魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
私が聖樹に魔力補填して五十年延命出来たと思ったら、直ぐに枯れ果てた。え、聖樹ってこんなに脆いものなのと、朽ちた大樹へ向けていた視線をリーム王国の方々へと向ける。聖樹に魔力補填したばかりなので、魔力量がごっそり減ってはいるが、アルバトロス王国のみんなを守る為の防御魔術なら展開できる。
逃げるか、戦うか、諭すのか。
副団長さまやジークに護衛の騎士さまたちに緊張が走る。非戦闘員の人たちを、静かに真ん中へと誘導させる辺りは流石であった。
「貴様らぁ!」
「陛下に何を!!」
今にも剣を抜きそうな勢いで、口々に罵倒が私たちに浴びせられる。リーム王が倒れてしまったので気持ちは理解できるけれど、失敗しても責任は負わないとリーム王から確約を貰っていることを忘れ去っているらしい。取りあえず状況を整理したいけれど、それが許される訳もなく。
「皆、落ち着けっ! 聖女殿を責めるのは筋違いだっ!」
やたらとデカく太い声がこの場に響いた。声を上げたのは第三王子殿下、ずかずかと歩いてきて私の前に立った。
「ギドさま……」
「……ギド殿下」
そう言えば第三王子殿下の名前ってそんな感じだったなあと、私を背に庇ってくれている人を見上げる。状況を見ているだけかと思っていたが、すかさず割り込んでくれた事には感謝しなければ。
「何が起こっても構わないと陛下が願い、聖女殿が魔力補填を担ってくれたのだ。彼女を責めるべきではないっ! ――申し訳ない聖女殿。我が国の者の無礼、お許し下さい」
恭しく頭を下げる第三王子殿下。阿呆の子だと思っていたのに、今回は随分と確りしている。
「お気になさらず」
格下とはいえ王族に丁寧にされると、こう言うしかないよなあ。対応大丈夫だったら、良いけれど。
「近衛の者は陛下を城へ運べっ! あと兄上……王太子殿下をこの場に!」
「はっ!」
国のトップが倒れたのだから王太子殿下が呼ばれるのは当然か。リーム王の子供だから、リーム王と同じような思考だったりするのだろうか。
兎にも角にも、話が通じて柔軟な対応を取れ、第三王子殿下より抜けている人でなければ良いのだけれど。リーム王がこの場から運ばれるのと同時に、王太子殿下が近衛騎士に守られつつやって来た。
「兄上、こちらです!」
急いでいたのか少し息を切らし第三王子殿下の言葉に軽く手を上げ、私たちから少しは離れた場所で一度立ち止まり息を整えてからこちらへと王太子殿下が来る。
「聖樹が一度息を吹き返し、再び枯れたと報告を受けたが……状況が酷くなっているではないか」
ぼそりと呟く殿下に心の中で誠にごめんなさい、と謝る。まだ喋りかけられていないので、謝罪も出来ないけれど。てっきり寿命がある程度伸びるだけだと考えていたのだけれど、魔力を注ぎ込み過ぎて老体にムチ打ったような感じになってしまったのだろうか。
『魔力を注ぎ込み過ぎたかしら。まあいずれにせよ……――どんな生き物にも死は必ずやって来る。聖樹と言われているけれど、例外なく生き物だもの諦めましょう』
お婆さま、そこで諦めると試合終了というか、人間の意地汚さが発揮できないというか。リームの王家が滅びても構わない。おそらく首がすげ変わるだけで、残った高位貴族の誰かが王族となるのだろう。ただ、リームに住む人たちに責任はないよなあ。一応、五年持つと言われていた聖樹を枯らしたのは私なんだし。
――参ったなあ、けれど……。
お婆さまの姿も声も聞こえていない王太子殿下がふうと息を吐いて、聖樹を見上げていた視線を私に向け身体も向け、自己紹介。私も彼に自己紹介を返し、視線を合わせる。
「聖女殿、この度は聖樹への魔力補填感謝致します。ですがこのような状況は我々も想定外……魔術や神秘に関して知識の浅い我々はどうすれば良いのか……」
「王太子殿下、此度の一件は何が起きても我々アルバトロス側は責任を負わないという話になっております」
「ああ、陛下から昨夜連絡を受けている。申し訳ないが、我々も聖樹が枯れたことに対しての協議を行いたい」
来て早々だが帰国の途に就いてくれまいかというのが、王太子殿下の言葉だった。失敗しても責任は負わないようになっているから、アルバトロスに戻っても問題はない。アルバトロス国王陛下も失敗したことに文句を付けないだろうし、粛々と派遣料を請求するだけ。
「承知いたしました、と頭を垂れるべきなのでしょう……ですが、王太子殿下に一つお願いしたいことがございます」
「何か申して見せよ」
