魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0100:無茶振りくんの想い。

 直訴から一夜明け、聖女さまから迎えの馬車が寄越された。下宿先の枢機卿さまの屋敷で私は命を投げ捨てる覚悟で、彼に最後の挨拶をと目を合わせる。

 

 「枢機卿さま。――逝ってきます」

 

 「待て、アウグスト。聖女殿はお前にやって欲しいことがあると言っておった」

 

 「え?」

 

 「お前を枢機卿の座に就かせたい、と。もしお前がその座に就けたなら、教会の未来は明るくなる……私も微力ながら協力しようと考えておる」

 

 「そ、それは真でございますかっ!?」

 

 もし、その座に就けるというならば教会の不正を一掃し、教会の教えをもっと広く民へと教え導くことが出来る。

 枢機卿の五席の内の一席を務める彼と、竜使いの聖女さまの推薦があれば、難しくとも可能性はある。そして今の腐敗しきっている三席が空座となれば、可能性はもっと上がるはず!

 

 「ああ、本当だ。――ただ、その座に就けなければお前を新たな教義の主に据えると申しておった」

 

 「なっ! 聖女さまは我々と同じ教徒なのではないのですかっ!?」

 

 一体どういうことだ。新たな教義を教え広めるなど、かなり難易度が高い。

 アルバトロス王国内では私が信仰している教義が浸透しており、本山は聖王国の教会が務めている。しかし竜使いの聖女さまが、我々が信仰している教義を信じていないとは……。

 

 「それは分からん。聖女は教徒でなくともなれる」

 

 「そう……でしたか……」

 

 そうか、忘れていた。聖女は立場の弱い女性を助ける側面もある。魔力は誰にでも宿っており、資質さえあれば魔術を行使することが出来る。治癒魔術を使いこなす為には適性が必要だが、男よりも女性の方が適性者が多い。だからこそ、アルバトロス王国では聖女が役職として、教会に所属し活動報酬を得られるのだ。

 

 彼女は王都中に名を馳せており、民にも、軍や騎士団の方々の間でも『驕らず、身分に囚われず平等に治す』と聞いていたから、きっと熱心な教徒だろうとばかり……。

 

 「今回の事は、教会正常化の道に繋がる。――アウグストよ決して失礼のないようにな」

 

 「はい。――行ってまいります」

 

 枢機卿さまの屋敷の停車場で、馬車へと乗り込む。どうやら、聖女さまが通常使用されている馬車ではなく、子爵家で働く者が使用している馬車だろう。

 走り出した馬車の揺れは少なく、良いものを使っているのだと分かる。小窓から外を眺めようと顔を横へと向けるが、カーテンで隠されていた。外を見るなといいたいのか、私が乗っている所を見られたくないのか。

 

 がたりと車輪が止まる音が鳴って暫く、またゆっくりと動き出し、少しした後にゆっくりと止まった。

 

 「着きました、降りられよ」

 

 「――ここは……」

 

 御者の手により、私は馬車から降りた。目の前には立派な屋敷が建っており、庭も手入れが行き届いている。ふと、庭先で光る玉が見えた気がして、視線をそちらへと向けると、何もなかった。緊張の所為で、目が錯覚でもしたのだろう。

 

 「アルバトロス王国内における、治外法権域です」

 

 御者に私の小声が聞こえたのか、疑問に答え……てくれたのか。少々判断に困る返答だった。結局、ここは何処なのか。

 

 「よく参られました。ご案内いたしましょう」

 

 出迎えにきた騎士は、儀礼用の教会騎士服に身を纏ったジークフリート・ラウだった。『黒髪聖女の双璧』と呼ばれる一翼を担う、長身の男性。

 学院一年生だというのに成人男性よりも背が高い所為か、少々威圧感を感じる。だが彼の評判は悪くない。騎士として類まれなる強さを持ちながら、物腰の柔らかさと見目の良さで女性からの人気が絶大。ラウ男爵家の籍へ入った所為か、学院でも優良株の婚約者候補として注目されていた。

 

 玄関を通り、廊下を進む。

 

 また目の端に光の玉が映り、そちらへと視線を向けるが何も見えない。私を先導する騎士は、何も気づいていないようだ。とある部屋の前に案内役の騎士が立ち止まり、ノックを三度鳴らすと『どうぞ』とくぐもった声が聞こえた。

 

 「どうぞ、こちらです」

 

 「……っ」

 

 ごくりと息を飲む。この先に『竜使いの聖女さま』が私を待っていると思うと、心の音が激しくなる。竦む足に気合を入れて一歩踏み出せば、あとはもう進むだけ。

 

 「――……失礼致します」

 

 緊張から声が上手く出ず、少し遅れて声が出た。普段より声色が上がっていたかも知れない。

 

