HELLVOYAGE〜地獄が航海する〜   作:結城朝晴

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05話 第二回奴隷解放大会①

 どうも、シャボンディ諸島のヒューマンショップを襲って店員を皆殺しにして奴隷を解放して天竜人を殴り飛ばした化け物です。

 

 赤い港(レッドポート)に逃げたんだが、流石に天竜人を殴り飛ばしたやつがマリージョアの目と鼻の先であるこの地にいるとは思わないだろう。では、天竜人()どもを懲らしめて哀れな奴隷達を解放しよう。

 

 かのフィッシャー・タイガーは素手でこの途方も無い崖を登りきったらしい。しかし、私は吸血鬼、体をコウモリに変化させて簡単に登らせて貰おう。

 

 赤土の絶壁を無数のコウモリが駆け上がっていく。コウモリの集団を見た赤い港(レッドポート)の住民たちは絶壁に描かれた世界政府のマークに第5の道が現れたように見えたという。

 

 雲を超え、赤い大地にたどり着いて最初に目に入ったのは広大な森と遠方に見える豪華な城“パンゲア城”だった。

 

 しっかしここからどうしようか。マリージョアの奴隷達がどこにいるのかもどこにどんな施設があるのかもわからないぞ。唯一分かるのは動く歩道の下に多くの奴隷がいるぐらいだが、四六時中あの場所にいるとは限らないしな。

 

 こんな時こそ吸血鬼の霧状化能力だろう。体を霧に変化させて広範囲を一切怪しまれずに探索することができる。そうなれば早速実行に移そう。

 

 体の末端から体が砂になるように霧に変わっていき、体全体が霧に成り代わる。修行のときもやったが、やっぱりこのコウモリ状態とはまた違った感覚になれることはないだろう。

 

 さぁ、第二回奴隷解放大会の開催だ

 

 

 

 

 

 

「今日は霧が濃いな」

 

「そうだな。こんなに霧が濃い日は今まで無かったんだじゃないか?」

 

 マリージョアの警備を行っている2人の衛兵は巡回ルートで日頃と違う霧の濃さを話題に暇をつぶしていた。

 パンゲア城ですら広大だというのにその周辺の天竜人の移住区と政府機関を警備するとなれば巡回ルートは長く、滅多に襲撃されることのないマリージョア警備は暇で仕方なかった。

 

 それでも、ただ暇って言うわけでもない。ルートを間違えたりすれば下手すれば天竜人に死刑を宣告される可能性もあるため、曲がる場所では必死に記憶に間違いがないか考えたりしてはいる。

 

「なぁ流石に濃すぎないか?」

 

「そうか?確かに太陽が見え辛くなってきたな。でも、このマリージョアもグランドラインを横断するようにあるんだから摩訶不思議な天候があっても普通じゃないか?」

 

「それもそうだが……」

 

 この時、映像電伝虫を使った監視は非常に濃い霧のせいで真っ白な画面しか映さない木偶の坊になっていた。

 監視室の監視官たちはこの状態にはお手上げで巡回に当たっている衛兵に警戒を怠らないよう連絡するしか対応ができなかった。

 

 建物の中にまで霧は侵入していたが外に比べて薄く、ミストサウナ程度の濃さだったため天竜人もなんとも思わず過ごしていた。騒いだところで自然現象をどうにかできる人間なんて

 

 なにか起こった場合、すぐさま警報がなりマリンフォードへ報告された後、海軍大将を中心とした即座に動かせる戦力が動員されるが霧が濃い以外、何かが起きているわけでも無いため定時連絡は

 

 

 

──異常なし──

 

 

 

 それだけだった。これはどの巡回グループでも駐屯地でも同じことだった。

 

 しかし、この霧がただの霧ではないことに気付くチャンスは十分にあった。霧状になっても彼女が悪魔の実の能力者であることには変わりはない。

 能力者の奴隷に付けられた海楼石の手錠や海楼石の牢には触れることができなかった。そのおかげでこの妙な霧は海楼石周りには近寄らず海楼石の牢の内部には霧が一切なかった。

 

