魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.06.06投稿 1/2回目


0104:【後】聖女が臥せった。

 王城の一角、王族のみが立ち入りを許されている部屋で、国王陛下もとい甥と対面して座す。ここ二週間ほどは、人員を増やして王都の様子を監視している。

 

 『黒髪の聖女さまが、信じて預けていた教会上層部に金を横領され茫然自失となり臥せった』

 

 『彼女に付き従う竜が怒っているかもしれない』

 

 これが噂の主である。細かい物を上げればキリがないが、概ね統制されていると言って良い。なんで、こうも狙い通りに噂が流れるのか不思議だが、亜人連合国に協力を願い出ているからなあ。何が起こっても、嗚呼、彼らが助力したのかもしれないと考えれば合点がいくのが怖い。

 

 無茶振りを言ってのけたナイの所為で、教会へ向けられている矛先が王国へ転嫁されないか王国上層部の皆が肝を冷やしておるし、財務卿は『また税金が……』と頭を抱えておる。国の予算編成が随分と変わってきておるから仕方ないとはいえ、今の時代に財務卿の座に就いたことを嘆くしかあるまいな。財務卿の家は財務の仕事を生業としておるし。

 

「はあ……無茶を言いおって」

 

 本当に。何故あ奴はあんな極端なことを一瞬にして思いつくのだ。金を取られた気持ちは無論理解している。金の補填は横領した馬鹿どもから、領地や資産を没収した上に、聖王国の教会へ抗議と賠償を求めれば良い。

 亜人連合国の上層部からも『協力しよう』『毟り取りましょうか』『面白そうだね~』と言葉を頂いている。聖王国の教会から派遣されてきた枢機卿を捕えれば、彼の国へ乗り込む理由も出来よう。枢機卿が逃げてしまっても、乗り込む理由には十分だ。

 

 「叔父上、黒髪の聖女は本当に孤児だったのですか?」

 

 王都の貧民街で育ったとは思えん行動よのう。甥の疑問も尤もだ。

 

 「ああ、五年前まではな。それから教会で多少の教育を受けてはいたが」

 

 「学院の入試試験を次点で通る才覚持ち、というのはまだ分かります。ですが、噂で民を煽り扇動するなど、あのような子供が思いつくだなんて」

 

 ワシが家庭教師を用意したことを知っているのだろう。一流の講師をつけ、本人にやる気があればそれなりの所まで上り詰める。あとは才能だろうか。まさか次点の成績を叩き出すとは……と報告を聞いた時に驚いたものだが、こんなことを考えられるのだ。納得できよう。

 

 「貧民街で生きてきた下地があるからのう。馬鹿では生き残れんよ」

 

 子供とよく言われるが、幼いながら貧民街で大人に頼らず、過酷な状況で生き抜いてきた知恵と……あとは運か。

 

 「貧民街から生まれた傑物ですか」

 

 「だのう。――で、甥よ……どうするのだ?」

 

 このまま指を咥えているだけではなかろうと、甥を煽る。

 

 「彼女が倒れたことでリームへの聖女派遣は代役です。問題発言も逆手に取って協力体制を敷きます」

 

 リームの協力を得られたので代役の派遣は既に行われている。亜人連合国からも協力者が手を上げたので同行しておるが、もしやナイの奴は彼らに協力を願ったのだろうか。

 

 「ほう」

 

 「代役の聖女すら送らんぞと脅せば二つ返事でしたよ」

 

 「辺境伯領の大木を奪え、だったか。馬鹿を言いおったものよ。まあ、迂闊な第三王子のお陰であるが」

 

 ポロっと零してしまったリームの第三王子は政治に向いておらぬ。

 父王も本心だったのか、息子に発破を掛ける為だったのかは分からぬが、自爆している時点で息子の愚かさを見抜けなかったしのう。我が甥の第二王子も馬鹿であったが、本人の資質と教育の大事さを痛感させられる。

 

