魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

111 / 740
2022.06.12投稿 1/2回目


0111:派遣前日。

 明日出発ということで、簡単に荷物を詰め込んで準備が整った。国賓扱いとなるそうだが、一刻も早く事を解決したい為か聖樹の下へと直ぐに行く予定だそうだ。そこで儀式魔術を行使するのだけれど、裸に剥かれるので少々気が重い。また外で全裸になるのかと、陽が沈み暗くなった外を窓から見る。

 以前よりマシなのは、儀式魔術を行使することが決定している為に、介添えの女性や女性騎士が多く配置されることだろうか。

 

 アリアさまと侯爵家の聖女さまが派遣された時も、分かっていたので女性が多く動員されて、周囲の警戒や儀式の手伝いを執り行ったそうな。アリアさまはともかく、侯爵家の聖女さまはよく脱げたなあと、失礼な事を考える。討伐遠征であの体験をしていなければ、断って国に戻って来そうだ。

 

 「ナイ、まだ寝ないの?」

 

 部屋にノックの音が響いて『どうぞ』と返すと、良く知った顔が二つ並んでた。言わずもがなジークとリンで。リンがこてりと首を傾げて、そう聞いてきた。

 

 「もうすぐ寝るよ。ジークとリンも早く寝なきゃ。明日は早いんだし」

 

 一応、出陣式があるようで、陛下を始めとした王国上層部の人たちが参加するそうだ。

 

 「ああ、分かってる。少し気になることがあってな。ナイが聖樹に魔力を補填したとして、成功するのか?」

 

 ジークが訝し気な表情で問いかけてきた。

 

 「こればっかりは分からないよね。――前回みたいに少しだけ寿命が延びるだけってなりそうな気がする」

 

 恐らくこれが一番濃厚な線かな。多分だけれど、寿命が早く尽きてしまうから、『枯れる』という兆候が出ているのだろうし。切り株や挿し木を実行できない時点で、リーム側は手をこまねいている訳で。穏便な方法で魔力補填を思いついたのだろうけど、根本的な解決になっていない。

 

 「だよな。ナイの名声に惹かれて懇願したのは良いが、何の成果がなかった時に向こうは黙って金を出すのか……」

 

 「出さなきゃ、周りの国からケチ呼ばわりされるよ。出すって公的な記録にも残っちゃってるから」

 

 謁見場で『分かった』ってリームの王さまは言ったしね。非公式な場であれば逃げられた可能性があるが、謁見場は公式の場である。アルバトロス王国の上層部が顔を揃えていたから、未払いなんてことになれば周辺国へ一斉にお知らせが入ると思う。

 

 「聖樹なんてものに頼らなくても、自活出来るのが一番なのにね」

 

 聖女に頼っているアルバトロス王国にも言えることだけれど、今は棚の上。

 

 「だよな」

 

 「だね。でもこの国も――」

 

 ジークとリンが同意した。貧民街暮らしが長かった所為か、随分と現実的な思考だった。

 

 「リン」

 

 「リン、気持ちは理解できるけれど口にしちゃ駄目」

 

 ジークと私がリンの名前を呼んで、言葉を止める。まあ私の部屋なので問題はないけれど、こういうことを認めていると不意に外で漏らしちゃうこともあるから、気を付けておくに越したことはない。

 

 「分かった。ごめんなさい」

 

 リンはちょっと脳筋気味だが、一度こうして教えると次の間違いは起こさないので、ポテンシャルが備わっているのだろう。

 私の肩からアクロアイトさまがリンの膝の上に乗って、一鳴きする。気にするなとでも言いたいのだろうか。そんなアクロアイトさまを三人で微笑ましく見つめていると、ふと気配を感じた。

 

 『面白そうな話をしているわね!』

 

 「お婆さま。――どうしました?」

 

 お婆さまが突然現れた。妖精さんなので壁抜け等はお茶の子さいさいというか、一切無視して通り抜けが出来る。彼女の突然の登場に驚きつつ、夜分の訪問理由を聞いてみた。

 

 『どうしたもこうしたも、面白そうな話をしているんだもの。お隣の国の聖樹が駄目だとエルフの二人から聞いたけれど、本当に駄目なのかしらね?』

 

 両腕を組んだまま、私たちの周りをくるくると飛び長台詞を喋るお婆さま。

 

