魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
どうにか彼を誘導できただろうか。かなり神妙な顔をしているけれど、腹を括ってもらわねば困る。不安を抱える民を上手く誘導して、教会まで突撃をかまさなきゃならないし。
「教会へ突入となった際には、わたくしの護衛騎士に貴方の背中を守って頂きます」
「な、何故そこまで……」
そこまでして無茶振りくんを守る理由を問うているのだろう。
彼を守ると言うよりも、竜使いの聖女が倒れ専属護衛騎士が、それに対して教会に不満を抱いているという演出だ。ジークとリンにも『黒髪聖女の双璧』と二つ名が付いているのだから、真実味を持たせるのに丁度いいし、民の背を押す役にもなってくれるだろう。
裏を話せば、無茶振りくんの監視役だ。尻込みすれば、剣を彼の首元へ突き付けてでも前に進ませるしかあるまい。暴動を起こさせ教会へ突入時に二人には王都の皆さまへ『殺さず捕らえよ!』と叫んでもらう予定でもある。
血の気が上がるとなにするかわからないので、抑止がないと危ない。無茶振りくんが同じ言葉を叫ぶよりも、効果はありそうだ。なにせ黒髪聖女の双璧である。
これでも歯止めが利かないとなれば『聖女さまは、そのようなことを望まれておられない』と悲痛な顔を浮かべながら適当に吹かせばいい。ジークなら機転が回るので、順守事項を決めて後は自由にしていいと伝えておけば良いように立ち回ってくれるはず。
「貴方を失う訳にはなりません。教会の不正を一掃した後、立て直しに尽力出来る方が一人でも多く必要となりましょう」
無茶振りくんにはその中の主柱になってもらわねば。一応、熱心な信徒さまらしいし、教義やらに詳しいだろうから神父さまか司祭さまにでもなって経験を積んだ後、枢機卿の座に就くといい。
私が教会の立て直しに関わるのは面倒だ。全権を無茶振りくんに委ねると言えば、暴動騒ぎに加担した人たちは納得してくれるはずだし。言うことを聞いてくれないなら、脅すしかあるまい。
「痛みを伴う改革となります。空いた穴を埋めるには、優秀な方でなければ」
王都の学院に通えるのだから、無能ということはあるまい。成績、それなりみたいだし。
「はい。私のような者に大役が務まるかどうか分かりませんが、誠心誠意努めさせて頂きます」
「誰でも最初は苦心するでしょう。その為の先達がいらっしゃいます。確りと彼らの声に耳を傾けていれば、結果は自ずと出ましょう」
教会の神父さまやシスターたちは良い人である。孤児の私に偏見なく接してくれたし、魔術も教えてくれた。孤児仲間も彼らにはお世話になっているから、彼らの寄る辺である、教会を潰す訳にはいかない。ただし、他人のお金を掠め取った連中には容赦しないけど。
「共に教会を腐敗させた悪魔を討ちましょう」
神の教えを破っているのだから、腐敗した教会貴族の呼び方なんて悪魔で十分。
「はいっ!」
無茶振りくんが頷いてくれなければ、隣の部屋から亜人連合国の代表さまとエルフのお姉さんズが出てきて、彼を脅す予定だった。
まあ、納得してくれたようだから問題はあるまい。エルフのお姉さんズは『面白くない~』『あら、残念』とか後で言われそうだけれど。
彼女たちもエンタメには飢えているようで、これから私が起こすことを話すとウッキウキ状態で話を聞いてくれたから。現場中継用の魔法具を用意するから、誰かに身につけて欲しいと頼まれたくらいだし。
妖精さんたちも面白いことが大好きなのか、今回の件に関してやけに協力的。対価に魔力を要求されたけれど、勝手に私のお金を取るより随分と可愛らしいお願いだ。あと魔力ってタダだから、吸い取りすぎること以外は何の問題もなく。魔力が欲しい時は『ちょーだい』とか『いい?』と、事前に聞いてくれるし。
