馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]2月3週:東京:共闘通信杯(GⅢ)

 ブランディッシュ世代には、多くの個性的な競走馬が存在している。

 最優秀二歳牡馬の称号を持っている和製ビッグレッドことイージーゲーム、その好敵手デュアルコア。三歳から注目を浴びるのは、メジロマックイーン産駒のブランディッシュ、トウカイテイオー産駒のハマノロマンス。ツインターボ産駒のアクセルターボ。の三頭を始めとして、サイレンススズカ産駒のゴーマイウェイ、ダンスインザダーク産駒のグレートフルーヴ。

 これまでも多くの競走馬について駄弁らせて貰ったが、そこに更に1頭。ブランディッシュ世代を彩る競走馬を紹介する。

 

 その競走馬の名前は、ライウン。父はセイウンスカイ、母父はアイネスフウジン。

 ブランディッシュと同じ葦毛の競走馬であり、性格は自由奔放。勝つことよりも気分よく走ることを目的に走っているとまで言われた事がある。

 そんな彼が得意とする戦法は逃げ。父、そして母父と同じ戦法だった。

 

 この世界でも彼女は悠々とトレーニング用のコースを走っている。

 走っている時は誰にも邪魔をされるべきではない、と併走もせずにストップウォッチを片手に走り続けていた。誰もが他者との競争を望み、レースに闘志を燃やす中で、彼女はタイムアタックに興じている。サイレンススズカだけは彼女に強い共感を示しているようだが、ただ独りで邪魔されずに走りたいだけの彼女とは根本的なところで違っていた。

 彼女はラップタイムを揃えて走るのが好きだった。

 タイムを縮める事よりもラップタイムがピタッと同じ数字が並んだ時に喜びを感じるタイプであり、周りからは変人扱いをされる事が多い。彼女が併走を嫌うのは、他のウマ娘の影響でラップタイムに乱れが生じる為だ。ラップタイムを揃えるだけではなくて、1秒ずつ早くしたり、遅くしてみたり、そうやって遊んでいる内に彼女はタイムを自在に操れるようになっていった。

 競走馬ライウンに与えられていた二つ名は、奇術師。もしくは詐欺師。

 

 同じ逃げ馬のゴーマイウェイが居なければ、三冠を取れていた可能性もあると云われる競走馬であった。

 

 

 2月第3週、東京競馬場。共同通信杯(GⅢ)。

 クラシックの登竜門。後世にも名を残す多くの名馬を輩出してきた本レースは皐月賞を占う大事な一戦でもある為、馬券おじさん的にも見逃せない一戦だ。このレースで注目を浴びるのは、ただ一頭。ライウンに限られる。

 彼はモノが違うと誰もが言った。

 最優秀二歳牡馬のイージーゲームが最有力ではあったが、それに負けない素質を持っていると信じられていた。

 なによりも彼女の勝ち方は鮮烈で華やかだった。

 

 破滅逃げの一歩手前、母父アイネスフウジンと同じく前駆に不安があったのかブレーキを利かせない大逃げが彼の戦法だ。

 前走の新馬戦でも大逃げに打って出ると影すらも踏ませず、3馬身の差を付けて勝利している。最後に大きく速度を落としていたのが少し気になる点ではあるが、過剰に追ったり、鞭を叩いたりしない様子からもっと力を備えていると信じられていた。

 二月時点での有力候補。今日の共同通信杯では、その真価が問われる。

 

 1番人気だった。それはもう圧倒的な1番人気だ。

 手堅い馬券だと、俺もライウンを1着にして流している。

 近頃、負けが込んでいる為、此処で勝っておきたかった。

 

 本レース、ライウンが打って出たのは大逃げだった。

 ペースを無視した大逃げに、観客席ではどよめき。まだ第3コーナーにも入っていない時点で10馬身以上も差が付いていた。そこからバテにバテてしまって急失速、逆噴射装置が付いているのではないかってくらいに足が止まり、10馬身以上の差は3馬身にまで縮まってしまった。その3馬身を守るように、そこから再加速して、でも徐々に差が縮まって、あと少し、もうちょっと、残り30メートルの時点でもうハナ差もなかった。

