魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
アルバトロス王国のみんなが待機していた部屋に、王太子殿下と第二――こっそり外務卿さまが教えてくれた――第三王子殿下と数人のお貴族さまが現れた。随分と緊張した様子なのだが、一国の王族なのだからそんなに固まらなくても良いような。リームのお偉いさん方の登場に、席から立って頭を軽く下げる。
カチコチのリーム側と普通の雰囲気を漂わせているアルバトロス王国の面々。政治面はからっきしの私が碌な答えを導くことが出来ず、国力の差なのかもと適当に考えていた。
「アルバトロス王国の皆さん、そして黒髪の聖女殿。この度はリーム王や我が国の貴族が不遜な態度を取り貴国への礼を失していたこと、倒れたリーム王に代わって謝罪する」
開口一番、王太子殿下が腹に力を込めて出したであろうその声の後に思いっきり頭を下げ、周りの人たちまで彼に倣い一斉に頭を下げた。王族三人とお貴族さま――他国だけれど――が頭を下げているという状況を、どうすれば良いのか分からず左右を見ると『お前に任せる』という顔で。
『うあっ! みんな頭を下げちゃったっ!』
お婆さまが向こうの人たちに聞こえないことを良いことに、好き勝手言っている。私が代表となるなら貴族としてではなく聖女さまムーヴをかますしかないじゃないかと、ヤケクソ気味に口を開くのだった。
「殿下、皆さま、頭をお上げ下さい。――リーム王は何が起こっても責任は問わないと確約して頂きましたが、聖樹を枯らしてしまったことにわたくしは心を痛めております」
『嘘っ! そんな事思っていたのっ!? そりゃ多少は思ってはいたでしょうが、気にしていたらもっと落ち込むでしょう? 貴女、そんな気配全くなかったじゃないの!』
お婆さまうるさいですよ、逃げて行った猫を集めてまた被り直しているんですからちょっと黙って下さいな。取りあえず、私の言葉で殿下方は頭を上げた。
『えー……私や変態魔術師に丸投げしようとか考えていなかった?』
違います、助力を乞おうとしていただけです。
――魔力あげない。
『…………』
「変態魔術師ですか、光栄ですねえ」
お婆さまが黙り、妙な事を小声で口走った人が約一名。聞こえなかったことにして、王太子殿下方へと更に語り掛ける。
「聖樹が枯れ果てた今、その恩恵を失うのはリーム王国に住まう皆さま。
個人を強調しておく。決してアルバトロス王国が助ける訳じゃないから、そこの所だけは勘違いをしないで欲しい。外務卿さまや副団長さまも会議の場に参加していたが、私が個人的に同席をお願いしたと言えば体裁は整えられるはず。
「聖女さま……。我が国を憂いて下さり感謝致します。ですが、これ以上を貴女に求めるべきではないと皆で判断いたしました」
だからアルバトロス王国へ戻っても大丈夫だそう。いやいや『手伝う』って言ったじゃないか。というか、リーム王国内をウロウロ出来る権利をもぎ取らないと。聖樹から逃げた大量の私の魔力がどこに行ったのか知りたいし、副団長さまがその件についてノリノリだったから、帰ろうとしたら『僕だけ残りますね』とか言い出しかねない。
「王太子殿下。ひとつ、お伝えしたいことがあります」
「何か?」
「はい、それは……――」
魔力補填を行う前までは聖樹にはまだ魔力が残っており。私が魔力補填をしたと同時に聖樹の魔力が私の魔力と同化して、地面を伝ってどこかへと消えた。聖樹が一瞬だけ元気を取り戻したのは、ご飯を沢山食べてから死ぬ老人のようなものだとお婆さまが。
ただ、どこかに消えた魔力の行方は分からない。人体から魔力が放たれると、魔力は気中に溶け込む性質がある。時間が経つと馴染んで魔素となり、周囲の植物や生き物が取り込めば育成促進されたり、強くなったりするのだとか。魔素が濃いほど顕著に効果が表れるそう。
聖樹の周りに私の魔力が霧散しなかったのはおかしい事態で、盲目のシスターが言った地中を通ってどこかへ消えたというなら、なんらかの意思が働いているとか。仮にそれが聖樹の意思だとすれば……リーム王国の聖樹を務めることに嫌気が差したとすれば。
