魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0109:ぐぬぬ。

 枢機卿さまを引っ叩いたついでに、幽閉処分が決まった無茶振りくんへも面会申請を出して会いに行った。

 

 「ごきげんよう。カルヴァインさま」

 

 「せ、聖女さまっ!」

 

 椅子に座って机に向かい書き物をしていた無茶振りくんが、驚いた顔をしてこちらを見る。軽く頭を下げると、慌てた様子で立ち上がり彼も礼を執った。

 

 「お加減は如何でしょうか?」

 

 「は、はい。何の不便もなく過ごせております。――ただ既に私に対しての教育が始まっておりまして……」

 

 「申し訳ございません。わたくしが陛下や枢機卿さまにお願いを致しました」

 

 彼が枢機卿の座に就くならばいろいろと足りないのは理解していた。お飾りだけれど、社交の場にも出なきゃならなくなる。ハニトラに引っ掛かったり、騙されたりするのは困るし、絶対に彼にすり寄る人は増える。

 男爵家である程度の教育は施されていただろうけれど、教会信徒として清貧を旨としているような家である。男爵家の継嗣であるが期待は出来ないというのが、王国上層部と教会の見解だった。

 

 「聖女さまが! そこまで私の事を思って下さって……」

 

 いや、感動している場合じゃあない。この一か月間みっちりと貴族として教会信徒として、その道のプロが無茶振りくんへ仕込むんだから。しかも幽閉されているから逃げられない。気絶や体調不良を起こせば『私を呼んで下さい』と伝えている。無理矢理に魔術で回復させるのだ。

 

 枢機卿の座が三席空いたので、その一席に無茶振りくんが、残りの二席はまだ未定。

 

 教会で議論されているようで、昨日から随分と騒がしくなっているそうな。昨夜、私付きの神父さまが疲れた様子で子爵邸に顔を出し、協議の場に私も出席して欲しいと土下座する勢いで頭を下げられた。

 

 「教会正常化の為にわたくしも微力ながら助力することとなりました。カルヴァインさまもどうか体調にお気をつけて、充実した一ケ月間になることを祈っております」

 

 「微力などっ! 聖女さまが参加下さるならば、皆さまもご安心でしょう! 私が加わるのは一ケ月後となりますが、精一杯此処で得た物を発揮致します」

 

 何だろう、無茶振りくんが凄く眩しく見えてしまう。純粋だよね。ただ、その純粋さに付け込む人も居るだろうし……というか最初に騙したの私だな。それはそれ、これはこれということで開き直って、彼に向き直る。

 

 「期待しております。また顔を出しますので、必要なものや欲しい物があれば手紙でお知らせください、ご用意しますね」

 

 手紙を出せば、近衛騎士の人たちが預かり検閲を受けて私の家に届く手筈になっている。カルヴァイン男爵さまは王都に召喚され、教会で寝泊まりをしているらしい。無茶振りくんとの面会も出来るそうだが、領地でないから勝手も悪かろう。男爵さまにも会わなければならないので、私のスケジュールが結構大変なことになっていた。

 

 「私のような者にっ! ありがとうございます!」

 

 だからね、無茶振りくんには頑張って頂かないといけないから、私はよいしょをする訳ですよ。下心満載ですが、これくらいで彼が奮起するというのなら、いくらでも顔を出しますとも。

 

 「本当はゆっくりとお話したいのですが……本日はこれで失礼します」

 

 私も忙しいけれど、無茶振りくんも忙しいのでゆっくりとはしていられない。彼の下から去って、城の庭へと出る。

 

 「演説の時もそうだったが、聖女としてのナイは『わたくし』になるんだな」

 

 「そう言えば、そうですわね」

 

 愉快そうに笑って私を見るソフィーアさまとセレスティアさま。そう言えばお二人の前だと一人称は普通に『私』だった気がする。聖女としてよりも学院生としてだったからあまり意識をしていなかったのかも。

 

 「時と場合、でしょうか。けれど、どうして今更そんなことを……」

 

 使い分けは大事。聖女のイメージって清く正しく美しくって感じだから、それを壊しちゃ駄目だろうし。それに意識しておいた方が聖女の役を演じやすいというべきか。

 

 「いやな、聞きなれないものでな」

 

 「私、で慣れてしまいましたものね、わたくしたちは」

 

 そうかなあ。聖女としてなら使い分けで『わたくし』になるのは結構前からだけれど。

 

 「ジークフリードとジークリンデはもう慣れているのか?」

 

 ソフィーアさまが少し振り返り、護衛に就いている二人にと行け方。

 

 「今も違和感はあります」

 

 「私、でいいのに」

 

 二人も慣れていないのか……。それなりに聞いていたはずだろうに、割とひどい仕打ち。なんだか扱いが悪いよねえと思うけれど、これもみんなとの距離が近くなった証拠だろう。少し前ならジークとリンにソフィーアさまなら問いかけなかったはずだ。

 仲が良くなっているようで何よりと笑いながら、謁見場へと向かう私たち。リーム王国の聖樹の件やヴァイセンベルク辺境伯領の大木について話があるんだそうな。

 

