白百合幕間 作:紅葉
新しい部屋で少しわくわくと寂しさを胸に一夜過ごしリリィは待ちに待ったファウンス士官学校の初等部の門を潜る。
辺りをみまわせばリリィと同じ新入生がいっぱいおり明るい顔厳しい顔など様々な顔つきで背負っている物をうっすら感じる子も多く見られる。リリィはそのうちの明るい顔の子で父とおなじ学校だと思うと凄く嬉しくなっていたが、不意に視線をちらちらと感じ再び見回すと目が合う子が多数おりすぐに目をそらされてしまう。
何かいけないことしたかな...と少し不安に思いつつ厳しい顔のおじさんのきょうかんちょー先生の演説を聞き入学式を終え各々のクラスへと集まる。そしてリリィは見られる違和感の正体にやっと気づいた。
女の子をほぼ見かけなかったのだ。
ほぼ所じゃない見かけなかったかもしれない。大変なことに気づいたリリィは少し放心状態になっていた。男の子の友達作れるかな...という斜め上の不安を胸にしていた。
「........リィ..............ル、リリィノワール!」
「は、はい!」
唐突に大きな声で呼ばれ驚いて大きな声で返事を返す。少し眉をひそめた教官と他の子がリリィを見ていて考え事をしていたのをちょっと後悔したリリィだった。
「リリィ・ノワール、自己紹介をお願いします」
「はい! リリィ・ノワールです! 色々好きだけどトマトは嫌いです! よろしくお願いします!」
ぱちぱちと拍手がなり着席する。
一安心に思ってると少し笑う声が聞こえる。不思議に思うと次の子の自己紹介は名前とよろしくしか言ってなくてリリィはあっ...とさっき言った自己紹介文を思い出した。
初日から失敗ばっかりだぁと顔を赤くして俯いてしまうが明日からまた頑張ればいい...とポジティブに切り替えて不安の気持ちを隅へと追いやって行った。
初日の失敗から数日懸念してた友達も男の子しかいないが増えて本格的にお勉強が始まり、くんれんも徐々に増えてきてバテる子が多い中リリィは何とか食らいついて励んでいた。
「はぁ...、点数よくない....」
が、食らいついては行っているものの成績は振るわず訓練は並以上に体力があるが授業の小試験の点数は振るわない子というのが教官陣からの判断だった。
何とか上へ、いい成績を取りたいとリリィは一人で勉強を繰り返すが1人では解決出来無いことが多く1年次の成績はお世辞にもいいとは言えないものだった。
お父さんにかおむけできない...。
通信で連絡を取って成績について話した時にやめさせられると思ってしまったが、
「1年次で結果を出せる子なんて早々いないからまだ様子を見るよ、じゃあそうだな4年生 。4年次まででいい成績を取れなかったら戻っておいで」
「わかった...」
落ち込むリリィの声色を聞いて少し複雑そうに笑って頑張れと言って通信は切れた。
「よねん...」
「ノワールさん、そろそろ消灯時間ですよ。
...どうかなさったんですか?」
「寮監さん...、さっきね お父さんとつうしんしてたんだけど......、」
リリィは寮監に成績が芳しくなかった事、期限を4年次までと設けられた事を話した。
「うーん、多分なんですけどノワールさんは1人でやろうとしてるからじゃないですか?
