魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0112:儀式前。

 ――リーム王国へ辿り着く。

 

 アルバトロス王国の城にある転移魔術陣を施してある部屋より少し狭く、質素というか簡素というべきか……そんな部屋だった。

 魔術陣を施している部屋なので、装飾品や家具がないのは理解できるが、それにしたって何もない部屋というのが印象的。リーム王国側も出迎えの人たちが待っており、しずしずと頭を下げていた。

 

 「どうしました、副団長さま」

 

 きょろきょろと部屋を見渡していると、副団長さまから視線を感じて問いかける。

 

 「いえね、沢山の方を転移させましたよね、僕」

 

 「そうですね。魔力切れを起こしていないのが不思議なくらいに」

 

 大人数な編成となったのでその分使用する魔力量も多くなる。普通の人ならば、魔力切れを起こして気絶してそうだが、そこは魔術師団の副団長の任を負う方で、平気そうな顔をしている。

 なにやら意味がありそうな言葉を言いつつも、私が肩に掛けてあるストールに興味深々のようで、私を見ているようでいてストールに視線が移っているもの。本当に魔術関連に対しての興味が貪欲だなあと、副団長さまを見る。

 

 「――こちらをどうぞ。身に着けていると魔力の回復が早くなる代物です」

 

 ストールではなくハンカチを副団長さまに手渡す。面積が小さくなる為に効果も弱くなってしまうが、持っていないよりはマシだろう。

 彼の性格を熟知しているソフィーアさまとセレスティアさまと、見慣れたジークとリンは苦笑しているけれど、他のメンバーがギョッとしている。そっか、私たちの関係性を理解していないと、聖女に無茶振りを振る副団長さまの図式になるのか。

 

 「よろしいのですかっ!?」

 

 「えっと……良いも何も、護衛役に支障をきたすのは問題がありますので」

 

 副団長さまは攻撃魔術に特化した方なので、問題が起これば広域殲滅魔術をぶっ放しても良いと陛下から許可が下りている。

 ようするにリーム王国側に囚われたり捕まりそうになるくらいなら、逃げても良いからなという陛下からの計らいなのだが、本当にそうなったら彼の頭に十円禿でも出来そう。そうなることは早々ないと思いたいが、リーム側はあと五年の猶予しかないので、切羽詰まっている。

 

 追い詰められた人間が理解の及ばない行動に出てしまうのは、よくある話。気を付けておくに越したことはないので、副団長さまにハンカチを渡した次第である。ただ副団長さまの場合、トリガーハッピーにならないか心配だけれど、自重は出来る人だから大丈夫……大丈夫だよね……。

 

 「ありがとうございます! 嗚呼、素晴らしい代物ですねっ! エルフの方々が丁寧に編み込み、妖精が鱗粉を施している!」

 

 このような物に触れる機会は一生ないと諦めていましたが、人生は何が起こるか分かりません、聖女さまにお会いできて本当に良かったと力説している副団長さま。やっべ……渡すんじゃなかったかなと、少し後悔していると人影が差す。

 

 「聖女殿、来て早々で申し訳ないが聖樹の下へ参ろう」

 

 転移の余韻から解き放たれたのか、リーム王がこちらへとやって来て口にする。自国に戻って安堵しているのか、彼の威厳とでも言おうかオーラがあった。

 

 リーム王国は一次産業、ようするに林業や農業を主にして生計を立てている。漁業は内陸部なので望めない。

 二次産業、三次産業もあるにはあるが最低限だそうで。ある意味で発展途上国状態。これが何百年と続いているままなら、リーム王家の政策失敗だと言えよう。そういえばリームって建国何年目だろうか。あまり気にしていなかったなあと、陛下を見上げた。

 

 「勿論です、陛下。――ご案内よろしくお願いいたします」

 

 お仕事の為にリーム王国へ出向いたのだ。そのことに対して文句はない。本来なら、お迎えのセレモニーや昼食会とか晩餐会が開催されるらしいが、聖女である。

 そんな政治的意味合いが強い場に参加しても意味がないし、社交を繰り広げる気もないから無駄。唯一の利点は美味しい物が口にできるくらいか。フランス料理やイタリア料理みたいに、国ごとに特色はあるだろうからそこだけは気になる。

 

 「頼む。――皆の者!」

 

 アルバトロス王国から聖女殿が派遣され聖樹へ向かうから、気を抜かぬようにとリーム王が告げる。

 

 「はっ!」

 

