「緋真さん。結婚おめでとうございます。幸せになって下さいね!」
「吹兎くん。来てくれてありがとう。私がこうして心の底から笑顔になれてるのはあなたのお陰です。改めて、ありがとう。」
壮大な結婚式。五大貴族の朽木家の結婚式なだけあるな。そして色鮮やかな着物を着た緋真さんは心の底から幸せそうに笑顔を浮かべていて美しかった。
「兄も来てくれた事、感謝する。」
緋真さんと話していると新郎、朽木白哉さんがこちらにやってきた。あの時の不審者としか思えなかった頃とは違って今は堂々とした振る舞いであり、五大貴族の一員としての風格を放っていた。
「緋真にはあまり話したくはないが、私は兄がいなければ緋真にプロポーズする事ができなかったと思っている。こうして祝言をあげられた事、そして緋真の罪悪感を消してくれた事、深く感謝する。」
白哉さんは頭を下げてお礼を言う。口調が固いと感じるがそれも彼の性分なのだろう。
「僕がどう白哉さん達の手助けになったのかは分かりませんけど、あの時言った通り、白哉さんと緋真さんが両想いだったから結ばれた、それだけです。」
「そうか…両想いか…。」
白哉さん、顔赤くなってますよ。
「済まぬ。取り乱した。兄の前で緋真の事を話しているとどうにも調子が狂う。今のは忘れてくれ。」
無理です。
「お、冬空三席、職務ご苦労様であったな!」
「冬空三席!今日は女の子と一緒じゃないんですね!」
「ルキア、桃。からかうな。お前らだって普通に三席には将来十分届くだろう。それに桃、僕は桃の前で誰か女の子と行動したことは無い。人を女誑しみたいには言わないでくれ。」
新郎新婦への挨拶も終わり、立食形式のパーティ会場へと戻ってくるとルキアと桃を見つけた。あ、この料理美味しい。あ!これもいけるな!
「吹兎…。少々食べすぎなのではないだろうか…?」
「今日はご馳走が出るって言ってたからな。朝から何も食べてない。」
「それでは新郎新婦。誓いのキスを。」
神主の格好をした見届け人のその言葉で僕は頭が真っ白になる。え?キス?こんな公衆の面前で?
「吹兎くん。顔が真っ赤になってるよ。もしかして…」
「べ、別に赤くなってはないぞ。ただちょっと恥ずかしいってだけで…」
白哉さんと緋真さんは口づけを交わす。
「でもすごくロマンチックだよね。好きな人と恋に落ちて結ばれる。」
「そう…だな。」
僕はまだ恋なんて分からないけど二人がすごく幸せそうだという事は分かる。いつか僕が恋をした時、二人のように幸せになりたいと桃の言葉も聴きながらそんな風に思った。
「わ、私が朽木家にですか?」
「ええ。白哉様と一緒になれた事、すごく嬉しいのですがやはり私はあなたと離れたくはありません。我儘を言っているのは分かっています。それでも考えてはくれませんか?ルキア。」
私も血のつながった姉様と離れるのは嫌だ。姉様はまだあの事に罪悪感を抱いているようだが私は何も思っていない。吹兎や恋次達と出会えた。しかし朽木の妻の妹である私がお邪魔にはならぬだろうか…
「邪魔にはならぬ。緋真がそれを望んでいるならば私は
白哉さん、義兄様のその言葉によって私は朽木ルキアとなった。
シンデレラ。確か現世の話であったか。身分の低い者が成り上がる話は魅力的だという事を多くの子どもが学ぶ。しかし同時にそれらの物語では主人公は周囲の人間から激しい嫉妬の感情を向けられるという事も古今東西、全ての本から学ぶ事もできる。
「ほら、あいつだぜ。五大貴族の朽木の養女になった奴は。」
「貴族権限でここも試験なしでもう卒業できんだろ?」
「うわいいなー。6年のとこを1年で卒業だなんて。俺なんて次の試験で既にヤバイのに卒業なんて考えられねーよ。」
流魂街の貧民出身の私が五大貴族の一員になる事はまさしく先に挙げたシンデレラの話なのだろう。私は霊術院ではどこからも噂話の対象になってしまった。
ルキアが変わってしまった。いや、それくらいになるまでのプレッシャーを受けているのか?バカな俺には分からないくらいの重圧を今ルキアは背負っているのだろうか。俺たちだけは、俺だけはルキアを肯定してやらなきゃいけねぇ。
「よおルキア!最近どうだ?」
身近にいた俺たちでさえ、どう接すればいいのか分からなかった。俺たちが想像もできない世界に行っちまう奴になんて声をかけて送り出せばいいのか。どんな言葉を選んであいつに届ければいいのかが……分からなかった。
