魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0010:訓練開始。

 馬車に乗って王都の門を抜けのどかな田園風景を眺めながら一路森を目指す。二時間ほどかけて整備された道を行き馬車を降り、そこから暫くは荒れた道を一時間ほど歩くそう。

 数日前に購入したナイフや鉈をぶら下げ、必要な荷物も纏めており今は幌付き馬車の私の足元に鎮座している。

 

 「のどかだねえ」

 

 春まきの麦の芽が小さく土から顔をだしており、辺りは一面緑一色。

 はるか遠い霞んでほとんど見えない先には、山脈が見え微かに雪を被っていた。

 

 「どこも代り映えのない景色だけどな」

 

 「王都や領都をでると、変わらないよね」

 

 私が住むアルバトロス王国は一大穀倉産地であり、生産が賄えない他国にも輸出するほどに余裕がある。

 王都は海からも遠いし、穀物類の生産が盛んなので畜産物や海産物が少なく、少々値が張る。狩りをすれば手に入るけれど、王都周辺だと狩場に気軽に行ける距離でもない。だから久方ぶりにお肉が食べられるかもと期待していた。

 

 とはいえ魔物と対峙する時以外は魔術の使用は禁止だし、無暗な乱獲も駄目と通達が出てる。一応、簡単な罠を作って持ってきてはいるものの、そう簡単に野生動物が捕まるかどうかは神のみぞ知る。

 

 「楽しくなるといいなあ」

 

 遠征で王都を出る以外は、基本教会と城と学院の往復だから、こういうことでもなければ外に出ない為に、気分はもうキャンプのそれである。学院の制服ではなく一般的な平民服を着こんで、馬車へと直接座り込んでいるから、余計に学院行事だと思えないのも助長しているのかもしれない。

 

 「偶には息抜きするのもいいかもな」

 

 「うん」

 

 訓練の内容は騎士科と魔術科がメインなので普通科と特進科はオマケのような存在。というか騎士と魔術師の護衛対象とでもいうべきだろうか。

 将来の為に森の中で護衛対象を守るというのが目的なのだろう。それでもルールは結構ざっくりとしていて、班分けは自由で一人でも複数人でも構わないし、学科やクラスを超えてチームを組んでもいいと。

 

 ならば幼馴染三人組が一緒になるのは当然で。馬車には他にも何人か乗り込んでいるのだけれど、見知らぬ人たちばかり。

 ジークとリンも知らないようなので魔術科か普通科所属の人なのだろう。何度か短い休憩を挟みながら、馬車は目的地へと辿り着く。荷物を持って馬車から降りて、一度荷物を下ろして片手で腰を抑えて背伸びした。整備されている道とはいえ防振機構がしっかりしていないので、身体に堪える。

 

 「ん~。流石にきつかった」

 

 身動きがあまり取れないし。ごぞごそすれば他の人にも迷惑が掛かるだろうと、じっとしていたのだから仕方ない。

 

 「だな」

 

 「だね」

 

 ジークとリンが平気そうなのは鍛えているからだろう。荷物を持ったままで私を見て苦笑いをしている。

 

 「――っ!」

 

 軍服に身を包んだ人がひとり、軍靴を鳴らしながらこちらへと近づいてくる。

 

 「待ってください、今日は学院行事なので……」

 

 見知った顔、というよりもその人との付き合いはもう五年になる。貧民街に私を探しに来た兵士の中の一人、というよりもその時の隊長さんだ。

 私の顔を知っているし、聖女として何度か一緒に魔物討伐に参加したので仲が良くなってたので、私の顔を視認した途端にこちらへと足を運んで、敬礼しようとしたので申し訳ないけれど止めたのだ。足先から頭まで視線を動かしていたので、今日は学生としての参加だと理解してくれたのだろう。ジークとリンも隊長さんに黙礼してた。

 

 「あーそっか……。スマン、理解した」

 

 とまあ身分の上下関係を取っ払えば親しみやすい人である。かなり年上みたいだけれど。

 以前、奥さまの産後の肥立ちが悪く、土下座する勢いで診てくれと頼まれたことがあるのが切っ掛けで、こうして言葉を交わすようになった。気さくな人で、軍の仲間の間でも人望があるようで、五年前よりも出世してる。隊長さんは後ろ手で頭を掻きながら、少し猫背ぎみになって視線を合わせ謝ってくれたのだった。

 

 「隊長さんはお仕事で?」

 

 話しかけてくるなというよりも、聖女として扱わないで欲しいというものなので気軽に声を掛ける。

 

