エデン条約短編祭   作:キノッピ

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聖園ミカは仲良くなりたい(作・キノッピ)

「コハルちゃんだ! 元気にしてる!?」

「ミカ先輩。えっと、ごきげんよう……」

 

 エデン条約の調印式を終えた後のあくる日の昼下がり、ミカとコハルの姿があった。セイアとの和解もなんとか済ませたこともあり、学園内でならミカの自由もある。

 ただ元気溌剌のミカに対してコハルの方はどこか壁があった。

 元々人見知りしやすい子なので普段通りといえば普段通りではあるのだけれど。

 

「元気ないなぁ。こんなにいい天気なんだから笑顔、笑顔!」

「あはは……」

 

 愛想笑いを浮かべてしまうコハル。これも割とよくある光景。

 ただ補習授業部始め、仲の良い子達と話しているときと比べると反応の差は顕著で。ミカは仕方ないなぁと曖昧な笑みを浮かべて話を続ける。

 

「それでコハルちゃんの方はこれから用事? 良ければどこかでお茶でも飲まないかな! あ、でもロールケーキは勘弁ね。あれはしばらく口に入れたくないかな……」

「ロールケーキですか?」

「そうそう! ナギちゃんってば食後のおやつに毎食毎食ロールケーキ出してきたんだよ。そりゃナギちゃん選別のロールケーキだから味は文句なし。バリエーションも無駄に豊富だったの。

 でもさ1カ月続けられると流石に飽きちゃうんだよ」

 

 本気でげんなりとした表情を浮かべてしまうミカ。

 こうやって話しているだけで口がロールケーキに染まっていく感覚。美味しいことは確かだけれど、毎日食べ続けるものではない。

 おかげでナギサ特有のロールケーキを口に入れる攻撃も今のミカにはそれなりに効いてしまう。

 

「もしくは訓練っていうなら付き合うよ! これでも私って強いから。多分役に立てるんじゃないかな。

 それともショッピングでもいく? コハルちゃんって可愛いんだからもっと着飾ってもいいと思うんだ!」

「その、これから」

「これから?」

 

 コハル自身に今日の予定は特になかった。正義実現委員会は非番の日だし、補習授業部の活動もない。

 なのでミカの言う通り訓練に向かうつもりだったのだ。

 先の事件で補習授業部の面々はそれぞれ活躍をしていた。ハナコはその知力、アズサは戦闘力、ヒフミは持ち前の意志の強さとコミュ能力で。そしてコハル自身は明確な何かはなかった。

 勿論正義実現委員会のパイプとして必要だった自覚はある。でもそれは正義実現委員会の下江コハルが必要だったわけで、ただの下江コハルが必要な場面ではなかったのだ。

 いつまた大きな事件が起きないとも限らない。その時に後悔しないためにも戦闘訓練を以前より熱心にやっていた。

 

「これから……」

 

 なのでミカに付き合ってもらうことはコハル自身にとってもプラスとなる。本人から言い出してくれたことでもあるわけで、訓練に行きますというだけで済む。

 でもその一言が中々出てこなかった。

 

「コハルちゃん、お待たせしちゃいましたか?

 ミカさんはこんにちは」

 

 結局その一言は出てくることはなく、外からの助けによって話は進む。

 

「ハナコちゃん……」

「じゃあコハルちゃん、デートにいきましょうか。二人きりでお話ししましょう?」

「デ、デート、それも二人きり……。ダメっ。エッチなのは禁止!死刑!!」

 

 顔を真っ赤にしながら威嚇してしまうコハル。

 

「死刑じゃなくて私刑なら歓迎ですよ?」

「バカ!変態!!私がそんなエッチなことするわけないじゃん!!!」

 

 誰も私刑でエッチなことするなんて言っていないのに墓穴を掘っていく。

 そこも弄って揶揄ってもいいんだけれど、目の前にミカがいる状況で長く話す気がハナコにはなかった。

 

「ではごきげんようミカ様」

「その、ミカ先輩ごきげんよう」

「うん、二人ともごきげんよう」

 

 ハナコは慇懃に。コハルは可愛らしくお辞儀をして去っていく。

 その後も賑やかに話している二人の背中に寂しげな目を向けてしまう。

 

