叫喚を出てから暫く経つ。僕はあの街から外に出た事がなかった。流魂街は瀞霊廷をぐるりと囲むように存在しており、東西南北の4地区に分けられている。そしてその地区ごとに1から80の地区に分けられている。叫喚は西流魂街80地区にあるので僕は単純に番号が小さくなる地区の方向へと進むだけのはずだった。しかし進むが一向に地区の数が減らない。一体なぜなのか。疑問を抱いていたがその街の名前を知るに、僕の疑問は解消された。
南流魂街78地区、戌吊
僕は進むべき方向を間違えていたみたいだ。
戌吊に入って暫く歩いていると一人の男が武器を持って子ども達を追いかけていた。子ども達はいづれも水の入った樽を持っていた。泥棒だろう。治安が悪い地域ではよく見る光景だった。(叫喚ではそもそも盗みは相手を殺してから盗るという概念なので逆に泥棒に追いかけられるという現象が起こっている)周りの人間もこれが日常の光景であるため特に騒ぎ立てる事もせずただ傍観していた。それは叫喚の時にも感じたあの視線だった。
「ここで見捨ててしまえば僕もあいつらと同じだな。」
「おい、待てコラァ!」
逃げている。水を盗んでいた自分と同じくらいの年齢の子ども達がいたので助けようと水売りの男を攻撃した。しかし水売りの男は私の攻撃をいとも簡単にかわし、私に一撃を入れてきた。力の差を知り、今はその子ども達と水売りの男から逃げている。
「やっと、追い詰めたぜ。」
水売りの男はそう言う。事実私たちは路地の行き止まりに追い込まれた。ここまでか。
「どうしたんだ?」
凛とした声が路地に響いた。
「す、済まぬ。」
僕はなけなしの金で、彼らが盗んだ水を買い取り、子ども達に渡す。水売りの男は悪態を吐きながら帰っていった。目が大きな少女は申し訳なさそうに謝ってくる。
「へ、サンキューな。でも俺たちだけで逃げ切れたんだ!」
しかし赤髪の少年には気に食わなかったようだ。
「逃げ切れた、逃げ切れないの話ではない。水を盗み、追いかけられた。顔つきの悪さは無視してあの水売りが正しい。逃げる事も、ましては攻撃する事もするべきではない。」
「そんな事言ったって、そうでもしねぇと俺らは生きていけねぇから仕方ねぇじゃねぇか!」
赤髪はそう言って僕に反論してきた。その気持ちはよく分かる。
「僕も同じような地区出身だ。君が言いたい事もその感情も分かる。人の物を盗むことは悪い事だ。しかし盗みをしなければ生きていけない。勿論悪い行動をしなかった結果、命を落とす結末になるのを肯定する事はできない。他に仲間がいるのなら尚更ね。」
彼らだけが生き延びるためだけの水の量ではない。おそらく他にも仲間がいるのだろう。まだ幼く無力な子どもなど。こういった貧しい地域では大人に対抗するために子どもが共同で暮らすなどよくある話だ。(叫喚では子どもも問答無用で殺されるので共同生活するだけの子どもがまずいないのだが)
「生きるために悪の行動を起こす者を責める事は難しい。だがその行動を自分で肯定する事は間違っている。自分の心には嘘はつけない。嘘をついてみたとしてもその内その嘘に自分が塗り固められてしまう。」
赤髪の少年も先ほどまでの威勢はなく、僕の話を聞いてくれる。彼は口調や見た目は荒々しいが、実は心は純粋なのかもしれない。
「盗みの善悪までも本心で判断できなくなればその先、君たちの末路は…」
僕は後ろを振り返り、続ける。
「あの汚れた大人達だ。」
今回は原作改変ポイントはなかったかな?ああ、あったか。水売りのおじさん強化。原作ではルキアにボコボコにされましたが今作ではこの時点のルキアよりも強いです。
実際、貧しい人間からしてみれば吹兎の言う事は上から目線の詭弁に過ぎないんですよね…。自分たちのせいでこうなった訳じゃなく、環境のせいでこんな生活を強いられている人たちからしてみれば先の自分の事よりも目先の事に意識が向かうのは当然だと思っています。本当に腹が減ったら食事の事しか考えられません。小説の構成とか考えられません。ただルキアと恋次には清い心を持ち続けて欲しいのでこの場面を入れました。まあ原作でも彼らは素晴らしい人間ですので蛇足感ありますが…。吹兎とルキア恋次の出会いの場面を書くためにやむなく…(突然のメタ!)
次回もよろしくお願いします。