馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]1月3週:京都:若駒S(L)

 1月第3週、京都レース場。若駒S。

 中央に移籍してきたハマノロマンスが、先ず力試しにと選んだレースは奇しくも父が出走したものと同じであった。

 まだハマノロマンスも地方から来たトウカイテイオー産駒の競走馬が居るっていうだけでしかなく、その噂の真偽も半信半疑だった。これといって目ぼしい競走馬は居ないが、強いてあげるならば、ダンスインザダーク産駒のグレートフルーヴ。サイレンススズカ産駒のゴーマイウェイの二頭といったところだった。

 でも今日は伝説の始まりになる。長い年月を超えて、巻き戻り、再び俺はこの場に立っている。

 

 その事に感動もあれば、不思議な感慨のようなものも感じている。

 

 長年、年間収支を赤字にし続けた馬券おじさんとしては、この世界に馬券がない事は少し寂しいものがある。

 しかし、ある程度、結果を知っている身で馬券を買うのは楽しいことではない。手堅い馬券で利益を出し、出した利益で難しい馬券を買う。手堅く1000円以上を支払うよりも、100円、200円に本気で悩んでいる時の方が馬券を買うのは楽しいもんだ。

 そんなんだから収支で赤字になるんだよ、と知り合いの馬券仲間からはよく言われていた。

 

 空を見上げた、大空を鳥が飛んでいた。

 

 ハマノロマンスに気負った様子はない。

 地方とは違う中央の空気、これが本命ではないとはいえ観客席を埋め尽くすファンの数は地方の比ではない。

 それでも彼女は、まるで自分の庭のようにコースに悠々と踏み入れた。

 

 気付く者は分かる。ウマ娘なら猶更だ、彼女は纏っている空気が違っていた。

 意識的か、無意識か。その時の誰もがハマノロマンスを視界に収めている、目を奪われる。

 特になにか感じ入るものがなくとも、つい追いかけてしまうのだ。

 

 彼女は、そういう雰囲気を持っていた。

 

 ハマノロマンスが芝に立つ、その意味をまだ誰も知らない。

 コースに入った途端、会場内にいる鳥達がバサバサと逃げるように飛び立った。

 母父タマモクロス、その末脚は白い稲妻と評される。

 

 ハマノロマンスは、奇跡の一頭だ。

 父トウカイテイオーと母父タマモクロスの才能を引き継いでいる。

 不屈の精神が、そこにはあった。

 

 ハマノロマンス、その二つ名は闘将。最強馬の一角である。

 この世代、ではない。

 この時代における最強馬の一角であった。

 

 

 京都競馬場、若駒S(L)。芝2000メートル。

 笠松から中央に移籍したハマノロマンスは、美浦に所属する厩舎に引き取られたが、京成杯に出るのは早すぎるとして遠征に出た。

 これは皐月賞に向けた予行演習でもあり、輸送に対する適正も見る為のものであった。

 

 幸いにもハマノロマンスは輸送を苦にしなかった。

 輸送当日も普段程度には食事を摂っていたし、新しい馬房にも悠々と寝転んで輸送の疲れを癒している。

 食が細いのは難点ではあったが、常に一定量は食べるので気にはしなかった。

 

 地方で積み上げた実績は6戦6勝、此処から更に飛躍することになるとは誰が思ったか。

 少なくとも競馬ファンの中には居なかったに違いない。地方で凄い競走馬がいる。という話は聞いても、地方の中での話だろ? と思うのが関の山だ。

 今時、オグリキャップみたいな競走馬が出てくるなんて誰も思っちゃいなかった。

 

 それでもまあ、トウカイテイオー産駒だし期待してやっても良い。といった感じに馬券を握り締めるのである。

 毎週競馬を辞めている競馬好きのアイドルが「プロデューサーがハマノロマンスだって言ってた!」と自信満々にラジオで話していた事から、より期待をされなくなってしまったのは御愛嬌。いや、でも、その影響で少なからずハマノロマンスが認知度が増えたのだが、それはそれだ。本命はやっぱり、グレートフルーヴかゴーマイウェイ。グレートフルーヴは血統的に長距離を得意としてそうなので、ここはサイレンススズカ産駒のゴーマイウェイである。

 ゴーマイウェイは父と同じく逃げ馬だが、父のように圧倒的ではない。父も大成するまでに少し時間がかかっている為、心配があるとすればその辺りか。

 