 ああ、終わった。そう思った時だ、抜き返された瞬間、キュッと一歩分、更に加速したような気がした。

 

 結果、終わってみればアタマ差の勝利。なんとも苦しいレースをしていた。

 鞍上の騎手も、抑えることができなかった。と騎乗ミスを認めた。

 でも、なんというか。違和感がある終わり方をしていた。

 

 言語化できない、喉に突っかかりを覚えるようなレース。

 このレースの後、彼の評価は一変する。

 あれじゃ逃げ馬じゃなくて暴走機関車だよ、と嘲る者まで現れる程だった。

 

 

 ライウンがトラックコースを走り終えた後、何時もコース脇で待ち構えているのはニシノフラワーだ。

 同じチームの彼女から特性のドリンクを受け取ると「ありがと」とライウンは喉を立てながら呷る。その背後から軽い足取りで近づいてくる葦毛のウマ娘、彼女は声すら掛けず、ライウンの後ろからラリアットをかますように腕に手を回した。

「や~、随分と良い御身分じゃん?」と、挑発的な言葉と共にライウンの顎を人差し指で擽る。

 

「……年上の嫉妬ほど醜いものはないんじゃないですか?」

「ふぅん? 生意気な口を利くのは、どの口かな~?」

「いひゃい! いひゃい!」

 

 頬をつねり上げるのはセイウンスカイ、ライウンと同じく逃げを得意とする葦毛のウマ娘だ。

 トゥインクル・シリーズを卒業後、ドリームトロフィー・リーグには数年、在籍した後に引退した彼女は臨時のトレーニングコーチとして呼ばれる事が多い。特に逃げ戦法を得意とするウマ娘の対策や、逆に逃げ戦法で注意すべき点なんかを教えたりもする。葦毛の逃げウマ娘という珍しさも相まってかバラエティー番組への露出も多く、時折、釣り大会に出場して優勝することもある彼女は「脚が速い釣り人」と茶化される事も多々あった。

 ライウンも何度かセイウンスカイの師事を受けているが、今日は彼女にコーチを付けてもらう予定はなかった。

 

「あんまり虐めないであげてください」

 

 困ったようにニシノフラワーが告げると「あ、そう?」とセイウンスカイが摘まんだ頬を離した。

 

「……へたれめ」

「ん~、まだお仕置きが足りないのかな~?」

「あんまり後輩を虐めてるとニシノ先輩に嫌われますよ~?」

 

 笑顔で睨み合う二人の様子にニシノフラワーは悩ましげに眉を潜める。

 この二人は何時もこんな感じなのだ。絡むのはセイウンスカイなのだが、売り文句に買い文句と挑発をし返すのはライウンの悪い癖である。

 ソリが合わないのか、何時も二人はいがみ合っている。

 

「まあた、後輩ちゃんを虐めてるのー」

 

 そうこうしていると横からサンバイザーを掛けたウマ娘が二人の間に割って入る。

 

「アイネスフウジン……別に虐めてなんていないよ」

「絶対に虐めてたの! ライウンちゃんの頬を赤くなってるし!」

「いやだな~、ただのスキンシップだよ。それよりも私達の間に割って入らないでくれる?」

「アイネス先輩、助けてください!」

「任せるなの!」

「ちょっと、君……先輩に頼るなんて狡くない?」

 

 混沌としてきた様相にニシノフラワーは溜息を零す。

 ライウンは良い子だし、アイネスフウジンも普段はこうではない。セイウンスカイは、まあちょっと、性格に難があるところもあるけども、誰かを虐めるような絡み方をすることはほとんどない。しかしライウンを中心に絡むと全員が面倒臭い方向に走ってしまうのだ。

 どうやって、収拾を付けようかニシノフラワーが悩んでいると、

 