訝しげな顔をしつつも、許可をくれた王太子殿下。
「はい。我々アルバトロス側にも協議の場への参加と、枯れた聖樹の調査をご一緒にさせて頂きたいのです」
話し終えたあとに枯れた原因を徹底調査するのだろうけど、他国に頼る時点であまり期待が出来ない。それなら話に加わって、案や軌道修正させつつ聖樹復活の道を模索した方が良さげである。石頭そうなリーム王は都合よく気を失って、暫く目を覚ますことはないだろうし、王太子殿下の方が話を落ち着いて聞いてくれそう。
「そ、それは……」
内部事情を話すことになるだろうし、弱みを知られる可能性だってあるから、王太子殿下が躊躇するのは理解できる。本来ならリーム王が決断を下すべき案件だが、当の本人は気絶中。副団長さまの知識は豊富だし、お婆さまも居るからどうにかなりそうな気もするけれど。
『私も行くの? 面倒ねぇ……』
――魔力。
『分かったわ。協力しましょう!』
お婆さま、チョロい……。魔力魔力と念じるとコロッと態度を変えてくれたし、なんだかウッキウキなのだけれど可愛いからいいか。
「本来ならば国王陛下が決めるべきでしょう。ですが、聖樹が朽ちてしまったと同時、陛下もお倒れになりました。今、決断すべきは王太子殿下ただお一人なのです」
内政干渉と言われると引き下がるしかないが、事態の重さに思考力が下がっているだろうと、詰め寄ってみる。あと、決めたのはアンタだからなという、遠回しな牽制も含まれていたりする。さあどうするよ、と王太子殿下と確りと視線を合わして、答えを促す。
「分かった、同席を認めよう。だが、君たちに我々が乞うことは聖樹に対する助言のみだ」
聖樹を枯らしてしまったことで、議会の場で矢面に立たなきゃいけないことは理解している。ただ、これを放置するとリーム王国の国民に波及するし、アルバトロスの面子も潰れるので、どうにかしなきゃならないのだ。
「感謝致します」
それ以上は望んでいない。内政干渉ぎりぎりの所だから、高望みはしない。お婆さまと副団長さまに意見を頂きながら、適宜軌道修正が一番良いだろう。
さて、あとは事後報告になるけれど、アルバトロス側に報告して、議会の皆さまに受け入れられるのか、それが一番の問題だろうなあと枯れ果てた聖樹を見上げるのだった。
◇
聖樹が魔力補填によって息を吹き返したかと思いきや、見事に枯れ果てた。
その事実にショックを受けてリーム王は倒れてしまうという悲劇。国のトップがこれしきのことで倒れてどうするのだろうか。なんだか他国が攻めてきたら玉座に座ったまま『我が国は終わった』と言い残して、戦わずに負けてしまいそうだ。
妙な事を考えつつ、リーム王国側の神官さまたちが遅れてやって来ていた。彼らは皆同様に膝を突き頭を抱え絶望している。リーム王と同じような行動に、リーム王国の聖樹が枯れた原因の一端は彼らにもあったのではないだろうかと訝しむ。
王太子殿下や第三王子殿下は現場指揮の為、いろんな人に差配している。それが終わるまでは、朽ちた聖樹の下で待機時間となっていた。その間に外務卿さま――居たのね――に頼んでアルバトロス王国への連絡と報告をお願いして、私たちはその返事待ちである。
「どうにか切り抜けたか」
「いっそ暴れてくれた方が良かったのでは?」
ソフィーアさまとセレスティアさまが、雑談に興じていた。それでも良かった気もするが、それだと民が救われない気がする。
リーム王国の失政を国民がダイレクトに背負う状況は、回避したい所。というか『黒髪の聖女が我が国の聖樹の命を奪った』と吹聴されかねない。その噂はたちまちリーム王国全土に広がり、時間が経てばアルバトロス王国へも広がるだろう。
「馬鹿を言え。そう簡単に手を出すものじゃないさ」
確実に勝つ準備を整え、我が国が『悪』と周辺国から言われぬよう根回ししてから手を出さねばなあ、とソフィーアさまが言う。
嗚呼、こういう所は公爵さまの孫娘だなあと実感する。
「確かに。……――」
ですがリーム王のあの態度はあり得ません、とかなりの小声でセレスティアさまが。確かに一国を背負う王さまの態度、というか器量ではない気がする。聖樹は遅かれ早かれ枯れたのだし、その対策や枯れた時の覚悟を決めていないのは如何なものか。
「ナイ、向こうの会議に出てどうする?」
ソフィーアさまは私の意図が分からなかったのか、小さな声で問いかけた。
「助言だけの許可です。あまり効果はないでしょうが、ある程度誘導は可能かと。枯らした責任もありますし、ここはさっさと帰るのではなく協力して誠意を見せておいた方が良策と判断します」
「……それは、そうだが。良いのか?」
