魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0108:ぶん殴る予定。

 王都で民衆の動乱――茶番だけれど――が起きてから、一日が過ぎた。子爵邸の窓から外を見ると、数日降り続いていた雨も止み、空は綺麗な青色へ変わっていた。

 

 「おはよう」

 

 ベッドの上でまだ眠そうにしていたアクロアイトさまに挨拶すると、ぱっと目を見開いてこちらを向き、少し考えた素振りを見せたあと私の肩へと飛び乗った。学院へ行く準備は済ませ制服を着込んでいるから問題ないけれど、爪が食い込まないのが不思議だ。上手く加減をしてくれているのだろうけれど、大きくなったらどうするのか。

 大きくなったら私が乗る立場になるのだろうかと首を傾げると、ちょうどアクロアイトさまが乗っている肩の方で顔同士が触れ合う。急な事で驚いたのかアクロアイトさまが一鳴きするけれど、それだけ。驚かせてごめんなさいという意味を込め、肩から腕の中へと移動させる。

 

 「朝ごはん食べに行こうね」

 

 一緒に行くけれど、人間の食事には興味がないのか無関心。専用の籠へ鎮座させると、大人しくそこで寝ている。

 ほどなく、朝食のご用意が出来ましたと声を掛けてくれた侍女さんと一緒に部屋を出て、食堂へと向かう。そこには制服を着込んだジークとリンが既に居て、定位置に腰掛けていた。

 

 「おはよう。待たせてごめん」

 

 「おはよう。来たばかりだ、気にするな」

 

 「ナイ、おはよう」

 

 専用の籠にアクロアイトさまをゆっくりと座らせて、私も自分の席へ付く。一応、この屋敷の主人なので上座。ジークとリンはその直ぐ隣と言えばいいのだろうか。長いテーブルの端に私が一人座り、側面に二人が対面して座っている。

 

 主従関係となるので本来は同席することはないが、お屋敷の使用人の皆さまには、三人は家族のような関係だから、あまり目くじらを立てぬようにと説明されていたそう。有難いと感謝しつつ、誰がこんな配慮をしてくれたのだろうか。今度、誰か捕まえて聞いてみるのも手だ。この際はっきりさせて、お礼を伝えよう。

 

 お屋敷で雇われている料理長さん渾身の朝ごはんを食べ終えて、学院へと向かう馬車にアクロアイトさまと一緒に乗り込んだ。話し相手が居ないので少し寂しくはあるが、教会宿舎から学院へ向かうよりも距離は短くなっている。

 

 「着いた。――降りるぞ」

 

 馬車が止まり暫くすると、扉が開いてジークが顔を出す。手を差し伸べてエスコートしてくれた。

 

 「ありがとう、ジーク」

 

 「兄さん、次は私」

 

 「わかった」

 

 二学期初日もこのやり取りがあったよなあ。もしかして、リンは毎日繰り返すつもりなのだろうか。リンを見て苦笑いを浮かべるジークと一緒に私も笑うと、リンは分かっていない様子で首を傾げた。

 

 臥せっていたので、久方振りの学院だなあと正門を見ると、人、人、人の山。

 

 言い方は悪くなるけれど平民の人たちの騒動だったはずだから、お貴族さまには関係ないはずだけれど、横領お貴族さまの関係者は居そう。憎まれているんだろうなあと遠い目になりながら、この警備を抜けるにはかなりの実力が必要だ。ジークとリンも居るし、もやしなお貴族さま相手なら大丈夫か。

 

 「子爵、ごきげんよう」

 

 「ごきげんよう、ミナーヴァ子爵」

 

 いつも……と言っても二度目だけれど。ソフィーアさまとセレスティアさまが私の傍にやって来る。ジークとリンも後ろへと控えた。

 

 「ごきげんよう、ソフィーアさま、セレスティアさま」

 

 挨拶を済ませて校門へと歩いて行くと遠巻きに私たちを見る。

 