 「ああ。毎年、軍も騎士団も学院からの依頼で駆り出されるんだが、今回は人数が多いうえに数は少ないが魔術師団からも人が来てやがる。――まあ、そういうこったろーなあ」

 

 だって今年は第二王子殿下を始めとした有名所が揃ってる。学院側も何か起きた時に責任を背負わなくてはならないから、軍や騎士団をいつもより多く借り受けるのは当然。

 しかも魔術師団まで出張ってきているとは。学院の気合の入りっぷりが違うなあと、隊長さんを見ていると一度息を吐いて、面倒そうな顔から真顔に戻る。

 

 「あの森ならばそうそう問題なんておこりはしないが……」

 

 「何かあるんです?」

 

 「うんにゃ。お貴族さまが多いからな、あの学院は。その手のことで毎年なにかしら俺たちが奔走しなきゃならなくなるんだよ……」

 

 凄く面倒そうに息を吐いた隊長さん。まあ色々とあるのだろう。騎士団も貴族出身の人が多いから、平民がやるような仕事はやりたくないと言っちゃう人も居るし。で、そのツケが軍の方にとくる訳か。そんなことをしていると騎士団は公爵さまの逆鱗に触れそうなものだけれど、今はまだ大丈夫な様子。

 

 「騎士団や魔術師団の方たちは?」

 

 「あいつらは森の入口で待機中だな。――先に行って安全を確かめるんだとよ」

 

 不機嫌そうな物言いなので、何か一悶着でもあったのだろう。森の安全が確保できるのは良いことだけれど、獲物が警戒して逃げてしまうので勘弁して欲しい。久しぶりの肉にありつけると思って、こっそりと鞄の中に塩と胡椒を忍び込ませているのに……。ちなみに塩は安価だけれど。

 

 「私たちは危なくならないのなら、それで」

 

 楽しく無事に二泊三日を超えられればいい。警備に入った大人の人たちの気苦労はしれないけれども。黄金世代と呼ばれる第二王子殿下以下、有名所の大物ぞろいだものね。女性が怪我をして、傷が残るなんてなった日には切腹――この国にそんな作法はないけれど――もの。そりゃ隊長さんも溜息がでるはずだ。

 

 「ま、お嬢ちゃんたちは気軽に野宿を楽しめばいいさ」

 

 隊長さんの気苦労は窺い知れるが、この二泊三日を無事に乗り越えたい。騎士科と魔術科の訓練を兼ねているということなので、倒すことが安易な魔物は出るのだろうから軽い怪我を負う人は出てくるかもなあ。

 軽い怪我ならば魔術科の生徒でも治せるだろうから大丈夫かなと考えていると、それじゃあなと軽く手を挙げて隊長さんは去っていった。

 

 ◇

 

 草木が生い茂る獣道を歩くこと約一時間。

 

 どうやら先に騎士団の人たちが道を作ってくれたようで、随分と歩きやすくなっていた。足踏みで潰された草花が倒れているし、邪魔になる木の枝も切り落としてくれている。

 せっかく鉈を買ったのに使う機会を失ったとぼやくと、ジークが『まだ機会はある』と慰めてくれたりと道中の会話が途切れることはない。いつも三人一緒だから、仮に話が途切れて無言だったとしても問題はないけれど。

 

 わいわいと騒がしく歩く生徒たちと無言で嫌そうに歩く生徒に別れているので、慣れている人と慣れていない人の差が如実に出ていた。お貴族さま――とくに位の高い人――は不機嫌で、近寄るなオーラが漂っているから、気を付けないとどんなことを言われるか分からない。

 

 「辺境伯令嬢たるもの、このくらいのことでヘコたれませんわっ! みなさまも最初からその調子ではこれからの三日間乗り切ることが出来ませんよっ!!」

 

 例外は居るけれど。

 

 高笑いしながら歩いて行く愉快な人であるが、周囲の人を鼓舞しているから悪い人ではないのだろう。成功しているかしていないかは別として、余裕があるのは良いことだし、みんなの上に立っているという自覚があるのだろう。

 

 「歩き辛いな……っち!」

 

 ソフィーアさまは慣れていないようで、珍しく舌打ちをしていた。

 

 「大丈夫か、アリス?」

 

 「僕たちの後を付いてきてくださいね」

 

 「ああ、歩き辛いだろうから少しでも均した所を歩いた方がいい」

 

 「魔術が使えればよかったのですが……」

 

 「禁止されたからねえ」

 