「副団長さまやお婆さまの知恵を借りることになりますが……」
「僕は構いませんよ。聖樹にも興味がありますし、調査に同行できるなら見ているだけでも、何か得られるものがあるでしょう。――ところでお婆さまとは?」
「あ」
そうか私の祝福が、副団長さまに掛かっていないから分からないのか。副団長さま程の方にも見えないなんて、妖精さん凄いなあと思ってしまう。無茶振りくんが妖精さんの姿を捉えることが出来たのは、無茶振りくんが認識できるようにと私がお願いしたからだ。
「副団長さま、私の祝福を受けて頂いても構いませんか?」
「!! 勿論ですとも! 異論なんてありませんよ。むしろ何節でも掛けて欲しいくらいですっ!」
滅茶苦茶早口で言い切った副団長さまに苦笑いを返し、では失礼してと告げ。
「――"神の祝福を""聖女の名の下に"」
二節分掛けておいた。アルバトロス王国の最大火力であろう副団長さまだし、何が起こるか分からないので保険というやつだ。またリンが拗ねそうだけれど、どうにかなだめすかそう。屋敷に戻ったら、彼女から何を言われるやらと苦笑して、副団長さまを見ると恍惚とした表情で自身の両手を体の前に出して眺めていた。
「おおっ、聖女さま!! これは素晴らしい! 魔力の総量がいくらか上がった気がします! あと今なら詠唱速度が短くなりそうな気がっ! 嗚呼、試し打ちが出来ないのが残念でなりませんっ!」
いや、状況解説は良いからお婆さまを認識してあげてくださいな。さっきから彼女は貴方の態度にドン引きして、私の背中に回って遠巻きに見ておられますが。大丈夫かなあと暫く眺めていると、正気に戻った副団長さまが向き直った。
「私としたことが、失礼しました。――……っ!!!?」
お婆さまをようやく認識した副団長さまが、珍しく目をひん剥いた。
『なんだか嫌な感じが……』
「こ、これは……――妖精さんですか? 本当に!? 文献でしか知ることが出来なかった存在を、この目で見ることが出来るだなんて!」
妖精の部分だけ小声になる副団長さま。どうやらその辺りの理性は残っているようだ。私も気を付けなきゃなあと周囲を気にしつつ口を開く。
「はい、妖精さんです。亜人連合国の妖精さん方の長で皆さまから"お婆さま"と呼ばれております」
お婆さまが警戒して喋ってくれないので、代わりに私が説明した。ソフィーアさまとセレスティアさまは、副団長さまの行動はいつも通りだと認識して何も言わないし。
うーん、彼に祝福を施すべきではなかったかなあと疑問になってきたが、お婆さまの声が聞こえるのと聞こえないのじゃあ状況が変わりそう。我慢して下さいお婆さまと顔を後ろへ向けると、意を決したように副団長さまの前へと出て行った。
『よ、よろしくね』
「はい、よろしくお願いいたします。亜人連合国の方々は名乗る習慣がないと聞いておりますが、ハインツ・ヴァレンシュタインと申します。以後お見知りおきを」
胸に手を当ててお婆さまに挨拶をした副団長さまがにっこりと微笑んだ。
『ん』
「僕も聖女さまと同じように貴女をお呼びしても問題はありませんか?」
『そこ、気にする所なのね。問題ないわ、不便でしょう』
怯えていた割には普通に会話をしている、お婆さまと副団長さま。どうなるかと思ったけれど、どうにかなりそう。
「ありがとうございます。――早速で申し訳ないのでが聖女さまに聞いたところによると、聖樹の核である魔石が駄目だとか」
『ええ、もう駄目よ。諦めて聖樹に頼らない方法を模索した方が建設的だわ』
「お婆さまのお気持ちは十分理解できますが、聖樹に頼り切っていたのがこの国です。直ぐに依存から抜け出すというのは難しい問題でしょう」
『まあ、人間だものね。貴方の言いたいことは理解できるかしら』
「通常であれば挿し木や接ぎ木、弱っている部分を切り落として再生を試みますが……無駄、なのでしょうね」
『魔石の力で植物が生きる本来の時間を超過させていたの。魔石が機能していない時点で、もう無理で無駄。一つ可能性があるとすれば魔石に挿し木かしらね』
お婆さまの言葉になるほどと頷く副団長さま。気が合うのか、それとも副団長さまの興味が凄いのか、はたまたお婆さまが律儀に答えているからか。二人の会話が成り立っていることに安堵しつつ見守っていると、クレイジーシスターに手を引かれながら、盲目のシスターがこちらへとやってきた。
「お話の途中に申し訳ありません。皆さまに、一つだけ申し上げたいことがありまして……――」
そう言って盲目のシスターが語った言葉に、一筋の光が差したような気がしたのだった。