 「お呼び立てして申し訳ありません、アウグスト・カルヴァインさま。――どうぞ、お座りください」

 

 聖女の服を身に纏う件の彼女は椅子から立ち上がり、私を迎え入れる。噂通り幼き竜が彼女の左肩に乗り、顔を擦り付け幸せそうに甘えていた。言い伝えや物語では、恐ろしいと言われている竜を、ちっぽけな人間が手懐けている。

 そして彼女が身に纏っている聖女の衣装。他の聖女と変わらないものだというのに、やけに美しい。室内の灯りに反射して、キラキラと光っているのだから。かなり上質な布を使って仕立てたのだろう。噂では『亜人連合国からの贈り物』らしいが。 

 

 彼女の位置は上座だった。

 

 実力で子爵位を手に入れたのだから、何も文句はない。ただの男爵子息である私に敬意を払う必要などないというのに、丁重に扱ってくれる。

 

 私をこの部屋へと導いてくれたジークフリート・ラウと、彼の妹であるジークリンデ・ラウが聖女の後ろへ控える。素人の私にでも分かる業物の剣の鞘に左手を掛けて、いつでも貴様など切れるのだと威圧を放っていた。

 

 「私が貴女と対等に話を出来るなど、到底思えません」

 

 そうだ。私は彼女の実力と評判と後ろ盾を利用した卑怯者。床に両膝を突いて、座り込みこれで良いのですと彼女の顔を見上げた。

 

 「どうかお立ち下さい。教会の現状に憂う者として、貴方とは対等な立場でありたいと私は願います」

 

 そう言って私と視線を合わせ華奢な手を差し出し、微笑む彼女。

 

 「あ……!」

 

 手を取るべきか迷っている私の肩に、華奢な手をそっと置いた。

 

 「本来ならばアウグスト・カルヴァインさまと先にお話をすべきですが、事情が事情故、先に陛下や教会の枢機卿さまとお話を昨日の夜、済ませております」

 

 肩に置かれた彼女の手から伝わる温もりが心地いい。体温かと錯覚したが、どうやら魔力が伝わっているようだった。身体に満ちる彼女の魔力の心地よさに、何故だか万能感のようなものが心のどこかから湧いて出てくる。

 

 「さあ、お座りください」

 

 「はい」

 

 彼女の言葉に頷き椅子へと座る。そうして竜使いの聖女と呼ばれる、アルバトロス王国……いや、大陸中に名を馳せている少女との対話が始まるのだった。

 

 ◇

 

 この場は何処だろうと不思議に思い、部屋を見渡す。落ち着いた調度品の数々が、この部屋の静けさを余計に強調しているようだった。

 

 「まずは不躾にお呼び立てしたこと、真に申し訳ございません。ここは亜人連合国の方々に用意された屋敷となりますので、盗み聞き等の心配は必要ありません」

 

 なんと。この場は亜人連合国の屋敷というのか。人の気配がないことに訝しんでいたが……。貴族の屋敷でありながら侍従や侍女、下働きの者の姿を一つも見ないのだから。部屋には聖女さまの護衛二人と私だけしかいない。

 これは信頼の表れなのだと己惚れても良いのか。それとも亜人連合国側の方がいなくとも、私の命など直ぐに奪えるという自信の表れか。どちらにせよ、彼女と話す機会を頂けたのだ。恐れて、しり込みをしている場合ではない。

 

 「昨夜、枢機卿さまから教会は腐敗していると説明を頂きました。私も教会に身を置く立場。決して、見過ごせる状況ではないと判断いたしました」

 

 確りと私の目を見つめ、力強く言葉を口にする竜使いの聖女。小柄な体でありながら、年齢以上のものを感じ取る。

 彼女は討伐遠征で結果を出している聖女故に軍や騎士団での評価も高い。おそらく修羅場を潜ってきたのだろう。組織の腐敗など彼女には関係ないというのに、真剣な言葉で私に語り掛けてくれている。

 

 「で、では! 私や家族の願いは叶えられるのでしょうか!?」

 

 私の言葉を聞いてゆるゆると首を振る聖女さま。

 

 「それはどうでしょうか。仮に腐敗している方を一掃したとしても、時が経てばまた不正や腐敗に手を染める可能性があります」

 

 次は教会上層部だけではなくもっと酷くなる可能性もある、と彼女が神妙な顔をして言う。

 

 「……それは」

 

 「人間とは弱い生き物です。――貴方のように心を清く正しく保つことは難しいのです」

 

 私を見据える彼女の真っ黒い瞳の中へ吸い込まれそうな錯覚を起こす。

 

 「私は神の教えを忠実に守っているだけで――」

 

 決してそのようなことは、と言おうとすると聖女さまが言葉を被せた。

 

