魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0106:陛下と聖女。

 手始めに居住棟の窓から我々を見下ろしていた、枢機卿を捕まえた。

 

 「離せ! 私は枢機卿だぞ! こんなことをして許されると思っているのか!!」

 

 彼の言葉に答える者は誰も居ない。王都の皆は手を出そうとしないのも不思議である。

 

 ここまでは聖女さまが仰った通りに事が進んでいる。まさか本当に竜で王都の民を脅すとは……。しかも見て見ぬフリをするなら、腐敗した教会貴族と同じだと言っておられた。聖女さまが仰ったのか、竜が彼女への忠誠心故にそう言ったのか。

 事実は分からないが、ともかくここまで辿り着いたのだ。腐敗している枢機卿三席のうち一席を担う人物を捕縛することが出来たが、残りの二席を担う者はどこにも見当たらない。居住棟に居ないのならば、教会上層部の方々が利用する棟に居るだろうと、ジークフリード殿に向かって頂いたが、まだ彼はこちらへ戻る気配はない。

 

 がたんと大きな音が鳴りそちらに目をやると、大きな扉が真っ二つになっていた。

 

 「あの……ジークリンデ殿?」

 

 随分と立派な剣を、鞘に納める姿がやけに綺麗だった。

 

 「何?」

 

 扉を真っ二つに切った、黒髪聖女の双璧と呼ばれる片割れの女性に声を掛けると、こちらを見もせず返事をくれた。名前は道すがら教えて頂いた。

 先程から彼女は手あたり次第に扉を切っていた。その後に王都の民が部屋へ入って、不正や横領の証拠がないかと調べている。関係ない者には手を出さず、数名で見張って欲しいと伝えている。キチンと私が言ったことを守ってくれることに、喜びを隠せない。

 

 「も、もうよろしいのでは……」

 

 枢機卿の一名は捕らえたのだ。残りの二人の行方は分かっていないが、捕まえた枢機卿から聞き取りをすれば、手掛かりは掴めるだろう。居住棟なので、関係のない人たちも居る。あまり手荒な真似はしたくはないし、聖女さまのイメージにも関わる気がするのだが、大丈夫だろうか。

 

 「まだ。――金庫が見つかっていない」

 

 「金庫、ですか?」

 

 金庫とは、と一瞬考えたが金庫は金庫である。恐らく中にはお金が入っているのだろう。ただ金庫の扉が簡単に開くとは思わないが、開錠を専門にして商売をしている者がいると聞いたことがある。見つければ、新たな証拠となるのだろう。ならば彼女が必死になっているのも理解できる。

 

 「うん。お金、隠してる」

 

 「金庫ですのでお金はありましょう。しかし手あたり次第に探しても、ここに住む無関係の者に迷惑が掛かります」

 

 そろそろ止めておいた方がと遠回しに伝える。ずかずかと歩いて、また扉を切る彼女。

 

 「悪い事、見逃してた。――だから、同じ」

 

 切り終えて私に向きなおってじっと視線を合わせている。

 

 「分かっていたとしても、家格や地位で言えぬこともありましょう」

 

 そうだ。就いた地位で言えぬことや我慢しなければならないこともある。教会上層部どころかトップに立つ五人のうちの三人が悪事に加担していれば、見て見ぬフリをしなければならない人も出てくるだろうに。

 

 「そうだね。でも今なら関係ない」

 

 確かにここまで来れば関係ないが……誰かの迷惑になるのは良くないのでは。しかし体を張って彼女を止めないのだから、私も同類なのだろう。止めるのを諦め、ジークフリード殿は枢機卿残りの二名を捕えただろうかと足を向ける。

 

 「ジークフリード殿、見つかりましたか?」

 

 背の高い赤毛の少年をようやくみつけて声を掛けると、私へと向き直る。

 

 「いえ。残念ながら……しかし、コレを見つけることが出来ました、カルヴァイン殿」

 

 双子の妹よりも随分と丁寧な言葉遣いだった。私よりも随分と背が高く、少し屈んでいるのが気にはなるが。部屋に隠していたのか、本棚の本を入れ替えると仕掛けが発動するようで、よく分かったものだと感心する。