 ――どうなるのやら。

 

 リームの聖樹は儀式によって五年は延命出来たそうだ。エルフのお姉さんズからの情報なので、外れることはないのだろう。そうして辿り着いた謁見場にはアリアさまに侯爵家の聖女さまの姿があり、アリアさまと目が合うと嬉しそうな顔をしていた。

 こちらへ来たそうにしているけれど、流石に謁見場で勝手が出来るはずもなく。公爵さまや辺境伯さまもいらっしゃるし、王国上層部は殆ど揃っている気がする。アリアさまと侯爵家の聖女さまの近くには、教会関係者も付いてきていた。

 

 顔を動かさず視線だけ動かしていると、リームの第三王子殿下の姿も見えた。その隣には国王陛下よりも歳を取っている人の姿が。どこかで見たことがあるなと記憶を掘り返すと、リームの王さまだと閃いた。リーム王国の事だから第三王子殿下が居るのは分かるけれど、リームの王さままで居るとはこれ如何に。

 アルバトロスより国力が下なので、既に彼が居てもおかしくはないのか。よく分からないが、近衛騎士の人たちが殺気立っている。副団長さまもこの場に居るし、リームのメンバーは生きている気がしないのではないだろうか。

 

 騎士の人たちが殺気立っているのは、第三王子殿下が私に対して零してしまった『辺境伯領の大木を奪え』発言が原因だろう。リーム王国への派遣は決まっているというのに、またどうしてと疑問を抱きつつ。荒れなきゃ良いなあと、陛下がご来場するまで静かに待つ私たちだった。

 

 ◇

 

 ――陛下、ご入来!

 

 謁見場によく通る声が響き、暫くすると陛下がステージ横の扉から出て来る。徐に玉座に深く腰を掛け、場内を見渡した。リーム王の顔色が良くないけれど、第三王子殿下は普通の顔をしている。なんだろうこの二人の温度差はと首を傾げていると、宰相さまが一歩前に出た。

 

 「この度アルバトロスは我が国の聖女を派遣し、リーム王国の聖樹へ儀式魔術を行使し魔力補填を執り行った」

 

 リーム王が目指した年数の延命は無理だったようで、五年生きながらえるだけという結果。リーム王国の聖女さまの質はアルバトロスよりも下らしく、彼女たちだけで儀式魔術を行うのは不可能だそう。

 本当にアルバトロスは恵まれていると、リーム王の顔を見ればぐぬぬと言わんばかり。黙って聞いてはいるものの、内心良くは思っていないのだろうなというのが正直な感想。

 

 「リーム王国が滅びればアルバトロス王国も被害を被りましょう」

 

 難民とかでるだろうし、保護するとなったらお金と人員に他諸々が必要となってくる。

 

 難民の扱いがどういうものか知らないけれど、王国の教会も不祥事が発覚して基盤が脆くなっているのだから、教義を守り弱い者を救う為と謳い難民を助ければ教会は更に疲弊しそう。やっぱ碌でもない事にしかならないから、リームが滅ぶのはアルバトロスとしても望んでいないことのようだ。

 

 「陛下、リームの王が顔を見せております。――如何なさいましょう」

 

 「うむ。我が国も貴国に構っておる暇はないのでなあ。リーム王の即時の黒髪の聖女を派遣要請は飲めぬよ」

 

 それに辺境伯領の警備を確りとせんとなあと、陛下がリーム王に圧を掛ける。日頃のストレスをリーム王で発散している気がするけれど、まあいいか。ここ最近大変だったろうし、ストレス発散が出来る場所って大事だし。以前も随分といびったようだけれど、足りなかったのか陛下。

 

 聖王国へ抗議するのは約一ケ月先の予定だ。都落ちしてきた枢機卿さまが聖王国へ逃げ込み、聖王国の教会がどういう動きをするのか見極めてから乗り込む予定。

 こちらへ身柄を引き渡してくれるならば、それで良し。匿うようならその点を徹底的に追及するとのこと。穏便に身柄引き渡しされても、聖王国の教会からあんなのが送られてきた理由や任命責任をつつくらしいけど。

 

 「し、しかし、我が国の聖樹はあと五年しか持たぬのだ。それが民に知れ渡れば、不安を煽り国を逃げ出す者も出てくる……」

 

 辺境伯領の大木を盗む発言は国の危機に際して、未だ王族として抜けている第三王子殿下への発破とあわよくば辺境伯領へ赴き調べてこないか期待していたそう。

 もう少し上手い煽りようがあった気もするが、リーム王もリーム王で切羽詰まっていたらしく『失言だった撤回させて欲しい』と政治家みたいな発言をしたそうな。いや、まあ王さまだから政治家みたいなものだけれど。

 

 「そうなれば余計に我が国は危機に瀕す。出来るだけ早く黒髪の聖女を派遣して欲しく、本日はやって来た次第だ」

 

