或るトレーナーの後悔   作:※(米印)

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芝300m直線(柵あり)

 結果から言えば──勝ったのは3番手につけた4枠4番のウマ娘だった。前2人がやりあって消耗したところに恵まれての勝利である。はっきりと、「まぐれ勝ち」に分類されるような。

 彼女に声をかけたトレーナーは、いなかった。勝ち方だけではない。前の模擬レースでは1着のウマ娘から2秒以上も差を付けられていたのだから、「そもそもレベルが低かった」という判断もやむを得ないだろう。

 

 一方で、エルカーサリバーは最下位6着。展開がまったく向かなかったこと、ダート適性がなかったことからすれば、当然の結果だった。

 次走からは彼女は芝のレースを走り、イナリワンの担当トレーナーだった男に拾われることになる。

 

 そして、サンキューは──

 

 

 

 

 

「お前らの目は節穴か」と、大声で叫んでやりたいくらいだった。いや、他のトレーナーの目が節穴であってくれと願った。

 柵を飛び越え、ゴール板前へ駆け下りる。

 肺が苦しい。今ばかりは、禁煙しておけばよかったと心から思う。だが、まだ彼女の周りに人影は見えない。間に合うやもしれない。

 

 このまま、誰も声をかけるな、頼む。

 

 何に祈ったのかは自分でもわからないが、どうやら通じたらしい。

「サンキュー!」

 肩で息をしながら、声を張り上げた。

「ど、どういたしまして?」

 彼女は、ちょうど最初に会ったときのようなことを返す。

「違う。サンキューに、お前にっ……」

 途端、何を言えばいいのかわからなくなった。

 

 その末脚がすさまじかった。ダートの短距離戦で、後方2番手から半バ身差の2着まで詰め寄った末脚が。

 その判断がすばらしかった。中盤に前がやりあってペースがあがる中、じっと我慢してラスト1ハロンに賭けた判断が。

 その意志が、その目が、誰よりも光を放っていた。

 

 言葉に表せば、きっとかすんでしまう。あの走りが、この感情が。

 

 ああ、これはきっと質の悪い笑い話だ。でなければ、何かの間違いだ。いや、間違いだったとしても、間違ったままであってくれ。

 

 惚れてしまった。このウマ娘の走りに。このウマ娘に。この(ひと)に。

 

 ようやく、咽喉から言葉をひねり出す。

「頼む。契約を、トレーナー契約を結んでくれ」

「え……私に、ですか?」

「ああ、お前だ」

 彼女は少しだけ考え込む。

「私、走りたいんです。レースに出たいんです。それを、トレーナーさんは叶えてくれますか?」

「もちろん」

 即答した。ウマ娘をレースに出すのは、当然、トレーナーの仕事なのだから。

 

「でしたら……よろしくお願いします。トレーナーさん」

 そう言ってから、彼女は手をばたばたさせる。

「あっ、私の名前、ちゃんと言ってませんでした」

 もう一度姿勢を正して、微笑んで。

 

 

「サンエイサンキューです。私を、走らせてください」




書いててサンキューちゃんへ若干嫉妬してしまった。私のタヴァラをたらしこみやがって。



小ネタ解説

・勝った子……元ネタはマル抽の馬。残念ながらこの後2戦しただけで引退。

・イナリワンの担当トレーナー……柴田政人。たぶんウイニングチケットの方が通りがいい気がするが、時系列的にまだなのでこっち。

・トレーナーの仕事……「ウマ娘をレースに出さない」のも仕事だということには、彼はまだ思いいたっていない。





これでひとまず序章的なものは終わりです。次からはジュニア(旧馬齢3歳)編ですね。
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