魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――アルバトロス、万歳っ!
――アルバトロスに栄光あれ!
王城を囲う城壁へと群がった王都の人たちは声高に叫んでいる。王都の人たちの教会を正す為の行為から、王国への不満に変わる可能性は考えてはいた。いたんだけれど、こうも簡単に変わってしまうものなのだろうか。王国や教会を潰す訳にはいかないので、思考誘導できたのなら良いかと大きく息を吐く。
「陛下、ありがとうございます」
「いや、王家の求心力が下がると困るのは我々だ。此度の一件、無能な貴族を随分と一掃でき、教会の腐敗も正される……――」
国のトップ、しかも王さまだから簡単に頭を下げたり礼を述べたりできないのだろう。いまだ王都のみんなの声が消えない中、陛下と言葉を交わしていると少し違う声が交ざり始める。
「聖女さま、万歳っ!」
「アルバトロスに聖女さま在りっ!」
「聖女さまー! こっちを向いてー!!」
いや、陛下を差し置いてそれはどうなのだろうか。ほら、もっと王国に感謝を述べないと。教会の不正を正すのは勿論だけれど、逃げた枢機卿も追わなきゃいけないのだから、陛下には物凄く頑張って頂いて聖王国の教会からお金を返して頂かなければ。
聖王国から派遣されてきた枢機卿さまだから、聖王国の教会には任命責任というものが発生するはず。アルバトロス王国に派遣された理由は定かではないが、なんだか碌な理由じゃない気がしてきた。
「手を振って答えてやればよかろう」
そんなアイドルじみたことはやりたくないのだけれど。声が収まりそうにないので、城壁の壁の傍に立って手を振る私。似合わないし、変なイメージが付きそうだけれど、そろそろ諦めなきゃいけないのだろうか、コレ。陛下や王国上層部の人たちを扱き使ってしまったし、その責任があるよなあと遠い目になる。
――聖女さま、万歳!
その声が一層大きくなって、苦笑い。
ちなみに逃げてしまった聖王国出身の枢機卿さまは、正式な手続きを経てアルバトロス王国の国境を越えている。
まあ、黒革の手帳を紛失して直ぐにとんずらしたから、そういう事には頭が働くのだろう。聖王国へと戻っている時点で、彼の国に迷惑が掛かると考えていないのが残念だけれど。馬車での移動なのでアルバトロス王国から聖王国までは一ケ月以上かかるらしい。
こっそりと王国の魔力補填を敢行していたので、王国上層部の人たちとはいろいろと話していた。公爵さまを始めとした、宰相さまや、外務卿さまは聖王国へと乗り込む気満々だった。陛下は少し考えた後に『分かった。行こう』と静かに告げた。
そのことを亜人連合国の皆さまに伝えると『では、我々も行くか』『行きましょう。毟り取るわ』『ね。二度と舐めた真似できないようにしよう~』『私も面白そうだから行くわ!』。何故か一人増えていた。
何度も聖女コールが巻き起こっていたけれど、飽きてしまったのか収まりを見せていた。
「聖女さまっ! 竜は王都を襲いませんかっ!?」
ふいに大きな声が私の耳に届く。あ、そうだった。派遣された竜の方がノリノリになって、結構な脅し文句を言っていたのだった。しかも見て見ぬフリをしていたのは同罪とかなんとか、脅したんだっけ。
「私たちは教会の腐敗を見逃していた仲間になるのでしょうか!!」
うわ。忘れていて欲しかったのに思い出してしまったのか、動揺と不安が一瞬で広がっている。参ったなあ、やりたくはなかったけれど仕方ないかあ。ふうと息を吐いて心を落ち着かせ魔力を放出する。王都の外で代表さまが待機してくれているので、これが合図となっていた。
あ、アクロアイトさま、放出している魔力を端から食べないで下さい……なんて呆れていると、王都を守る高い壁の外に、突然大きな竜が現れた。
「あ、あれを見ろ!」
「あの時の竜かっ!?」
一人が気付けば、多くの人たちがそれに倣って壁の外を見上げる。数日前に王都にやってきた個体は、代表さまではない。
ただ大きさや色に差異があまりない所為か、王都の人たちは勘違いをしているようだ。知らぬが仏、黙っておこう。
『聖女の嘆きをよくぞ聞き届けてくれた。――感謝する』
短くそう告げて、代表さまは巨体を空へと浮かべたのち、王都の上空を何度か旋回して亜人連合国の方へと飛び立っていく。
代表さまは適当な所で降りて、エルフのお姉さんズが回収へ向かうそうだ。本当、面倒な事を押し付けて申し訳ないと心で詫びつつも、あの人たちもノリノリだからなあ。本当に面白い方々である。
取りあえずは王国への求心力が失われることはないだろう。なんたって竜のお墨付きを頂いた体だから。あとは教会をどうやって正常な運営体制に戻せるかどうかだけれど、難しいよねえ。上の人間が居なくなったわけだし、かなり頑張らないと大変そうだ。