アクロアイトさまが勝手に食べている魔力と、妖精さんたちがおねだりしてくる魔力に、王城の魔力陣への補填……私、どんだけ魔力量を備えているのだろうか。副団長さまとエルフのお姉さんズ合作の魔術具が、魔力の総量を上げているのならば良いけれど。
ちょっと回復が遅いので、エルフと妖精さんたちの合作の反物で作ったストールを身に着けていたりする。ぶっ倒れるよりマシだから、仕方ない。逃げられないように証拠を掴んでおくのも大事だから。
「本日はここまでと致しましょう。――詳しいことは後日ご連絡を差し上げます」
連絡があるまではいつもの生活を続けて下さいと付け加える。真面目な人が学院を急に休んだりすると、怪しまれそう。
ただ私に直訴をしたから、無茶振りくんは学院内では有名人となるだろう。こっそり護衛がついているので命の心配はないだろうし、口は堅そうだから心配は必要なさそうだけれど、追加で脅しを入れておいた方が良さげである。
『やるの?』
『やる?』
私の気配を読んだのか、妖精さんたちのきゃっきゃとしている声が聞こえる。どうやらこの状況を楽しんでいるみたい。無茶振りくんと話している間、ずっとこの部屋の中を飛んでたものなあ。
彼の目の前を通り見えていないことを良いことに、くるくる回って再び目の前で止まり舌を出して遊んでた。その行為を見た他の妖精さんがきゃっきゃ笑って、楽しそうだったものなあ。だったら期待に応えるしかあるまいて。
「今回の件はアルバトロス王国の教会だけではなく、聖王国の教会すら揺らぐ可能性もあります。――ご自身の行動には、くれぐれもお気を付けを」
そう言い切ると妖精さんが私の後ろでぺかーと光った。何の意味があるのかは分からないが、妖精さんたちなりのお遊びなのだろう。すると突然、遠雷の音。
まさか自然現象にまで介入したのだろうか。びくりと肩を震わせた無茶振りくんは、こくこくと何度も頷く。私は言葉を口にしただけで、他の現象は妖精さんたちの可愛いいたずらである。勘違いしないようにと言いたくなるが、演出としては丁度良いから黙っておこう。
「ジークフリード。彼を送ってあげて下さい」
後ろに控えているジークを見て声を掛ける。ずっと愛称で呼んでいたので、そう呼ぶのはかなり久方ぶり。苦笑いしそうになるけれど、我慢しないと。せっかく無茶振りくんを説得できたのだから、このまま家に戻って考える余地を与えないままで居させたい。
「承りました」
私の後ろから前へと進み無茶振りくんの下へと歩くジーク。
「――では、こちらへ」
「はい。それでは、失礼致します聖女さま」
そう言って無茶振りくんは部屋の外へと出て行き扉が閉まる寸前、アクロアイトさまが割と大きい鳴き声を一つ上げた。扉が閉まった後で珍しいこともあるものだと、私の肩の上に乗っているアクロアイトさまを抱き寄せると、手近な所に頭を擦り付けてる。
何だったのかと首を捻っていると、ジークと無茶振りくんが出て行った扉とは別の場所から、代表さまたちが顔を出すのだった。
◇
部屋に現れた代表さまとエルフのお姉さんズ。今回、無茶振りくんとの話し合いの場所を提供してくれたのは、いわずもがなこの三人。
「上手くいったのか?」
流石に着席のままは失礼なので、立ち上がり軽く目礼。代表さまは微笑んで手で座れという合図を送ってくれた。なら遠慮なく座るかと、先ほどまで座っていた椅子に腰かけた。
「上手くいったかは分かりませんが、彼はもう動くしかないでしょうね」
民を扇動した見返りには『枢機卿』の座を提示してあるのだ。目の前にニンジンを吊り下げられている馬の如く、必死に走るしかない。噂が広がるまでは時間が掛かるし、民が動いてくれるかも不確定であるが。そうならなければ『王都を灰燼に帰す』と脅して貰うけど。
「意外だね~」
「そうね。貴女がこんな手段を選ぶだなんて」