 見聞色の覇気を使えばもっと簡単に確実に発見できただろうが、彼女の中にいるいくつもの魂がそれを錯乱させた。

 

 何も無い所に無数の気配を感じ取り気配のする場所に拳を叩き込んでもなにかに当たったりはしない。

 

 感覚が過敏になってると楽観視する者もいれば、謎の気配を駐屯地に報告しようとする者もいたが彼らは等しく霧に消え、使い魔として霧から現れていった。

 

 濃霧の中で人知れず、悲鳴を上げることも抵抗することも許されず吸血されたり狗に丸呑みにされていたのだ。血を吸われ彼女と命が同化してしまった彼らは使役され、何が起きても異常なしと答え開放された奴隷を保護する役割を持った彼女の手駒となった。

 

 命を同化させ、彼らの記憶でマリージョアの巡回ルート・駐屯人数・構造etc.色々知ることができた彼女は奴隷たちを縛る手錠の鍵を手に入れ衛兵たちに気付かれないで奴隷を解放していった。

 

 

 

 

 

 

 彼は何処からともなく現れた。

 

 赤い目に赤いコート、男か女かわからないがどちらにせよ整った顔、ひどく魅力的な人間だったが、同時に人間味を感じられず不気味にも感じられた。

 彼は俺たちの錠を外す鍵を持っていて、俺たちを開放してくれた。彼の正体が人間でなかったとしても俺たちは彼に一頻り感謝した。

 

 もうあんな生活は懲り懲りなんだ。これがもしも悪魔との契約だったとしてもここにいる仲間たち(奴隷たち)は喜んで悪魔の手を握ったことに後悔はないだろう。

 

 彼は牢にいた全員の手錠と首輪を外したら口を開いた。

 

「このあと赤い布を腕につけた衛兵がここに来る。外で大きな物音が聞こえ始めたら衛兵の指示に従ってこのマリージョアから脱出しなさい」

 

 彼の一言はこの屈辱的で死と隣り合わせの生活から逃げ出せる道を照らすのには十分なものだった。

 

 彼はまた現れたときのように霧のように消えていった。

 彼がいなくなってすぐ、赤い布を腕につけた衛兵が本当に来た。いつもなら憎たらしくて殺してやりたい衛兵だったが今日に関しては救いの手を差し伸べてくる天使のように見えた。

 

 彼がいなくなって30分もたった頃だろうか。外でなにかが倒壊したかのような大きい物音が地上につながる階段から駆け下りてきた。

 

 それが合図だったかのように衛兵は牢屋の鍵を開け外に出るよう促してくる。それに素直に従い衛兵に付いていけばなんともあっさりと地上に出れてしまった。

 

 地上にでたらそこはいつものマリージョアとは180度違う光景だった。各所で炎が上がり建物が崩れていってる。

 俺たちはこの変わり果てたマリージョアを必死に走った。ここで逃げそびれたら一生奴隷のままあの地獄の日々を送らないと行けないと思えば自然と足に力が入った。

 

 奴隷になった俺たちはそれまで持っていた他種族への差別意識はなくなっていた。同じ境遇に耐える仲間意識が生まれていったからだ。

 奴隷以前は巨人や魚人なんかを助けようとは思わなかったが、今は違う。みんながみんな助け合ってこの地獄から逃げようとしてる。

 

 例えば、足がヒレになってる人魚たちはシャボンなしでは地上で立つこともままならない。だから巨人が手に持ったり、人間が背負ったりしている。

 

 逃げている最中も後方から爆発音と銃声、砲撃音は止まらず激しい戦闘が起こっているのがよく分かる。彼は俺たちが逃げ切るまでああやって衛兵たちを足止めしてくれているんだろう。

 

 彼は第二のフィッシャー・タイガーだ。第二の奴隷解放の英雄なんだ。

 

 

 

 

 

 

「くたばれ!!化け物!」

 

 マリージョアを半壊させた私は多勢に無勢、徐々に衛兵たちに押されついに槍を心臓に突き刺された。

 

「化け物め!人間の力を思い知ったか!」

 

「我々の勝利だ!!!」

 