寮で見ててそう感じます...」
「お父さんとの約束だし、私が頑張らないとだめじゃないの...?」
「困った時は大人に頼っていいんですよ」
刹那、「分からないことがあったり困ったことがあったら教官に聞きなさい」という移動中の父の言葉が蘇る。
自分だけでは難しい事はまだ少し幼いながらも悟っていた為頼ってもいいのだという安心感と心の枷がひとつ外れるような気分で、さっきまで成績で悩んでいたのが嘘のように顔に明るさが戻る。
「寮監さんありがと!」
「いいえ〜、もう消灯時間ですから寝るんですよ〜」
寝ろとは声をかけるが多分しばらくは寝ないだろうと思いつつ部屋に走る小さな背中を見送る。
部屋に戻ったリリィは今までの授業データやメモした端末を取り出し、自分だけじゃ理解が追いつかなかった所を全て書き出して行き端末のデータ容量がすごい勢いで減っていき底を尽きないか心配になるぐらいであった。
翌日、授業が終わったあとに教官室に直行したリリィはデータいっぱいいっぱいの質問リストを対応しに来てくれたオールバックの髪型のイオ教官に教えてください!!と元気よくお願いし、それを受けた教官は驚きつつも優しく教鞭をとって丁寧に教えてくれた。
いかんせん量が量なので放課後だけでは全て教えきることができなく空中庭園に浮かぶ擬似太陽モジュールが夕方を表し夕焼け空になってしまった。
「また明日来なさい、教えれるだけ教えましょう」
「ありがとうございます!またー!」
元気よく手を振って帰寮する生徒をイオは眩しげに見つめる。ここ数年で熱心に聞きに来る生徒はいなかった。あの様子だと明日だけじゃなくてほぼ毎日通いつめるだろう。
「面白くなりそうだ」
教官の予想通り毎日通いつめるリリィだったが予定が大丈夫な日は必ず質問を受け、連日の放課後授業のおかげかリリィの分からない範囲が減り理解を深めていき徐々に成績も良くなっていった。訓練にも少し曇を感じ始めたリリィはかつてしたように疑問点などをメモした端末を持って訓練科目の教官室へ突撃し特別授業のような枠で放課後簡単に教えて貰える様になった。
訓練科目のアトラ教官はイオ教官と友人だったようで話に聞いていたらしく快く放課後授業を引き受けてくれた。
2人と1人で教えてくれる時間が多くなりより分かりやすくなり、他の生徒が放課後に遊びに出たりする中ずっと勉強に励んだ。
その甲斐あって、リリィは1年次よりめきめきと成績が上りついに3年次には成績の上位と呼べる所に手をかけて4年次の試験では成績上位者の枠に収まることが出来た。
1年次の散々な結果に比べたら目を見張る成績で教官陣や生徒からも驚きの声があがっていた。話題に上がることに嬉しさ半分恥ずかしさ半分の気分のリリィは尽力してくれた2人の教官にお礼を言おうとデータを大切に保存し軽い足取りで廊下を歩いていた。
「どうやってそんなに成績伸ばしたの?」
「毎日分からないところ教えて貰ってるんだよ、イオ教官凄いわかりやすいんだよ!」
「毎日?」
「うん」
凄くやばい物を見る目をされた。
成績あげたいのだから頑張るのは普通のことじゃないの...?
首を傾げ返したら何でもないと言ってそそくさとどっかに言ってしまった。
えぇ...、と困惑していると「おい」と別の子に呼び止められすごい勢いで睨まれどんっと突き飛ばされる。
「女のくせに成績めっちゃ上がったからっていいきになるなよ!!!」
「え...?」
訳が分からず放心するリリィに言いたい放題言った後に数人引き連れて帰って行った。引き連れてる子の中にはさっき話しかけられた男の子もおり何故だかちくりと心に痛いのが刺さった感覚がした。
男の子達自体には見覚えはある。1年次の時同じクラスだった子で私の大失敗自己紹介をくすくす笑っていた子達だった。
成績も振るわない時で見下すような視線を感じていたのを少し覚えている。
成績を上げれば嘲笑の視線は無くなるはずと考えていた、だけど成績が伸びていく事に嘲笑の視線は段々と別の視線になって行ったのを覚えている。
例えるなら、焦り、嫉妬、恨み。
おそらくあの男の子達は下に見てた私に順位を抜かされたのが気に食わなかったのだろう。
女のくせに。
確かに私は女だけど、男の子に負けないぐらいに頑張ってきた。君たちが遊んでる時も追いつきたくて、お父さんとの約束を果たしたくて、嘲笑を向ける子に対して対等に見て欲しくて。
頑張って頑張って頑張ってやっとの思いで成績上位に入れたのに、私が女だからって理由で拒絶されるの...?