 「――それは貴方の意思の強さ故にですよ。誇るべきことでありましょう」

 

 「……っ!」

 

 そのように言われたことなど一度もなかった。私の周りには教えを忠実に守っている方ばかりで、それが当たり前だったのだから。そうすることが、当たり前だったのだから。

 

 「ありがとうございます……!」

 

 声が震えるのが分かる。彼女はただ微笑みを浮かべているだけで、私の弱さを見逃してくれている。

 

 「話がそれてしまいましたね。元へ戻しましょう」

 

 「はい!」

 

 ようやく、ようやくだ。ずっと憂いていた教会内部へ手を入れることが出来る。

 

 「現状を変えるには痛みが必要となりましょう。教会の神父さまやシスター方も現状を正しく認識しておられるというのに、見て見ぬふりを続けて参りました」

 

 それが腐敗を助長させたのだ、と彼女。

 

 確かに我々がもっと大きな声を上げ、国へ陳情していれば何か変わっていたのかもしれない。国が動いてくれぬなら、聖王国へと陳情しても良かったのだ。嗚呼、彼女の言う通りだ。私たちは結局現状に甘んじて見て見ぬふりをしていた、愚か者に過ぎなかったのだ。

 

 「ただ、今回の件は良い機会でありましょう」

 

 私があの手帳を拾ったのは神の導きであったのだろうと、彼女が言った。教会信徒ではないようだが、神父さまやシスターたちから教えを受けていたのだろう。

 

 「王都の民の皆さまにも、教会の悪い噂は広がっております」

 

 嗚呼、そうだ。王都どころか地方にまで広まってしまっている。王都の教会では教会系貴族が私腹を肥やし、贅沢をしていると。しかも贅沢の原因が聖女さま方が教会を信頼して預けていたお金に手を付けるとは、許し難い事実。

 

 「わたくしも将来、夫婦ともに働く方々の為、子供を預ける事業を起こしてみようと邁進していたのですが……」

 

 今回の件で夢が潰えてしまいました、と目を伏せる彼女の姿が痛々しい。嗚呼、この方はなんとお優しい方なのだ。

 彼女は聖女ではなく聖母と呼ばれても差支えのない人物ではなかろうか。

 

 「他の聖女さま方も預けていたお金を着服され、きっと返金は期待できないでしょう。失意に沈む聖女さまが一体何人いらっしゃるのか……」

 

 わたくしも気を失う寸前でしたが、陛下方の執り成しで既の所で止まりましたと、彼女は苦笑いを浮かべた。

 

 「倒れた聖女さまが沢山いるとあれば、王都のみなさまも黙ってはいられないでしょう」

 

 「それは……あまり言ってはなりませんが、王都の民が動くとは到底思えません」

 

 何かあったとしても、見ているだけが関の山だろう。不平や不満があったとしても、我慢する傾向が強い。現状を嘆いてはいるが、行動に出るとなれば何かきっかけが必要……まさかっ!

 

 「聖女さまが民を扇動なさるのですかっ!?」

 

 驚いた。しかし、最善の手であるように思える。竜使いの聖女と民から噂される彼女の言葉であれば、きっと彼らは動いてくれるだろう。教会へと乗り込み、不正の証拠を更に掴む。出来れば腐敗した貴族も捕まえられれば一番良いが、逃げられぬ証拠を王国に提出すれば騒動も鑑みて動いてくれる。

 

 「いえ」

 

 「なっ! では、誰がっ!!」

 

 そうだ。目の前の彼女以外に誰が適任だというのだ。彼女しか居ない。『竜使いの聖女』と呼ばれ『黒髪聖女の双璧』と呼ばれる護衛騎士を侍らせているのだ。こうも役者として完璧な人物は居ないと思うのだが、目の前の彼女には他に適任者が居ると言っているようでならない。

 

 「アウグスト・カルヴァインさま。貴方にその役を背負って頂きたく存じます」

 

 「わ、私がですかっ!? 私のような取るに足らない男に何が出来るというのですっ!!」

 

 がばりと椅子から立ち上がるが、彼女は微動だにしない。

 

 「己が命を天秤に掛け、わたくしに直訴をなさったでしょう。そしてわたくしと一緒に糾弾して欲しいとも願いました」

 

 ですから共に協力して、教会の腐敗している膿を全て出し切りましょう、と微笑む聖女さま。まさか私に王都の民を扇動して教会へ突っ込めと言われるとは。

 ただ、目の前の彼女は漠然と物事を言っているようには見えない。勝算があり成功の確率が高いからこそ、こうして動き共に敵を打とうと告げているのだ。

 

 ――さあ、お覚悟を。

 

 と、生まれたばかりの我が子を見つめる母のような視線を向け、彼女は私に迫るのだった。

 

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