 リームの護衛騎士の方たちがびしっと揃って敬礼を執った。第三王子殿下も隊列に加わったので、付いて来るようだ。答礼を兼ねてリーム王が確りと頷くと、装備が豪華な騎士の方二名が私の前に立ち聖樹までの道筋や時間を説明してくれた。

 身長差があるので見下ろされる形になっているが、威圧感もなく紳士的。そうして転移魔術陣の部屋から暫く歩いて王城から中庭へと出る。暫く歩くと神殿のようなものが見え、その後ろにかなり大きな木が生えていた。

 

 『あれが聖樹なのね! あ、喋らなくても良いわよ。向こうの人間に気付かれるのも癪だものねえ』

 

 唐突に現れたお婆さまに驚く顔を見せるアルバトロス王国側の人たち。それでも限られた人しか見えていないようで、数は少なめ。

 後で女性陣には祝福が掛かるし、お婆さまにも伝えておいた方が良いのだけれど、喋る機会あるかなあ。肩に乗っているアクロアイトさまの反対側、私の肩に座るお婆さま。どうやら、解説役でも務めてくれる気なのだろうか。

 

 『専門じゃあないけれど、人間よりは詳しいはずね。エルフの二人からも話は聞いているけれど、あまり長くは持たなさそうな感じがするわ』

 

 他人事のように軽く言い放つお婆さま。

 

 『自然に逆らうのは人間の悪い所よねぇ』

 

 と言うことは枯れてしまった方がお婆さま的には、歓迎するということか。エルフの方々や妖精さんたちは自然と共に生きる種族。お婆さまの言葉や考えが理解出来なくもないが、私は人間なので悪あがきをする事を悪いとは言えないし、言う気もない。文明社会で生きた記憶もあるし、聖樹なんて不可思議なものに頼らなくとも、発展できると思えて仕方ない。

 

 リームが聖樹に頼り切りで、対策を練っていなかったことに対しては呆れるしかないが。

 

 自然を食い尽くすのは人間、それを補ったり復活させるのも人間だものなあ。植林に養殖なんて最たる例だ。知識と技術さえあれば時間は掛かっても、農業も発達できるだろうに。魔術具開発に力を入れれば、出来ると思うんだけれど。

 

 ……まあ、あまり関係ないか。

 

 私が考えることじゃないなと、頭を振って聖樹の下へと辿り着くのだった。

 

 ◇

 

 聖樹の下へと辿り着くと、神官さまたちが迎えてくれる。いろいろと感謝の意を唱えているけれど、適当に相槌を打ちつつ言葉を返し聖樹を見上げる。

 随分と大きく成長している巨木ではあるが、葉は落ちているし、枝も朽ちているところがチラチラと。大樹の骸とでも表した方が早いだろうか。この状態で五年延命しているだなんて信じられない。もう命が尽きている気がする……。私の肩から聖樹へと飛んでいき、暫くすると戻ってきたお婆さまは両肩を竦めて口を開いた。

 

 『あー……、もう駄目ね』

 

 やはりか。

 

 お婆さまが言うには、リーム王国の聖樹は竜、もしくは彼らに準ずる強力な個体が大昔に死んだ場所らしい。

 朽ちて魔素が大気中に放たれたことと、魔石が残り植物の種が近くに落ちたあと、周辺の大地に実りをもたらす大樹となった。地面を掘り返せば大きな魔石が出てくるが、魔石として利用するのは不可能。だから聖樹も力尽きたのだろう、と。

 

 聖樹の根幹となっている魔石が駄目だから、魔力補填をしても意味がないそうな。何千何万年も生きると言っていたけれど、この大木はどのくらいの時を生きていたのだろうか。

 

 『誇張ね。魔石の魔力が尽きれば、自然の物として死んでいくのみよ』

 

 五年延命出来ただけでも、上等な結果だったとみた。これ私が呼ばれる必要がなかったのでは。奇跡なんて引き起こせる訳がないし、出来たとしても延命が一、二年程度追加されれば良い方ではなかろうか。微妙な顔になりながら、神官さまたちの言葉を聞いているとリーム王がおもむろにやって来る。

 

 「聖女殿、儀式を頼めるだろうか?」

 

 お婆さまの姿が認識できていないようだから、声も当然聞こえないのか。参ったなあ、亜人連合国からお婆さまがやって来ていると伝えておけば良かった。あと全員に祝福も……いやでもリーム側に掛けるのはなんだか違う気もするし、微妙な所だ。取りあえず説得が正道だろうと、リーム王へと向き直り口を開いた。

 

 「陛下、これ以上の儀式を執り行っても無意味と存じます。別の道を模索した方が良策かと」

 