 「救国の聖女さまだからな。十分に気を付けろよ」

 

 「ええ。わたくしたちも気を付けていますが、貴女が気を抜けば意味はありませんもの」

 

 「あの……なんですか……ソレ」

 

 本当に何だろう、もう。私、国なんて救っていないのだけれど。

 

 「教会の腐敗を嘆くも、教会の再建と王国の立場の確保。十分、救国ではないか?」

 

 「ですわね。――意図してやったのか偶然だったかは知りませんが、結果だけをみればそうなるのでは?」

 

 「……嘘」

 

 もう止めて欲しいけれど、今回煽った責任とかがあるので、文句が言えない。畜生、畜生と心の中で念仏を唱えながら結果を受け入れるしかないのだろう。

 

 「もう好きに呼んでください。――行きましょう、話があると昨夜聞きましたから」

 

 昨日の夜に使者がやってきてソフィーアさまから報告があると聞いていた。なのでいつもより学院には早く着いている。

 

 「ああ」

 

 「ええ」

 

 王城で報告を聞くよりも、学院で授業を受けなければならないから、学院で先に概要だけでも知っておけということだろう。

 教室へ行く前にサロンに寄って、そこで説明を受ける。多くの視線を浴びながら、その人たちはひそひそと何か言っている。

 

 『お痩せになられて』とか『大きな竜を意のままに従えることが出来るそうだ』とか好き放題である。しばらくはこの調子だろうなあと正門を通ってサロンのある校舎へと入る。それぞれの位置につくと、鞄から薄い紙束を出したソフィーアさま。

 

 「祖父から取り急ぎと言われてな。目を通して欲しい」

 

 気配を察したのかアクロアイトさまがジークの頭の上に飛んで行った。なんでジークの腕の中に飛んで行かないのか不思議だが、差し出された紙束へと手を伸ばす。

 

 「はい。――失礼して」

 

 昨日、王都を飛び立った竜騎兵隊の皆さま――即席なので、竜との連携はお察し――は枢機卿さまの領地へと辿り着き、領主の家で本人を捕縛。

 家族も一緒に同道を願うと逃げようとしたらしい。竜との連携はお察しの騎士の方々だが、地上戦というか普通の捕り物ならば慣れており、逃げることも視野に入れていたのだろう。一人も取り逃すことなく捕まえたそうだ。あとは王都へ連行して取り調べとなる。

 

 「まあ、言い逃れは出来ないだろうな」

 

 「妖精の方々からいろいろと情報がありますものねえ」

 

 そう、妖精さんたちの協力により、情報は随分と集められていた。横領の証拠は見つかっていないが、先に捕まった枢機卿さまと言い争いをしている所をバッチリ見られてる。もうみっともない言い争いだったので端折るけれど、本当に馬鹿なことをしたものだ。

 

 「ですね。もっとずる賢い人たちなのかなあと思っていたのですが……」

 

 「賢ければ露見なんてせんだろう」

 

 「もっと上手く立ち回りましょう」

 

 お二人の言う通りか。まあ枢機卿さまたちが小物なお陰で、今回の策は成功したのだから良しとしよう。

 

 「では放課後は城へ?」

 

 「はい。捕まった枢機卿さまとの面会を希望したら、あっさり了承されました。恐らくもう一方もこちらへ移送されているでしょうし、ついでに会っておこうかと」

 

 強化魔術を掛けられる魔術師団の方に、強化を私に施して貰おうと考えていたけれど、ジークやリンに強化魔術を目一杯に私が施し殴って貰った方が威力があるということに気が付いた。どんな言い訳をするのか楽しみだなあと、部屋の窓の外を見る。

 

 「やり過ぎるなよ。まだ取り調べは残っているんだ」

 

 「死なせるとそこまでですわよ、ナイ。気持ちは分かりますがやり過ぎませんように」

 

 どうしてお二人は私の思考を読むのが上手いのだろうかと、微妙な顔になるのだった。

 