「「「おおおおおおおお!!!」」」

 

 勝利の雄叫びを上げ、化け物を仕留めた力を誇示する衛兵たち。

 更に追い打ちをかけるように私に槍を突き刺し、首を()ね頭と体を槍で持ち上げ晒す。

 

「勝利の味はどうだ?」

 

 その場にいた衛兵たちは即座に晒し首を見た。首を刎ねた時と同じにやけた顔だったが次の瞬間、頭も体も名状し難い状態になり殺したはずの化け物が目の前に立っている不可思議な状態となった。

 

「残念でした。君たちが必死に殺した相手は数ある私の命のたった1つに過ぎないんだよ。あと2538回殺せばこの化け物を完全に殺せるぞ?」

 

「なに、たった2500回程度だ。その人間の力で私を殺してみせろ()()。一度は諦めず死を乗り越えて見せたんだ素晴らしい()()たち。化け物はここだ!!ここにいるぞ!!さぁ来い!お楽しみはこれからだ!!早く(ハリー)!早く(ハリー)!早く(ハリー)!早く(ハリー)!早く(ハリー)!早く(ハリー)!!!」

 

 衛兵は絶望していた。何十人もの仲間を犠牲にやっとの思いで仕留めた相手が蘇ったどころか完全に殺すにはあの戦闘を果てしない回数行わないといけないとはもう立ち上がれる者はいなかった。

 

 あとはただの虐殺だった。人間が紙を破るように容易に引き裂かれ、バットのように振り回される。一瞬で文字通りボロ雑巾のされ、食い殺されたりする。

 

 逃げようものなら狗に襲われ食われ、挑もうものならボロ雑巾。死からは誰も逃れられなかった。

 

 戦闘とは言えない、一方的な虐殺。数分もすればその場にいた衛兵たちは皆死に殺すべき化け物の魂のストックの1つと変わり果てた。

 

「素晴らしい人間たちだった。この世界は人間で溢れている」

 

 私は歓喜した。目から血の涙を流すほど私は嬉しかった。この幸福感をずっと感じていたい。ずっと実感していたい。

 だが、することはある。

 

「五老星のところに向かうか」

 

 五老星、世界政府の最高権力者たち。彼らの決定には海軍の元帥ですら従う他なく、まさに世界の支配者とも言い換えれるかもしれない。

 

 霧はまだ広げっぱなしで彼らがどこにいるのかはすぐに分かった。

 

 霧を利用して彼らの前に姿を現せば、一瞬驚いたようにも見えたが堂々と待ち構えている。流石だ。

 

「君が侵入者か」

 

「そうだとも」

 

「奴隷解放が目的のようだが私達を殺しに来たか?」

 

「そんなことはしない。あなた方は良くも悪くもこの世界を維持してきた。私は世界政府を壊したいわけではないからな」

 

「ではなぜ我々の前に現れた」

 

「単刀直入に言おう。解放された奴隷たちを連れ戻すな」

 

「なに?」

 

「9年前、フィッシャー・タイガーのよる奴隷解放の時、あなた方世界政府は奴隷を天竜人の所有物として連れ戻していった。あなた方は解放された奴隷たちが連れ戻されたときの絶望がわかるか?自由を手に入れそれを奪われる絶望が」

 

「────断ったら?」

 

「なに簡単なことだ、マリージョアが崩壊を迎えるだけ。ただそれだけだ」

 

「分かった。要求を飲もう」

 

「話が早くて助かる。ではそろそろ私は去ろう」

 

「待てっ!君の名を教えなさい」

 

「クルシュ・ジルベールだ」

 

 来たとき同様、霧を使って前半の海側のボンドラ前に移動する。

 

 五老星の威圧でピリピリした会話になってしまったが、五老星への用事は無事完了したと考えていいだろう。彼らが故郷に帰った後でも政府からの刺客に怯えて暮らすなんて到底許すことはできなかった。

 

「では、次は第二回奴隷解放大会第二幕海軍との大合戦だな」

 

 彼女は不敵に笑いながらマリージョアから飛び降りた。

 

 

 




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