 辺境伯領の大木には亜人連合国から入れ代わり立ち代わりで竜がやってきており、無人になることはないそうだ。辺境伯もこの事態を危惧して、警備の人員を派遣するそうだ。盗まれる心配はそうそうない。

 

 第三王子にも影がつけられているし、留学中に問題行動さえ起こさなければ不問ということになった。

 

 「我が国と亜人連合国にリームが揃って聖王国の教会へ抗議をすれば、向こうも問題にするしかないでしょう。ついでに使い込まれた金の補填も兼ねて毟りとりましょう」

 

 「で、民の矛先が教会から国へ向いた場合はどうする?」

 

 その可能性は大いにある。教会の監視を怠ったと言われれば、返す言葉もない。

 

 「難しい問題です。黒髪の聖女が民を諫めてくれれば最善でしょうが……」

 

 「怒って我々のことなど全く気にしていないからな」

 

 考え出したことを実行するのみだといって

 

 「ええ。――どうして教会貴族共はあのような直ぐに露見してしまう馬鹿なことを……」

 

 はあと深い溜め息を吐く甥。魂まで抜け落ちそうだが、大丈夫であろうか。聖王国やリームを相手にするよりも、ナイと対峙する方が嫌だと少し前に零しておったからな。

 あ奴の後ろには亜人連合国が控えておるから、チラついて仕方ないらしい。甥よ、お前さんより自身の長子の方が、ナイの相手を長く務めなければならないのだから、それくらい我慢せい。

 

 「あ奴、金を貯め込む一方で使わなかったからのう。狙い目だったのだろうよ。金の引き出しが頻繁であれば、手も出し辛かっただろうに……」

 

 本当に。

 以前、もっと金を使えと諭すと、ギャンブルは聖女像が崩れるから駄目、暴飲暴食も太るし限界がある、服や宝石も興味ない、とか言い訳を並べていた。

 これなら適当に小さい領地貴族の爵位を与えて、運営でもさせて無理矢理にでも金を使わせれば良かったか。ナイの名声で与えた領地がとんでもなく発展しそうな予感がするが、きっと気の所為だ。

 

 「子爵となったので金の管理の心配はないでしょうが、まだ名を上げていきそうですね」

 

 「だろうなあ。そしてアルバトロスの名も一緒に上がっておることを忘れてはならんぞ」

 

 「勿論です、叔父上」

 

 彼女が居なくなった時を考えると頭が痛いですがと唸る甥。国を捨てるか、亡くなるか。アルバトロスがナイを失った時に受ける損失は大きいだろうな。

 

 「せめて、子を残してくれれば良いが……」

 

 「貴族としての婚姻を望むのは酷でしょうし、あまり取りたくはない手法です」

 

 町娘のような恋愛なぞ、ナイに望めるのか……。それならジークフリートに頼み込んで、爵位をさらに上にあげて婿入りが順当な気がするが。ヴァンディリアの第四王子は論外だ。彼の国との繋がりが出来ても、面倒事が転がり込むだけであろう。――まあ、兎にも角にも。

 

 「機を見計らい、上手く王家へ不満が向かぬように仕向けるしかないな」

 

 救いはナイが我々に不満を向けていない所である。こちらにまで向けば、もう諦めるしかあるまいて。さて、そろそろ亜人連合国から竜が王都へ飛んでくるころだなと、窓へと視線を向けるのだった。

 

 ◇

 

 ――王都に雨が降る。

 

 今日は学院が休みで、ゆっくり子爵邸で侍女としての仕事が出来る。我が主のナイは臥せっていることになっているので、主室に籠り切りだ。そんな彼女を心配してか、ひっきりなしに貴族共から見舞いの手紙が届いていた。私とセレスティアで大量の手紙を仕分けていたのだが、何分量が多い。手を止めて、対面に座るセレスティアの顔を見た。

 

 「少し休憩するか」

 

 「ですわね。――しかし、すり寄る貴族が多いこと」

 

 他国からもいろいろと彼女宛てに届いていると聞いた。城で外務卿を始めとした方たちが、目を通しているとか。有用な話ならナイに渡るし、なければ無かったことにされているそうだ。