 ハマノロマンスは6番人気、やっぱりサンデーサイレンスが大正義である。

 

 各馬がゲートに収まり、観客席が静かになる。

 息を飲むような緊張の後、ガシャコン、と音を立てながら一斉にスタートをした。

 ハナを切ったのはゴーマイウェイ。グレートフルーヴは中団よりやや先行、ハマノロマンスは前から3、4番手の位置に付ける。

 ゴーマイウェイは速度に乗るまでが早く、意識せずとも逃げになりやすかった。と鞍上の騎手は語る。

 母父はサクラチヨノオー。母父父であるマルゼンスキーのスピードも生かして、どんどんと前に打って出た。

 

 グレートフルーヴの母父はスーパークリークだ。

 今でこそスピードが持てはやされるが、昔は長距離を走れてこそ強い競走馬だという風潮があった。

 その為、昔ながらのステイヤーを作りたいという想いを込めて産まれたのが、コッテコテのステイヤー配合であるグレートフルーヴになる。

 とはいえだ、決して速度を軽視している訳でもない。

 

 ダンスインザダークは2000メートルの重賞に勝利しており、スーパークリークも秋の天皇賞に勝利したこともある競走馬だ。

 

 若駒Sは、血統的にもグレートフルーヴの射程圏内だと云える。

 レースの中盤、順位の変動はない。ゴーマイウェイはレースのペースを作る競走馬ではなく、自分のペースで走る逃げ馬だ。

 第3コーナーに入った辺りで、グレートフルーヴが先頭との距離を詰め始める。

 対して、ハマノロマンスはコースの内側に入ったまま動かなかった。

 

 そのまま最終コーナーを回る、先頭はゴーマイウェイ。差は2馬身。

 さあ、ここからだ。とゴーマイウェイが仕掛ける。京都競馬場の外回りはダンスインザダークの得意なコース、外からじわりじわりと加速するグレートフルーヴ。一頭、また一頭と抜いて、ゴーマイウェイを射程距離に収める。しかしゴーマイウェイもまたサイレンススズカ産駒だ、スピードでは決して劣っていない。追いつけるか、追いつけないか微妙な距離。その二頭の間、馬群を割って現れたのは、額に満月。ハマノロマンスが、グレートフルーヴとゴーマイウェイを一気に抜き去った。

 半馬身の差を付けたところで、予定調和のようにゴール板を横切った。

 

 ギリギリの勝利、しかしハマノロマンスはゴールを超えた後も軽い足取りで走っていた。

 

 そんな彼が正当な評価を受けるのは、もう暫く後になる。

 今はまだ、なかなかやる競走馬が地方からやってきた。といった程度の認識に過ぎない。

 俺だって、この時はまだ彼の実力を信じ切れた訳ではなかった。

 

 余談だが、2着はグレートフルーヴ。3着にゴーマイウェイ。アタマ差だった。

 

 

 若駒Sを勝利したハマノロマンスは、一本、指を立てた手を頭上高くに掲げた。

 先ずは一勝。これから先、中央でも勝ち星を上げ続けてやる。という強い意思が込められている。

 彼の実力を知る者は、まだ少ない。

 

 直接戦ったゴーマイウェイとグレートフルーヴだけが、最初から計算して半バ身で勝利したことに気付いていた。

 

 ゴール板を抜けるまで、粘り追い縋る。

 ギリギリの勝負に興じていた二人とは、最初から立っている舞台が違っていた。

 見ている景色が違うのだ。

 

 その事実に、二人は歯噛みし、リベンジを誓うのであった。




馬名:ゴーマイウェイ 性別:牡 毛色:鹿毛
父:サイレンススズカ 母父:サクラチヨノオー
クロス:バックパサー5×5

当時の現役最強のスピード(サイレンススズカ)に、当時の現役最強のスピード(マルゼンスキー)を合わせた血統。ただただスピードを追求した配合に、図らずとも逃げを意識せずとも逃げる競走馬が誕生する。
某大型牧場の要請により、和製血統を作ることになった際、どうせなら和製最強馬を作ろうと目指して、最強に最強を合わせてみたというシンプルな経緯から生まれている。
スピードは世代でもトップクラスのものを持っている。

翌年、父サイレンススズカ、母父サクラバクシンオーを試みている。
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