 ◇

 

 サロンから教室へ場所を変えると、ヴァンディリア王国の第四王子殿下やリーム王国の第三王子殿下が教室に居た。

 体調回復したことを祝われてすごすごと自席に戻って行く。第三王子殿下から手紙を受け取っていたので、礼状を送ってはいたけれど言葉でも礼を伝えておく方が賢明だろうと、少し引き止めて数度会話を交わした。

 

 私が臥せっている間に、リームの王さまは陛下にねちねちと失言について追及されたそうだ。あとついでにエルフのお姉さんズからも、派遣された際に遊んで頂いたそう。

 リームの聖女さま達とアリアさまと侯爵家のご令嬢さまで儀式魔術を行使し、聖樹への魔力補填を務めたそうだが、五年ほど延命出来ただけで枯れる運命からは逃れられないそうだ。

 彼の国が滅びれば、アルバトロス王国へ難民が押し寄せる。だから協力せざるを得ないそうで、私の派遣が決まっている。お金を踏んだくれるし、聖王国の教会への抗議と同道も同意してくれたそうだ。暫くは金欠かもしれないが、聖樹さえなんとかなれば持ち堪えるだろうというのが、アルバトロス側の見解だった。

 

 ――放課後。

 

 学院から直でお城へと辿り着くと、停車場には近衛騎士の人たちが待っていてくれた。いつもより人数が多い気がするし、私たちを出迎えてくれた騎士の方々はなんだか緊張している様子で。どうしたのだろうと首を傾げるけれど、答えてくれる人は誰もおらず。

 

 「では、ご案内いたします!」

 

 敬礼を執って野太い声を上げた近衛騎士さんに『よろしくお願い致します』と頭を下げると『私のような者にそんな……』と妙なことを口にされた。

 いや、お貴族さま出身だし、下手したら当主とかじゃないのかなあ。しかも年上の男性って分かっているんだから、頭の一つや二つ下げますとも。うーん、昨日のアレでなにやら妙な化学反応をしめしたのか、警備も厳重になっているし嫌な予感しかしない。

 

 そんな嫌な予感を抱きつつも、普段はあまり立ち寄らない区域へと足を向けた、本当、城の中っていろんな施設があるよねえと感心しつつ、石造りの地味な建屋の前で立ち止まる。

 

 「聖女さまには、似つかわしくない場所ですが」

 

 「お気になさらず。――彼らと面会を望んだのはわたくしですから」

 

 近衛騎士さまの言葉に外向き用の喋り方で、私は答えた。木で出来た分厚い扉を支える蝶番の音が大きくなり、中へと案内される。幽閉棟とは違う場所の牢屋だろうか。きょろきょろと周囲を見渡していると、近衛騎士の方が小さな部屋へと案内してくれた。

 

 「件の者を連れて参りますので、こちらでお待ち下さい」

 

 「はい」

 

 短く返事をして待っていると遠くから声が聞こえ、それが段々と近くなってくる。近衛騎士の人と恐らく枢機卿さまの声だろう『離せっ! 私をどうするつもりだ!』『黙れっ!』の応酬だった。私に付いてきてくれている、いつものメンバーがそれぞれ深い溜め息を吐いた。

 

 なんだか凄く小物臭がするけれど、ぶん殴ると決めたのだ。遠慮は必要ないだろう。

 

 閉まっていた扉が開くと、小太りの枢機卿さまが現れた。今回捕まった、ドジな枢機卿さまらしい。興味がないから知らなかったが、知らないと聞けば無茶振りくんがドン引きしそう。教会上層部なんて興味なかったし、顔を知っているのは老齢の枢機卿さまだけ。

 そう言えばリーフェンシュタール枢機卿も名前だけで、顔は知らない。まあその内に会うだろうと、他所事を考えていた頭を振り払う。

 

 「ごきげんよう、枢機卿さま。――いえ、初めましての方が適切でしょうか」

 