「ニシノ先輩を独り占めにされて気に食わないなら、そういえば良いんですよ。最近、ちょっと付き合い悪いなあとか思ってるんでしょ?」

「なっ!」

「……へぇ?」

 

 不意打ちに顔を赤くするセイウンスカイを見て、ニシノフラワーの可憐な心にちょこっと悪戯心が芽生える。

 

「そうだったんですか?」

 

 わざと惚けるように問い掛けると「あ、いや、その……」と目を泳がせるセイウンスカイ。それを見て、くすりと息を漏らす。

 

「寂しかったのなら、そう言ってくれれば良かったのに。予定は何時、空けておけば良いですか?」

「……え? えーと、あ~、ん~…………」

「おおっ、積極的なの!」

 

 先程までいがみ合っていたのは、なんだったのか。

 アイネスフウジンの関心は別に移っており、ライウンはにまにまと笑みを浮かべ続けている。

 ああ、そういえば、とニシノフラワーが言葉を付け足す。

 

「数日前からブルボンさんは実家に帰っています。久しぶりにお泊り会でもしましょうか?」

「あ、あ、あ~~……それじゃあ、もう休憩も終わりだから! コーチ付けてあげなきゃ!」

 

 たじたじとなったセイウンスカイは、逃げウマ娘の名に恥じぬ逃げっぷり走り出してしまった。

 

「へたれ先輩」

「へたれなの~」

「そこもまた可愛らしいんですよ」

 

 ジトッとした目をするライウンとアイネスフウジンの後ろで、楽しそうに肩を揺らすニシノフラワー。

 どうにもライウンが関わると面倒臭くなるのは二人だけではなかったらしい。

 

 

 




馬名:ライウン 性別:牡 毛色:葦毛
年齢:3歳(±0)
父:セイウンスカイ 母父:アイネスフウジン
クロス:なし

 当時、セイウンスカイは同世代の好敵手達と比べると人気は薄く、某大型牧場グループの支援があってなおも種付け相手には恵まれなかった。
 そんな中、とある牧場主が「サンインロー系の繁殖牝馬の相手に困っている。あんまり高い金は出せないが、何処かに安くて良い種牡馬はないだろうか?」と軽い気持ちで話題に出したので、ああそれなら、とセイウンスカイを紹介した。今なら某大型牧場グループの支援を受けられることも伝えると相手は二つ返事で承諾し、その年の種付けシーズンに父アイネスフウジンの繁殖牝馬を持ってきた。
 そうして産まれたのがライウンになる。

 アイネスフウジンの体質に似たのか。産まれた直後は前駆が弱くてバランスが悪かった。
 父と母父は実績を持つ競走馬だが、血統的に大した期待は持てそうにない。その為、調教師がなかなか見つからず、頭を下げて探し回った結果、馬房を埋める為に東奔西走していた免許取り立ての新米調教師に預けることになった。
 調教を続けている内に体質を改善し、セイウンスカイのようにバランスの取れた馬体へと変貌していくことになる。

 戦法で逃げるのは、本馬が気分を損ねると走る気力をなくす為である。
 競走馬としての彼は、調教の併走では綺麗に後ろから抜き去るし、調教中に掛かって暴走することもなかった。馬群が嫌いなのは自分の走りができない為であり、馬体を擦られたりとか、前から垂れて来たりとか、横から割って入られたりとか、そういうのが嫌いなだけで、馬に囲まれることそのものが嫌いではなかったりする。
 まあ逃げる能力があるので、そんな博打をするくらいなら逃げるのだけど。

 同世代の同じ逃げ馬のゴーマイウェイとの違いは、豊富なスタミナにある。菊花賞馬であるセイウンスカイは勿論、アイネスフウジンの父シーホークは2頭の春の天皇賞馬を輩出している。

戦績2戦2勝(月/週)
▽3歳
 1/1:中山:1着:新馬戦(芝1600m)
 2/3:東京:1着:共同通信杯(芝1800m)

原作よりも歳月が過ぎて、
ほんのり強かになってるニシノフラワーと変わらないセイウンスカイ。
次回、弥生賞。
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