ギャグです。対戦宜しくお願いします。
これは、あったかもしれない。もしものお話。
ありえた世界の下らない話だ。
「……貴様が計画の一番の支障なりそうだと、彼女は言っていたからな」
「銃が……!」
サオリが引き金に指をかけるのを見て、先生は息を吞む。
細い指がゆっくりと押し込まれ──。
パン! と渇いた音と共に、紅い血しぶきが舞う。
先生は勢い良く地に倒れこんだ。
「ウッ、アアアッ……!」
「せん、せ……うあああああああああ!」
「ヒナ……や、め……!」
激昂したヒナが先生の前に立つが、銃の雨に屈して膝をつく。
やめてくれ、庇わなくていいんだ。その一言さえ激痛で発することができなかった。
とにかく痛かったのだ────ケツが。
そう。この場にいるアリウス、ヒナ。誰もが気づいていなかった。
先生が撃たれたのは胸でも腹でもなく────おケツだったのだ。
エデン条約IF 「もしも撃たれた箇所が腹ではなくケツだったら」
「意識は……ありますね」
「はい……」
救急車の中。先生は虚無みたいな顔で天井を見上げていた。
ドッジボールの話をしよう。
見たことがあるだろうか。クラスに一人はいる、運動神経なさすぎてボールを変な躱し方する同級生の姿を。
ぐにょりと無駄に体を捩じって躱しきれないアレだ。
先生も漏れなく、その情けない躱し方をするタイプの一人だ。
サオリに銃を向けられ「やられる!」と直感した先生は、本能に刻みついたその意味のない回避行動を咄嗟に取った。
お陰で、腹に被弾するはずだった弾は左ケツに飲み込まれ、ことなきを得た。
その後、ヒナがセナの救急車に先生をシュートして今に至る。
絶対ヒナの方が重傷なんだけど。それさえ言う暇がなかった。
無表情でセナが語りかけてくる。
「負傷箇所はわかりますか?」
「え」
「負傷箇所です。痛いと感じる部位をお聞きしています」
どう答えよう。まさかセナも、あのシリアスな空気でケツを撃たれたとは思ってはいまい。ケツだけに。
果てしなくどうでもいいプライドに葛藤する先生は「どうせバレる」思い、意を決して口を開いた。
「ケツです……」
「はい?」
「お尻を…………臀部を撃たれました」
「ブッ」
無表情のまま、セナが噴き出す。先生の目から光が失われた。
「ゲホッ……えほっ。んんっ……臀部、ですか。それは不幸中の幸……ンンッ。ごほん」
「ヒナの方が重傷なんだよ……まちがいなく……」
「撃たれた箇所はともかく、先生はひ弱ですから。先に保護して正解でしょう。患部を見るのでズボンを脱いでください」
「えっ」
「パンツもです」
「その……服の上からお願いできないかな」
「何故でしょうか」
「今日のパンツの柄が……ポムポム〇リンなんだ」
「ブッッ!」
そしてなんやかんやあって。
適切な治療のため、一番近いトリニティに向かうことになった。
結局パンツを脱がされ軽く処置を受けた先生は、うつぶせで顔を覆っていた。
「もうお嫁に行けない……」
「大変参考になりました。象さんとは言い得て妙です……んんっ! うん! けほっ……」
トリニティの間近に来て、救急車の速度はゆっくりになる。
校門の外には生徒が溢れかえっていて進めなくなっているのだ。
セナが車を飛び出して、人混みに向かっていく。トリニティ生に道を開けてもらうように説得しだした彼女を、先生は窓から覗き見た。
「負傷者を輸送中です。道を開けてください、緊急事態です」
「開けるわけないでしょ! ゲヘナなんかのために!」
「重体なんです。そこをどいてください」
救急医学部の誇りがあるのか、トリニティ生徒に囲まれても動じずにセナは対応する。
私のケツなんかのために……。感動で先生は少し泣きそうになっていた。しかし。
「重体~? 私達はすぐ治るでしょ、そういうの!」
「症状言ってみなさいよ! 症状!」
「……症状」
先生の状態を尋ねられると、セナの額から汗がダラダラと出てきた。