 

 「仕方ない、で済ませれば良いのだがな。ナイに貴族の繋がりは皆無だから、楽ではある」

 

 これで親の代から繋がりや縁があるとなれば、仕分け作業がもっと複雑になっていた。貴族の後ろ盾は公爵家と辺境伯家だし、仮に二家の寄子がすり寄るならば警告を一度し、二度目があれば寄り親寄り子の縁を切る。全く関りのない他家からであれば、念の為に内容を確認した後に廃棄。

 

 ほぼ全ての手紙が体調の心配。時折、体調のお伺いの後に夜会の出席や婚約話が紛れ込んでいるので、そういう場合は直ぐに切り捨てる。治癒依頼ならば、少々考える為に保留に分ける。

 勿論、そんな馬鹿な手紙を送ってきた連中は記録として残し、また絡んできた際にはチクチクと嫌味を記した手紙を送る予定である。直接の接触であれば首が飛ぶので、怖くて出来ないらしい。

 

 私も彼女と学院で出会っていなければ、どうにか接触方法を考えていただろう。

 

 「どうしました、ソフィーアさん。珍しいですわね貴女がそんな顔をするだなんて」

 

 「ん、ああ。ナイと学院で出会っていなければ、今頃はこの手紙を送ってきた連中のように、必死になっていたと思うとおかしくてな」

 

 飛ぶ鳥を落とす勢いで名声を上げている彼女と接触を図るには、カルヴァイン男爵子息のような無茶をしなければ直接会う事すら出来ないだろう。学院内でも話しかけることは難しい。勿論、ナイから話し掛けることがあれば可能だが、知り合いは二学期に普通科に編入してきたアリア嬢くらいだそうだ。

 アリア嬢は貴族としてより、聖女という職に就いているからこその学院編入。彼女の実家も調べてみたが、鳴かず飛ばずの男爵家で困窮するギリギリの所。何かをしたくとも手も首も回らない状態だ。影響力が弱すぎるので、アリア嬢がナイに近づいても問題ないと協議された。

 

 「確かに。わたくしたちは運が良かったのでしょう」

 

 「だな。――茶を用意させよう」

 

 使用人を呼ぶ鈴を鳴らそうと立ち上がる。昼過ぎから降り出した雨は止むことはなく。夜まで降りそうだなと、窓の外を見ると、ふと子爵邸の正門に人影があるのを確認した。

 誰だ、あんな所に佇む馬鹿は。雨の中警備を担っている軍や騎士団の連中に迷惑が掛かるだろうと、目を細める。注視していると目が慣れてきたのか、ヴァンディリア王国の第四王子殿下と分かった。

 

 「――……なあ。なんだアレは?」

 

 本人に聞こえないこと、咎める人間が居ないことを理解した上で口にした。セレスティアに向き直り顎で外を指すと、彼女も窓へと視線を向けた。

 

 「……。何をなさっているのでしょうね、あのお方は」

 

 窓の外を確認できたのだろう。セレスティアが言い終わった後、ありありと深い溜め息を吐く。

 

 門の横に立ち雨に降られているが、そんなことをして一体何の意味があるというのか。手には大きな花束を持っているが、雨に濡れ駄目になるだろうに。彼の護衛役も大変だな。友好国とはいえ他国だ。

 気を抜けない状態だろうに、こんな無茶な形で護衛を務めなければならないとは。彼の護衛に同情が湧けども、彼に対しては少しも同情など湧いてこない。そもそもナイ相手に意味のある行為だろうか。

 

 貴族の夢見る令嬢たちにならば効果はありそうだ。両親に認められていないが、それでも雨の中で自身に会おうと尽力してくれる優しい男、といった所か。ナイに報告を上げれば怪訝な顔をして『気持ち悪い』と切り捨てられそうだ。

 

 「どうします?」

 

 向こうから見られないように窓の両端に立つ私とセレスティア。

 

 「どうするか……見てしまったからな」

 