 「というと?」

 

 お婆さまの意図が掴めず、思わず聞き返した。良い場所を見つけたのか、飛び回るのを止めてアクロアイトさまの背に乗っている。アクロアイトさまは嫌がる素振りは見せていない。ただ微妙な顔をしていたけれど。

 

 『聖樹だからそれなりに力は備わっているもの。切り株や添え木でどうにかなりそうだけれど』

 

 「向こうの方々は、それを行って聖樹が枯れてしまうことを恐れているそうです。そういう理由で実行には移せていないようですね」

 

 自国のことなのだから、隣国を頼らなくともと思ってしまう。

 

 『まあ、聖樹の力を超える無茶でもしていたのでしょうね。人間ってその辺りはお馬鹿だもの』

 

 「耳が痛いですね」

 

 アルバトロスも同じ状況になりかねない。聖女の魔力で障壁を展開し、自国防衛の柱としているのだから。軍と騎士団も運用しているけれど、ここ最近の情勢は落ち着いているらしく、公爵さまが『実戦経験者が少なくなっとる』と愚痴を零していた。

 実戦経験というのは魔物に対してではなく、人間相手ということだ。ただ対人類戦なんて経験したくはないというのが本音。公爵さまは何も言わないけれど、以前にそういう経験も積んでいるのだろう。じゃないと軍のトップになんて立てないだろうから。

 

 『そうよ~。だから十分に気を付けなさいな』

 

 アクロアイトさまの背から飛び、私の顔の前に飛んできたお婆さまは、右腕を伸ばして人差し指を私の鼻先に突き付けた。

 

 「はい」

 

 私が短く返事をすると、にんまりと笑って元の位置、アクロアイトさまの背中へとくるくる回りながら戻る。

 

 『良い返事ね。――そうそう、面白そうだから私も付いて行って良いかしら?』

 

 「問題はない気もしますが、代表さま達の許可は頂かなくてもよろしいのですか?」

 

 知らないのは不味い気がするので、念の為に聞いておく。

 

 『必要ないわね。私は気ままな妖精、この羽で飛んで自由に何処までもいけるもの!』

 

 それに貴女の魔力を吸っている所為か、力が漲っているのよねとお婆さま。妖精さんたちは無邪気で遠慮がないので、私の魔力を吸う頻度が多い。

 お婆さまもその一人で、私の下へやってきては問題ない量の魔力を吸い取って去っていく。最近ストールを手放せない理由の一端が此処にある。一番の負担は王国全土への障壁展開の為の魔力補填だったので、状況改善はされているけれど。

 

 「分かりました。代表さまたちには私から連絡を入れておきます」

 

 直通の魔法具があるので、連絡は直ぐに出来る。

 

 『あら、良いの?』

 

 「後から知った、という展開になりそうなので……」

 

 『よく分かっているじゃない!!』

 

 きゃっきゃと笑ってアクロアイトさまの背から飛び立ち、私たち三人の周りを数回飛んで、ぱっと消えたお婆さま。

 

 「妖精ってこんなものなのか?」

 

 「元気だね」

 

 ジークとリンがそれぞれ口にした言葉に、どう返事をしたものかと悩む私だった。

 

 ◇

 

 ――翌朝。

 

 リーム王国へと旅立つ為に王城の転移魔術陣がある場所へと、みんなで赴いていた。陛下や宰相さまに……まあいつもの王国上層部のメンバーが集まっていた。聖女としてなので、もちろん聖女の衣装を身に纏っている。極上反物で作り上げたアレである。アリアさまや侯爵家の聖女さまも聖女の衣装を身に着けている。

 

 「皆、十分に気を付けよ。相手は必死な状態だ。聖樹に何かあれば、どんな行動に出るかわからない」

 

 追い詰められた人間は突拍子もない行動を起こすからな、と陛下が仰った。確かに何の効果もありませんでした、では向こうも納得はしないだろう。

 その為に謁見場という公式の場で、失敗しても不問にして欲しいと向こうの王さまに伝えた訳だけど。ちなみにリーム王と第三王子殿下はまだ姿を見せていない。時間ギリギリでこちらへ案内されるそうだ。

 

