ、海外馬の血を求める牧場主は多かったんだ。

 

 パンデミックで輸入制限が掛かる直前、海外から格安で仕入れられた繁殖牝馬がいた。

 そいつの父は、彼の有名な三代目ビッグレッド。サンデーサイレンスの好敵手として知られる三代目ビッグレッドだった。

 クラシック路線が幕を開ける直前、注目を浴びていたのがそいつの仔になる。

 

 名前はイージーゲーム。

 父ヘクタープロテクター、母父イージーゴア。クロスはレイズアネイティヴの4×4、バックパサーの4×4。

 両親に似た赤い栗毛の競走馬であり、和製ビッグレッドとして名を馳せた。

 

 中央トレセン学園では、トレーニング用のトラックコースで、その鮮やかな赤髪を靡かせて走る姿が見ることができる。

 

 12月時点で重賞2勝を含めた4戦4勝と乗りに乗っているウマ娘だ。

 翌週に開催される朝日杯FSには、彼女の好敵手となるサンデーサイレンス産駒のウマ娘も出る為*1、気合の入り方が違っている。

 今日も懸命に走り込んでいた。

 

 誰もが勝利を求めて懸命に走る中、勝利を手にするのはただ一人。

 この世界であっても、過酷であることには変わりないな。と独り嘯いた。

 

 

 2歳時、12月第3週。中山競馬場。朝日杯FS芝1600メートル。

 パドックにて、大きな馬体、鮮やかな赤い毛並みは今日も輝いていた。

 

 今日の面子の中では頭ひとつ分の飛び抜けた実力を持っており、今日もまた1番人気に上げられている。

 

 この頃はまだサンデーサイレンスの天下が続いていたとされており、重賞レースで有力とされていたサンデーサイレンス産駒を薙ぎ倒す姿は痛快だった。

 母父がサンデーサイレンスの好敵手という事もあって、ファンには対サンデーサイレンス産駒の急先鋒として取り上げられる。実際、何処を見てもサンデーサイレンスばかりの時代には飽きていた頃合いだ。馬券を買う側としては嬉しいが、他の血統が淘汰されていく様は寂しいものがあったし、競馬としての面白みに欠ける時代でもあった。勿論、金がかかる以上は浪漫ばかり言ってられないのは理解しているが、感情では納得し切れないものがある。

 さておき、そんな時代にキラリと現れた超新星に誰もが注目したのは言うまでもない。

 

 もう此処まで来ると和製血統だとか、なんだとか、そういうのはどうでもよかった。

 日本で産まれ育った。これだけで充分であり、サンデーサイレンス産駒を打ち負かせてくれるならば何でもよかったのだ。時代が進むとサンデーサイレンス産駒の競走馬も正当に評価されるものだが、なんというか、こう、その時代を生きていなければ分からない諦観や熱狂のようなものが確かにあった。チャチな言葉を使うならば、ライブ感。とでも云うべきか。

 とにかく、サンデーサイレンスばかりの代わり映えしない血統表に飽き飽きとしていたのだ。

 

 この時、サンデーサイレンス産駒で最有力候補とされていたのが、

 父サンデーサイレンス、母父ノーザンテーストと日本における二大種牡馬の血を引いている競走馬だ。

 名前は、デュアルコアと言った。

 

 サンデーサイレンスに似たのか青鹿毛の真っ黒な馬体。日本に蘇ったサンデーサイレンス対イージーゴアの再来とも呼ばれた一戦。

 イージーゲームとデュアルコアで馬連を固めるのは常識。三連単、もしくは三連複にする時に、どの馬を3頭目に持ってくるかが鍵となった。

 それぐらいに当時、イージーゲームとデュアルコアは固い馬券であった。

 

 これから先の長い時代、イージーゲームとデュアルコアの2頭が競い争う時代が来ると確信していた。

 そこにアクセルターボといった伏兵が入れば、以後3年は競馬を楽しめるだろうと思ったもんだ。

 

 イージーゲームとデュアルコアの激戦は、最後の直線。ゴール間際までもつれ込んだ。

 どちらも譲らない闘志丸出しの姿に熱が込みあがる。2馬身、3馬身と後続との差を突き放したんだ。

 正直、3頭は他とはモノが違っている。

 