 近衛騎士の人たちの手で押さえられているけれど、昨日捕まったばかりとあって元気そのもの。やつれたり生気のない人間を相手にするよりは良いか。何故、人さまのお金を使い込んだのか理由を聞いてみよう。

 

 「お、お前はっ! 黒髪の聖女かっ!」

 

 「はい。皆さまからは物珍しさ故にそう呼ばれております。最近は竜使いの聖女……今日は救国の聖女などと呼ばれてしまいました」

 

 本当、救国の聖女って大袈裟な表現だし、過剰評価もいい所で。

 

 「……聖女の癖に金にがめついとは、貴様も私たちと変わらぬ金の亡者ではないか!」

 

 随分と懐かしいなあ。前世の学生時代は荒れていたから、こういう脅しを掛けたことは何度かある。女だからと舐められた態度を取られたこともあるけれど。

 

 「確かに、お金に汚いのでしょう。ですが、自身で稼いだお金を信頼している教会に預けていた……わたくしや他の聖女さま方のものにも手を出した理由、お聞かせ願いますか?」

 

 今世は魔力という不思議な力を持っている訳で。小柄でチビでも魔力を練ればあら不思議。相手はビビり散らすのだ。

 それは今までで十分理解している。ギルド本部でエルフのお姉さんズに魔力を練ってと言われて良かった。私の魔力が脅しに利くなんて、意外だったし。

 

 「貯める一方で使わないのだっ! そんな金に何の意味がある! 使ってこその金だろう!!」

 

 「確かに。ですが、そのお金の使い道は自身の私腹を肥やす為ではありませんでしたか?」

 

 「それの何が悪い! 使わないより良いだろうがっ!!」

 

 それはそうだけれど。他の聖女さまは知らないが、使い道によっては許可はだした筈だ。貧民街の為、孤児院建設の為と理由を付けてくれれば、快く出したというのに。

 これならとっとと自分で主導して孤児院建設なり貧民街のテコ入れなりすれば良かったと思う。だが、それが可能になるのはここ最近になってからだ。亜人連合国であの結果を出さなければ無理だ。

 

 「そうですね」

 

 使わなきゃ宝の持ち腐れではある。けれどなあ。みんなの将来の為と貯めてきたお金を使い込まれるのは、やはり腹が立つ訳で。

 

 「ああ! 使わない金を私たちは使ってやったんだっ!」

 

 「その言葉で納得して、ありがとうと言うとお思いですか?」

 

 言う訳ないだろうに。これは堂々巡りだし反省もしない人だろう。そんな人なら最初から手を出さないか。事の大きさを把握できていないし。

 

 ――パン!

 

 と乾いた良い音が鳴る。小柄で、しかも女の骨格と筋肉だから、痛みは少ない。ジークかリンに殴って貰おうかと考えていたけれど、それすら虚しくなってきたので、自分で平手打ちを放った。手のひらと手首に痛みが走るが、大したことはない。直ぐに治る。

 

 「なっ! 何をする!」

 

 「そう大声を出して抗議するほどの威力ではないでしょう。――取り調べは騎士団の方が担うそうです。何か隠し立てをすれば、取り調べ以上の苦痛を味わうのでしょうね」

 

 そう言って魔力を練ると、髪がぶわりと宙に浮く。ああ、ほら、人が魔力を放出した先からアクロアイトさまが吸い取っているし、興味本位で妖精さんがくっついて来ていたので『まりょく!』『魔力だ!』と言って喜んでいる。

 私の魔力に驚いているから、脅しの効果があったのならそれでいいか。近衛騎士の人たちが真っ青になっているので申し訳ない気持ちになるが、敵意は向けていないので目の前の男が感じる恐怖よりはマシなはず。

 

 「皆さま、行きましょう」

 

 こんな人に構っている場合じゃないかと、アンモニア臭が立ち込め始めた部屋から出て行くのだった。

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