苦笑いを浮かべてお姉さんズがこちらを見て、適当な場所へと座った。
「そうですか?」
今までは起きたことは、教会に所属している聖女として仕方ないと、文句を言いつつ割り切ってはいたが、今回は見逃せないというか許せない事態である。
「ええ。――けれど、面白いことは大好きよ」
「ね。こんなこと中々思いつかないと思う」
そうかなあ。案外、簡単に考えられると思うけれど。教会の腐敗はある程度噂になっていたし、そこにセンセーショナルな話題が追加されただけ。あとは上手く誘導すればイケると踏んだだけ。ただ、自分の名声を利用した形だし、これまでの結果が揃っていなければ無理だし。
「褒められた手法ではありませんが、効果は覿面かと」
『でしょうね。可愛い顔をして凄い事を考えるわね、貴女』
突然現れて話に加わる妖精さん、もといお
だからお婆さまとみんなから親しみを込めて呼ばれているとか。本人も気にしていないようで、通称を呼ばれると『何?』と返してくれる。
「今の立場があるからですよ。亜人連合国の方たちとの繋がりがなければ泣き寝入りしていました」
数か月前の私ならば、確実に泣き寝入りだ。王家に公爵家と辺境伯家、そして亜人連合国という後ろ盾があるからこそ、こうして無茶が出来る。
王国側は私の無茶を止めたかっただろうけど、教会の腐敗を正す良い機会だから見逃してくれている状態。本当に凄いタイミングで発覚したものである。
『それはないわ~。貴女は結果を出して、私たちとの繋がりを持った。だから貴女が泣き寝入りしていれば、代表たちがこの国を脅していたわね』
私の肩に乗っているアクロアイトさまの背中にお婆さまが乗る。嫌がるかなと思ったけれど、じっとしているので気にしていないようだ。お婆さまには屋敷の廊下を無茶振りくんが歩く際に、不可思議現象として時折光って貰っていた。
素質がないと妖精さんは認識出来ないのだが、妖精さん側から『見て欲しい』と思われれば多少は視認することが可能だそうで。お屋敷の中も極力人払いをして頂き、緊張感を演出してもらったのだけれど、無茶振りくんは気付いてくれただろうか。
「勿論だ」
「そうね」
「だね~」
くつくつと笑いながら、お婆さまの言葉に同意するお三方。本気で王都を灰燼に帰しそうだから、冗談になっていない。恐らく、代表さま一人でも可能だろう。
ちなみにお婆さまも凄い方なのだ。妖精さんたちの長であり、かなりの時間を生きている。長く生きている所為か、他の妖精さんより凄く確り喋ることが出来ている。
『あ、そうそう。あいつらの隠し金庫を見つけたの! 場所はね――』
両腕を組んでふふんと自慢げな顔をし、アクロアイトさまの上から私の目の前へ飛んで移動したお婆さま。どうやら教会居住区の瞑想部屋には金庫が隠されているようで、結構な額がある模様。
「ありがとうございます。全て使い込まれていなくて良かった。――あ……」
『どうしたの?』
「いえ、ある程度の纏まった額が金庫にあるならば、私がお金を下ろした時に補填されないかな、と」
補填されると困ってしまうのだけれど。私が倒れて伏せる原因にならないから。
『ああ、貴女が預けている分は流石に補填できない額だったわよ。まあこちらの通貨事情に詳しくないから、簡単に教えてもらった情報からの目算だけれどね~』
お金が無くなった心配をしているのに、どうしてこんな矛盾している事を心配しなければならないのか。足りないなら、大丈夫か。明日の放課後、家宰さんと一緒に教会に赴く手筈となっている。
窓口役の神父さまが私がいきなりお金を全額下ろすことに驚いていたが、叙爵したしお金は屋敷で管理しますと伝えると納得してくれた。あとは神父さまや教会事務員の方が明日、倒れないかどうかが心配な所。倒れたら代理人を立てるだろうけれど、時間が掛かるとか言われると対策を取られそうだ。