 魔術は戦闘時以外は禁止となっている為に、困っている人もいる模様。ただまたしてもヒロインちゃんと殿下方"色情戦隊アタマオハナバタケー"はくっついている。

 

 「みんな、ありがとう!!」

 

 嬉しそうに笑うヒロインちゃんは、最近また彼らとの距離を詰めてきた。私の助言は全くの無意味となってしまった。そして周りのご令嬢たちは冷ややかな視線を向けているし、婚約者――ソフィーアさまと辺境伯令嬢さまは、彼らに腐った魚のような目を向けるようになった。

 

 当事者ではないから、こうして心の中で余裕を持って考えることが出来る。彼ら彼女らの婚姻後が心配である。

 

 まさか白い結婚となってお貴族さまの義務はどうするつもりなのだろう。ヒロインちゃんが愛妾ポジに入って彼女に産んでもらっても、婚姻した片方の家の血は一滴も入っていない訳で。揉める原因になりそうなものだけれど、そうなったらどうするつもりなのか。その責任も取れないなら、ああいうことを人前でしない方が良いに決まってる。

 

 ……しかもハーレム状態だから、誰の子か分からないんだよ。

 

 科学的に検証できるような技術はこの国にないのだし。本当、なんというか幸せな人たちで、それを見せつけられている婚約者の人に同情を禁じ得ない。肉体関係がなくとも不貞行為だよなあ。そして大人たちが認める訳がないはずなのだけれど、若さゆえの過ちなのだろうか。

 

 最悪、国外追放や幽閉やら処刑となってしまうだろうに。

 

 「ナイ、あまり気にするな放っておけ」

 

 「私たちには関係ないよ」

 

 二人はそういうけれど、このとばっちりを受けるのは彼らの家かもしれないが、王国民も受けることになる。

 将来を担う重要なポジションへと配置されるだろうし、その人たちが不在になるのは不味い気がするのだけれども。まがりなりにも高い水準の教育を受けてきたのだから、勉強や仕事は優秀だろうに。

 

 「そう、なんだけれどねえ」

 

 そういう人が居なくなって一番被害を被るのは、彼らの下である平民だ。二人の言葉に苦笑いをしながら、ようやく森の入口へと辿り着くと物々しい雰囲気で騎士団と少数の魔術師団の人たちが待ち構えていた。

 

 「お待ちしておりました、殿下」

 

 一番装備の装飾が派手な人が外套を翻らせ地面に片膝をつき胸に片手を当て臣下の礼を取ると、それに倣って他の騎士団と魔術師団の人たちが一斉に礼をする。

 

 「ああ、よろしく頼む。――だが、この三日間は学院行事だ。あまり出張りすぎるなよ」

 

 こうしていると普通なのだなあと目を細めた。ただ殿下の後ろではヒロインちゃんが『カッコいいっ!』と喜色満面の笑みを浮かべ、他の四人は微妙な顔をしているけれども。

 

 「はっ!」

 

 膝を擦りながら少しだけ後ろへ下がった騎士は次にソフィーアさまの方へと向かっていった。どうやら挨拶回りをするらしい。

 

 「けっ!」

 

 いつのまにか遠巻きに眺めていた私の横にいた隊長さんが、わざとらしく声にして悪態をついていた。んー軍と騎士団ってそんなに仲が悪いのか。軍と騎士団の依頼で仕事をすることもあったし、実際に軍と騎士団と一緒に共闘している所も見たことあるのだけれども。

 

 「見られて困るのは隊長さんですよ?」

 

 片眉を上げて苦笑しながら隊長さんを見上げると、凄く不機嫌そうな顔をして。

 

 「いいんだよ。殿下に挨拶に行こうとしたら、さっきのいけ好かない野郎に俺らの責任者は止められたからな」

 

 「その責任者の方はお貴族さまなんです?」

 

 「貴族だが爵位が騎士爵なんだよ。良い人なのになあ、ああやって家格で舐められた行動を取られる」

 

 「そこは我慢すべき所なんでしょうね」

 

 「だがなあ……そうだがなあ……」

 

 「気持ちはわかります。――理不尽なことは沢山ありますから」

 

 本当に。お貴族さまの我が儘にはほとほと困る時がある。聖女として治癒に赴いたとき直面したことがあるのだから。まあでも、最初に隊長さんが言ったように私たちは野宿を目いっぱい楽しむだけだ。

 

 「暇なんです?」

 

 「うっせ!」

 

 横でまだうんうん唸っていた隊長さんをせっつくと、私の下を離れて部下に指示をだし始めたのだった。

 

 

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