 

 「金庫ですね。――中は一体」

 

 「中を確認するのは後で良いでしょう。今は教会関係者を捕えるか逃げないよう見張りを付けることの方が先決です」

 

 彼はこちらへと足を向けて随分と教会関係者を捕縛している。無実だと訴える者は、同じ部屋に隔離して身動きが取れないように見張りを立てていた。我々が勝手に裁けば私刑となってしまうので、捕らえた彼ら彼女らは後ほど国へ引き渡す予定だ。

 軍や騎士団の方々には申し訳ないが、教会正常化の為に動いて貰わねば困るのは我々だ。聖女さまに付き従う竜たちも納得しないから、手を抜くようなことはしないだろう。

 

 そうして殆どの教会関係者の身柄を捕えたが、枢機卿二名の姿はこの中になかった。教会関係者の方々に暴行を加えることもなく終わったのは、本当に奇跡である。王都の皆が暴徒と化すことも考えていたが、理性があったようでなによりだ。

 

 「他の枢機卿さまには、逃げられたのでしょうか」

 

 「恐らくは」

 

 雨の降る中、ジークフリード殿に声を掛ける。彼は聖女さまに一番近しい立場だろう。いろいろと聖女さまから指示を受けているに違いない。彼は私に『軍や騎士団の到着を待ちましょう』と落ち着いた声色で答えてくれた。

 

 「終わった……」

 

 「ええ。大役お疲れさまです」

 

 私を労うジークフリード殿を見て苦笑いを浮かべる。死を覚悟して聖女さまに直訴した甲斐があった。しかも聖女さまは私の命を繋げてくれたのだ。この先私は教会正常化の為に身を粉にして働くことになるだろうが、それを望んだのは私自身で後悔はない。

 

 「――なあ。本当に教会だけが悪いのか?」

 

 ふと、そんな声が聞こえた。

 

 「聖女さまの金を奪っていたのは教会の枢機卿の連中だろ。教会が悪い、で終わりじゃないか?」

 

 「教会の黒い噂なんて昔からあっただろう」

 

 確かに以前から黒い噂はあった。信者が寄付したものを着服しているだとか、孤児を安い賃金で雇いキツイ労働に就かせているとか。

 

 「その噂をさ、王さまは何で放っておいたんだ?」

 

 「捕まえる証拠がないからじゃないか」

 

 嫌な空気が流れ始めた。

 

 「なあ、こんなになるまで放っておいた国も悪くないか?」

 

 「確かに」

 

 「教会だけじゃなくて、城にも行くべきじゃないか?」

 

 「城に、なんで?」

 

 「教会の腐敗を許していたのは、俺たちじゃなくて王国だろう?」

 

 「まあ、そうなるのか?」

 

 政と宗教は別であることが健全。だが、王都の民にそれを理解してもらうのは酷な事なのだろう。ふと上がった疑問の声に、波紋が広がっていく。

 

 「城にも行こう!」

 

 「ああ、行こうっ! 竜は見て見ぬふりをしている者を許さないと言ったんだ! 国も王さまも一緒だ!」

 

 「――ま、待ってくれ! 王国は関係ないっ!」

 

 両手を広げ城には行くなと止めるが、火の灯った人々に心に私の言葉など届くのだろうか。

 

 「関係なくはないだろう! ずっと教会を放っておいたんだ!」

 

 あんたは教会しか目的にしていないなら来なくていいだろう、と言われてしまう。そうだ、そうだと声を上げ教会から城へと向かう王都の民は、私を無視して大勢の者が歩き始めたのだった。

 

 ◇

 

 ――どうすればいいのだろうか。

 

 教会の枢機卿を捕まえ王国に身柄を引き渡せばよいと、軽く考えていたのが悪かったのだろうか。王城へと足を進める民を止める術を私は持たない。

 

 「ジ、ジークフリード殿、どうすれば……」

 

 「カルヴァイン殿。こうなってしまえば誰も止めることは出来ないでしょう。それこそ陛下やそのお方に準ずる誰かでなければ」

 