 ちなみに派遣団の編成は以前よりも人数が随分と増えており、女性の比率も高い。女性の近衛騎士さまと教会所属の騎士さまも駆り出されたそう。

 前回も女性を多く派遣したそうだが、リーム側も儀式魔術ということで配慮してくれたそうだ。ただ今回は私一人での儀式魔術を行使する為、向こうが用意した女性では信用ならないと言いたいのか、自前での準備だった。

 

 教会側もシスターを数名派遣させるようだし。動乱騒ぎで大忙しだろうに、選抜された人もとばっちりを受けたなあとシスター方が居る方へ視線を向けると、見知った顔が数名。視線が合って軽く頭を下げると、シスターも頭を下げてくれる。その内の一人はにっこりと笑みを浮かべ、手を振っていた。

 

 嗚呼、同道者の中に入っちゃったのかあの人……もとい、クレイジーシスターは。

 

 私に治癒魔術を教えてくれた一人なのだが、教え方がとてもクレイジーな方だった。何処からかレンガを持ってきて自分の腕を折って『さあ、治癒魔術を掛けてみて下さい』だものなあ。

 勿論、痛覚無効かそれに準ずる魔術を施していたのだろうが、あの『ゴギッ』という独特な音は今でも忘れられない。そして綺麗に微笑みながら穏やかな声で、私に治癒を施せと言ったクレイジーシスターの嚙み合わない状況もだ。

 

 「どうした、妙な顔をして」

 

 「ナイがそのような顔になるのは珍しくはありませんが、その後には余り良い事が起こらない気がしますわ」

 

 私が微妙な顔になっていた事に気が付いたソフィーアさまとセレスティアさまが声を掛けてくれたけれど、セレスティアさまの評価が割と酷い。

 ただ、確かに私が訝しんでいるとその後は碌なことにならない気もする。セレスティアさまの言葉を聞いていたジークとリンが小さく吹いた。どうやら彼らもセレスティアさまと同じ認識のようだった。――好きで引き起こしている訳じゃないと否定したいが、大きな声を出すのも憚れられるので黙るしかない。

 

 「いえ、知っている方がいらっしゃったので」

 

 「教会のシスターたちか」

 

 「はい。以前に魔術を教えてくれた方々です」

 

 方々ということは複数居る訳で……魔術を教えてくれた先生のもう一人が盲目シスターである元々お貴族さま出身だったのだが、視力を失ったと同時に除籍されシスターの道を選んだそうだ。

 幼少期に視力を失った故か、第六器官となる魔力の感知にかなり長けた人で、少ない魔力ながら効率の良い使い方をする人。ある意味で私とは真逆の方なので、魔力操作はについてかなり厳しく指導を受けたのだが『センスがないですね』と匙を投げられた。

 

 お二人ともシスターとしてなら信者の方々から人気がある。あるのだけれど素を知ってしまっている私としては、なるべく近づくべきではない人たちと頭にインプットされている。

 

 「そう言えば教会は口伝での指導だったか」

 

 「口伝も良いですが、基礎を確りと頭に刻み込まなければあまり効率の良い教え方とは言えませんものね」

 

 紙って高価だから、魔力が備わっている人に口伝で教えているのだろう。もちろん教会にも魔術を解説している本もあるけれど、限られている人しか読めない。お二人の言いたいことは理解できるが、状況がちょっと違うと言うべきだろうか。

 口伝でも治癒魔術が使えるようになったのだし、酷く効率が悪いという訳でもないしなあ。うーん、魔術指南についての本を教会に寄付するべきか。そうすれば聖女さまたちの質が上がる可能性だってある。

 良い指南書は副団長さまに教えて貰えば良いだろう。離宮で魔術関連の本を沢山頂いた時、魔術の初歩に関して記してあるものが紛れていた。読んでみると分かり易く、それを踏まえて魔術を行使してみると、使用する魔力量が少なくなったから。

 

 「魔術指南書をいくらか寄付すれば状況は改善されますかね。後輩の質が上がるなら良いことですし……」

 

 「ああ、そうだな」

 

 「ですわね」

 

 もちろん、お金ではなく現物支給で。どうやら公爵家と辺境伯家も贈るそうな。思いつきで言ってしまったけれど、教会は王都だけではない。各領地に最低一つは建っているから、送り先に困ることはない。

