白百合幕間   作:紅葉

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中等部編 上


4章 嫌な噂

 

初等部とは違う校舎に移り、初等部とは違う間取りの教室や設備を目にしてかつて初めて初等部に来た時のようなわくわく感を少し覚える。校舎は新しい所だが初等部とも連絡橋で繋がっており担当する教官陣も大きくは変わらないがそれでもリリィはわくわくしていた。

初等部とは比べ物にならないくらいに難しい授業や訓練があるのだろう。また教官室に通いつめる日々になりそうだと3年間の生活に成長段階のまだ薄い胸をめいいっぱいふくらませた。

 

顔ぶれの余り変わらない入学式を済ませ、中等部一発目の試験では今までで初めての首席に輝く。何度も眺めた成績順位の掲示板を穴が開くぐらいに1位リリィ・ノワールの文字を見つめる。

 

「やった...」

 

長く望んでいた文字にぽつりと声が漏れる。

ざわざわと騒がしい掲示板まわりだがリリィに喧騒は聞こえず1人心で嬉しさで走り出したいぐらいに暴れていた。

リリィにおめでとうと声をかける友人が数人いる中静かにリリィの幸せそうな後ろ姿を見つめる男がいた。

見つめる目付きはまゆにシワを寄せ恨みをこもった目を向けて舌打ちをひとつならし踵を返して人混みに消えていった。

 

発表から数日、まだ張り出されてる掲示板を見てはにへと表情が崩れるリリィは謎の違和感を感じていた。

よく感じる恨みや妬みの視線や陰口では無くまるで腫れ物を見るような目だ。視線の主を探そうと見回しても複数から見られているようで多くの子が視線を急いでそらす。

居心地が悪く感じ、早く教官に質問しに行こうと切り替えて足早にその場を離れた。

 

「やっぱり...、教官室に歩いてってるぞ」

「噂って本当だったのか?」

「教官誘惑して1位にしてもらったって噂だろ、いいよな俺らには出来ないからな」

リリィを見ていた男達は聞いた噂と本人を話の種にしてゲラゲラと笑っていた。

 

噂は広く広まっているようでそう遅くない内にリリィの耳にも噂が入った。

ふざけるな、リリィの初めに持った感情は悔しさを伴う激情だった。そんなことはしていないしやろうと思ったことも無い。ただ単に分からない点を教えて貰って勉強しているだけだ。

そしてまた「女だからできた」という声を聞いて大声で憤怒を、身のうちの激情をさらけ出して吐き出したい気持ちだった。

でも感情のままに叫んで誤解を解こうとしても図星だから焦ってるという穿った見方しかされないだろう。

そっと眉にシワを寄せて胸につっかえるもやもやした激情を飲み込んで教室を出て、いつも通り何も聞こえていないフリをして教官室に行き質問点を教えて貰い早めに帰寮した。

 

 

「おかえりなさい、今日は夜食いりますか?」

「ただいま、あーじゃあお願いします」

「わかったいつもの時間に部屋に持っていきます、頑張って下さいね」

 

ありがとうございますと返事をしていつもと変わらない調子の寮監さんに手を振って部屋へ戻って、課題をする前にシャワーなどで少し一息入れようと制服を抜ぎ部屋の風呂場へ歩く。

頭から温水を浴びて髪を洗い体を洗いって、最後に少し冷ためのぬるい水でしゃきっと気分を入れ替えるのがリリィのちょっとしたルーティーンだ。お父さんがそうやると気分が引き締まるって言ってたのを聞いて真似してたのがいつの間にリリィの癖にもなっており母にお父さんそっくりと言われてちょっと嬉しくなったちょっと自慢のできる癖だった。

 

寮生全体に出る夕食を済ませて部屋に戻り読書、そして課題や復習、予習を行う。

集中してカリカリと端末にイオ教官に出された課題である重篤汚染区域での作戦案を深く思案して書き出して行った。まだ拙くはあり数点改善を入れれば実際の作戦に使えそうな案が多かった。

しばらくしてコンコン、と扉を叩かれ端末から意識がそれる。時間を見ると0時近くなっており寮監さんの声が聞こえお願いしてた夜食を持ってきてくれたのだと思い出した。

慌ててドアのロックを解除して夜食を受け取りお礼を言う。寮監さんは優しい笑顔で頑張ってと返して寮監室に戻って行った。

夜食はハムチーズのホットサンドでチーズとろりととろけていて凄く美味しそうで1口頬張ってみた焼き目がカリッとなっててすごい美味しかった。

 

 

 

「君達、もう消灯時間すぎてるけど何してるんですか」

「ら、ライト寮監!? いや、えっと、の ノワールさんのとこで勉強教えて貰う約束してるんですよ!」

「ノート端末も持たずに?」

「...。」

「馬鹿な事考えないで部屋で寝なさい」

 

ちっ、と言いたげな男子達を追い返し見えなくなってもしばらく椅子などに座って待つ。

頭の中が欲にまみれた子達だ、あの顔では諦めは直ぐにつかないだろう。ほぅら、消えてった曲がり角から少し顔を出してきた。

目が合ったのがわかったのか直ぐに顔を引っ込めたがまた時間を置いたらまた見に来るだろう。

初等部の時もこういう事がなかった訳では無いがここ数日彼女の部屋に押し入ろうとする寮生が多い。彼女と親しい教官から話を聞くと教官を誘惑して1位にして貰ったという噂が流れているらしい。十中八九彼女を妬む輩が意図的に流した物だろう。広まりすぎてるから犯人を特定するのは難しいとイオとアトラ教官が悔しそうにしていた。

そんな噂を真に受けて教官を誘惑する奴なら自分らも相手してもらおうという打算的な考えを持って毎夜毎夜来ているのだろう。

来る子はほぼ中等部生徒。思春期真っ只中で下と頭が直結しているしているお年頃だ。

無いと願いつつ密かに彼女の部屋へ行ける動線上にセンサーを複数設置したのが毎晩のように通知とアラームを寄越している。

今もまたひとつ通知がひとつ来た。寮内の安全の為に設置しているカメラにはさっきの子達と別の子達が映っていた。

本当に自分の待機室から近く目の届く場所で男子達の大勢いる場所から離した所にしてよかった。

せめて寮では安心して過ごして欲しい。

絶対にノワール元教官長の娘さんには指1本触れさせない。

こそこそ歩いてくる頭が下の馬鹿にまた暗がりから声をかける。

 

「君、消灯時間をすぎていますよ。」

 

 

擬似太陽が上り空中庭園を明るく照らす。

目の下にくまを貼り付けた寮監は朝早くから登校するリリィを行ってらっしゃいと見送り自室で泥のように眠った。

 




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