「楽しそうだね、コハルちゃん」

 

 私ではあの顔を引き出せないなと、寂寥の感じる笑みを浮かべてしまうミカであった。

 

 

 

 ところ変わってハナコの部屋。

 あの後予定通り訓練に向かおうとしたコハルをミカと再び出会った時のことなどを例にあげて、本当に二人きりでの話し合いをすることにした。

 実際訓練所にいってミカと遭遇した時の気まずさを考えてコハルはこれを承諾。

 何もない時に会ってうまく話せないのだ。状況で更にデバフが入った場合ろくなことにならない。

 

「飲み物は紅茶で大丈夫ですか? あいにくお菓子は日持ちするクッキーくらいしかありませんけど」

「うん、それで大丈夫。……変なもの入れてないわよね?」

「そのつもりはなかったんですけど、そういうこと言われると入れたくなっちゃいます」

「うぐ、ごめんなさい……」

 

 そんな話をしつつお茶の準備を進めていくハナコ。流石というべきか手つきによどみはなく、紅茶の入れ方の作法は完璧だった。

 準備できた紅茶にお互い口を付け一息をつく。

 

「それでミカさんと何かありましたか?」

「別に何かあったわけじゃないんだけど……」

「その割に困っていましたよね?」

 

 コハル自身返答に窮していたのは確かだった。ただ何かあったかと聞かれるとただ遊びに誘われただけ。それを問題としちゃうのは悪い気がする。

 そんな友人の内面を察してほっこりしてしまうハナコがいた。

 

「コハルちゃんは本当に優しいです。おそらくはミカさんから放課後の予定を聞かれて困っていたとかですよね?」

 

 その言に首肯で返すコハル。この友人は普段の言動からは考えられないが、本当によく見てくれている。

 

「一緒にいたくないなら嘘をついちゃえば良かったのでは?」

「嘘って付かれたとわかると傷ついちゃうし」

「なら素直に一緒にいたくないというのは?」

「……私、ミカ先輩と一緒にいたくないのかな?」

「コハルちゃんの立場でミカさんを好きになれる理由ってないですし」

 

 色々あったが発端はミカがアリウスを引き入れてセイアを襲ったこと。これさえなければ補習授業部結成もなかったし、エデン条約にまつわる事件も形が変わった筈だ。

 その後合宿最終日のミカ自身の言動もひどい。アズサをスケープゴートの操り人形扱いをして、コハル自身にはおバカさん呼び。

 その後挽回するような場面も特になかった。

 

「思い出したらムカついて来ましたね……」

「その、ハナコはミカ先輩のこと嫌いなの?」

「うーん……。普段なら煙に巻くところではあるんですけどコハルちゃんだし特別ですよ。

 正直に言えば嫌いですし、セイアちゃんを排除しようとしたこと欠片も許していません。ミカさんにも色々事情があったとは思いますし、アリウスを御しきれなかったのが原因というのもわかっています。でもそれって私が考慮してあげる部分でもないですから」

 

 コハルが聞いてもハナコの言い分は納得のいくものだった。セイアと仲がいいのは知っているし、その友人を殺されかけた気持ちは多分理解が及ばない。

 

「セイア先輩、無事で良かったよね」

「はい。もしも亡くなられていたらどうなっていたことか」

 

 そういって表情を隠すがごとく紅茶を一口。

 これ以上話題を引っ張らないでほしいというサインでもあり、コハルも察しがついた。

 

「私の場合嫌いっていうより怖いって気持ちの方が強いかな? ミカ先輩とセイア先輩って仲が悪かったわけではないんでしょ?」

「口では色々言い合ってますけど、プロレスみたいなものですからね」

「プロレっ……!!」

 

 思わずエッチな想像をしてしまったが咄嗟にブレーキをかける。話が脱線するので自重するべき場面だった。

 

「こほん。そんな人でも容赦なく排除できちゃう。そうなるとさ、私が仮に一緒にいてもミカ先輩の都合に合わなくなったら売られちゃう気がして。

 もしもの時、目的のために手段も選ばないのかなって」

 

