トラベリング・ラビッツ ~VOICEROID達の大冒険~ 作:ライドウ
つい先日の平和雰囲気から一転、リチャード町は火の海と悲鳴、そして怒号と戦いの喧騒に包まれていた。
逃げまどう市民たちを守る様に衛兵たちが蛮族やならず者たちに立ち向かい、蛮族とならず者たちはそんな衛兵を容赦なしに攻撃している。
なぜこんなことになっているのか、それはほんの数時間前―――
長い夜の帳がようやく終わり、西の空から太陽が顔をのぞかせ始めた
「ふぁ~...今日もようやく終わりかぁ。」
「大変ですよねぇ夜の門の見張りってのも」
二人の衛兵が、あくびをしながら門の監視をしていた。
その二人の衛兵にとって今日は月に一度の当番の日で、また来月に同じような仕事をするとは言えできればあまりやりたくない仕事だ。
しかし愛すべき故郷のため、ひいては幼いころから見ていて実は自分に気があるんじゃないかもしれないマキ尊敬する上司の為にも頑張らなくてはならない。
「さて、今日もさっさと開けてさっさと交代して寝るか。」
「そうですね、帰ったらあの食堂に行きません?俺のおごりで」
「おっ、いいのかぁ?じゃあ、さっさとやらねぇ―――っ!!おい!警報の鐘鳴らせ!!」
ほんわかとした雰囲気だったが、一人の衛兵がふと森に目を向けると目の色を変え怒号を飛ばした。
もう一人の衛兵は何の事だが最初は分からなかったが、しかし最近リチャード町は物騒なのだ。
すぐさま頭を切り替え警報の鐘に近づき―――
「敵襲!敵襲だぁッ!!」
大きな鐘の音を鳴らしつつ、自分も大きな声で叫ぶ。
彼が見た森からは...
「殺せー!奪えー!!男は皆殺し、女は犯して、子供は奴隷だ!!」
大勢の蛮族とならず者たちが、襲い掛かってきていたのだ。
そして、残念なことに門は破られ...リチャード町は火の海に包まれ、悲鳴と怒号が飛び交う戦場と化していた。
そんな中―――
「はぁあぁあああッ!!」
ズバッ、ザンッ!!
「ぎゃぁっ!?」
「ぎぃやぁああああ...」
ゆかりは衛兵たちの中でも率先して前に立ち、容赦なく蛮族やならず者を切り伏せていた。目を細め、姿勢を低くし蛮族とならず者の間と間を駆け抜けては次々に斬り捨ててゆく...その姿に蛮族やならず者たちは恐れおののき、衛兵たちの士気は段々とあがっている。
ゆかりの戦う姿に感化されたからか衛兵たちも次々と勇猛果敢に攻め立て蛮族やならず者たちを押し始めている。
「ゆかりちゃん!」
「...マキさん、遅いじゃないですか。」
血をはらい、ショートソードを鞘に納めマキを見つめるゆかり。
頬に返り血が付いているにもかかわらず、ゆかりはケロッとしている。
「マキさん、状況は―――」
「もう!それ言う前に、頬に血がついてるよ!それを拭いてからにして!!それでも女の子なの!?」
「あ、はい...」
怒られたゆかりはポケットからハンカチを取り出そうとするが、マキのそばにいる衛兵から使い捨ての布を渡されたのでそれでふき取る。べったりと返り血が付いていたようで、渡された布は一瞬で真っ赤に染まっている。
「...それで、状況は?」
「動じないところがゆかりちゃんだなぁ...状況はいい方だよ。住人たちは何とかおと...ツルマキ卿の屋敷に避難できてる。」
「ではあとは、敵を始末するだけですか?」
「......うん、リチャード町に火をつけたり略奪行為をしている分王国が定めた法律にも違反してるからね。」
サイコパス、ともいえるべきゆかりの言葉にマキは少し気圧されながらもそう伝える。
ゆかりはありがとうございます。とマキに礼を伝えると再びショートソードを鞘から抜き走り出した。
マキの制止する声が聞こえたがゆかりは聞こえていないフリをして市場に向かい走る。
「ゲーフッフッフッ!どぉしたどぉしたぁッ!!」
市場ではひときわ大きい世紀末風味な蛮族が巨大な鉄球を振り回し衛兵たちを蹴散らしている。既に何人かが犠牲になっているようで、衛兵たちはその巨漢の蛮族に怯えてしまっている。
(見たところ傷口はあるけど、致命傷になっていない...なら。)
「すみません、肩。借りますね。」
走ったままの勢いで、一人のガタイのいい衛兵の肩を足場にし一気に飛び上がるゆかり。そのまま、ゆかりは巨漢の蛮族の頭にショートソードを突き刺し...
