海軍は島につくと何も持たないで上陸した。町人たちに敵意がないことを示すためのパフォーマンスみたいなものだろう。
さっきの海兵たちとあからさまに雰囲気が違う海兵たちと、あの英雄ガープと海軍大将青キジのコンビが来たことで市民たちは反応は比較的マシだ。これがどこの誰かも知らない支部の人間なら市民たちは銃火器を向けていただろう。
それでも海兵たちは普段向けられる視線とは違う憎しみの視線に固唾を呑んでいた。
町民に前方を囲まれる形でガープたちは立ち止まった。海兵の先頭は海軍本部中将ゲンコツのガープ。対するは私だ。ワンピース特有の現実ではありえない巨体に少し驚いたが、それ以前に主人公の祖父であるガープと漫画を代表する強キャラである青キジに会えていることに歓喜してしまっている。
「この
おっとガープ、町の光景を見て少し涙目になりながら一歩前に出て膝をついたぞ。青キジもその他の海兵も膝をつき始めて……これ、ドレスローザで見たやつだ!
「本当に申し訳ないっ!ワシら海軍は市民を守るのが務め!それなに守るべき市民を恐怖のどん底に突き落としてしもうた!」
漫画を読んでいると時々感じられる人徳者の面が全面に出ているな。いやぁドレスローザ編で藤虎が土下座したシーンは読んでいるだけで驚いたけど実際にされると比べ物にならない衝撃を受けるな。
「そ、そんなガープ中将にクザン大将まで……顔を上げてください!あなた方はあいつらとは違うでしょう!」
さすがの行為に町民も思わず声をかけてしまっている。
「いや、奴らも海兵。直接の部下じゃあないが海軍という組織の一員だったんじゃ。組織の末端の不祥事だろうが上のモンが頭を下げるちゅうのは当たり前じゃ」
「「「……………」」」
町民のみんなは言葉を失ってしまっているな。クソったれな海軍を見て体験したあとに正常であらべき姿の海軍を見て一気に湧いた海軍への憎悪が収まってきているのがわかる。
「今回の件は本部も重く見ている。復興の資金も資材も海軍が全て負担するよう相談しよう。いや、負担させる」
ガープに変わって今度は青キジが土下座の姿勢で顔だけ上げて話し始めた。ガープは謝罪、青キジは今後の補償についてか。いい役割分担だな。
「私はまだ海軍のことを信用し直せません……でも、あなた方は奴らとは違う。だから、どうか土下座をやめてください」
人集りから出てきたのは町長の息子だった。最初に斬りつけられた町長はそのまま息絶えてしまったが、息子はしっかり生き延びることができていたのか。
ガープと青キジは町長の息子の言葉にお互いで目配せをしてから立ち上がった。後ろの海兵たちも立ち上がり、町民の視線を正面から受けている。
「ガープ中将、どうか我々のような思いをする人がこれから現れないよう掛け合ってくれませんか?」
そう言いながら町長の息子は手を前に出す。その手に応じるように手を握り言葉を紡ぐ。
「勿論じゃ!」
こうして騒動は収まった。
しかし、事後処理が始まる。事後処理は町民にとって辛い現実を再認識させた。
第3支部の襲撃によって町は燃やされ、多くの人が殺された。ガープたちが来る前に町の火は消火されたが死体はそのままだった。
まずは海軍とともに遺体の回収と埋葬が行われた。その際、私がやった森と見間違える量の串刺し死体が発見されゴタゴタが起きたが適当に流して遺体を埋葬した。町民は町の共同墓地へ、第3支部員は海に投げ捨てられた。
この際に知ってしまったが、私の家族は全員殺されてしまっていた。父親は鈍器を持ちながら銃弾で胸を撃ち抜かれ、母親は首を絞められて殺されていた。それも母親は海兵に犯されながらだ。母親のそばには頭から血を流した半裸の海兵の死体があり、父親が母親を助けようと海兵を殺したのだろう。
なんとも胸くそ悪い話だ。
「なぁ嬢ちゃん」
「なんですか」
「嬢ちゃんは海軍が憎いか。父ちゃんと母ちゃんにこんなことをした海軍が」
「憎くないといえば嘘になりますが
「そうか……嬢ちゃんは悪魔の実の能力者なんだよな、いつからだ?」
「ついさっきですよ。あいつらが襲ってきたとき偶然木になっていた悪魔の実を食べたんです。なぜか、食べないといけない。食べないとみんなを守れないって思ったんです」
「…………」
「私はどうすればいいんでしょう」
海軍でも海賊でもない民衆を守る存在になるという目標はあるが、海に出ようとも船も航海術も持ち合わせてない私は八方塞がりに堕ちいいってしまってる。
「嬢ちゃんは海に出たいか?」
「はい」
「なら俺と一緒に海軍に来ないか?」
何言ってるんだこの氷野郎。
こっちは無関心といったが親を海軍だった奴らに犯され殺されてるんだぞ。どんな神経してるんだ。
「それは……」
「勿論、海軍に入れって言うわけじゃない。海軍でその悪魔の実力の使い方と航海術を学びに行くんだ」
だとしてもよ!?
