白百合幕間 作:紅葉
1週間ほどたち寮でも学校にも姿を見せなくなったリリィに多くの生徒がざわつき始める。そしてひとつ上の3年と2年の誰かが退学と自主退学したという話が広まった。
3年の名前はエイル・プレジテ、2年の名前はジェフ・ローザだった。
この話はメールでリリィの目にも届いていたが決して彼女の気分を明るくさせることは無かった。
メールを見終わりまた何も考えないように目を閉じようとするとこんこんと扉が叩かれる。寮監さんだろうか、どうぞと返事をして空いたドアから見えたのはしばらくあっていないお父さんだった。
「お...とう...さ...?」
「リリィ...!」
ベッドに座り込むリリィへ大股でずかずかと近づいてがっしりした腕でリリィをしっかりと抱きしめた。
突然現れたお父さんにびっくりして少し混乱するが暖かい体温に少し痛いぐらいの抱擁に懐かしさと安心を覚えて溜め込んで悩んでいた分の涙がぶわりと溢れた。
ぽつりぽつりとお父さんがごめんな、リリィごめんなと謝るのが聞こえたがなぜ謝るのか理解出来ず聞こうにも涙の感情が強く疑問は声にならなかった。お父さんの硬い胸に顔を埋めて声をあげて泣いた。それに対して何も言わず暖かく静かに抱きしめ返してくれた。
しばらくたち、ぐす...と少しはなをすすっているが落ち着いて来たリリィはまた甘えちゃった...と呟く。
「もっと甘えていいんだぞ、卒業する必要なんてない。どこの世界に娘に頼られて甘えられて嬉しくない親がいるか。...もし居たらそいつはクズだ」
いつもの調子で喋る父に安心を覚えてゆっくりと強ばっていた心がほぐれていく。卒業しなくていい、家族に甘えてもいい。家族に喜んで欲しくその為に家族には甘えれないと考え、リリィが自ら心にはめていた枷をするりと落とした。
「リリィ、守れなくてごめんな...」
「どうしてお父さんが謝るの」
「前はここの教官長だったんだ。
だから初等部と中等部の閉鎖的な環境で思想も凝り固まってたのを知ってた。
だから入学させるなら高等部からで、一般の生徒も女子も多くの入って来るからせめてと思ったんだ。でも、リリィの想いで引き止められなかった...。
だからいい成績取らせて教官達からの協力や視線集められれば間違いは起こりづらいはずだと、成績が振るわなければ改めて高等部からの入学でと考えていたんだ...。
もし、あそこで引き止めて居られればこんなことには...。本当に、守れなくて...ほんとうにごめんなぁ」
「私が選んだ事だから...、お父さんは何も気にしないで欲しいな」
ぽろぽろと小さな涙をながして懺悔するような父を気にしないでと少し微笑んでみせる。きっと上手く笑えていないだろう、でもお父さんはそれをみて少し笑い返してあのいつもの大きくて硬い暖かい手で頭を撫でてくれた。
心の整理が少し着いた私と父は学長に呼ばれ学長室のふっかふかなソファに腰掛けていた。隣には怒気迫る剣幕で青筋を立てているお父さんがいる。こんなに怒ってるのは初めて見た。今にも学長を射殺さんばかりの目でまゆに深くシワを刻んでにらんでいる。
「今なんとおっしゃいました?
まさかリリィに残って欲しいと聞こえたのは間違いでしょうかね」
「いえ、あっております...。
リリィ・ノワールさんは本当に優秀な生徒です。教官達もそのような声が多く成長を見届けたいのです」
「そう言っていただけるのは嬉しいが、リリィにあんなことにあったんだぞ⁉︎残れというのは酷じゃないですか??」
2人は退学になったが恐怖が拭いきれた訳では無い。それどころかリリィの心には事件の記憶が深く深く刻み込まれてしまっている。このまま残らせるのはリリィにとって苦痛以外の何者でも無いだろう。
「私は... 家族にいっぱい喜んで欲しい...し、お父さんみたいなかっこいい軍人にになっていっぱい人を…助けられるように..なりたい。それは今も変わらない..けど、やっぱり怖い..です。
話を聞いて自分も、とまた捕まって何かされるかもしれない、噂を聞いて面白いものを見る目を向けるかもしれない。
他の子が何を考えているか分からない...また仲良くなったら裏切られちゃうかもしれない。ここは...とても、怖い...」
「リリィ…」
「ノワールさん…」
リリィは自分の腕を抱えて寒さに抵抗するように少し俯いて丸まる。今までで一番楽しみで楽しくなるはずだった日が崩れ落ち悪夢のような1日になり、信じていた友人と先輩にその日のうちに二人から裏切られたのだ。リリィは事件への恐怖と共に少々人間不信ぎみに陥っていた。
初等部入学当初のような無垢な明るく全てにわくわくしていたこの面影はどこにもなかった。
「残ってほしいのは事実です。が、中等部でとは言いません。