――なんとなく今回起こったことに合点がいく。
というのがお婆さまと副団長さまに、盲目のシスターとクレイジーシスターの見解。
王太子殿下に全て伝える訳にはいかないので『残っていた聖樹の魔力と私の魔力が同化して地面を伝ってどこかへ行った』と教えて。
「なんとっ! 聖樹は枯れた訳ではなく、どこか違う場所へ移動したと申されるのかっ!?」
「王太子殿下、まだそうと決まった訳ではありません。確証を得たい為、わたくしは消えた聖樹の魔力を追いたく存じます。リーム王国内の移動許可を頂けませんか?」
勿論、そちらの手を煩わせる気はなく、護衛や道案内役などは不要と言った。
「――聖女殿の意思は理解した。直ぐに王国内散策の許可をと言いたい所だが、我々リームの事情を知って頂きたい」
内部事情を語って大丈夫なのだろうかと訝しむけれど、王さま派と王太子殿下派は対立していそうだし、聖樹が枯れた今、王さま派の弱体化は必然といえる。なら次代の王である彼の言葉を聞くのも悪くはないだろうと、案内された席へと座る。
「まずは先ほども申したが我が父が大変失礼した。アルバトロス王国の謁見場で見苦しい態度を見せたと、ギドから報告を受けている」
王太子殿下は第三王子を見て頷くと第三王子殿下も頷き返した。『父』と言ったから今度は個人として謝りたいということだろう。
しかし、リーム王の態度を諫めなかったのは、彼が王として役に立たないからではないだろうか。彼らの中ではもう『王』と呼ぶ価値がないほど株が下がっていたりして。あり得そうだよなあ。私からすればリーム王よりも王太子殿下の方が話が通じるから有難いけれど。
「ギド」
「はい、殿下。――聖女殿、アルバトロス王立学院では不躾な事を突然願い、本当に申し訳なかった」
王族であれば私が断れないことを知っていて頭を下げたそうだ。私が臥せって代理人が寄越されたのは想定外だったが、五年延びただけでも王太子殿下らにとっては満足のいく結果だったそう。
五年の間でどうにかなるものではないが、少しずつでも聖樹からの脱却を図り聖樹がなくとも大丈夫だと国民に示したかったらしい。
ヴァンディリア王国の第四王子殿下とは偶然に話しかけられ、私と接触したいという目的が同じだった為に手を組んだそう。
「父は、貴国のヴァイセンベルク辺境伯領で若木が一ケ月で大木へと成長を遂げたことに興味を示すと、俺に留学命令を下し貴女とも接触を図るようにと命じた」
びくり、とセレスティアさまの片方の眉毛が動いたが、黙って聞いているので他国だし堪えている様子。
――そして奪ってこい、とも。
馬鹿な第三王子に発破を掛ける為じゃなくて本心だったのか……それを言われた本人は私に暴露して、結局失言だったと取り下げたけれど。まさかリーム王に逆らわないように演技でもしていたのだろうか。そして暴露することで、リーム王の暴挙を教えてくれていたと。
「流石に出来るはずもないし、そんなことをすればアルバトロス王国にも辺境伯領にも迷惑を掛ける。それに俺と護衛の者だけで向かうとなれば、死んでこいと言われたも同然」
元から聖樹万歳至上主義のリーム王には疑問を抱いていたそうだ。他国へ留学していた年の離れた長兄からの話を聞けば、余計にそう思えてならなかったそう。他国では聖樹に頼らずとも技術を発展させ、農業を営んでいる。だが自国はどうだろう。
聖樹のお陰で毎年豊かな実りを享受できるが、それだけだ。害虫対策、疫病対策、気象対策等々、本来ならば人間が管理せねばならないことを、聖樹が我々に恩恵を与えてくれていると甘えて何もしようとしない。
「先程の会議の場でも私はアルバトロス王国側の席に就き、自国の貴族たちの説明をするべきなのだが……兄上の……王太子殿下の株を下げるような事をしたくなくてな」
アルバトロスと縁があると知れば、第三王子殿下を推す声が湧く可能性もある。第一王子殿下が既に立太子しているのだから、そう問題視する必要はない気もするが、念には念の為だったそうで。
第二王子殿下、第三王子殿下は第一王子殿下を次代の王に望んでいる。王太子殿下は優秀だから、鞍替えは必要ないとのこと。
