トラベリング・ラビッツ ~VOICEROID達の大冒険~ 作:ライドウ
・たぶんなし
第6話 ~親友以上ライバル未満~
握手をした後、二人はまた歩き出す。
先ほどとは違い、どこかピリピリした雰囲気を漂わせているが、でもそれ以上に仲の良い友達同士という風にしか見えない。
「じゃあまずは、手合わせしませんか?マキさん...」
「うん、ゆかりちゃんの実力も知りたいからね。」
二人はまるで買い物の約束をするかの様にサラッととんでもないことを口にする。
それを聞いていたスノーは目を丸くして思わずズッコケそうになったが、二人の雰囲気が先ほどと変わらないのを見ると、この二人は最初からそれが目的だったみたいだと悟る。
「アマゾネスキューイ!」
「...ねえ、ゆかりちゃん。やっぱり、このスノー君...私の事馬鹿にしてない?」
「むぅ、スノーはそんな子じゃありませんよ。」
拗ねたように言うゆかりと、そうだそうだと言わんばかりに頷くスノー。
マキはまあ、どうでもいいかと思いつつ、街を案内するのであった。
~~~~~
「さて、ここがうちの自警団の本拠地だよ!」
マキがそう言って案内したのは...
「ボロ小屋ですね。」
「フケバトブヨウナボロゴヤキューイ!」
「いやまって、貶す前に私の話を聞いて!?」
テンションが三段ほど下がったゆかりと、あおる様にゲスい表情を浮かべるスノーに言い訳を開始するマキ。
マキが言うに、自警団ができたのが今年の1月の事*1。まずは人数を集めたり装備を新しく作ったりとマキが忙しそうにしているときに、野盗の集団の襲撃が分かり...急遽、本部を創設*2、その結果がこれなのだ。
今のところ、この町の自警団はマキをリーダーとした16名の衛兵で何とか回している状況なのである。
「...つまり、偶然に偶然が重なってこんなことになっている、と。」
「本当は、冒険者ギルドができる場所に自警団の詰め所を立てる予定だったんだけど...」
左右の人差し指どうしをツンツンと合わせつつ、目を逸らすマキ。
そのしぐさで大体ゆかりが察知する。
「急遽、仮設本部を買ったらその隙に冒険者ギルドに建物を土地ごと買い取られた。ってことですね。」
「流石に、王国公認の冒険者ギルドに待ったをかけるわけにはいかないし、今年の予算は(給金とか予備金とかで)結構カツカツなんだよね...」
「ゴシュウショウサマキューイ!」
ガックリと、肩を落とし挙句の果てには泣きはじめるマキ。
「で、その冒険者ギルドは?」
「...着工は、半年後。稼働は、来年の1月...です。」
「終わりましたねこの町...。マキさん、諦めましょう☆」(いい笑顔)
「キューイ...」
「まってー!みすてないでー!ほうしょうきんならたっぷりよういするから~!」
びぇえええん!と泣きながらゆかりの腰に抱き着くマキ。流石のスノーもネタにできないのか呆れた表情でマキを見つめていた。
ゆかりは、哀れな姿の親友を見下しつつ、足からマキを引き離そうとする。
「第一、なんで、今まで自警団とかなかったんですか!!ちょっ、力強い...しかもその押し付けてくる胸は当てつけですか!?」
「今までも、自警団はあったよー!非公式だったけど...お願いだから力を貸してよ~!」
「貸しますよ!?貸しますけど、相手次第です!!」
最後は無理やり引き剥がしたゆかりだが、引き剥がした以上の疲労があったような気がする。
乱された衣服を整え、ヤムチャしやがって地面の上に寝転ぶマキをツンツンとつつき、生存確認をする。小さく笑い声をこらえつつ身を震わせているため間違いなくふざけている。
「それよりも、手合わせするんですよね?早く起きてください。」
「ぶぅ~、もうちょっと心配してくれてもいいじゃん。」
「じゃあ、大げさに慌てて教会か医者にでも駆け込みますか?」
「それは勘弁してほしいなぁ~。」
~~~~~
ゆかりはリュックを置き、軽く準備運動を開始する。マキもグッと背を伸ばしてストレッチを始め、何か思い出したのか、手をポンとさせてボロ小屋脇の倉庫から大きなクリスタルを取り出す。
「...それ、なんです?」
「最近、王国の商会で大人気の『
[魔力の注入を確認、フィールドを展開します]
「こんな風に、フィールドが展開されてそのフィールド内で発生したダメージをなかったことにするっていう魔道具だね。最近だと冒険者同士の決闘とか騎士同士の訓練にも使われてるらしいよ。あくまで競技とか競争用だから猛獣とか魔物には効果がないみたいなんだけどね。でも、お父さんの話だとこれが戦争の代わりになるとかならないとか。」