 この時、俺はデュアルコアが勝利すると思っていた。

 イージーゴアはコーナーを苦手とする馬であり、対するサンデーサイレンスはコーナーを得意とする馬だった為だ。小回りのコースでは、サンデーサイレンス。その根拠からデュアルコア→イージーゲームの並びで馬券を流していた。

 最後の直線に入って横並びになった時には、思わずほくそ笑んだ。

 

 イージーゲームの父、ヘクタープロテクターはその名の通り、ミスタープロスペクター系を引き継ぐウッドマンの仔だ。

 ミスタープロスペクター系産駒の末脚は、持続力で勝負するタイプであり、デュアルコアは末脚の爆発力で勝負するタイプであった。

 これはもう勝ったな、風呂に入ってくる。そんな余裕さえあった。

 

 しかし、先述したように勝負はゴール間際までもつれ込んだ。

 追い縋るデュアルコアにイージーゲームは一歩も引かず、クビ差を維持したまま最後の最後まで駆け抜けていった。デュアルコアの爆発力に、負けないイージーゲームの瞬発力。その結果を見て、計5000円の大勝負に出ていた俺は頭を抱えた。

 イージーゲームとデュアルコアの対決は、この勝負の後、暫く訪れない。

 

 だが、二頭の戦いは舞台を変えて、長く続いていく事になる。

 

 

 なんとなしに気に入らないウマ娘がいる。

 イージーゲームは、そんなことを感じることが多かった。

 

 サイレンススズカ、スペシャルウィーク、マーベラスサンデー、エアシャカール、フジキセキ、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ……兎にも角にも見ているだけでもイライラし、話せば喧嘩になることが多かった為、そういったウマ娘とは自然と距離を置くようになった。

 

 別に相手が悪い訳じゃない、ただなんとなくソリが合わないのだ。

 レースになれば、そういうウマ娘が居ると絶対に勝ってやると闘志が湧いて、力を以て捻じ伏せてきた。勝てば気分がスカッとし、上から見下すように鼻で笑ってやるのが好きだった。

 そんな奴の中に、デュアルコアも入っていた。

 

 何時ものように鼻で笑って見下してやれば、親の仇でも見るような目で睨み返して来た。

 それもまた内心で嘲笑って、休憩室に戻る。

 

「あの態度は駄目だよ~、みんなから嫌われちゃうよ?」

 

 ウイニングライブまでの休憩室では、私よりも大きな巨体。ヒシアケボノ先輩が待ち構えていた。

 スポーツドリンクを受け取り、それを呷った。

 

「ありがとうございます、ヒシアケボノ先輩」

「私相手だと普通にお礼をいう事ができるのにな~、どうしてなんだろう?」

「……特に理由がある訳じゃないんですけどね」

 

 イージーゲームは罰が悪そうに視線を逸らす姿を見て、むうっとヒシアケボノは口先を尖らせた。

 世間はイージーゲームとデュアルコアの二強で盛り上がっている。その初戦を勝ち切ったことに、イージーゲームは拳を小さく握り締める。

 目指すはクラシック3冠ウマ娘、デュアルコア如きには負けてやるものか。と息巻いた。

 

 しかし数週間後、ウマ娘雑誌にデュアルコアがNHKマイルCを目指す事を明らかにする記事があり、イージーゲームは暫く荒れることになった。

*1
この世界では、実際の親子関係はない。




馬名:イージーゲーム 性別:牡 毛色:栗毛
父:ヘクタープロテクター 母父:イージーゴア
クロス:レイズアネイティヴ4×4、バックパサー4×4

 パンデミック以前、
 イージーゴア産駒の繁殖牝馬を安価で購入することができたのが始まりである。
 本来ならばウッドマンを付けることでレイズアネイティヴ3×4、バックパサー3×4と浪漫に洒落込みたかったが、それが不可能だということは分かっていたのでウッドマンの仔であるヘクタープロテクターと種付けする。
 元々ミスタープロスペクター系とバックパサー系の相性の良さを知っていたこともあり、産まれる前から期待されていた一頭であった。

 産まれた後もイージーゲームは蝶よ花よと大切に育てられており、それに応えるようにめきめきと力を付けていった。
 最優秀2歳牡馬。当時、他に有力視されていたのがデュアルコアしか居なかった為、三冠制覇の期待を受けていた競走馬である。
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