馬券おじさんは駄弁りたい。   作:にゃあたいぷ。

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[2]3月3週:阪神:若葉S(L)

 キングヘイロー、偉大な両親を持つ競走馬。

 王道路線で成果を出せなかった彼は、短距離に活路を見出し、その路線で結果を出すことに成功した。

 ウマ娘である彼女もまた、不倒不屈の精神を持つアスリートである。

 

 そんな彼女が最近、御執心となっているウマ娘がいる。

 

 トレーニングコースの脇にて、キングヘイローが黒鹿毛のウマ娘が真っ黒に頬をタオルで拭い取る。

 若干、迷惑そうにしながらも文句を言わずに甘受する少女の名はシヴォリー。騎士道を名に持つ彼女はキングヘイローの親戚であり、キングヘイローに仕える従士見習いを自称している。しかし、面倒見の良いキングヘイローは彼女を妹同然の扱いをしており、不貞腐れた顔のセヴァリーがされるがままになっているところをよく見られた。

 ……なんというか。くっころ、が似合いそうなウマ娘であった。

 

 その在り方は実直であり、自分の頭で考える前に与えられた任務を熟すこと優先する。

 バカではある。バカではあるが、バカだと自覚しているバカであった。言われたことを素直に熟し、理解できない事も説明を受けて、理解をしようとする意思を見せる。独りの時は寡黙であり、凛々しい顔つきをしている為にファンは多かった。

 競走馬シヴォリーは、素直な馬だったと聞いている。

 父はキングヘイロー、母父はタイキブリザード。ヘイローの血筋は思えない穏やかな気性を持っており、撫でられるのが好きであり、騎手の指示には素直に従う競走馬であった。

 その彼女もまた優秀な競走馬の一頭だ。サイレンススズカ産駒のゴーマイウェイと共に若葉Sにも彼女は出走している。

 

 

 3月3週、阪神競馬場。若葉S、芝2000m。

 関西で開催される皐月賞トライアル。OP戦という入り易さもあり、皐月賞へのステップアップを目指す多くの競走馬が出走する。優勝馬で有名なのはシリウスシンボリ、トウカイテイオー、ビワハヤヒデ。他にも多くの有名な競走馬が、本レースを勝ち鞍に加えていった。

 そんなレースにて、今回は二頭の有力馬が出走している。

 

 先ずは前走の若駒S、3着馬。サイレンススズカ産駒のゴーマイウェイ。

 彼女の血は逃げ馬の系譜にあり、父サイレンススズカ譲りのスピードを以てスタート直後からハナを切って先頭を走り続ける競走馬だ。父が引退するきっかけとなった秋の天皇賞のような破滅的なスピードで逃げることはないが、それでも同世代の中では圧倒的なスピードを持っている事には変わりない。

 新馬戦では、最初から最後まで影も踏ませぬ見事な逃げっぷりで競馬界を騒がせている。

 

 もう一頭は黒鹿毛、シヴォリー。4戦2勝、まだオープン戦以上で勝利は掴めていない。

 実力は持っていると言われているが、なかなか勝ちには恵まれない競走馬だ。それもそのはずで父にキングヘイロー、母父にタイキブリザードを持っており、負けた2戦は共に1800メートルのレースであった。キングヘイロー、タイキブリザードと共に2000メートルでも活躍していた競走馬なので、仔であるシヴォリーもまた2000メートルまでなら勝負できないかと考えて、彼の適性を見極める意味でも本レースに出走させていた。

 このレースでも結果が出なければ、陣営は彼に短距離マイルを主戦場に据える魂胆だ。

 距離が短ければ短い方が速いのは、ファンの目からも明らかであり、その人気は3番目と低めに設定されている。

 

 2番人気の競走馬は、以後も結果を出せず、オープンクラスに上がるのが精一杯だった競走馬なので割愛する。

 さておき、本レース。関東圏に住居を持つ俺は、来たる本番、皐月賞の為にテレビ観戦をしていた。

 