「第3支部のやつらは腐っていたが本部は違う。サカズキっていう行き過ぎた正義を信条にしてるやつがいるくらい本部は正義を重んじてる」
心情は別として海軍で学ぶのはいいかも知れない。ただ、将来海軍と敵対したときこっちの能力が知られているのは嫌だな。そこを考慮して天秤にかけたら……。
「よろしくお願いします」
「いいのかい?」
「はい。でも、私海軍に入る気ありませんよ?」
「あぁ構わない。ゼファー先生なら理解してくれるだろうよ」
ゼファー!先生ということは少なくとも原作開始から2年前以上ってことか。これで腕が切り落とされていなかったら7年以上前になるな。
「そういえば嬢ちゃん、名前はなんていうんだい?」
「エドワード・アンナ……でもアンナは今日、さっきの戦いで死にました」
「………」
「今日から私はクルシュ・ジルベールです!」
「よろしくな、ジルベール」
「はい!」
「じゃあとりあえず本部に行く前に基礎体力の特訓で瓦礫を町外れに運ぶぞ」
「はい!」
化け物共がうじゃうじゃいる世界だ。誰だけ能力が凄くても基礎がしっかりしていないとどうしょうもない。まずは基礎をしっかり鍛えていこう。
◆
「本当に行くのかい?アンナちゃん……」
「隣のおばあちゃん……」
ガープたちが島についてから3日目の今日、ガープたちは本部に帰還するらしい。島には資材や資金を積んだ復興部隊がやってくるらしい。
ガープたちは船に補給物資を搬入させている、一方で私は島を出て海軍本部に行くため、町民のみんなと別れを告げている。
「私はみんなを守る存在になりたいの」
「両親が亡くなって辛いだろうに……。アンナちゃんは強い子なんだね」
「アンナ、これ持ってけ!俺たちからの
町の男衆がそう言いながら見せてきたのは、クレイモアのような十字のロングソードだった。この世界の剣は基本的にサーベルか日本刀のようなものばかりのなかで西洋的な直剣をチョイスしたのか。
「まだアンナには扱えないと思うけど成長したら使えるようになるはずだ。そしたらこの剣で俺たちを守ってくれ!」
「バカかい!あんた!女の子に守られる男がどこにいるってんだい!このアホ!」
「いでっ!」
近所の夫婦のやり取りは見てて飽きないな。奥さんも旦那さんも仲が悪そうには見えない。どっちかというと仲がいいからこそあんなことをしていられるんだろう。いい夫婦だ。
「アンナちゃん!男どもはこんな物騒なものを渡してきたけどアンナちゃんはこんなもの握らず、なるべく安全なところにいなさいよ?」
「そ、それは〜〜」
「誤魔化し方が
「「「あはっはっはっ!」」」
温かい。彼女らも大切な人を失っているというのに私に優しくしてくれる。だからこそこんな人たちが酷い目に合わないように、合っても救い出せるように私は強くならないといけない。
「ジルベール、そろそろ出港だ!船に乗ってくれ!」
海兵の一人が出港を教えてくれる。それは町の人ともう当分会えないことを伝える声でもあった。さっきまで元気そうだった町民のみんなも少し涙目になりなりながらこっちを見てる。
「アンナちゃん怪我しないようにね」
「うんとご飯を食べるんだよ」
「なにか困ったことがあったら手紙でも俺たちによこしな!そしたら俺たちが海軍本部に乗り込んでやるからな!」
「アンナ、元気出やれよ!」
「はい!皆さん、今までありがとうございました!頑張ってきます!」
そう言って私は軍艦に乗り込んだ。船が動き始めると町民のみんなは桟橋まで追いかけてくれてずっと手を降ってくれている。
『みんな〜!私、絶対民衆を守る存在になるから!全ては民衆のために!』
こうして私は海軍本部に向かっていった。
道中、ニュース・クーが持ってきた新聞で
それよりも今が8年前ってことだからエースが海に出るのが5年後、ルフィが出るのが8年後か……。時代が大きく動き始めるのはやっぱりルフィが海に出てからだ。それに合わせて私も動き出すべきか。それともエースと同じ頃に海に出て原作の時代にはある程度名が知れた存在になっておくか。どちらにしろ、まずは特訓で強くならないとだな。捕らぬ狸の皮算用ってな。
◆Loading
海軍本部に着いたあとはガープと青キジに付いてくるよう言われ、元帥のセンゴクに会った。
そう安々と頭を下げていい立場じゃないはずなのにセンゴクは深々と私に頭を下げてきた。この人も人徳者として描かれていた通りの人だ。
ガープは私が海軍本部で鍛えてもらいたい旨を伝えセンゴクはそれを了承してくれた。海軍には入りたくないことを知ったセンゴクは少しがっかりしたような表情を見せたがすぐ普通の顔に戻り、『力の使い道を間違えるな』と語ってくれた。
ゼファーは映画の回想シーンに出てきた優しさを持った厳しい先生って感じだった。腕もちゃんと残っていて1年後の事件で悲惨な目に合うと思うと少し悲観してしまう。
訓練はゼファー“先生”のもと新兵たちの訓練と一緒にやった。悪魔の実の能力のおかげで身体能力が化け物じみているお陰で楽々こなせてしまっている。腕立て二千回とかトラック500週とか軽々とこなせてしまうこの体が少し怖くなってくるほどだ、組手も同期では相手にならないし教官である中尉クラスの将校でも一方的な戦いになってしまう。
これが技とかなしで能力の言わば無課金状態でこなせるんだからさすが
正直に言って海軍の訓練は剣術や火器の扱い方の訓練以外必要ない。今度、ガープ“さん”に覇気とか教えてもらおう。
そんな退屈な中でも気付かされることは多くあった。1番の気付きは諦めを知らず、一喜一憂し、前を向き続け、訓練を行う同期たちだ。なんと素晴らしいのだろうか。
友情・努力・勝利、ジャンプの三原則、世の中の男を熱くする言葉を体現しているようだ。彼らは生きる資格を持っている。