「現王に玉座を早期に譲って頂く為、会議の時貴方たちに説明役を付けなかった。本当に申し訳ない」
第三王子殿下に代わり、王太子殿下が頭を下げた。わーい、なんだかがっつり巻き込まれちゃってるぞう、と心の中で両手を上げるのだった。
◇
リーム王に玉座を早期に渡して貰う為、会議のときは私たちに説明役を付けなかったらしい。リームのお貴族さまの勢力図なんてあまり気にしていなかったので、綺麗さっぱり抜け落ちていたけれど。本来ならば級友として、こういうときは状況説明の為に同席するのが普通だと後から知った。
「お気になさらず。――王太子殿下、殿下は聖樹からの脱却を望んでおられているのでしょうか?」
「ああ。私だけではないよ、弟二人もそうだし、この場に居る者たちも私と意思を同じくする者たちだ」
数は少ない為、大っぴらには言えないけれどねと苦笑している。あ、だからか。聖樹をどうにかできそうなアルバトロスとの縁が強いのは、第三王子殿下である。謁見の場や見送りの時に顔は知っているから、面識のない王太子殿下や第二王子殿下よりも頼りやすいだろう。
傀儡にするなら御しやすい人の方が良いものなあ。もしかして、報酬云々もワザとだったのかも。でも、第三王子殿下は演技とか腹芸は苦手そうなイメージがあるが、人は見かけによらないともいうし隠すのが上手いのだろうか。
「聖樹が枯れたと報告を受けた時は驚いたが、逆に好機とも考えたよ。ショックを受けて倒れたとも聞いたしね」
「…………」
彼の言葉に頷くと不味いので反応はしないでおく。
「だが倒れた父よりも我々が気を掛けねばならぬのは、この国に住まう者たちだ」
神殿には結界で認識阻害魔術を使って、枯れた事実さえ知らないし、まともな教育を受けたこともない。時間は掛かろうとも、他国から情報や技術を買い農業をきちんと発展させ、いずれは教育もきちんと彼らに施したいと願っているそうだ。
「聖女殿、神殿が抱える聖女の質は貴女方には及ばない。恐らく聖樹の魔力を追えと命を下しても、探し出すことは不可能だろう」
捜索許可を出す、皆異論はないなと王太子殿下がリームの面々を見渡すと、確りと頷いていた。
「この場は非公式とはいえ外交の場だ。聖女殿は我々に何を要求する?」
あれ、報酬があるのか。リーム王との取り交わしで聖樹を枯らしてしまったことはノーカウント。だからこその言葉と受け取って良いだろう。
「わたくしがリーム王国へと望むことは……――」
聖王国の教会に一緒に乗り込んで頂きたく、と王太子殿下に望むときょとんとした顔をした。どうやら事情が呑み込めないようだった。
まあ、王都の扇動騒ぎが二日前だから他国の王子さまがまだ知らなくても仕方ないのか。恥知らずな枢機卿さまが起こした事件の顛末を話し、どうせなら一緒に聖王国の教会の方々を弄びませんかと問いかける。
「いや、あの……聖女殿?」
「アルバトロスだけではなく、亜人連合国の方々も同道されます。聖樹を失えば神殿の求心力も失いましょう。何もしなかったのはリーム王だけではなく貴国の神殿も同様」
聖樹に頼るだけの信仰を広めた責任は神殿にもある。聖樹が弱っていたことは把握していただろうし、その時点で危惧しなかったのならばリーム王や聖樹派のお貴族さまたちと同じ穴の狢。
それに聖樹に頼れなくなるのだから、お金は必要になる。ぶんどれるだけぶんどっておけば、何かの時に気兼ねなく使えるのだから、一緒に行きましょと誘っておいた。
「私で良いのならば、構わないが…………分かった、貴国が聖王国へ向かう際は我々も同道する」
リーム王でなければといけないという話ではないから、王太子殿下でも大丈夫。聖王国の教会に腹いせでぐうの音も出ない程に、後悔して欲しいだけだから。よし、王太子殿下の同意は得られた。逃げた枢機卿さまよ、あんたの全財産と名誉と地位を全部奪って差し上げようと、誰にも見えないように机の下で握り拳を作る。
「有難うございます。――ではいくつかご用意して頂きたいものが」
「用意できるものなら直ぐにでも手配しよう」