 アルバトロス王以上の存在がこの国に居るはずはない。王都の民はまだ理性を保ち、暴徒と化してはいないが、いつそうなってもおかしくはないのに。

 

 「へ、陛下がお越しになるのでしょうか」

 

 「分かりません。軍や騎士団を動員して彼らを鎮圧することも可能ですから」

 

 確かに荒事専門の彼らが出て来れば、武装も何もしていない王都の民は抵抗止む無く止められるだろう。そして国に逆らったと下手をすれば首を切られる。それを理解していない者たちが多くいることに、胸を痛める。

 

 「どうして貴方はそう落ち着いていられるのです!?」

 

 「決断したのは彼らです。その責任を取るのは自身であるべきでしょう」

 

 貴方がそうしたようにと言われると、これ以上言葉にすることは出来なかった。

 

 「ですが私も王都の方々をこのようなことで失うのは不本意です。何かできることがあるやもしれません」

 

 そう言って彼は足を進め始め『無理はするな』『破壊や暴力は決して行うな』と声を上げる。黒髪聖女の双璧と名が売れているのが功を奏しているのか、彼の声に耳を傾ける者は多かった。

 

 「お、お待ちください! 私も向かいます!」

 

 ただの男爵子息が役に立てるとは思わないが、この騒ぎを引き起こした張本人なのだ。最後まで見届ける義務がある。

 捕えた枢機卿を始めとする教会関係者は、見張り役が残ってくれている。王都の民と纏う雰囲気が違うので、軍や騎士団の人かもしれない。ならば任せても問題はないだろうと、私はジークフリード殿の背を追う。

 

 教会から城まで距離はあるが歩いていればそのうちに着き、王城の門前に集まった民衆は口々に叫んでいた。

 

 「王家も、教会の腐敗を見逃していた責任を取れー!」

 

 「お前たちも見て見ぬフリをしていたんだ! その所為でここが火の海になったらどう責任を取るつもりなんだっ!」

 

 ここで私が彼らに言葉を尽くしても、届くことはないだろう。私も教会の信徒で不正を放置していた一人なのだから。

 この不満の溜まっている状況をどう打開すべきか問う為に、ジークフリード殿に声を掛けようと顔を左右に動かすが、彼は何処にも居なかった。おかしい、先ほどまで目の届く距離に居たというのに。

 

 王城を守る城壁には、この騒ぎを聞きつけた近衛騎士の姿がチラホラ見え始めていた。熱が灯っている皆はそれに気付いた様子もなく、声高に不満を叫んでいるのみ。城門破りを試みる者はまだ居ないが、時間の問題だ。おそらくそんなことが始まれば、近衛騎士団は王都の民を躊躇なく討つだろう。

 

 ――それだけは避けねば。

 

 王家と民との間にしこりを残すことになる。やがて不満は更に大きくなり、今回のような暴動が起こるだろう。私の軽率な行動が、まさかこんな事態を引き起こすなんて……。この様子を見守ることしか出来ない己の無力を嘆くのだった。

 

 「な、おいっ! あれを見ろ!」

 

 城壁のとある場所を指した男が周りに聞こえるように叫んだ。釣られて顔を上げた者が『おお』と感嘆の声を上げ。

 

 「聖女さま! 黒髪の聖女さまだ!!」

 

 「ご回復したのだな!」

 

 「聖女さま!」

 

 「聖女さまっ!!」

 

 雨が降っている所為か、聖女さまの顔が良く分からない。分かることは城壁の上に立つ少女が黒髪であること、そして聖女の衣装を身に纏っていることだけ。

 ただ一つ分かることは、王都に住む女性で黒髪の方は聖女さま一人だという事実で。だから、顔も見えぬはずの民たちがこぞって『黒髪の聖女さまだ!』と叫ぶには、十分な根拠なのだった。

 

 「……どうして何も言わないんだ?」

 

 「まだ体調がすぐれないのだろうか……?」

 

 「私たちに怒っているのかしら?」

 