「...つまり、本気で殺しにかかっても殺さずに済むってことですか?」
「ぇー......理解が速いのは助かるけど、躊躇なく言うのはどうなの?」
「バーサーカーユカリキューイ...」
躊躇いなく言ったゆかりにマキとスノーはドン引きする。
しかし、マキもゆかりの放つ殺気に感づきため息をつきながら殺気を放ち始める。
おそらくゆかりは本気なのだろう、マキも自身を本気で殺しに来ると理解する。
「一応聞くけど、死にはしないって言ってもかなり痛いよ?」
「死にはしないなら大丈夫ですよ。」
「その自信はいったいどこから来るの!?」
「少なくとも私は死ぬ寸前まで叩きのめされて鍛えられましたから。」
「グレイマンさん何してんの!?」
ゆかりがスノーを肩から降ろし、ショートソードを引き抜く。
「マキさん、賭けでもしませんか?私が勝ったら、マキさんに教えてもらったスイーツを奢ってください。」
「はぁ...わかったよ。私が勝ったら、そのスイーツはゆかりちゃんが奢ってよね。」
「なら大丈夫です、私は負けないので。」
「だからその自信はどこから来るの?!」
~~~~~
ゆかりがショートソードを構え、マキもレイピアを構えると...
[両者の同意を確認。開始]
クリスタルの掛け声が合図となり、ゆかりは飛び出した。
両手でしっかりと握ったショートソードを振りかぶり、そのままマキに振り下ろされる。しかしマキは、軽く後ろにステップを踏み簡単にかわし、躊躇なくゆかりの目に向けてレイピアを付きだす。だが、ゆかりは顔を逸らすことで回避し、足払いを狙って体全体を使った回し蹴りを行う。
「よっ。」
マキはその回し蹴りを、後方へジャンプすることでかわし、ゆかりは回し蹴りの勢いのまま後ろへ下がって距離を取り立ち上がる。その直後、マキは着地しレイピアを再び構えて、ゆかりを見据える。
(今の一瞬、間違いなく『やる気』だった。)
冷や汗がマキの頬を濡らし、戦場の感覚に似た嫌な雰囲気がマキにまとわりつく、先ほどまで見ていた親友の顔が、とても冷たいものに変わり果てているうえに、その瞳は獲物を追い詰める狩人の目で、とても冷ややかなものになっている。
もしあのまま足払いを避けていなければ、首をとられる一撃か胸にショートソードを突き立てられて
(そういえば、ゆかりちゃんはお兄さんに『敵を殺すときは容赦なく、私情なく、躊躇わずにやれ』って教えられてるんだっけね。)
昔に送られた手紙の一文を思い出し、気を引き締めなおす。
練習とはいえ、これはほぼ実戦のようなものだ...ゆかりもそのつもりで自身に襲い掛かっていると思い、さらに気を引き締めなおす。
実のところを言うと、ゆかりは無意識にマキに向かって冷酷な表情を向けている。(それもこれもグレイマンの教育のおかげ?なのだが)ゆかりは、どちらかというと勝つ気満々でマキとどんなスイーツを食べようか頭の中で考えているほどだ。
えっ、親友を斬る云々の躊躇いはどうかって?そもそもゴブリン相手に躊躇ってたろうって?ほら、始めては誰だって緊張するもんだし、今回は死なないって確認が取れてるから躊躇してないんだよ。
閑話休題
ゆかりとマキがそれぞれの武器を構え、見つめ合う数刻。
スノーはクリスタルの横にちょこんと座りその様子を見守っている。
チリチリとした嫌な雰囲気がマキにまとわりつき、冷酷と言わんばかりのゆかりの表情は、それだけであたりの空気を冷やすほどに冷たい。
「っ!」
先にしびれを切らして近づくのはマキの方だ。
レイピアを突き出し、一歩のステップでゆかりに一撃を放つが、ゆかりはそれをいつの間にか作りだした氷の盾で防ぐ。ゆかりのショートソードは”水色の魔法陣”が輝いており、おそらく刻まれていた魔術式に魔力を通して瞬時に作り出したのだろう。マキはそんな盾を気にせず、連続した突きを放ち続ける。
マキとて、ただ成長しただけではないということを見せつけ、常人ではとらえきれないような素早さの連続突きを放つ。
しかし、ゆかりはそれを顔色一つ変えずに盾で防ぎ、防ぎきれないものはショートソードで弾いて逸らすという芸当を見せつける。だが、マキも焦らず左手に魔力を集める。
「≪雷の矢、放て≫ッ!!」
「くっ!?」
冷酷なゆかりの表情が崩れ、氷の盾が雷を帯び砕け散る。
マキが行使したのは『魔法』と呼ばれるものだ、マキはゆかりとは違い確かな量の魔力を持っているため発動させることができるのだ。
(二節の魔法詠唱!?兄さんと比べてかなり早いっ!)