王太子殿下に要望したものはリーム王国内の地図と糸。大規模討伐遠征の際、異常地点を探す為に聖女に試したアレである。盲目のシスターの話を聞いてしまった私には意味がないものだが、アリアさまと侯爵家の聖女さまが居るのだから、二人にダウジングをして頂く予定。
王城の部屋が狭かったので二部屋に分かれていたことが功を奏した。
反応がなければ盲目のシスターを引き連れて、リーム王国内を探さなくちゃならないが、その時はその時だ。盲目のシスターは基本的に優しい方なので、リーム王国の現状を話せば、納得してくれるだろう。
「そんなもので良いのか? 分かった、直ぐに手配させよう」
王太子殿下の後ろに控えていた人が部屋から出て行き、少し時間が経つと大きな型紙を抱えて戻ってきた。
「どうするつもりなんだ?」
机の上に広げてくれた地図を眺めつつ、興味があるのか王太子殿下たちが私に問いかけた。自分で語るのは恥ずかしいので、副団長さまに説明をお願いする。
「聖女さまに乞われたので、代わりに説明させて頂きます。……――」
聖女には不思議な力が宿っており、探し物の際はこうしてダウジングを行い、大体の場所を特定したり怪しそうな場所を特定すると副団長さま。
『不思議よね~』
副団長さまの言葉を聞いていたお婆さまがそんな台詞を言ってのけたが、エルフの方々や妖精さんたちはやらないのだろうか。
『ん~。そもそも、探し物なんてないんだもの』
な、成程。前提条件が丸っきり違うようだった。そりゃダウジングなんてしないか。不思議そうな顔で副団長さまの説明を聞いていた第三王子殿下が、彼を確りとみて口を開いた。
「ヴァレンシュタイン卿、我が国の聖女でも効果は望めるのであろうか?」
「得手不得手はあるかと思いますので、試してみては如何でしょうか。なにも告げずに、指輪などを括りつけた糸を垂らして、地図上を添わせるだけですので」
人によって効果がまちまちだし、鉱脈、水脈、岩塩や石炭、魔力的要素を探ったりと応用は利くそうな。ただ効果がまちまちなので、目的のモノ以外を探り当てる時も多々あるそうで。
あれ、それじゃあ辺境伯領の異常地点を見つけたのって、偶然だったのか。そういえば他の地点にも探しに行っていたからなあ。無駄足にならなくて良かったけれど、本当失敗していたら今頃胃に穴が開いていそう。
「殿下、時間が空き次第試してみましょう。その価値はあるかと!」
第三王子殿下や他の方々が嬉しそうに、王太子殿下へと進言する。農業以外に特産物がないみたいだから、是が非でも欲しいのだろう。大当たりを引き当てれば、国家運営も楽になる。
後は王家、神殿、領地貴族との間での協議で、利益配分等を決めるのだろうけれど、農業以外は弱いから技術者やらを他国から招聘することになりそうだ。
「ああ。だが今はアルバトロスの聖女殿たちの助力だ。我々が聖樹からの脱却を求めているとはいえ、やはり聖樹は必要となる。張りぼてでも良いから、どうにかせんと……」
いきなり聖樹が枯れたとあれば王国の民には動揺が走るし、王家への求心力低下もあり得る。意識を変えつつ、農業改革を起こして聖樹から脱却しないとなと王太子殿下。その言葉にこの場に居る面々が確りと頷いた。
一瞬で民の意識を変えることが出来れば、一番楽なのだけれど……。何かいい方法はない物かと暫し考える。
別室から呼ばれて来たアリアさまと侯爵家の聖女さまがギョッとして、私たちを見る。まあ、何をさせるのかは教えていないし、この国の王太子殿下や王子さまたちが揃っていたらそりゃ吃驚する。
お二人が行ったダウジングの結果は、リーム王都周辺のとある場所で反応をみせたアリアさまと、アルバトロスとリームの国境近くのアルバトロス領内で大きく反応を見せたのが侯爵令嬢さまの結果だ。
「あ……」
侯爵家の聖女さまが執り行っているダウジングが終わると、短く小さい声が上がった。
「どうしましたアリアさま?」
「あの……実家、私の家の領です……!」
おや……と首を傾げるが、まずはリーム王国での反応を調べるのが先。アルバトロス王国内のことになるので、確認は帰国した時に行おうという事になったのだった。