 いや、それはありえない。臥せっているのは、彼女が描いた脚本を進める為の便宜上。体調も良い筈なのだ。彼女が怒りを向けた矛先は、王都の民ではなく腐敗している教会貴族のみだった。しかし、注目を浴びている最中、何故聖女さまは我々にお下知をされないのか。

 

 暫く見上げていると聖女さまが大変可愛がられているという、小さな小竜が飛んできて肩に乗り、顔を擦り付ける。そうして小竜は一鳴きし、聖女さまが手を上げて優しく顔を撫でていた。その光景に誰もが黙り込み、見惚れていた。まるで有名な絵画を見ているような気分だった。

 

 「――皆さま、此度は王都を騒がせて大変申し訳ありませんでした」

 

 小さな体躯から何故、周囲にはっきりと声が届くのだろうか。そうして小さく頭を下げる聖女さま。

 目が慣れてきたのか、彼女の顔が良く見えるようになった。以前に会った時よりもやつれている気がするが、まさか本当に失意のうちに寝込んでしまっていたのだろうか。一言一句聞き逃すまいと、王都の民は聖女さま一人に釘付けだった。

 

 いつの間に移動していたのか黒髪の聖女さま付き従う、彼女の専属護衛であるジークフリード殿とジークリンデ殿が後ろに控えていた。

 

 「今回、行動に起こして下さった王都の皆さまの勇気は大変素晴らしいものでありました。先日、王都へやってきた竜の方も、皆さまの行動をお認め下さるでしょう」

 

 その言葉に安堵した者が沢山居た。やはりあの竜の言葉は、彼らにとって重い物だったのだろう。私も驚いたのだから、何も知らない人たちの恐怖はどれだけのものであったか。聖女さまが集まった王都の民をゆっくりと右から左へと視線を移した。

 

 「此度の一件はアルバトロス王国にも責任がございましょう。しかし、政と信仰や宗教が交わっては腐敗を助長させてしまいます」

 

 正常な組織運営を行おうとしたからこそ、王国は後手に回ってしまったのだと、聖女さまは仰った。そうなのかと納得する者、疑う者、反応は様々。

 

 「皆さまの手により、教会上層部の膿は洗い流されようとしております。――この機を逃す訳には参りません。それを成す為にはアルバトロス王国の力が必要となりましょう」

 

 そうして聖女さまは後ろに振り返ると、豪華な服に身を包んだ国王陛下が彼女の横に並ぶのだった。

 

 「皆の怒りは尤もである。だが、皆が彼らを勝手に手を掛ければ、国もそれを見逃せまい。……よく堪えてくれた。――ここから先は我々アルバトロス王国が責任をもって対処する!」

 

 そうして陛下は右腕を空にかざすと、体長五メートルほどの竜が二十匹ほど空へ浮かんだ。その身体の上には近衛騎士が騎乗していた。

 

 「亜人連合国が此度の件に協力を申し出てくれた。――逃した枢機卿は自領に逃げたと報告が上がっている! 行けっ! 竜騎兵隊よ!」

 

 陛下の声と同時に、高速で空を飛び去って行った竜騎兵隊。その様子に感動したのか、先ほどまでの王国に向けていた鬱憤は嘘のように晴れていた。

 

 「腐敗した者は去った。教会には自浄作用があると信じている。皆で考え、良き信仰を築き上げるが良い。困ったことがあれば我々も助力しよう」

 

 アルバトロス王国国王陛下は正しい人物なのだろう。腐敗した教会を潰そうとはしないのだから。そして、自浄作用があると言ってくれたのだ。腐敗した貴族を一掃するだけではなく、教会に携わる者はこれから手を取り合って、必死に頑張っていかなければ。

 

 「感謝致します。アルバトロス王よ」

 

 そうして黒髪の聖女さまがアルバトロス国王陛下に深々と頭を下げる。そうしてどこからともなく湧いた声。

 

 「――アルバトロス、万歳っ!」

 

 「――アルバトロスに栄光あれ!」

 

 なんだろう、先ほどまで不満を声高に叫んでいたのに、こんなに簡単に民の考えは変わってしまうものかと、脱力する私だった。

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