魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
リーム王国の朽ちかけている聖樹の前に立っている。私の周りにはソフィーアさまとセレスティアさまが横に付き、さらにアリアさまと侯爵家の聖女さまが固めている。
アルバトロス王国の教会から命を受けたシスター方や、アルバトロス王国から派遣されている女性騎士の姿もある。リンは私の一番側で警護を務めつつアクロアイトさまのお守も一緒に、ジークは離れた場所で警備に就く。
ソフィーアさまとセレスティアさま、アリアさまに侯爵家の聖女さまとシスターたちは儀式の介添え人を務め、騎士の方々は私たちの護衛を務める。少し離れた場所で、リーム王国側の女性騎士の方々がこちらを見守っていた。男性陣は神殿の外にでて警護に付くそうで『蟻の子一匹通しません!』と意気込んでいた。
「――"告げる""汝らに我が祝福を"」
儀式魔術となるので介添え人のみなさまとアルバトロス側の女性騎士の方には二節分の祝福を掛けた。介添え人を務めない女性騎士に掛けても意味はないが、何かあった時の為の保険だ。
「え?」
「嘘」
「あら」
「まあ」
驚きの声は女性騎士の方々に多くあり、逆に侯爵家の聖女さまとシスター方はお婆さまの姿を見て、感嘆の声を上げていた。神職に就いているから妖精さんも認めやすいのかも。
『あら、私の姿が見えるようになったのね! まあ貴女の祝福だしね。――見えている人も、見えていなかった人もこんにちは! 興味本位でお邪魔させて頂いているわ!』
私たちの周りをくるくる回って、自己紹介になっていない紹介をしていた。亜人連合国のみなさまは積極的に名乗る風習はないので、穏当なのだろう。
『どうして黙っているのかしら?』
私が何も言わなかったことが気に入らなかったのか、眼前に飛んできたお婆さま。儀式は既に始まっており、喋ることは禁則事項だと伝えることも出来ない。そっとソフィーアさまがこちらへ近づいて恭しい態度でお婆さまと対峙する。
「申し訳ございません、儀式が既に始まっております故、式を行使する彼女は声を上げられないのです」
『そうなのね。理由は理解したわ。でもあまり意味がない気がするわね』
人間の魔術に詳しくないから無責任なことは言えないけれどね、と私から少し距離を取った。介添え人がやることは前回行ったことと同じである。香油やら化粧を施し、私を全裸に剥こうとしたその時。
『ちょっ、ちょっと待ちなさいなっ、裸にする意味なんてあるのかしら!?』
お婆さまがまた私の傍へと飛んできて、全裸に物言いをしてくれた。そして物凄く正論を言ってくれたのである。感動で咽び泣きそうになった。
「しかし、この方法が最適だと指南書に記されておりました」
ソフィーアさまが困った顔をして、彼女の言葉に対して答えを伝えると微妙な顔をした。
『確かにそうかもしれないけれどね……この子の場合、そんなの関係ないでしょうに。それに普通の反物じゃなく、エルフと私たちがあつらえたものを身に纏っているわ』
裸より断然効果はあるわよ! と自信満々で言ってのけたお婆さま。なんということでしょう、極上反物にはそんな効果もあるらしい。儀式だから裸よりエルフの方々と妖精さんたちが作った反物を身に着けている方が、確かに効果が上がりそう。
「……しかし」
「どうしましょうか」
ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を見合わせ困った顔を浮かべていると、盲目のシスターがしずしずと声を上げた。
「意見を述べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