 ゲヘナと仲良くしたくない、アリウスと仲良くなりたい。この二つに関してはコハル自身も理解できる。

 ゲヘナには怖い人が多いから仲良くするとなるとやっぱり怖い。アリウスもアズサの出身校ってことを考えると何とかしてあげたい。

 でもその為に友人2人を排除してしまうのはコハルの理解の外に合った。

 

「うん、分かったかも。私あの人が怖いんだ」

 

 そういう友人の頭をハナコは撫でてしまう。普段なら嫌がるコハルも邪気がなかったからか、今は受け入れた。

 

「あとこれは純粋な疑問なんですけど、ミカさんがコハルちゃんに拘る理由ってなんなんでしょう?」

 

 少なくともクーデター時にあった時はただのおバカさんと言っていた。あの段階でのコハル個人に対する認識はそんなものだったのだ。

 それが壁を作られているのに話しかけに行ってるという状況に聊か疑問を持ってしまう。

 

「多分あれだと思うけど……」

「あれというと?」

 

 そこで話されるのはコハルのちょっとした冒険。先生が来てくれるまでの僅かな間、虐めを止めていた。

 ただそれだけの話ではあるけれど。それでもきっと輝いていた時だった。

 

「そんなことが。それは命拾いしましたね……」

「命拾い……。確かに先生が来てくれなかったら負けていたけどさぁ」

 

 ここでの命拾いはコハルのことではなくティーパーティーの生徒達についてだ。聖園ミカの戦闘力は剣先ツルギに匹敵する。たとえ銃がなかろうが相手から奪えばいいわけだし、1VS3なんてなんの問題にもならない。

 反撃しなかったのも気が乗らなかっただけで、果たして先生が来なくてコハルに暴行の手が向いた場合どうなっていたことか。

 しかしそんなことはおくびにも出さないポーカーフェイスの持ち主が浦和ハナコだ。

 

「もう、本当にですよ。仮にも相手は虐めっ子なんですから。行動不能になったコハルちゃんに対して×××や〇〇〇。果ては×〇×〇をやっていた可能性もあるんです。もっと自分を大事にしてくださいね?」

「え、え、え、エッチなのはダメ!禁止!!死刑!!!」

 

 

 

 そんなコハルの叫びが木霊する同時刻、聖園ミカは項垂れていた。

 

「ナギちゃーん。私ってコハルちゃんに嫌われてるのかな?」

「当たり前では?」

「即答っ!」

 

 今も席があるとはいえ、まだティーパーティーとして仕事をできる段階にないミカ。今日は休みのためセイアはおらず、ナギサは一人仕事を進めていた。そのため返事もおざなりだ。

 

「構ってよー。ナギちゃーん」

 

 だる絡みしてくる友人に多少辟易しつつも、休憩を入れるには良いタイミング。

 仕方ないと嘆息しつつもひと段落を付けにかかる。

 

「区切りつけますから紅茶の準備をしておいてください」

「流石! 優しい! 愛してる!」

「その愛の分だけ美味しい紅茶を期待していますよ」

「任せて!」

 

 因みにミカの入れる紅茶は普通においしい。ティーパーティーの3人はお茶会のホストをやることもあり、紅茶入れは必須技能なのだ。

 淀みなく紅茶を入れ、勝手知ったるとばかりにお茶菓子の準備もする。

 それが終わるころにナギサの仕事にも区切りがつくのだから阿吽の呼吸であった。

 

「それでコハルさんでしたか?」

「そうそう。仲良くなりたいんだけどやっぱり壁があるんだよね……」

「でしょうね……」

 

 ナギサもコハルとはすれ違えば挨拶くらいするけれど、それ一つ見ても壁を感じることがある。自分のしたことを考えれば当然とナギサ自身受け入れているが。

 

「まずミカさんがコハルさんと仲良くなりたいのは助けられて一目ぼれしたからでいいんですよね?」

「自分も危険だっていうのにあそこで体を張れる。あの場面のコハルちゃんは本当に尊かったんだよ。先生が来てくれたのも感謝しているんだけど、でもコハルちゃんの良さが消えるわけじゃないよね!」

「えぇ、それは本当に」

 

