トラベリング・ラビッツ ~VOICEROID達の大冒険~   作:ライドウ

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ガシャァーン!!

「...オノレ、オノレオノレオノレ!!俺の、俺様の無敵の死兵隊が全滅だと!?ふざけるな、ふざけるなよ!!一度ならず二度までも俺様の邪魔をしてッ!!」

ならず者連合の本陣、そこでは不気味な男が手にしていたワインボトルを地面に叩きつけ、激昂していた。
その怒気はそのまま魔力の嵐となり、そばに立つ太い男と細い男を気絶させ人質たちを恐怖させる。

「...ハァ、ハァ。いいだろう、今は引いてやる。俺がやったという証拠すら残してやる。だが、最後に勝のは俺だ。俺様が勝つんだ!!復讐した暁には、テメェら二人とも穢して汚して楽しんだあと、最後にじわじわと嬲り殺してやる!!


―――クククク、クハハハハハハハハッ!!!」

不気味な男は、気絶している護衛の男を見捨て、たった一人でその場から消え去るのであった。




第15話 ~■■の前~

 

「...やった。勝った、勝ったよゆかりちゃん!!」

 

マキの感極まった声が上がり、やがてそれは衛兵たちにも広がり、あちこちから喜びの声や泣く声が上がり、マキはゆかりの手を取り(マキが一方的に)喜びを表している。

ゆかりも警戒を緩めてはいないもののその勝利を少しだけ喜んでいる。しかし、その口角は隠せずに少しだけ上がっており、ゆかりのフードから顔を覗かしているスノーもどこか嬉しそうに尻尾を振っている。

 

「ええ、勝ちましたね。」

「キュォォン!」

「もう、ゆかりちゃん!こういう時は、両手を上げて喜ばないと!!」

「あっ、いえその...嬉しいんですけど、あんまり恥ずかしいことは...苦手で。」

「ンンッ...ゆかりちゃん可愛いっ!」

「マ、マママ、マキサン!?」

「キュッ!ユカマキトウトイヤッター!」

 

マキがゆかりを強気抱きしめると、すぐさまゆかりの顔が真っ赤に染まる。

ゆかりは、自身に押し付けられる胸部の柔らかさを感じつつ、もがいているがマキが強く抱きしめて話してくれない。

 

「マ、マキサン!ク、クル...苦しいです!!」

「あっ、えへへ~。ごめんね」

 

何とか引き剥がし、息を大きく吸いこむゆかり。そんなゆかりを見てマキも少しだけ反省する。

いつの間にか、曇天だったリチャード町の空は、青く爽やかな空へと変わっていたのであった。

 

==========

 

トントントン!カンカン!

 

ならず者連合とアンデッドの軍団を蹴散らかし、リチャード町に平穏が戻った後...町は復興作業に追われていた。無事だった町の人々は活躍した衛兵たちを称え、死んでしまった衛兵たちには静かに黙祷を捧げ...壊され、燃やされ奪われていったものを少しずつ元に戻していく。

そんななか、

 

「マキ様!敵の本陣と思わしき場所から人質を無事救出...誰一人犠牲になっていませんでした。」

「そう、怪我もしてない?」

「いえ、多少擦り傷や打撲がありますが、骨折や酷い暴行を受けた者は確認できません。」

「分ったよ...とりあえず、医師や回復術士たちは衛兵隊の治療優先で。」

「はっ...それとマキ様。お耳に入れたいことが...」

 

噴水広場で、衛兵から報告を受けるマキをゆかりは、木箱に座りながらぼーっと見つめている。

勝ったことに実感がないわけではないし、マキが死んでいないと思っていない訳でもない。

ただこの戦いには腑に落ちない点が多くあったのだ。

 

(なぜ、あのマントの人物は明確に私だけを殺しに...それに、なぜアンデッドが迫っていたことを知っていたのでしょう?)

「キュ~?」

(あの戦場、いや...戦いを客観的に見れば客将たる私よりも衛兵隊の指揮官であるマキさんを狙うはずです。それに、仮に本当に私を殺すなら...なぜあの場ですぐに殺さなかったの?)

 

ゆかりの頭の中で考えがグルグルグルグルと周り、尽きない疑問が次から次へと出てくる。

今だ訳の分からないことだらけだが、ゆかりの中での答えは決まっている―――

 

(あの人物は、ここから先の旅で私を何度も狙ってくる。)

「...キュ~」

 

ゆかりの想像していた旅は、ごく普通の冒険だ。

普通に旅をして、仲間と共に大冒険をして、ダンジョンや遺跡を巡り、その秘密を解き明かす。

血生臭い殺し合いなんて、人間ではなく魔物や魔獣、獰猛な獣だけだと思っていた。

 

(...兄さん。私、少しだけ怖くなりました。)

 

故郷でのんびりと暮らしているであろうグレイマン。

かつて冒険者だった兄なら、どんな答えやヒントを与えてくれるのだろう。

ゆかりはそう考えるが、脳内のグレイマンは「それも冒険だよ?」としか言わない。

 

(それに、ならず者とはいえ...私は人を...あれ?)