突き飛ばされてへたり込むリリィに誰も手を差し伸べる子は居なかった。友人だと思っていた男の子でさえも。
何かが大切な所がぴしりとひび割れる音がした。
のそりと立ち上がりガラス窓にうつりこむ自分の顔を見る。さっきまで爛々とした笑顔のはずだったのに随分と酷い顔だ。
大切にしてくれた人達には心配をかけたくない....。
休みだけど明日また改めて報告に来よう、そう決めて久しぶりに授業終わりで直ぐに帰寮する。寮監さんに驚いた顔をされたが静かにおかえりとだけ言ってくれた。
「ただいま...」
小さく答えて自室に戻り上着も何も脱がずにベッドへ潜り込んだ 。今までの疲れや今日の出来事の疲れが重なっていたのか凄く瞼が重くなる。
お父さんへの報告も明日かな。
こんな顔見られたら絶対に心配されちゃうもの....。
懐かしい夢を見た。
自然保護区の家でお父さんお母さんとアキナで庭でピクニックしてる時の記憶の夢...。
得意だった草笛でお母さんの好きな曲を演奏し凄く喜ばれた気がする。
お父さんにいつものようにわしゃわしゃと頭を撫でられて、
「いっぱい練習してたもんな、よく頑張った。えらいぞ!」
はっ、と目が覚める。
枕元には水滴の後がついており自分が泣いているのだと気づくのに時間はあまりかからなかった。
私は、ただ褒めて欲しかったんだ。あの暖かい大きく硬い手のひらでもっと頭を撫でて欲しかったんだ。
勉強も訓練も凄く大変で難しいけど、家族の役に立てるし憧れの背中の軌跡を追えるのも嬉しい。けど、もっともっと家族とも一緒に居たかったんだ。
今気づいてしまってもどうしようもないことでリリィはただ涙を流す事しか出来なかった。ひとしきり泣いた後にひとつ深い深呼吸をした。
「甘えん坊の私は卒業。
もっともっと頑張ってお父さん達に喜んで貰えるようにならないと」
そのための1歩にお父さんに通信を入れる。
繋がるまで新しく来ていたメール通知を開くとイオ教官とアトラ教官だった。
2人とも文章は個性が出てて違う物だが2人とも上位に入ってくれたのを祝ってくれていた。やはり今日改めて報告に行こう。
「もしもし、」
通信がつながりお父さんの声が響く。
「もしもし! リリィです!
お父さん、聞いて! 私ね成績上位者に入れたんだよ! 約束守れたよ!」
「いい成績とは言ったがまさか上位に入るなんて...、すごいじゃないか。偉いぞリリィ」
珍しく曇りのない声だった、嬉しくなってしまい引っ込んだ涙が再び出てきそうだった。
ぐっっと堪えて、約束の件を聞く。
「このまま学校に残ってもいい...?」
「あぁ、いいとも...。これからは上級生だからな、もっと大変だと思うが頑張るんだぞ」
「...うん。頑張る!」
会話を楽しみ別れを告げて通信を切る。
残る許可は貰えた。あとはもっともっと頑張って喜んで貰わなくちゃ。
5、6年でもっと難しい授業や訓練内容が多くなり力の差が明確に出始めるがリリィは変わらず教官達に突撃を繰り返していた。
変わったことといえば成績をあげることから成績をキープしつつ首席を狙う事が増え、順位を抜かされた男の子の良くない感情の目に耐えひたすらに努力で結果をだして行くことだった。結果が出ているおかげで教官陣からの目が多く4年次のような直接的な物は起こることは無かった。
また、成績上位者の上がれると報奨でお給金の金額も少し上がるらしく、家族の助けになるという思いに拍車がかかり成績を落とすことなくじわじわと上がり続けたゆまぬ努力で初等部卒業年次には三位で卒業。
首席は逃したがやりきった気持ちでいっぱいのリリィだった。
式典では登壇し直接的賞を受け取ったりなどをしてリリィにとっては、輝かしい一日で嬉しさの気持ちでいっぱいだった。
彼女を見上げる子達に混ざる嫌な視線には気づかない程に。