 神父さまやシスターが王国の教会から派遣されたり、聖王国の教会からも派遣されることもある。聖職者の就職先となるから国や領地が潰れると、聖王国の教会は渋面になる。新しい国や領地が起こればホクホク顔にもなるが。

 

 「――っと」

 

 アクロアイトさまがリンの腕の中から私の肩へと飛んで移動すると、ジークとリンもこちらへやって来た。どうやら他の騎士の方と打ち合わせをしていたようで、アクロアイトさまは興味があったのかどうかは分からないがリンの腕の中に居た模様。

 

 「頑張ろうね」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 私がそう言うと右の拳を三人で出す。そうして拳面を突き合わせた。それと同時にアクロアイトさまが一鳴きしたので、アクロアイトさまも頑張るらしい。

 リーム王国から戻ればクレイグとサフィールも加わって、以前のように五つになる。早く終わらせて屋敷に戻って、二人の部屋や必要な家具や小道具に生活必需品を誂えないと。やることが一杯で大変だけれど、充実しているからいいか。屋敷の主となったし、私を支えてくれる人の為にも頑張らないと。

 

 そうして同道することになったアリアさまや侯爵家の聖女さまとも挨拶を交わす。今回彼女たちは魔力補填はせず、儀式の介添え人である。

 シスターたちも儀式の介添え人だ。ソフィーアさまとセレスティアさまは、政治面での補助と護衛の意味合いが強い。前回、儀式魔術を施行するのが突発だったので、介添え人となって貰ったけど。

 

 副団長さまやジークにリン、近衛騎士の方々は勿論護衛役である。私だけじゃなく王国側の人たちも護衛しなきゃならないから大変。アクロアイトさまも居るし、緊張感半端ないのだろうなあ。なるだけ迷惑を掛けないように、勝手な行動は控えないと。

 

 お婆さまは『良さげな所で合流するわ』と仰っていたので、私たちが聖樹に辿り着いた頃に転移でぱっと現れるのだろう。暫くすると、リーム王と第三王子殿下にリーム側の護衛騎士がアルバトロスの護衛騎士に守られつつ、移動してきた。

 

 「聖女殿、此度の助力感謝する」

 

 私へ近づいて胸に手を当て、リーム王から言葉を告げられた。

 

 「お気になさらず。アルバトロスや教会からの命ですので」

 

 リーム王国の為ではなく、アルバトロス王国側とアルバトロスの教会からの派遣要請を受けただけと強調しておく。

 私がリーム王やリームの民を慮ったと勘違いされて、お金をケチるだなんて愚行に走らないで欲しいし。またぐぬぬと顔を顰めたけれど、直ぐに引っ込めた。

 

 「聖女殿っ! 我が国の為に、病み上がりの強硬は本当に申し訳なく思う。此度の件が成功すればきっと我が父……リーム王やリーム上層部が貴女に多大な感謝を示すだろう!」

 

 聖樹は我が国にとっての要、失う訳にはならぬから期待して欲しいと満面の笑みを浮かべて第三王子殿下が言い放つ。尻尾をぶんぶん振っているように見えるけれど、殿下の父であるリーム王の顔が真っ青になり、リームの護衛騎士も顔色が悪くなる。

 殿下が勝手にアルバトロスに支払う報酬を上乗せしたような発言だ。そら向こうさんの顔色も悪くなるだろう。だって派遣は二度目になるのだから、一度目の派遣報酬も払わなければならない。予算編成とか大丈夫かなあと思うけど、裏金とか保留金とかありそう。

 

 教会のルールでは治りが悪かったり、症状が続くようなら二度目、三度目は無料となるけれど、国と国とのやり取りなので無効だ。お金が沢山貰えるなら、文句はない。病み上がりも、あの噂に信憑性を持たせる為の演技だ。

 

 時間が来たのかみんなが転移魔術陣の上に立つ。

 

 「聖女さま、行きますよ」

 

 転移魔術陣へ魔力を提供する役は副団長さまとなっていた。来い来いと副団長さまに手招きされたので、彼の隣に立つ。私に遅れて、ソフィーアさまとセレスティアさまが、数舜遅れてジークとリンも魔術陣の上に移動した。

 

 「向こうの準備も整っているそうです。――では、参りますよ」

 

 副団長さまが声を上げ王国上層部の皆さまが見守る中、リーム王国の城内にある転移魔術陣へ一瞬で移動を果たすのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。