 仮に自分がその場面にいたら助けただろうが、それは相手がミカだからだ。これがミカではなく以前敵対していた生徒となった場合、助けに行ったかナギサには自信がなかった。

 

「それじゃミカさんがコハルさんにやってきたことも纏めてみましょうか」

「……やらなきゃダメ?」

「少しでも仲良くなりたいなら」

 

 問題点を纏めるのはやはり大事だ。壁があって当然なのは事実だけれど、纏めると意外な事実が見えたりもする。

 

「まずセイアちゃん襲撃とそれに伴う補習授業部結成でしょ?」

「この時点で諦めたくなりますよね」

 

 ナギサ自身ミカのことはなんとか許したが、それは積み重ねがあってのこと。なければどうしていたか、ちょっと想像がつかない。

 

「調印式当日の事件の原因にもなるのかな?」

「無関係ではないでしょう」

 

 これに関してはミカが動かなければ別の形で事件が起きていたとは思う。でも被害者にとってそんなことは言い訳だ。

 他にあったか思い返していくミカ。思い当たる節があったのか凄く気まずい顔をしてしまう。

 

「ミカさん?」

「ナギちゃん襲撃しようとした日、私ってコハルちゃん達と会ってるじゃん?

 その時にアズサちゃんに犯行押し付けるって……。しかも操り人形とかまで言ったような?」

「それ、コハルさん自身にも何か言ってますよね?」

 

 ナギサからの追求にミカは目線をそらしてしまう。でもそれで話が進むわけもなく、しぶしぶと答える。

 

「ただのおバカさんって……」

「はぁ……」

 

 想像より酷いことは言っていないが、それでも十分あれである。虐めから助けてくれたのもだが、普段ミカが挨拶して返事をくれるだけ天使と言ってもよい。

 

「コハルさんが優しくて良かったですね。

 ……それで、修正不可能なレベルで溝がある現状な訳ですがそれでも仲良くなりたいんですか?」

 

 これで諦めるというなら話はそれで終わりだ。

 幸いコハルからミカにアクションをかけてくるということはない。お互い距離をとって過ごせば済む話となる。

 

「そうだね。多分仲良くするにせよコハルちゃんの優しさに甘えることになっちゃう。だから適切に距離をとるのが賢いんだろうけど。

 でもさ、私我儘に生きようって決めちゃったんだよね?」

「元から十分我儘だったでしょう」

 

 そういうナギサの表情はとても嬉しそうだった。

 コハルのことを考えれば距離を取ってもらうのがいいのかもしれない。それでも友人としてはミカの味方をしたくなってしまう。

 

「問題点はわかりましたけど、ミカさんはどうされますか?」

「まずはもう1度謝罪を。どう思っているかコハルちゃんの口から聞きたいかな。

 それと助けてくれたお礼も」

 

 謝罪の方は1度はしている。ただそれは補習授業部全体に対してであって、コハル個人に対してではない。

 改めて友誼を結びたいならばもう1度しっかり話すべきと思ったのだ。

 お礼についてはまだしてもいなかった。

 

「ありがとうナギちゃん! やるべきことが見えてきたから元気出てきたっ!」

「えぇ、頑張ってきてください」

 

 元気よく出ていくミカを見送り、再び仕事に戻るナギサであった。

 

 

 

 

 後日、謝罪の準備を整えたミカは改めて話をしたいということでコハルを呼び出した。

 言いたいことはまとめて完全に覚えた。この日のために髪も切ってきたし、服装も普段以上に気合いを入れた。仮に男子生徒への告白だった場合、常勝無敗を誇るオーラがそこにはある。

 

「ごきげんよう、コハルちゃん」

「その、ごきげんよう。ミカ先輩」

 

 対するコハルは相変わらず、その目の中に脅えが見えた。それでも前までは合わせてこなかった視線をミカの方に向けている。

 その変化に多少驚きつつもミカは話を進める。

 

「コハルちゃん、本当にごめんなさい!」

「えっと……。それは何に対する謝罪なんですか?」

「私が原因となって起こった諸々に対する。コハルちゃんが補習授業部に入ったこと、調印式で起きた事件での被害。合宿最終日での私の言動について」

 