「《剣に纏わせるは、雷》!」
(エンチャントも自前で....やりますね、マキさん!)
「『展開:氷塊剣』っ!」
マキは自身のレイピアに雷を纏わせると、ゆかりもすかさず魔術式を展開しショートソードに氷を纏わせる。マキがいとも簡単にやったのはエンチャントと呼ばれる技術でありその道を極めた人間にしかできないような芸当であるが、マキはそれをやってのけた。
「せいやぁぁああああっ!!」
「たぁぁああああっ!!」
マキはレイピアを振り下ろし、ゆかりは盾を壊された反動のまま回転斬りを放つ。
~~~~~
「んー!”マキさん”のお金で食べるパンケーキ美味しいです!」
「もー、あとちょっとだったんだけどなぁ…」
結果と言えば反動のまま回転斬りを放ったゆかりが勝った。
マキがレイピアを振り切る前に、ゆかりのショートソードはマキの体を切り裂いた(もちろん真っ二つにならなかったしマキは死んでいないが)。
結果、マキがゆかりにこの街で1番人気のスイーツであるパンケーキ(銀貨1枚、日本円にして1000円)を奢ることになりマキのお財布から銀貨が、1枚消えることになった。
「それにしても、マキさんエンチャントできるようになったんですね。」
「あーうん、この前やっとね。結構魔力消費しちゃうからあんまり連発はできないけどね。」
マキもため息をつきながらコーヒーの入ったカップに口をつけて傾ける。
ちなみにスノーもそのまま連れてこられており、店員さんの心遣いにより薄味のパンケーキをかわいらしくもしゃもしゃと食べている。その様子を遠目で見ている他の女性客は、イケメン気質のゆかり、同性からもかわいらしいと感じるマキ、その二人の間でパンケーキを美味しそうに食べるスノーの2人と1匹に黄色い視線を送り続けている。
「そういえば、今日はどこに泊まる予定なの?この時間だと、もうどこも満室だと思うけど...」
マキの言葉にゆかりとスノーのパンケーキを食べる手が止まる。
窓の外はすでに夕暮時を知らせており、遠くからカラスの鳴き声が聞こえてくる。
この町はまだ発展途上で、それゆえに来るもの好きな旅人も多い。そのため、もう宿屋はどこもかしこも満室になってしまい門前払いを受けるばかりだろう。
「...さきに、宿を探しておけばよかったですね。」
「キュイキョウハノジュクキューイ...」
しゅんとしながら俯くスノーとゆかり、そんな二人にマキは
「じゃあ、私の家に泊まりに来なよ!私の家はそこそこ大きいから一人と一匹ぐらい泊めるのは余裕だし!」
「...いいんですか?」
「うん!だってゆかりちゃんは私の親友だもの。」
むふー。とかわいらしい笑みを浮かべつつ胸を張るマキ。
マキはそんな親友の姿を見つつ、嬉しそうに笑顔を浮かべるのであった。
「キマシタワーキューイ」
お前のその鳴き声が無かったらオチは完ぺきだったんだけどなぁ...
言い訳はしないが勝負の行方で時間がかかった。
【旅ウサギ】結月ゆかり
無意識バーサーカー。
ちなみに殺す気はあったが死なせるつもりはなかった。
あのクリスタルが無かったら間違いなく寸止めで済ませていた。
【マスコット】スノー
今回活躍の出番なし。
薄味のパンケーキはとてもおいしかったそうです。
あと今回も百合厨である。
【ゆかりの親友】弦巻マキ
リチャードシティのそんちょ...町長の娘。
これでも剣術(レイピア)の達人で雷属性の魔法なら何でも使える。
一応これでも、貴族の娘である。(辺境貴族という意味での貴族だが)
コーヒーはブラック派。