「よおルキア!最近どうだ?」
恋次の声を随分と久しく聞いていなかった気がする。無理もないだろう、私がこうなったしまってあ奴も困惑していたのだろう。だが今はその無愛想な声が随分と心地よく感じる。
あいつに幸せになって欲しい。前から思っていた事だ。吹兎と出会ってせいれいていまで2人で来たり色々あった。俺の初恋はおそらく叶う事はないがそれでも変な喋り方で、しかしどこか気品を感じさせるあいつが幸せになってくれればいいと思った。だからあいつがその道を選んだ事を後悔させないように何かを言わないと。
「よ、よかったじゃねぇか!朽木家なんてすげー家に拾われて。よかったなーおい!これで腹一杯食えんぞ!」
俺はまくし立てるように、直後に何を自分が言ったのかも分からないくらいに言葉を続けた。
「ありがとう。」
だがルキアは何の反応も示さずに俺の前から立ち去っていく。いや、何の反応も示さなかったのではない。俺がルキアを見ようとしなかっただけだ。なぜならきっとその様子を見てしまえば…
そのルキアの悲しそうな顔を直視してしまう事が分かっていたからだ。
笑え莫迦者!此奴は私を励まそうとしてくれたのだ!その優しさを素直に受け取れ!このたわけ者が!
「…。」
しかし私の胸にどっしりとのしかかった虚無感は頬を、表情を暗くさせてしまう。笑えと思うがわざとらしい、引き攣った笑いにしかならない。
私が悪いのだ…。皆は悪くない。
「皆はあの朽木の人間となった私との距離を測っているだけだ。」
しかしその距離が遠すぎる場所で測り終えたのだとしたら…。私はこんなにも後ろ向きな人間だったのらだろうか…。次から次へと悪い想像ばかりしてしまう。だからといって姉様も義兄様も悪くない。全て私の事を思った結果なのだ。私が割り切れば全て済む。私が我慢すれば全て終わるのだ。私は朽木の者として他の者よりも良い生活を送る事になるのだろう。利を得るならば何かを差し出さなければならない。それだけの事だ。
「…。」
しかし頭では分かっていても心がついてきてくれない。私はここまで強欲な人間だったのだろうか…。
「ようルキア!そういやお前も緋真さんと一緒に朽木になるんだったな苗字。」
「…吹兎か。」
私は暫く呆然と歩いていたのか、霊術院とは随分離れた場所まで来てしまった。そこで吹兎と遭遇してしまう。ダメだ。このままでは吹兎に勝手に期待して勝手に裏切られたような気持ちになってしまう。私は吹兎の事を…大きな恩のある吹兎を嫌いにはなりたくない。
「ま、朽木って白哉さんもいるし今まで通りルキアって呼ぶけどよ。そうだ!お前この時間なら昼飯食べてないだろ?この近くに美味い店知ってるんだぜ!今から行こうぜ!」
「え…」
吹兎は私が何よりも欲しかった「当たり前」をまた私にくれたのだ。
「で、どうした。何か悩みでもあったのか?朽木家でなんか貫禄ある執事さんにいじめられてるとか。」
吹兎が勧めてくれた(とても美味しかった)ご飯を食べて会計も済ませて(払ってくれた)霊術院への帰路の途中、吹兎がそう切り出した。
「なんか思い詰めてる感じだったからな。少しでも気分がよくなればと思ってな。」
そうか。最初に会った時に既に何かに悩んでいた事は見抜かれていたのだな。
「…吹兎は…私が朽木になっても…なぜ何も変わらず接してくれるのだ?」
私は…知りたい。
「は?いやお前が朽木になろうと志波になろうと浮竹になろうとルキアである事は変わらんだろ?」
たった一言で私の悩みを切り捨てた。
「え?それだけ…?」
「?それだけだが…?」
何か変な事言ったか?と、そんな表情で私の顔を見つめる吹兎に私は、自分の悩みが実はちっぽけだったのかと思ってしまった。既に心を沈ませてた大きな不安は溶け去り、そして吹兎への気持ちも変わっていくのを自覚した。
「ところで吹兎。私も来月、四月から護廷十三隊に入隊する事になった。私は十三番隊の希望を出した。もし同じ隊で働くとしたらこれからもよろしく頼む。」
吹兎がおるからな。
「あー...すまんルキア。僕来月から十三番隊じゃないんだ。」
はい、こんにちは。最後のセリフがどういう意味か、次回で明らかになります。
次回もよろしくお願いします!