 王さまだから陛下との話は通しているだろう。もしかしてこれは私に事情を直接向こうが説明する為に用意された場だろうか。それなら少数で適当な部屋でやればいいものを。リーム王は見世物なのだろうと、目を細めて彼を見る。

 

 ぐぬぬ、という言葉がぴったりと合う顔をしてる。

 

 一国の頂点に立つ王さまが晒し物にされているのだから仕方ないとはいえ、自国の民の為なら堪えなきゃねえ。ここで切れたりすれば全て水の泡だし、アルバトロス王国からの評判もダダ下がりとなる。

 

 リーム王国の聖樹は、豊穣の証なのだとか。

 

 枯れたり命が尽きると作物が育たなくなり、リームも一緒に滅びる運命であろうというのが言い伝えだそうで。

 何千何万年も生きると言われていたのだが、それよりも早く寿命がやってきたらしい。聖樹を樹木医に診て貰ったが皆目見当もつかないそうで、聖女による魔力補填しか思いつかなかった。そうして実行した儀式魔術による補填も『五年間の延命』という結果。

 

 切り落として芽が出ることや、挿し木も考えたそうだが、枯れたらおしまいというプレッシャーで行動に移せなかったそう。

 

 これ、聖樹に頼らなくとも農業改革でも考えた方が良策なのでは、と頭に浮かぶが口にはしない。採用されたら、私も巻き込まれそうだから黙っておく方が賢明だろう。

 科学肥料や農機具も発達しておらず、改革を目指すには長い時間が掛かるだろうが、聖樹に頼り切りという状況は変えないと。思考停止したまま聖樹の恩恵に頼っていたことが、リームの敗因だろう。そして、その責任を早く負う羽目になった現リーム王は運がない。

 

 「貴国の現状は理解しているつもりだ。だが、我が国の黒髪の聖女はなくてはならぬ存在。先日まで病に伏して屋敷で寝込んでおってな。病み上がりなのだよ」

 

 成人もしていない少女にそのような無理を押し通すのかね? と陛下が口走った。まあ臥せっていたことは公然の事実だし、黙っていてもバレるだろうから構わないけれど。

 構わないんだけれど、陛下も私を亜人連合国に派遣したじゃないかと、声を大にして叫びたいが黙っておく。沈黙は金、金、金。

 物は言いようだなあと陛下を見ると視線が合って、微妙な顔をされた。何だか『面倒事が増えた』と言いたそうだった。私の派遣は決まっているのに、王さまに直接乗り込まれて頭を下げられれば断り辛くはある。確かに面倒事だなと、陛下に苦笑いを返しておく。

 

 「無論だ。だが先程申した通り事を急ぐ故」

 

 どうか無理を頼めないだろうかと、リーム王は頭を下げた。一国の王さまが他国で頭を下げるなんて屈辱だろう。

 家やご飯のない苦しみは十分味わってきたし、無辜の民が同じ目にあえだなんて言えないから。リーム王国に住まう民の為に頭を下げたというならば、評価出来る。第三王子殿下に発破を掛けた失言はアレだけれど。

 

 「だそうだ。――黒髪の聖女よ、其方が好きに決めるとよい」

 

 まあ、顔も見せないまま依頼されるよりはマシだし、頭を下げたのだ。私の派遣は決まっていたし、事態が早く進むだけ。病み上がりではなく、魔力の使い過ぎで体重が落ちていただけ。王国全土に障壁展開する必要はなくなったし、もう少しすれば元に戻るはず。

 

 陛下、私に丸投げしたなと一瞬思うが『好きに決めると良い』ということは、断っても王国的には問題ないということだろう。

 受けた方が実入りが良さそうだし、お金もたんまり踏んだくれるだろう。教会も踏んだくるだろうし、聖女さまたちのお金の補填に使うことも出来る。悪くはない話だ。私の寂しくなった懐にも、少しくらいは温かくなりそうである。

 

 「リーム王国への派遣、承りました。ただし条件があります」

 

 「条件と申すか。よい、言ってみよ」

 

 リーム王ではなく陛下が答えた。

 

 「わたくしが派遣されリーム王国の聖樹へ魔力補填を行っても効果がない場合もありましょう」

 

 要するに失敗しても不問にしてね、ということだ。いちゃもんを付けられても敵わないし、逃げ道は確実に用意しておかないと。

 

 「だそうだ。リーム王よ、必ずしも成功するとは限らない。その時は如何致す?」

 

 「…………仕方ありません。その場合は諦める」

 

 がっくりと項垂れるリーム王。名声はあるけれど、魔力が多いだけで大したことは出来ないのが私だ。そんなに期待を掛けられても困るから、彼が項垂れるくらいで丁度良い。リーム王国の聖樹がどんなものか全く知らないし、状態も知らないけれど大丈夫だろうか。

 

 「良い返事だ。――その場合、派遣費用と黒髪の聖女の時間を費やした我が国への補填を要求するがよろしいか?」

 

 「ぐぅ……分かった。払おう」

 

 またしてもぐぬぬとリームの王さまは歯を噛みしめているような顔をして、私たちの方を見るのだった。

 

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