「キュゥ?」

 

ゆかりはそこで違和感に気づく、ゆかりはあの戦いの中で確かにならず者とはいえ人を殺した。

衛兵たちには称えられ、マキに気を使わせてしまったが...冷静になってみて、自身の違和感に感づいた。

 

(私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)

 

魔物を...ゴブリンを殺した時は、確かに動揺した。

だけどそれは初めての実戦、初めての殺し合いだったからと自身の中で納得していた。

冒険者になるためには、それは誰もが通る道...だけど、人を殺すという行為だけは冒険者であっても滅多にない。と、グレイマンは言っていた。

 

(...私は、私は一体。)

 

自分でも、訳の分からない違和感を感じ、ゆかりは少し不安になる。

ありえない答えがゆかりの中で浮かびだし、ふいに自分がこわいと―――

 

「―――ゆかーりちゃん!」

 

感じる前に、マキがゆかりに抱き着いてきた。

 

「ぁ...ま、マキさん。お話は終わったんですか?」

「あー...うん、まあね。今日のお仕事はもう終わったからね!!」

 

ほら!とマキが指さした方向に目を向ければ、そこにある時計が差す時間はすっかり昼下がり。

戦いがなければ今頃、噴水広場は賑やかな風景となっているはずだった時間帯だ。

 

「ねえねえゆかりちゃん、私汗でべたべただから一緒にお風呂入ろ~?」

「...いいですけど、マキさんのお家で、ですか?あのお風呂、一人用で小さいじゃないですか。」

「ううん、私の実家で。」

「ああ、それなら.........マキさんの実家!?ツルマキ卿のお屋敷ですよね!?」

「むしろお父さんの家以外に何があるの?」

「いやいやいや、いくら辺境伯とはいえ貴族のお屋敷ですよ!?」

 

そう、マキの父【アレックス・リチャード・ツルマキ】は辺境伯だ。

もちろん、ただの辺境伯ではない。代々ツルマキ家は、ゆかりたちの住む国【ウェーベル君主国】...別名王国を統治する王族の懐刀に加え王国を古くから支えてきた家系の貴族だ。そのルーツは極東からやってきた傭兵団が始まりだとか言われているが、その真意は定かではない。

話は戻ってツルマキ卿のお屋敷と言えば(辺境伯で他のお屋敷と比べかなり小さいが)王城とさして変わらない敷居の高さがあるのである。

 

「そもそも私のような平民が踏み入れていいはずが―――」

「さっき避難所として使ってたじゃん。」

「うっ、で、ですが私も結構血みどろですしそこをさらに汚すわけには」

「私も血みどろだよ?」

「そ、そもそも隣町から来た冒険者にもなってない小娘が入るわけにも!」

「お父さんはゆかりちゃんの事よく知ってるよ?」

「うわぁああああああっ!!」

 

ゆかりは ことばたくみに にげようとした !

しかし すべて まわりこまれてしまった!!

 

こうなってしまえばゆかりに逃げ道はない、マキは何が何でも一緒にお風呂に入りたいようだ。

現に、ゆかりが見えていないだけでマキは(雰囲気的な意味合いで)捕食者の目をしている。

 

「それに、さっきの戦いで一番活躍したのはゆかりちゃんだよ?しかも、お父さんもそれは知ってるからぜひとも表彰したいって伝言きたし」

 

親子そろって逃がさないつもりだ。

ざんねん ! ゆかりのもくろみは ここでおわってしまった!!

 

「で、ゆかりちゃん。行く?行かない?」

「イカセテイタダキマス...」

「うん!じゃあ、早くいこ!!(元気)」

「カチメノナイタタカイトハコノコトキュ~イ」

 

こうして、ゆかりはマキに泣きながらドナドナされるのであった...

 

 





ところ変わって、リチャード町が見える場所。
そこには、ゆかりたちを強襲したフードの人物がそこにいた。

「.........。」

右手をリチャード町へと伸ばし...襲い掛かったゆかりを思い描く。
しばらく手を伸ばした後、リチャード町から背を向け、森の奥深くへと姿を消す。
その後ろ姿は、どこか寂しさを感じさせるものであった。


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