 その謝罪を受けコハルは渋い顔となる。以前同じ謝罪を受け、また蒸し返されたのだ。いい気持ちがしないのも仕方がないことである。

 

「そ、それについては以前謝罪されましたけど……」

「そうだね。でもコハルちゃんと仲良くなりたいなら必要な流れだと思って。一方的な謝罪じゃなくて、話し合いたいんだ」

 

 ここで拒否されるならそこまでだ。でもコハルちゃんならそういうことはしないだろうなというズルい確信がミカの中にはあった。

 沈黙が続く。続く。続く。終わる。

 

「その、うまくまとめられてないんですけどいいですか……?」

「勿論! というかそれで私が文句言うようなら撃たれても文句言えないよね?」

 

 茶化す様におどけて見せるミカ。緊張をほぐすために言ったのだけれど、コハルからの反応はイマイチだった。

 

「こういうとあれなんですけど、補習授業部に入ったこと自体は文句ないんです。むしろ皆と出会えて成績も上がったんで感謝しているといいますか」

「そうなの……?」

「えっと、そうなんです。流石に急に上がったボーダーや無茶な試験会場場所については二度とごめんですけど」

「ナギちゃんがごめんなさい」

 

 思わず真顔で謝るミカ。ナギサの目的を考えると仕方がないけれど、あれはなかったと思わざるを得なかった。

 ボーダーについてはあの点数を越えられるのは本当に一握りだ。仮に同じボーダーでテストをしようものならトリニティの生徒の9割が退学になる。会場については勉強できるとか関係がない。

 

「ただ調印式での被害は別なんです。……あの一件でアズサが受けた被害。仲間と本気で敵対してしまったこと。和解もできない状態であること。

 勿論ミカ先輩が行動を起こさなくても同じ事件は起きたんだと思います。でもそれと許せるかは違う話になっちゃって」

「コハルちゃん……」

「それと合宿最終日。アズサのこと操り人形って言っちゃうのはないです。この人私の友達のことそう思ってるんだなって。その上で自分の罪をアズサに押し付けようとしていて。

 アズサに聞けば「終わったことだし私は気にしていない」って言う気はしています。でも私はそこまで割り切れそうにありません……」

 

 話を聞いていて思うのはこの子は本当に優しい子なんだなっていうことだった。

 多分コハル自身が負った迷惑もかなりあるはずだ。それなのに気にするのはアズサのことばかり。

 しかもその件を忘れていたわけでもないのに、ミカのことを迷わず助けてくれた。

 

「話してくれてありがとう。言い訳になっちゃうけれど、もうアズサちゃんのことを操り人形だなんて思っていないんだ。むしろ最後まで自分の意志で進み続けられるとても強い子。

 というかサオリ達から見れば私の方こそ操り人形だったんだろうね」

 

 自嘲気味な笑みを乗せつつミカは言う。

 アズサはセイア殺害阻止に始まり、調印当日は一人でサオリ達に立ち向かっていった。その結果としてアツコにダメージを与えアリウス信徒のコントロールに影響を及ぼしている。あれがなければ先生がいてもトリニティ侵攻阻止は間に合わなかっただろう。

 対するミカはほぼほぼアリウスの予定通りの行動。調印当日も何もせずまさにお人形さんだった。

 

「はい、アズサは凄いんです! 頭だってよくって、教えられたことは直ぐに覚えちゃって。

 でも正義実現委員会といつも揉めるのはなんとかしてほしいんですよね。この前なんて私もいたのに当たり前みたいに攻撃してきて。後で文句言ったら「むしろこっちに協力してほしかった。コハルがいればあそこから逆転でできた」とか言うんですよ!」

「アズサちゃん、何かと揉めるからね……」

 

 生き様がアウトロー過ぎて一部ではファンになる子も増えているとか。

 ぷりぷり怒りつつもコハルは続ける。

 

「だから、仲が良くても許せないことってあると思うんです。正直ミカ先輩のしたことは許せてはいないんですが、嫌いってわけではないと思うんです。だから仲良くしたいって気持ちもあって……。