 とはいえ敷地の中へと招くのも憚られる。何時から立っていたのかは知らないが、報告が来ないことを見るにそう時間は経っていないのだろう。門柱で番をしている者は声掛けはしたが、やんわりと断られて動くに動けないといった状況か。

 

 「これを見るとリームの第三王子殿下の方がマシに思えますわね」

 

 セレスティアが私に一通の手紙を渡してくる。どうやら中を見ろということらしい。そうして開いた手紙には、リーム王国第三王子の直筆だろう。

 内容はナイが臥せりリーム王国へ赴けないのは残念であるが、代わりの聖女を派遣されることになったこと。亜人連合国からも知識がある方が同道すること。それはナイが彼の国へ相談したからこその結果で有難い、と。そして最後に『早く元気を取り戻して、再会を願う』と書かれていたのだった。

 

 「で、これか」

 

 手紙の中には栞が挟まれており、ご丁寧に押し花で装飾されていた。第三王子手づからかどうかは知らんが、ナイは暇さえあれば本を読んでいることが多い。昼休みの時間も中庭で本を読んだりしていたから、どこかで情報を得たのだろう。

 

 「ええ。あのような臭いのキツそうな花束よりは、こちらの方が配慮されていますわね」

 

 これくらいならばナイに渡しても問題はないか。格下の国とは言え王族を蔑ろには出来んし、手紙が届いていることくらいは知っておかなければ。

 

 「評価が厳しいな」

 

 「わたくし、あのような手合いは苦手です」

 

 「私も同意見だがな」

 

 どうやら気が合うらしい。さて、このまま放置する訳にはいかないなと息を深く吐いて、護衛を連れて外に出るかと意を固めた直ぐ、ノックの音が部屋に響いた。この音は何か知らせたいことがあるという合図だ。

 

 「どうぞ」

 

 少し待つとゆっくりと扉が開き、教会騎士の服を纏ったジークリンデが部屋の外に立っていた。

 

 「失礼します」

 

 「ジークリンデ、どうした?」

 

 数歩進んで、入口付近で止まった彼女に声を掛ける。

 

 「ナイが、もう直ぐ空に竜が飛ぶけど驚かないで下さい、と」

 

 口数が少ない彼女だから、報告が端的になるのは仕方ない。

 

 「そうか、分かった。あまり無茶はするなと伝えておいてくれ」

 

 「はい」

 

 敬礼をして部屋を去るジークリンデは、ナイが居る主室へそそくさと戻ったのだろう。最近、一緒に過ごす時間が減っているから、彼女にとって学院の休みはナイと一緒に居る口実が出来るので嬉しいらしい。

 

 「ソフィーアさん、休憩を長めに取りませんか?」

 

 「お前なあ……」

 

 これから第四王子の相手をしなければならない私のことを考えてくれと、愚痴を零したくなるが押しとどまった。顔を輝かせて窓の外を見ようとするセレスティア。竜の事となると、他の事に目もくれないからどうにかして欲しい。

 

 王都に降る雨が先ほどよりも強くなり、遠雷が鳴り始めた。まさかコレもナイの仕業なのだろうか。そうして暫くすると、王都の空には巨大な竜が空を舞っている。

 

 『――……許せぬ』

 

 耳に届くのではなく、頭の中に直接響く声だった。

 

 『許せぬ』

 

 そうして一層大きな雷が王都の外へと落ちた。

 

 『聖女のモノを奪った奴らを許せん。――見ているだけの貴様らも奴らと同じか?』

 

 聖女に傷を癒して貰ったのだろう。病気を治して貰ったのだろう。この期に及んで受けた恩を返さぬとはどういうことだ、と我々に問いかけている。思いっきり誘導させていると、主室の方を見てしまった。

 

 『王都を灰燼に帰されたくなくば……分かるな、人間共よ』

 

 そう言い残してあっさりと竜は王都の空から消えていくのだった。なあ、ナイ……、恐怖を煽り過ぎじゃないかな。もう少し手心があっても良かったのではと窓の外を見ると、第四王子の姿は消えているのだった。

 

 

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