シスターなので修道女の服を着込んでいる彼女は、視力を失った眼を覆い隠す為に薄布を巻いている。幼い頃に視力を失った所為で魔力探知に長け、魔力を感じ取り人が居る場所が分かるとは本人の談。私の魔力感知や魔力操作が下手くそだと言い切った人であるが、規律も教えも守るシスターである。
「え、ああ。構わない」
「このような姿で、貴族のご令嬢さま方の前に立つことをお許しください」
突然掛かった声にソフィーアさまが驚きつつも『気にするな』と声を掛けると、小さく頭を下げた後に彼女はもう一度口を開く。
「幼い頃に見えなくなった眼です。魔力の感知には少々の自負がございます。服を脱いだ後の黒髪の聖女さまよりも、お召し物を着ている聖女さまの方が魔力の波が安定しておりました」
『へえ、人間でそんなことまで分かるだなんて凄いわね!』
「お姿は見えませんが、貴方さまの魔力は感じております。――人ではない方であり、人知を超えた力をお持ちになっていることも」
『ふふーん。よく見ているわね! 私は妖精。随分と長く生きているから、貴方たちよりも博識よっ!』
博識ならばこの朽ちた聖樹をどうにかする術を教えて下さい。本当にこの後、碌な事にならない気がする。リーム王が変な気を起こさなければ良いけれど、切羽詰まってそうだからなあ。
『……む。妙な事を考えていそうね』
私の顔の前で、飛んだままホバリングしているお婆さまが微妙な顔をした。
『聖樹はもう駄目よ。だって核である魔石が機能していないんだもの』
あれ、辺境伯家の若木が大樹に変わったのはなんでだろう。私の魔力を取り込んだのが一番の理由だろうけれど、何か他にも訳がありそうな。
「あの質問をよろしいでしょうか?」
セレスティアさまが珍しくおずおずと言った感じで、お婆さまへ言葉を投げた。
『ええ、もちろん』
「我が領……ヴァイセンベルク辺境伯領はご存じでしょうか?」
『ごめんなさい。人間の表現は理解しかねるわ……』
「では、彼の方が尽きた場所と表せば良いでしょうか」
セレスティアさまがリンとアクロアイトさまの方を見ると、お婆さまも一緒に視線を移した。
『その方が私にとって、理解しやすいわね。それで、どうしたの?』
どうやらセレスティアさまも、私と同じようなことを考えているらしい。
「浄化儀式の際に魔石は卵と変わりましたが、若木が生え黒髪の聖女さまが無意識で魔力を注ぎ込み、たった一ケ月で大木となりました」
『竜や強力な個体よりも多い魔力を注ぎ込んだ証拠じゃない! 魔力を取り込んで自然を超越したのよ。時折、そういうことも起こるらしいわ。あまり見たり聞いたりすることは少ないけど』
だったら存分に魔力を注ぎ込めばイケそうな気がするけれどなあ。そんなに簡単にいかないものだろうか。
「ですので、彼女が儀式を執り行えばまだ可能性があるのでは、と」
『うーん。それでどうにかなるなら、五年だっけ? 五年と言わず百年、二百年は伸びているわよ。ようするに寿命、宿命ね』
ご意見番さまは強力な個体の中でも最上位に位置する方。だからこそ儀式の際に魔石から卵に変わることも出来たし、朽ちた場所で空気中の魔力量――ようするに魔素――が増えた。
植物が成長しやすい条件下で更に追加で私が馬鹿魔力を注ぎ込んだから、阿呆なほどの成長を見せたらしい。奇跡の産物だそうで。
『まあ、あの人間の所為で儀式は行われるもの。気になるなら試してみるのもいいんじゃないかしら?』
お婆さまが私を見る。前回の儀式を執り行って五年しか伸びないなら寿命らしい。どちらにしろ、あまり期待は出来ないが一つ賭けてみるのも悪くはない。私を全裸に剥くか、聖女の衣装を纏わせるのかすったもんだした後に、服を剥かれることがないまま儀式へと移行するのだった。
◇
――全裸じゃない!