 でも何よりも私はミカ先輩のことが怖い。たとえ仲良くなってもいつかセイア先輩みたいに後ろから刺されるかもしれない。目的と気分次第で切り捨てられるかもしれない。だから距離を取ってしまって……」

「あそこまでするつもりはなかった。そう言っても納得はできないよね?」

「ごめんなさい……」

「コハルちゃんが謝ることじゃないよ。これについては私が悪いとしか言えないし」

 

 嫌いじゃないと言ってくれたのは嬉しかったが、怖いというのはあまり考えていなかった。

 でも考えてみたら当たり前だ。友達を刺して親友を監禁しようとした女だ。恐怖を感じないわけがない。

 

「でも嫌いじゃないって言ってくれるのは凄く嬉しかったかな。ありがとう。

 あとナギちゃんのことは許してあげてね? あれでメンタル弱いから今回のこと未だに気にしてるんだ。仮に退学成功させちゃってたら大変だったよね、これ」

 

 おどけるようにそう言って背中を向けるミカ。

 時間が解決してくれるといいなと思いつつも、まずはイメージ払拭。とりあえずボランティアでも始めてみようかな? お礼を言うタイミングも逃しちゃった。これは後でナギちゃんに頼んでお手紙書こう。やっぱり本番に弱いよね、私……。なんて思考を回していたのだが。

 その手を握る後輩がいた。

 

「その、怖いのは事実なんです。でも私はしてみたいことがあって、その為には逃げたくなくて……」

「してみたいこと?」

「アリウスの生徒達と仲良くなりたいんです。私政治とか全然わからないですし、アリウスの生徒達のこと怖いって思っているのもあります。でもアズサがこのまま喧嘩別れなんて悲しいじゃないですか……。

 だからここで怖いからってミカ先輩と距離を取るってことをしたくなくて。その、凄く我儘なのはわかってるんです。でも頑張ってみちゃダメですか?」

 

 握られた手を両手で包み返すミカ。

 その顔にはコハルでさえ見惚れてしまう満面の笑みがあった。

 

「ううん、ダメてことは全然ない。凄い嬉しい! そっかそっか、コハルちゃんもアリウスと仲良くなりたいんだね!!」

 

 純粋にアリウスと仲良くなりたかったミカとアズサの視点を置いているコハル。確かにスタートは違うが目指すべきところは同じだった。

 そしてその目標を半ばあきらめていたミカだったが、だからこそ目指そうとしてくれている後輩の存在は大きかった。

 

「でも現在の状況考えると凄く茨の道だよ? それは大丈夫?」

「えっと、難しいことは分からないんですけどアズサとは仲良くなれました。なら話す機会があれば可能性はあると思うんです」

「そっか、アズサちゃんもアリウスだもんね。失敗して当たり前だったなぁ……」

 

 アリウスと仲良くしたいといいつつ、アリウス出身であるアズサのことを見ていなかった。その上で罪まで着せようとするミカをサオリ達は果たしてどう思っていたのか。

 勿論あちらも織り込み済みの策ではあったけれど、その相手に好感を持てるかは別問題だ。

 

「ミカ先輩?」

「ううん、こっちの話。それでさ、もしよければ何処かでお茶でも飲みにいかない? 一緒に行きたいお店考えていたんだけど、それ以上に話したいこともできちゃったからさ」

「まだ怖がっちゃうかもしれませんけど。その、私で良ければ喜んで」

 

 そういって控えめに微笑むコハル。

 ようやっと向けてくれた笑みに嬉しさを覚えつつ、繋いだままの手を引いて歩き出すミカ。

 

「一つ大事なこと忘れてた。調印日当日、助けてくれてありがとうね。本当に嬉しかったんだ!

 多分コハルちゃんにとっては当たり前なんだろうけど、あそこで動けるのって凄いことなんだよ?」

「えっと、どういたしまして?」

「あはっ、まだまだ慣れないよね。コハルちゃんはさ、自分が思ってるより凄い子なんだ。

 だから自信を持ってくれると先輩は嬉しいかな」

 

 まだ壁はあるけれどコハルとの仲も進展したし、何よりもまたやりたいことが出来た。そのやりたいことの為にコハルを始め色々な人と協力していくのだが、それはまた別のお話。




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