リリィさんの成績はとても優秀で教官によれば三年次の範囲も少し勉強すれば簡単にこなせるだろうという回答をもらっています。
ですので私からは、飛び級で三年次を終えて卒業し高等部へ入学すると言う案を提案させて頂きます。
もちろん試験は課しますが合格となればそのように対応させていただくつもりです」
高等部、たしかお父さんも高等部からならといっていたなと思い本当にこことは違うところで安心できるのかと父に問いうなづいて答える。
「高等部は中等部からじゃなく一般課程の学校からも生徒を受け入れているから思想が凝り固まっていないし、半々とまでは行かないが女子も多く在籍している。女子寮とか設備もちゃんとしているから今よりは安心だし今回みたいな間違いはまず無いな。
無理にお父さんと同じ道に進まなくてもいいんだぞ、一般に移っても工兵部隊とかに入ることは出来る…」
「んーん、お父さんと…同じみちがいいの。
高等部が安全な所なら、その飛び級の試験の話受けさせてください」
「わかりました、実施する日程と範囲は追って伝えます。
改めて、本当に申し訳ありませんでした。そして受けてくださって本当にありがとうございます……」
深々と頭をさげる学長に父は少し頭をさげリリィもつられて少し頭を下げる。簡潔に、では失礼する。と言った父の後ろを追って部屋から退出する。二人が見えなくなるまで学長は頭を下げ続けていた。
寮に戻る道すがら校舎を歩くがお父さんと談笑しながら歩いているおかげかフラッシュバックのような恐怖思い出させる事は少なかった。そして父を見た教官達が皆必ず敬礼するのを見て、またそれに対して返して敬礼する父をみて私の追いかけてる背中はとても大きいのだなと実感していた。
「お父さんはひとまず帰るが、ダメだと思ったら何時でも連絡してきてくれ。迎えに来るからな」
「うん...。ありがとう」
寮監さんと一緒に父を見送る。名残惜しそうに心配そうにちらちらこっちに振り向くお父さんを見て寮監さんはくすりと笑っていた。
「昔は鬼と言われるぐらいに厳しい教官長だったんですよ。あんなに心配性になられて。よっぽどノワールさんが可愛いんでしょうね。
...ノワールさんも、少し元気が出たようで良かったです」
「ありがとうございます。元気出ました。
寮監さんがお父さんに連絡とったんですよね、久しぶりにあえてあったかくて本当に元気でました」
「あら、気づかれてましたか。でもそう感じてくれたなら良かったです...。本当に...」
数日も経たずに試験の概要が送られる。
日程は2年次末の試験の数日後、今までにやった2年次の範囲と3年次の内容。演習も少し3年次のが混ざっており試験日まで教官室へ通いつめる日々になった。
普通の授業は教室では受けずに寮の自室からデータを見て受けて訓練や演習はアトラ教官と別で行う形で進めた。
そして2年次末の試験を首席で終え姿を見せない生徒が首席に輝いており掲示板を見に来た生徒は非常にざわついていた。
そしてその頃リリィは飛び級の試験を受けていた。試験は数日前に受けた試験とは全く違い非常に難しいもので勉強無しでは悲惨な点数になるだろう物だった。
しかし、リリィは見事に合格をもぎ取り後日来た通知を喜んですぐに家に連絡を入れていた。家族はすごい喜んでくれて画面の向こうが大騒ぎでリリィもまるでおなじ場所にいるかのように楽しんでいた。
教官にも受かったことを報告して久しぶりに明るい心持ちでいたリリィだった。
高等部では今までのしがらみが減る。そう思うと高等部での生活が少し楽しみに思いながら、中等部の終業式の日に寮で教官達から卒業の品を受け取る。
「本当に...、卒業おめでとう」
「高等部は校舎変わるからあまり教えてやれないかもしれないがメールとかで何時でも送ってくれ、時間を合わせて教えにいく」
アトラ教官は涙ぐんで、イオ教官は凄く心配そうに連絡をと念を押して来た。後ろに控えている寮監も涙ぐんでいるのが見えて、それが面白く思えて笑顔になれた。
「元気で、頑張って」
高等部の寮へ移る日、寮監さんにそう声をかけられる。大荷物を背負っているリリィはゆっくりと振り向いて微笑む。
「頑張ります。ありがとうございました!」
リリィの新しい生活にもう苦痛が振りかからない事を祈って、寮監は彼女が見えなくなるまで手を振って門出を見送った。
教官と寮監
イオ、アトラ、ライト
名前の由来:アイオライト
石言葉:道を示す 海に旅の安全
先輩
エイル・プレジテ
名前の由来:エル・プレジデント+レ○プ
酒言葉:プライド
信頼していた友人
ジェフ・ローザ
名前の由来:フォールン・エンジェル ローザ
酒言葉:叶わぬ願い 抑えきれない理性