『あとはね、あとはね~!』
随分と楽しそうにはしゃぎながら、部屋の中を縦横無尽に飛んでいるお婆さま。
『貴女を連れて聖王国の教会へ乗り込もうと画策していたわ。――貴女の凄さを知らしめて、向こうの枢機卿の連中を見返してやるんだって!』
面白い冗談よね~とお婆さま。人のお金を掠め取っていたのに、それ以外でも利用しようとしていたのか。聖王国の教会がどんな所かは知らないが、意味のある行為……アクロアイトさまを連れている時点で、凄いか……。まあ、とりあえず。
「そのお方が誰だか分かりますか?」
『一番偉そうにふんぞり返っていた人ねっ!』
恐らく都落ちしてきた枢機卿だろう。残りの二人はソイツが選んだと聞いた気がするし、小物扱いで良いだろう。というか私を使って聖王国の教会枢機卿を見返すと言っている時点でソイツも小物だが。うん、容赦はいらないねえとほくそ笑む。
「魔力、魔力が漏れてるよ~」
「駄々洩れね」
くすくすと笑っているエルフのお姉さんズ。代表さまが『聖王国へ乗り込むなら我らも協力するぞ』と言ってくれた。
「有難いですが、まずはアルバトロス王国の教会正常化を目指します」
お金を奪われた事にショックを受けて臥せったと噂を流し、裏で手を引く悪役だけれど。まあ、バレなきゃ良い。仮にバレたとしても、教会が潰れるだけなので問題はない。熱心な教徒の人たちには申し訳ないが、細々と運営すれば良いだけの話だから。
「そうか。我々に協力できることがあれば言ってくれ。無茶でなければ引き受けよう」
「お願いいたします」
肩の上から私の膝上に乗ったアクロアイトさまが、一鳴きし。
――翌日。
子爵邸のお隣で無茶振り君と話した次の日。学院では私への視線が刺さること刺さること。恐らく昨日の直訴の話が広がっているのだろう。お貴族さまは情報命の所があるから、噂の回りはかなり早い。
授業を受けて放課後になり、アリアさまとサロンで前回の傷を治したこと云々を伝え――本人は凄く喜んでいた――アリアさまも気になるならば、私が治癒魔術を施しますと伝え。
学院から帰るついでにお金を受け取ろうと教会に寄る。いつもより騒がしい教会事務所。きょろきょろとその様子を見渡しつつ、受付へと顔を出す。昨日申請しているので私の顔を見れば、訪問理由など明らかで。
「聖女さま…………」
凄く悲壮感を顔に称えた教会事務員さんがやって来た。それを見たアクロアイトさまは私の肩からジークの頭の上に移動した。空気を読み過ぎている。
「どうされました?」
お金早く渡してくれないかなあと、事務員さんに向き直る。
「……――使い込みが発覚いたしました。聖女さまが預けていたお金の半分も残っておりません」
視線を事務台に向け、目線を凄く動かしながら事務員さんがそう告げた。
「え?」
「大変、大変、申し訳ございませんっ!! 教会幹部が貴女のお金を使い込んでおりました!!!」
ダンと両手を事務台に突いて頭を下げる事務員さん。いや、ゲロるの早。理由を吐くのはもう少し渋ると予想していたのだけれど、どうしてこうも早いのか。
「なっ! 一体どういうことだっ!!」
「あり得ませんわね。――信頼や信用があるからこそ、聖女さま方は教会へお金を預けていたのでしょう!」
何も言えない私に代わって、ソフィーアさまとセレスティアさまが教会事務員へ詰め寄る。彼は確か平民出身だったから、公爵令嬢さまと辺境伯令嬢さまに詰め寄られて生きた心地がしないだろう。演技、二人共上手いな。
「そ、それは、そのっ……」
「……どうして……どうして、そのような事に…………」
口元を両手で抑え、小さく後ろへ一歩、二歩と下がる。さて、予定だとお婆さまが私に魔法を掛けてくれる手筈となっているが。
「……っ」
目の前が急に暗転して、私はその場へ直下に崩れ落ちるのだった。