これほど嬉しい事があるだろうか。いや、ない。羞恥プレイもいい所の儀式魔術の最大の欠点をお婆さまは無くして下さった。
あとはエルフの方々や妖精さんたちが手伝って作ったあの極上反物で、サイズ違いで複数枚作って教会に寄贈しよう。涙目にならずに儀式魔術を執り行える。リーム王国に赴いた意味を見いだせて、テンションが上がってる。
――本当に良かった。
言葉にすることは出来ないので心の中で叫ぶと、顔がニヤニヤしてくるのが分かってしまう。儀式なのであまり他所事は考えない方が良いなと、頭を振って頭の中をすっきりさせた。
魔力補填の儀式なので、浄化を執り行う為の儀式魔術よりも幾分か簡単な行程で済む。聖樹の下へと一人で歩いて行き、木の根元でしゃがみ込む。興味があるのか無言でお婆さまもこちらへ来ているし、先ほどまでリンの腕の中に居たアクロアイトさまもこっちに来ている。
「――"告げる"」
体内にある魔力を練るとふわりと髪が揺れ、最初の起動詠唱を唱えると魔力のうねりで、髪が更に揺れた。
「――"我が力を分け与えよう""疾く取り込め""己がものにせよ""」
全部で四節の魔術を唱え最大限の魔力を聖樹へ送り込む。どうにも嫌な予感しかしないので、成功する可能性が少しでもあるならと、アクロアイトさまが私の魔力を吸い取る時よりも随分と多く注ぎ込んだ。
というか、傍に居るアクロアイトさまは漏れている魔力を取り込んでいるし。魔力の取り過ぎでおデブになったら、どうしよう。肥満になって空を飛べない竜とか笑えないけれど。私の思考を読んだのかアクロアイトさまが一鳴きしたので、おデブにはならないと言いたげだ。
『うわ……呆れた。本当に馬鹿みたいな魔力を注ぎ込んだわね。まあ、良いけれど……』
お婆さまは『意味ないのに』とぼやきつつ、漏れている魔力をついでとばかりに吸い込んでいた。ちゃっかりしているなあと目を細めつつ、聖樹の様子を伺う為に顔を上げた。今のところ何の変化もなく朽ちた大樹のままである。うーん、お婆さまの言った通り魔力を多く注いでも意味はなかったかと、落胆してしまう。
『え、嘘でしょう?』
お婆さまが目をひん剥いて驚きの声を上げた。お婆さまとの付き合いは短いが、驚くなんて珍しい気が。亜人連合国の方たちって、何があってもどっしりと構えているイメージがあるけれど。妖精さんだから感情豊かなのかなと、お婆さまをもう一度見る。
『見て見なさい! あそこ!』
「…………っ!」
目を細めて、お婆さまが指さした場所を見上げると、木の枝の先から新緑色の芽が生えていた。それも時間をおくと、どんどん増えている。また時間が経つと、朽ちていた幹は息を吹き返し、幹から生える枝が伸び、若葉をびっしりと纏わせていた。
『貴女、本当に規格外ねえ……私も長く生きて来たけれど本当に驚いたわ』
でも本当に大丈夫なのかしらとお婆さまが小声で呟いた。聖樹の核となっている魔石が駄目だものなあ。取りあえず儀式は終わったので、もう喋っても大丈夫。
遠くから聞こえる歓喜の声を背にしながら、お婆さまと聖樹を見上げる。アクロアイトさまはリンの下へ向かったので『終わったよ』と知らせに行ったのだろう。服の裾を飛びながら噛んで、付いてきて欲しい所に導くことを最近覚えたようだし。
「延命出来ただけでしょうか」
『そうね。見た所五十年が精々、かしら?」
「聖樹を維持できる魔石を手に入れて、接ぎ木や挿し木という方法では駄目ですか?」
五十年あれば、リーム王国が聖樹を維持するか、脱却する方法を必死で模索するだろう。それはアルバトロス王国や私の仕事じゃあないのだし。
『アリじゃない? 成功するかどうかは分からないけれどね。聖樹が生きたいと願っているなら可能性は高くなるでしょうけれど』
なるほど、聖樹の意思次第という訳か。あれ、なら魔石が駄目になって聖樹が枯れたのならば、聖樹はもう生きたくないってことなのだろうか。余計なことをしたかもと聖樹を見上げる。
瑞々しく生い茂った葉と大きな幹と枝から感じることは、ずっとこの場所に根を張って生きて、長い時間を人と共存してきた。搾取されることに疲れたのか、単純に寿命だったのか。それは聖樹自身にしか分からないことで。人間が出来ることはたかが知れている。