 各馬、ゲートに収まって……スタート。

 ハナを切って逃げたのは、やはりゴーマイウェイ。走り出しからのスピードの乗りは古馬を含めてもトップレベルだ。

 他馬に競うことすらも許さずに先頭に躍り出て、逃げる態勢を作る。対するシヴォリーは中団やや先行の位置取り、真っ黒の馬体を大きく使って、尻尾を振りながら伸び伸びと走る。一定の距離を保ったまま、馬なりに逃げ続けるゴーマイウェイ。差は2馬身、3馬身と徐々に開きつつあった。

 第3コーナーに入ってもゴーマイウェイは脚を緩めず、そのままの速度で最後の直線へと差し掛かる。

 

 3馬身の差を以て、2番目に直線に入ったのはシヴォリーだ。

 しかしシヴォリーは最後の400メートルでスパートを仕掛けることが出来なかった。

 最終コーナーから速度は変わらず、後続に追い抜かれて、相対的にずるずると後退していく事になる。

 対して、ゴーマイウェイは最後の300メートルは僅かに再加速。追い縋ってくる後続に3馬身以上の貯金を使って、悠々とゴールラインを切った。

 差は1馬身、丁度、二着馬を抑え込む形となった。

 

 シヴォリーは6着。これが初めての掲示板外の結果となり、次走はニュージーランドTに定められる。

 

 

「走る! 走る! 走る! 走る!」

 

 ウッキウキでトラックコースを走り続けるのはゴーマイウェイだ。

 チームで貸し切ったコースを、たった一人、満面の笑顔で延々と走り続けている。

 そんな彼女の様子を頬に手を添えて、眺めるのはサイレンススズカである。

 

 あらあら、と後輩の微笑ましい様子にほっこりと口元を緩める。

 うずうず、と誘われるようにコースに歩みを進めた。

 

「待ちなさい」

 

 しかし、その脚は女性トレーナーの手によって阻まれる。まるで意味が分からないとでも言いたげに可愛らしく小首を傾げるサイレンススズカを女性トレーナーは鬼の形相で睨み付けた。

 

「貴女の脚は秋の天皇賞でガラスなのよ! 今日は走らない! トレーニングはプールが中心だし、今日、走る分はもう終わっているのよ!」

「……でも、彼女は走っています」

「ゴーマイウェイの脚は貴女と違って頑丈だからね! 怪我が癖になってる貴女と一緒にしないで!」

「……今日は、いい天気です。それに良い風が吹いています」

「それが?」

「走らないと勿体ないです」

「もったいなくない!」

 

 あーだこーだと尊敬する先輩とトレーナーが言い争っている横で、ゴーマイウェイは走り続ける。

 サイレンススズカ程には、先頭に執着をしていない彼女ではあったが、この視界に誰も映らない景色を心地よく感じる気持ちはなんとなしに分かった。愛バに苦言を零しながらもストップウォッチは自由気ままに走る担当ウマ娘のラップタイムを正確に刻み続けている。

 その画面に並んだ数字は、全て誤差0.1秒以内に収まっていた。




馬名:ゴーマイウェイ 性別:牡 毛色:鹿毛
馬齢:3歳(±0)
父:サイレンススズカ 母父:サクラチヨノオー

戦績3戦2勝
▽2歳
12/1:阪神:1着:新馬戦(芝1800m)
▽3歳
 1/3:京都:3着:若駒S(芝2000m)
 3/2:阪神:1着:若葉S(芝2000m)
次走予定:皐月賞


馬名:シヴォリー 性別:牡 毛色:青鹿毛
馬齢:3歳(±0)
父:キングヘイロー 母父:タイキブリザード
クロス:リファール3×5

 母母父はニッポーテイオー。
 名馬の血が名馬を作る、を信条に強い血を持つ競走馬に強い血を重ね合わせてきた血統。パンデミック以前から続けられていた試みが、シヴォリーの代になって漸く結実された形になる。しかしニッポーテイオー時代から積み重ねてきたマイラーの血が、彼の活躍できる舞台を限定させる事になってしまった。
 セリ市では1億円、期待を受けた競走馬であった。

戦績5戦2勝
▽2歳
10/1:京都:1着:2歳新馬(芝1400m)
10/5:京都:4着:荻ステークス(芝1800m)
11/3:京都:2着:1勝クラス(芝1800m)
12/3:阪神:1着:1勝クラス(芝1200m)
▽3歳
 3/2:阪神:6着:若葉S(芝2000m)
次走予定:ニュージーランドT
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