それはまだ吹兎が隊長に就任するより前の卍解修行の時の話である。
「でも僕はまだ始解も完全に会得してる訳じゃないのに卍解の修行を始めるべきかな?」
「多くの卍解は始解の延長線上の能力ですが私のは少し違います」
長い黒髪のこの少女はご存知、僕の斬魄刀の惜鳥である。
「私の能力は霊子結合を経つ力。始解はそれを斬魄刀に纏わせ卍解はそれを主に纏わせる能力です。言うならば始解は攻撃用で卍解は防御の力。主を危険から断ち切ってくれる能力です」
だから始解が未完成だったとしても卍解を会得する分には問題ないという事らしい。
「能力の本質は分かつ事。そしてそれは選択肢を生み出し選ぶという事です。選ぶという事は選ばなかった未来を放棄するという事よ。選ばなかった未来を覚悟する事が卍解会得の条件。これから過去、現在、未来と主が選ばなかった先の未来を観てもらいます」
──────
流魂街では生前の家族と会える者はほぼいない。周りの人間達と家族を作って暮らすのだ。そしてそれは吹兎も例外ではない。
「じゃあ吹兎、母さんと慎吾を頼むぞ!」
「...」
「じゃあ慎吾、母さんと兄ちゃんを頼むぞ!」
「うん! 分かったよ父さん!」
これはまだ吹兎が瀞霊廷を目指しルキアや雛森と出会うより前の話である。父と母はお人好しの人間であった。そして甘い人間であった。
「お前! あの言い方はないだろ!」
だが吹兎の弟(当然血の繋がりはないが)、慎吾は両親とは違った。
「まあまあー。慎吾もーお兄ちゃんの事お前だなんて呼んだらダメよー」
「ッ! でも母さんッ!」
そう言われてしまえば吹兎と違い母想いな慎吾は何も言えない。覚えてろよ! と吹兎を一睨みしてから家の奥へと戻る。
「でも吹兎ももっと仲良──」
「......」
吹兎は母に目も合わせず家を出た。
──────
吹兎とて生来から悪い人間ではない。しかし彼は人の負の部分を見すぎた。人間とは簡単に裏切る存在であるという事を魂の奥まで刻みつけられている。だから彼が他人を自分の中に入れないのは、それは一種の防衛反応なのである。
そしてその覚悟はあの家族を見るたびに揺れ動く。家族と共に生活する中で大切な事を忘れてしまいそうで反射的に辛く当たってしまうのだ。そしてそれは吹兎に二つ目の、決して忘れる事ができない後悔を刻みつけるのである。
吹兎の母はなぜか虚によく襲われる。そして虚から家族を守れるほどの戦闘力を持った人間は吹兎しかいなかった。だからこんなくだらない自己満足で家を出なければ、父に言われた通りに母を守っていれば...家族の皆が死ぬ事はなかった筈なのである。
人生とは選択の連続である。日常の小さな選択から人生に関わるほどの大きな選択まで。人は常に何かを選び続けている。そしてそれが生きるという事なのである。
だからこそ思ってしまうのだ。もしあの時、別の選択をしていたのならば。もし自分があの時もっと強く、家族を自分の中に入ってくるのを拒絶しない強さがあったのなら...あの暖かな家族と共に幸せに暮らす事ができたのだろうか。そんな後悔が永遠に残るのである。
しかし何かを選ぶという事はそれ以外の選択肢を、その先に続く道を、未来を捨てるという事である。真に何かを選ぶのならばその覚悟を持たなければならない。自ら切り捨てたのならいつまでもウジウジと悩む訳にはいかない。真に何かを選んだのであれば前を見なければならない。
──卍解──
あれ?この名前って斬魄刀『惜鳥』よりむしろ技名『和気開錠』の方に似てない?と思ったそこのあなた、伏線ですので楽しみに予想してみて下さい!
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