「……? 何で汗かいてるの?」
「いえ……。今日はお日柄も良く、気温がポカポカと……」
それもそうだ。
「ケツ撃たれたから、トリニティに入れて♡」なんてお願いが通用するような空気じゃない。
苦しそうにセナはなんとか言い訳を絞り出す。
「重傷は……重傷です」
「だから具体的に聞いてるのよ! それを!」
「患者のプライバシーのために、お答えする事は」
「怪しいわね! 爆弾でも乗せてるんじゃないの!」
「重傷ということは……重傷を負っているという事です」
「連邦元環境大臣みたいなこと言い出したわよ、こいつ! 中身がまるでないわ!」
ごめん、私がケツなんか撃たれたせいで。君が矢面に。先生が目から血涙を流す。ケツではない。
かくなる上は自分は公然の前に現れて、血まみれのケツを晒すしかない。先生が覚悟を決めたその時だった。
「やめてください! どうして負傷者が乗ってるとわかってて、貴女たちは!」
救護騎士団のセリナ、ハナエがやり取りを見かねてやってきた。
「救護騎士団……! ミネ団長の!」
「重傷ということは重傷で運ばれてきてる、何でわからないんですか!」
「この子も〇泉構文を……っ!」
セリナ、ハナエが車を止めていた生徒と口論を始め、どんどん事態がややこしくなっていく。
やめてくれ。
私のケツのために争わないでくれ。ケツを撃たれただけなんだ。
これは本当に出るしかない。何と言われようがパンイチを晒すしかない。
痛むケツ……ではなく足を引きずり救急車のドアを開く。
「──すみません、閃光弾投擲します!」
「え?」
何やら不穏な台詞を言う、聞きなれた声。先生は釣られて顔を右に動かす。
すると目の前で閃光弾が光り────。
十分後。医務室のベッドに先生は腰かけていた。
「ひん……どんどん負傷箇所が増えていく……」
「幸い全て軽傷ですので、少しの辛抱です」
目にダメージを負ったものの、セナと先生はトリニティに入ることに成功した。
ケツを包帯ぐるぐる巻きにして先生は立ち上がる。
「行くのですか。そのおし……ではなく。その臀部で」
「行かないと。たとえ──お尻が四つに割れたとしても」
「ぶっっ!」
今日のセナの笑いのツボはとても浅いようだ。先生も一周回って、ケツで笑ってくれるのが段々楽しくなってきた。
「ケツが……決壊! なんつって」
「………………」
しかしダジャレを聞いた瞬間、セナはスンッといつもの顔になってしまった。狙うと駄目なようだ。
「そういえば、ヒナ委員長が病室から消えたそうです」
「何で!? ……あっ」
先生は急いで医務室を出てタクシーを呼び、ヒナの自宅へ向かう。
そういえばヒナは先生が軽傷でピンピンしているのを知らない。早く弁明せねばと半立ちのまま拳を握りしめた。
「お客さん危ないので座って……」
「撃たれたんですよッ! ケツを!」
「あ、はい……」
それからしばらくが経って。先生はヒナの家を訪れていた。
「……先生?」
「ヒナ……」
初めて来たヒナの部屋は思ったよりも殺風景じゃなくて──否。そんな事はどうでもいいのだ。
ヒナの目には隈ができ、よく見れば目が真っ赤に腫れていた。先生の胸の内をベリーベリー申し訳なさが覆っていく。
「先生……怪我は? 大丈夫?」
「いやもう……ハイ、お陰様で元気です……ヒナは?」
「私は頑丈だから……」
いつもテンションは低めだが、今回はその比ではない。
背中に「先生を守れなかった……」「私なんて……」という字が見えるような気までしてくる。
「もう……疲れた。私は……小鳥遊ホシノのように強くは……」
泣かないでくれ。落ち込まないでくれ。撃たれたのはケツなんだ。
座るのは辛いけど、全然元気なんだ。それを言える空気ではなくて、なんかもうこのままシリアスに流した方が楽になれるような気がした。ケツだけに。
「その……そんな落ち込まなくても。ヒナのおかげで私ピンピンしてるし……」