「魔力だけでなく肥料や堆肥を与えれば、聖樹の寿命を更に延ばすことが出来ませんか?」
『う~ん。魔石に偶然種が落ちて育った時点で、魔的な要素を取り込んでいるから通常の植物と同じと考えない方が良いわね。あ、もちろん多少なら効果は認められるでしょうけれど』
どうやら妖精さんでも分かっていない所も多いから、断言はできないみたい。あと個体差もあって千差万別だそうだ。魔力という不可思議なもので成り立っているから、解明出来ないことも多いのだろう。
「ナイ?」
アクロアイトさまがリンの肩口の服を噛んで、飛びながらリンを連れてやって来た。リンの方へ振り返って『終わったよ』と告げると、彼女は後ろへ振り返り片手を軽く上げた。
恐らく介添え人役の人たちを呼ぶための合図なのだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまが真っ先に歩き出し、侯爵家の聖女さまとアリアさま、続いてクレイジーシスターと盲目のシスターがこちらへと歩いて来た。
「望みは薄そうだと思っていたが……」
「流石ナイですわ! 我が領の大木もこの聖樹のようになるのかしら……?」
ソフィーアさまとセレスティアさまが、息を吹き返した聖樹を見上げて声を上げた。
「ナイさま、凄いですっ! こんな元気になるだなんてっ!」
「……素晴らしいですわね」
アリアさまが私に近づき無邪気に微笑み、侯爵家の聖女さまは聖樹を見上げてポツリと零した。
「術の効果を魔力量の多さで誤魔化していた貴女がこんな奇跡を起こせるだなんてっ! 嗚呼、感激致しました!」
「まだまだ魔力操作が甘いですが……しかし凄い量を注ぎ込みましたね。聖樹を伝って大地へ魔力が流れている雰囲気も感じ取れますが……」
テンションが凄く高いクレイジーシスターとじっと私の方へ顔を向けて手厳しい事を言ってのけたシスターズ。まあ、これが二人の普通なので気にしてはならない。
「失礼致します!」
リーム側の女性騎士がこちらやって来て、リーム王やリーム側の人間を呼んできても構わないか問い掛けてきた。儀式は終わったので問題はないですと伝えると、嬉しそうな顔を浮かべ他の人に命じて走らせていた。
「リームにとって聖樹はなくてはならない、か」
「頼るのは構いませんが、頼り切りというのも如何なものかと」
ソフィーアさまとセレスティアさまが小声で話していた。確かに頼るのは良いけれど、頼り切りというのもなあ。
アルバトロスだって障壁維持が出来なくなった時の為に軍や騎士団を持っているし、魔術師団もある。リームにはこれから頑張って貰って聖樹に頼らない一次産業を目指して貰わないと。
「聖女殿っ!」
リーム王が息を切らしてこちらへとやって来た。アルバトロス側の男性陣も一緒に来たようで、ジークと副団長さまがしれっと私の横へ立った。リーム王国の第三王子殿下もやって来ており、嬉しそうな顔を浮かべているけれど、残念なお知らせを告げなければならなく気が重い。
「真に、真に感謝するっ!!」
いや、うん、ねえ。一国の王さまが泣きそうな顔をして、私に感謝の意を伝えているのだけれど、どうしたものか。
『早く伝えた方が良いんじゃない?』
確かに、さっさと伝えなければタイミングを逃すだけで良い事なんてなにもないなと、聖樹の寿命は五十年延びただけだと伝える意を決する。
「――ぅん?」
はらり、と茶色い葉っぱがひらりひらりと落ちてきた。一枚落ちるのが視界に入ると、二枚、三枚、四枚とどんどん多くなっていく。しかも緑色の葉ではなく、全て茶色の枯れ葉。聖樹を背にしていたので、聖樹の方へ向き直る。
「――枯れてる」
先程まで瑞々しく生い茂っていた葉と大きく太い幹を携えていたはずなのに、儀式を執り行う前へ戻っていた。大樹の骸と称したが、それより酷い状態になっていた。あ、とリーム王を見る。
「……う、嘘だ……ははっ……元の状態に戻ったのだぞ……何故、それが……嘘だ、嘘だぁぁああああああ!!」
リーム王の絶叫が辺りに響き渡り、ショックが酷かったのかその場へばたり倒れ込み意識を失った。やばい、と背中に汗が伝うのが分かる。
「へ、陛下っ!?」
「陛下ぁぁあああ!!」
リーム王が倒れ、護衛騎士たちがざわつき始め状況を把握してくると、彼らの意識が私たちへと向くのは当然だった。