不安は拭えたかなと城壁の外を見ると、何故か壁の傍に無茶振りくんが立っていて、こちらを見ていた。
「此度の王都のみなさまを扇動したのは私です! どうか集まった方々に累が及ばぬよう、陛下を始めとした皆さまには熟考して頂きたく! 罪があるというのならば、私一人で十分でございましょう!」
確かに目立つ格好をしたものだ。教会の教典を持ち、肩にサロメを掛けているから、どうあっても教会関係者だし。
その言葉を聞いた王都の人たちの間に動揺が走る。一人で罪を背負い罰を受けるのは、酷だとでも言いたいのだろうか。無茶振りくんに同情の声が上がって、俺も私もとなっていた。
「……皆さん」
感動している場合じゃあないんだよ、無茶振りくん。余計な事を言ってくれたお陰で、最初の計画が駄目になるじゃないか。
あ、どうせ無茶振り君を神輿にする予定だったのだから、いい機会かも。彼に仕事を擦り付けるなら、王都の人たちにも知って貰っていた方が監視の目になるだろう。
「陛下、先に任せて頂いても?」
「ああ、構わんが……無茶をするなよ、聖女よ」
分かりましたと陛下に告げて、無茶振りくんを見下ろす。
「確かに皆さまを扇動した罪はありましょう。罰をというのならば、教会再建の為にご尽力下さい。今や教会の評判は地に落ち、存続の危機でございましょう」
えーと、後は何て言えばいいかなあ。こういうアドリブって苦手なんだよね。
「敬虔な信徒のみなさまと、神の教え通りの教会を目指すのです」
私は信徒じゃないから、関われないし。だから無茶振りくんには本当に頑張って頂かないと。あと、あの何もしなかった枢機卿さまと、紫髪くんの親であるリーフェンシュタール枢機卿か。彼らも真面目に教会運営をしようと頑張っていたようだけれど、聖王国から派遣された枢機卿さまには敵わなかったようだ。
「そして王都の皆さま。彼が立派な方であるのか見守って下さい。もし、彼が道に迷ったときは手を差し伸べ、道を踏み外すというならば正しい道を指し示して下さい」
相互監視社会じゃないけれど、王国と民から監視されるしかないよ。監査機関とか審査機関はないだろうし、こうするしかない。うんうんと頷いてくれている王都の民の人たちを、右端から左端へと視線を移動させて私も頷いた。
「――陛下」
「これでは首が切れんな……」
勝手に無茶振りくんを裁く権利はないので陛下へバトンを渡すと、困ったような顔を浮かべる。だって死なせるわけにはいかないから。
「確かに、民を扇動した罪はあろう。――出頭命令を出す。罰はそこで受けよ」
「はい」
そんな、と王都の人たちから憐憫の声が上がる。
「いいのです皆さん。私は皆さんを煽り教会へと導いた。――聖女さま、陛下、感謝致します」
頭を下げる無茶振りくんへ近衛騎士の人たちが駆け寄り、丁寧に城の中へと迎え入れられた。もう潮時なのだろう。他にも近衛や騎士団の人たちが王都の民を解散させようと、追い払っているのだから。
取りあえず、騒ぎは収まって城の中へと戻るのだった。
◇
――チョロくないかな、王都の人たち。
本当に、今回の顛末って。まだ全て終わった訳ではないから断言はできないけれど、王都の暴動騒ぎはワザと引き起こしたけれど、ほぼほぼ予定通り。無茶振りくんには頑張って頂いたから、罰は緩いと良いのだが陛下次第だろう。先ほど『首が切れん』と言っていたので、死刑は回避しているはずだ。
「ジークとリンもお疲れさま。帰ったらゆっくりしようね」
本当に。人前に立つことがこんなにも消耗するだなんて。ジークとリンは王都の街に紛れ込んで暴動騒ぎが起こるのを待っていたし、帰ったら本当にゆっくりしないと。料理長にもご飯を奮発して下さいと頼んできたから、楽しみである。
「ああ。――しかし、無茶と無理をしたな」
「お金が戻って来るなら、それで良いよ。兄さん」
「とりあえず、怪我人もほとんど居なかったみたいだし、軍や騎士の人たちにも感謝しなきゃね」
暴動が起こると分かっていたので、陛下や公爵さまが命令を出して王都のそこら中に紛れ込ませていたのだ。暴挙に出る人も居るかもしれないし、そんな兆しがあればさっくりと摘んでいそうな。うーん、魔物討伐やらで鍛えている所為なのか、人間相手なら余裕みたい。
「無茶をする……」
「本当に。――ところでナイ、先程の竜は先日現れた方と同じなのでしょうか?」
城壁の階段を降りるとソフィーアさまとセレスティアさまが待っていた。確かに無茶だったかもしれないが、いずれは教会の腐敗はどうにかしなくちゃいけないし、使い込みの露見は遅いか早いかだけの問題。
もっと深刻になってから発覚していたら、これだけじゃあ済まない可能性もあったのだから、結果オーライだろう。