「っ、また、そういうこと。撃たれてたでしょう」
「いやまぁ撃たれたけど……」
「空元気してまで励まされても、喜べない……」
「本当に元気なんだよ!! なんなら今からスランピア行く!?」
「っ! いい加減にしてっ!」
怒ったヒナが、先生のお腹をつねる。三秒後、ヒナは首を傾げた。
「……? 撃たれたの、ここの辺り……よね」
さわさわ、と周辺を優しく触れて、つつくが先生がまるで反応しないので眉間に皺が寄る。
「……撃たれた、よね? あれ、怪我は……?」
「うッ……ぐすっ…………! ヒナ……うっ……ぐっす……」
「え、ちょ」
先生はとめどなく溢れる涙を流したまま、ヒナを抱きしめる。
「何!? よ、よーしよし……どうしたの?」
「聞いてくれ……ヒナ。私が……私が撃たれたのは────ケツなんだよ」
先生が嗚咽を漏らしながらした意味不明な告白に、ヒナは眉をひそめる。
「ケツ? え……お尻?」
「ぞうなんだよォォ……無駄にじんばいがげでごべん…………っ!」
多くの生徒からケツに情けをかけられ続けた先生の心は、とうに切れ痔なっていたのだ。
痔から血が流れる様に、先生の涙は溢れ続ける。
「ケツを撃たれただけなのに……しょうもないことなのに……大事みたいに……ぐすっ」
「えい」
ヒナが先生を抱きしめたまま、小指で軽く患部をつつく。
「オンギャアああああああああああああああああああああああああああああ」
「うるさっ……!? ごめんそんな痛かった……?」
「アアアアアアアアアアアアアアアア四つに割れるァあああああああああああ!!」
ヒナの小さくて冷たい指が見事秘孔に入り、先生は無様に転げまわる。
しばらくその様子をしばらくドン引きで見ていたヒナだが、ついにクスッと笑いを漏らした。
「いでぇ……いでぇよぉ……」
「ふふっ、ごめん……大丈夫?」
頷いて中腰になった先生は、ヒナの変化に気づいて首を傾げる。
「……? ヒナ、もしかして元気になった……?」
「っ!! 誤解しないで。先生がおかしかったからとかじゃないの……!」
ヒナは言葉を区切り、ロッカーから制服を取り出す。
「私は……ちゃんと守りたい物、守れてたんだなって。それを確認せずに泣いてたんだから……急に気が抜けて。少し、部屋出てくれる?」
言われた通り廊下に立ち、ヒナの着替えを待つ。中から衣擦れの音が聞こえてきた。
「……先生はお尻が四つに割れただけだから、死んでない。まだ守れる……失ってなんかいない」
「いや四つに割れてないけど……」
扉が開く。いつも通りの恰好、いつも通りの雰囲気に戻ったヒナが柔らかく笑った。
「ホントは……先生に甘えようかなって思ったけど……もう少し先にする。お尻の借り、返しに行こう」
「……! あぁ……!」
二人で頷いて、玄関を出る。そうだ。先生はまだ、ケツを撃たれただけ。
遠い場所で心が折れかけていたアズサが立ち上がっている。ツルギやハスミが無理矢理ベッドから這い出ている。
ヒナがいない事を案じながらも、アコ達が風紀員を動かしている。
まだ誰も諦めていない。
夢の世界でセイアは、その様子を呆然と眺めていた。
「これは……私の知らない、未来……」
「行こうヒナ……。彼女達に見せるんだ──真のETO(えらくケツが痛んでトイレに行けないお尻条約機構)ってやつを」
これは、もしもの物語。
大したことのないイフの世界、下らない分岐。だから、この世界も。
「絶対に終わらせません! 私達の……! 私達の──青春の物語を!」
皆で手を取って立ち上がり。
「くッ……! アズサ何故立つ! そして何故執拗に尻に撃ってくる!」
因縁をも乗り越えて。
「うおおおおおお皆! ヒエロ二ムス……あのデカブツのデカケツを狙え!! 切れ痔にしてやるんだ!!」
理不尽だって振り払っていく。
間違いなく、どうしようもなく世界はハッピーエンドに収束する。
これは、そういうお話だ。