 私の言葉を聞いてリーム王の顔色が赤色へと変わった。

 

 「何を言う、聖樹は枯れてなどおらんのだっ!! 我が国は聖樹がなければ成り立たんっ!!」

 

 リーム王国は農業主体の国家で、芋などの日持ちする物を輸出しているらしい。確かに成り立たないが、聖樹に頼り切りというのもアレである。こちらの国の聖女さまの質は良いとは言い難いので、アルバトロス王国を頼るならば、今が良い転換期だろうに。

 聖樹に拘らない農業生産国家を目指して、二次産業や三次産業にも力を注げば国力は簡単に上がりそうだけれど。リーム王の言葉は後半が本心だろうなと、目を細めた。いやまあ、また依頼されるならお金を頂くだけなので構わないが、リームの民に影響が出るだろうから今回の派遣でケリをつけたい。

 

 「しかし、このままでは枯れる運命の下にあるだけではありませんか? 聖樹が枯れリーム王国に住まう方々も不安に駆られましょう」

 

 やはり他の道を模索してみては、ともう一度告げた。

 

 「出来るのならばやっておる……違う道を模索し実行して枯れてみろ、リーム王は無策で無能だと言われた末に国が亡びるのだ。それだけはなんとしても避けなければならぬ」

 

 気持ちは分かるが、魔力の補填で延命出来るならば人間だって可能となってしまうのだが。その辺りに気付けない程に切羽詰まっているのだろうが、こっちはいい迷惑である。来てあげているというのに、他国の王さまから怒鳴られる理由はない。まあ王さま故に仕方ないのだろうけれど。

 

 「では如何致しましょう?」

 

 「……魔力補填の為、儀式を執り行え」

 

 これの一点張りかあ。仕方ない、失敗しても文句は言わないと確約は頂いているのだ、依頼人であるリーム王がそう言うのならばやるしかないだろう。

 

 『意味がないでしょうに。何を考えているのかしら、この人間は』

 

 お婆さまは、相手に声が届かないことを知っていて私の隣で呆れた声を出した。私だってお婆さまみたいに『視野狭窄ぅ!』とか指を指しつつ声を出したくなるが、我慢。切羽詰まった人間は何をするか分かったものじゃないから、素直に従っておこう。

 

 「承りました。――儀式の際の介添え人はアルバトロス王国の者のみとさせて下さい」

 

 リーム側の人が交じっていたら何か引き起こしそうなので、保険である。それに真っ裸にならなきゃいけないし。

 

 「……仕方なかろう。分かった、飲もう。だが我が国の女騎士を護衛として数名残す、良いな?」

 

 護衛と言いつつ監視だろうな。妙な行動を起こせば切れとか厳命されていそうだ。そうなるとアルバトロス側の護衛騎士が黙っていないし、ソフィーアさまとセレスティアさまは高威力の魔術を放てる人だ。

 アリアさまと侯爵家の聖女さまも居るので、怪我に対しての対処は出来るから、リーム側の方が攻略難易度が高そう。リーム側の女性騎士の方が妙な気を起こさなければ良いが、その条件は飲むしかない。

 

 「はい」

 

 超不満そうな顔と声で私の要望を飲んだリーム王は、神殿の神官さまたちに何かいろいろと告げている。

 国の危機だから王さまが指揮を執っているのか、それとも聖樹の危機だというのに管理を任されているであろう神殿の人たちにその権限がないのか。リーム王にぺこぺこしながら神官さまやリーム側の人たちが去っていく。暫くするとリームの女性騎士が十名程残って、私やアルバトロス側に頭を下げていた。

 

 「大丈夫なのか?」

 

 「あまり良い感じは致しませんわね」

 

 「従っておくべきかと。失敗すれば諦めると言ったことを信じましょう」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の傍へと寄って小声で語り掛けた。二人もリーム側、というよりもリーム王の必死さに引き気味だ。私の言葉に確りと頷いて、周りの人たちへ声を掛けている。

 

 「では皆さま、準備をお願いいたします」

 

 私の声で男性陣が遠ざかって行くのを確認し、枯れそうな聖樹を見上げる。アクロアイトさまは興味があるのか、聖樹の根本へ移動していった。周りがハラハラしているけれど、直ぐに私の下へ戻ってきて肩の上に乗り一鳴きする。

 

 ――さて、どうなるのやら。

 

 成功すれば儲けもの、失敗しても私の魔力を失っただけで損失はないから、気楽なものではあるが。儀式魔術を行使する際は、裸にならなきゃいけないことだけは遠慮願いたい私だった。

 

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