まあ、逃げられないように王国全土に障壁を張る為に連日補填作業をしていたとか、協力してくれている妖精さんたちにも魔力を持っていかれてた。魔力が少ないという感覚を味わったのはこれが初めてで、極上の反物で作ったストールを一日中身に着け、魔力の回復に努めていた。
魔力の使い過ぎで、凄くお腹が減るし睡眠不足に陥っていた。
臥せっている体だったし開き直って一日の半分くらい寝ていたら、爵邸で雇っている人たちにかなり心配させる羽目に。でも食事はたらふく食べるという、意味不明な行動でさらに心配を掛けたのはご愛敬だけれど、たらふく食べていたのに痩せてた不思議。
「さっきの竜は代表さまですよ」
だって、こんなことがあろうかと念の為に伝えておいたら『私が行こう』だもの。協力をお願いしているのはこちらなので、固辞するのも失礼かと深くは追及しなかったし。
「は?」
「え?」
ソフィーアさまとセレスティアさまが目を見開いて立ち止まる。ジークとリンは慣れているのか、気にした様子はない。
「すまぬ聖女よ、もう一度言ってくれ」
一緒に階段を降りてきていた陛下に声が届いていたのか、私たちの会話に加わった。
「代表さまです、さっき現れた竜は」
「代表……というと、亜人連合の?」
竜の個体数も少ないけれど、人型から竜に、竜から人型になれる方はもっと少ないらしい。あとは竜の形を取れない竜人族の方も居るようで。
長く生きて力を得るか、元々の魔力がどれだけ備わっているかで決まるそうな。あと魔力が多ければ多いほど、身体が大きくなるそうだ。だから大きい竜は周りの竜から一目置かれる存在となる。今は代表さまが最大の大きさの竜だそうだが、ご意見番さまの全盛期は今の代表さまよりも随分と大きかったと聞いた。
「はい」
「聖女よ。もう少し丁重に彼らと接してくれぬか」
顔を引きつらせて私に告げた陛下。いや、あの人たちのノリが良いだけだし、アクロアイトさまが居るから私に好意的なだけ。
「あー……はい。努力します」
誤魔化すように陛下の言葉に返事をして、無茶振りくんが連行された部屋へと足を向けるのだった。
「へ、陛下! 聖女さま!」
近衛騎士に囲まれて無茶振りくんは神妙な顔をして椅子へ座っており、雨に濡れた服が随分と重そうだったし、服や体を伝い水滴が床へ落ちていた。彼が手に抱えている、年季の入ったお高そうな教典もふやふやになっていた。
「――"風よ、吹け"」
確か生活魔術で乾かす為の術があったなあと思い出し、詠唱を試みる。どうにか成功したのか無茶振りくんが纏っていた水分が飛んでいた。あまり使う機会がなく自信がなくて、多く魔力を込めたのが功を奏したのだろう。
これで少しはマシだし、会話もしやすくなっただろう。陛下も居るからみっともない恰好を見せられない。
「さて、調べは大方ついている。アウグスト・カルヴァインと言ったな」
膝を突き顔を下に向けたままの無茶振りくん。
「――面を上げよ」
無言のまま顔を上げた彼は、物凄く神妙な顔をしていた。なんだか、今にも死にそうなんだけれど大丈夫だろうか。
「聖女のお陰で命拾いをしたな。――貴様に教会を立て直す覚悟はあるか?」
「! はい、神に誓って!」
うんうん。無茶振りくんを始めた教会信徒の方々には頑張って頂かなければ。神にでも悪魔にでも誓って良いから、よろしくお願いします。私はソレを左うちわで眺めておくから。口出しなんて無粋なことはしないから。
「そうか。しかし無罪という訳にはいかぬと言ったことは覚えておるな」
「勿論でございます、陛下」
「一ケ月の間、城で幽閉処分だ。……――」
貴族用のな、と陛下は最後に付け加えるのだった。そうして陛下は公務があるといって部屋から出て行く。扉が閉まり暫くすると、へなへなと無茶振りくんは体の力を抜いた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。聖女さま、ご助力ありがとうございました」
ゆっくりと体を顔を上げて私を見上げる。
「これから暫くは王国に任せましょう。落ち着いてから教会の立て直しをお願いいたします」
立て直し方法をなんやかんやは考えているけれど、なるべく彼らに任せるべきだろう。教会信徒でもない人間が口を出す訳にはいかないし。
無茶振りくんをサポートできる人は枢機卿さまたちが居るから、きっと大丈夫。駄目なら聖王国の教会から誰か派遣してもらえば良い。針の筵だろうから、胃に穴が開くかもしれないけれど。
「参りましょう」
「はい」
そうして無茶振りくんはお貴族さま専用の幽閉棟で処分を受けることになった。通常のものより面会や差し入れは可能。持ち込みも危険な物以外は持ち込みが許される。あとは見張り役の騎士が居るから、慣れた頃に出られるだろう。
次は領地へ逃げ込んだ枢機卿さまだなと、部屋の窓の外に視線を向けるのだった。