「『射出:ツララ』。」
そのショートソードの柄にはめ込まれている魔術石*1に登録されている魔術を使い、そのままその蛮族の頭に一本のツララを突き刺す。
「げ......げ、ふっ!?」
何をされたのか、またなんでやられたのか理解ができずその巨漢の蛮族は大きな音を立てて倒れ伏す。
今まで一方的に攻撃されてきた衛兵たちからは歓喜の声が上がり、その蛮族についてきたであろう蛮族やならず者たちは悲鳴を上げて逃げ始めた。
しかし、それを逃がすほどゆかりは優しくはなかったが...深追いするほどの間抜けでもなかった。
「か、感謝する!!」
「...いえ、気にしないで。生きている人を連れて早く下がって下さい。」
「は、はい!おい、しっかりしろ!!生きて帰れるぞ!!あの食堂のうまい飯を食うんだろ!?」
「そう...でしたね。...ありがとうございます、旅の方...」
一人の衛兵がボロボロの衛兵の肩を貸し、安全な場所に逃げ始める。
既に死んでしまった衛兵に近寄ると、十字をきり安らかに眠れるように祈る。
「ゆかりちゃーん!」
そこへマキがようやくたどり着き、市場を見て絶句する。
精鋭であろうマキの隣に立つ衛兵も、死んでしまった衛兵たちを見て顔を強張らせていた。
「マキさん、ごめんなさい。あんまり、助けれませんでした。」
「...ゆかりちゃん。」
顔を背け、表情を見せないようにするゆかり。
フードからスノーが顔を出し、ゆかりの頬をペロペロと舐めているがスノーの表情もどこか寂しそうである。
「...気にしないで、ゆかりちゃんにとっては昨日、一昨日知り合ったばかりの人たち...でしょ?」
「...それでもです。」
ゆかりにとっては昨日一昨日であったばかりの赤の他人。それであってもマキの知り合い...ひいてはマキを慕っていたであろう人々が死んでしまっていることをゆかりは悔しがっていたのだ。
よく見れば力の入れすぎで震えているゆかりの手が、マキには嫌というほど目に入った。
「...ゆかりちゃんは、やっぱりどんなになってもゆかりちゃんだね。」
ゆかりに近づき、背後から頭に手を置いて優しく撫でるマキ。良くは見えないが、血ではない液体が地面に落ちている。
そして、マキは安心していた。どんなに変わっていても怖いと感じても...根はあの時の優しいゆかりのままだ。と。
「大丈夫、彼らはきっと死んだことに後悔はないと思うから。それが、どんな理由であっても...ね。」
そうマキが優しく声をかけると、ゆかりは静かに嗚咽し始める。
マキのそばに控えていた衛兵たちはゆかりの姿を見て、困惑した様子を見せるが...すぐに切り替え、あたりの警戒をし始めた。
「...ゆかりちゃん、今は少しでも衛兵の皆を守るために、私の代わりに戦える?」
「......ええ、無論です。」
しかし、ゆかりの嗚咽も長くはなかった。
マキの冷酷ともいえる言葉に、ゆかりは強くうなづき再びショートソードを抜く。
マキは強くとも、自警団という組織の団長だ。つまり、人を指揮する立場...指揮官としての役目がある。
マキが前に出れない代わりに、ゆかりが前に出て少しでも衛兵たちの命を救う。
「...でもゆかりちゃん、忘れないで。私が大好きで愛しているゆかりちゃんは、貴女しかいないってことを。」
「...っ!」
マキの言葉を聞いてゆかりが赤面し、逃げるように猛ダッシュで駆けてゆく。
それを見届けたマキは少しだけ恥ずかしそうに護衛としてついてきている衛兵二人にシーっとジェスチャーをした。
(...なるほど、お嬢様はあの方に惚の字なのか)
(他の皆が知ったら、発狂モノですね。)
それをされた衛兵はアイコンタクトをしながらそんなことを考えていたそうな...
場所は変わり、リチャード町が見える森の中...
そこでは蛮族とならず者たちの本陣が構えられており、男たちが薄気味悪い笑顔を浮かべて次々に運ばれてくる略奪品と誘拐された人々を品定めしていた。
「ヒヒッ...女は慰め物として手下どもに与えて略奪品はあとで山分けだ。」
本陣のど真ん中...王座のような椅子に座る不気味な男がそういうと、そのそばに立つ大斧を持つ荒々しい男と細くまるで蛇を思わせるような男はそれぞれ薄気味悪い笑顔を浮かべる。
それを見た彼らの手下たちはつられて笑うように放り投げられた女性たちを品定めするのであった。
...しかし、不気味な男はそれらを意図せず王座からリチャード町を眺める。
「ヒヒ、ヒヒヒッ。壊してやるんだぁ...あの町を、あの場所を!ヒヒヒッ、ヒッーヒッヒッヒッヒッ!!」
杖を握るその不気味な男は、それはそれは嬉しそうに両手を広げて雲行きの怪しい空を見上げるのであった。