魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
アリアさまのダウジング結果により、早々に王都の外へと向かうつもりだったのだが、日が暮れる時間となったのでリームの王城で一泊し、明日の朝一に出発しようという事になった。リーム側から宛がわれた部屋へと移動して、アルバトロス王国の面々で雑談を繰り広げていた。
「私の結果を信頼しても良かったのでしょうか?」
自信がなさそうな顔をしつつ、不安を込めた言葉で私に問いかけてきたアリアさま。彼女の心配は理解できるが、大規模討伐遠征の時も反応していたと聞くから大丈夫だろう。
侯爵家の聖女さまは逆に落ち込んでいた『才能、ないのかしら……』と。副団長さまは、ダウジングによる調べ物は得手不得手があると言っていたので、そんなに落ち込む必要はない気がする。
何となくアリアさまの実家の領には、何かあるんじゃないかと期待している。男爵家は貧乏だと言っていたが、鉱脈等の資源が出れば採掘して利益を得ることが出来るし、そのお金さえないなら国営にして何割かマージンを貰うだけで良いし。どちらにせよ、男爵領が潤うことは確実だろう。
「自信を持って下さい。アリアさまは討伐遠征の時もあの場所を指し示していたと、ヴァレンシュタイン副団長さまから聞いていますので」
ご意見番さまが居た場所に反応を示したのは、アリアさまと私だけだったそうだ。魔力感知系に長けているのではないか、とは副団長さま。
今回、私はダウジングの理由を知っていたので参加はしなかったが、魔石や魔鉱石が眠っている場所も探知できそうな。副団長さまが、時間が出来ればアルバトロス全土を調べてみましょうねと、語尾にハートマークが付きそうな勢いで私に迫ってきたのだが、果たしてそんな鉱脈が発見できるのか謎だ。
ちなみに副団長さまは第一王子殿下の依頼で聖樹の下へと行っている。地下に埋もれている魔石がまだ有用なのか、聖樹がまだ生きている部分はないのか調べるらしい。副団長さまの名声は他国にも知れ渡っており、実力と魔術具作成の腕、知識の多さから重宝されることがあるようだ。
本人はお金は必要ないので気の済むまで調べさせて下さいと言っていたが、多少の支払いはあるのだろう。だって他国の要人をタダでこき使ったとかあり得ないし。お婆さまも興味があるのか副団長さまに付いて行ったので、聖樹について詳しいことが分かりそう。
「ありがとうございます、ナイさま。でもやはり、何もなかったらどうしようと思ってしまって……」
そうなれば、もう一度振り出しに戻るだけである。最悪、何もなかったごめんなさいで逃げることも可能だし。
「何もなければ、ナイが責任を持つさ」
「そもそも、他国の事ですから気にする必要は微塵もありませんわね」
すまし顔でソフィーアさまが私に責任があると言ってのけ、セレスティアさまは他国の事だから気に病むことはないと言い切った。
「え、えっと……」
突然の高位貴族のお嬢さまたちから援護を受けて、あたふたしているアリアさま。ここ最近は、確りした人かぶっ飛んだ人にしか会っていないから、なんだか和むし新鮮だ。
子爵邸で雇った人達もかなり厳選されているようで、言葉遣いとか態度は洗練されたものがある。下働きの人たちはそこまでではないが、ちゃんと区別は出来ているので妙な事になることはない。
「明日を楽しみにしていましょう。見つからなければ、地道に逃げた魔力を追うだけです。シスターも協力して下さると仰っていましたので」
近くになれば分かるだろうと、盲目のシスターは言っていた。それに私の魔力を取り込んでいる、というか殆ど私の魔力なので分かり易いとの事だった。
副団長さまも『貴女の魔力ならば分かり易いですねえ』と零し、近くになれば直ぐに分かるらしい。お婆さままで『貴女の魔力は大きすぎて分かり易いわ。儀式で補填したから随分と注いだようだし直ぐに分かるでしょ』と言われてしまった。
なんだか私の位置が丸裸になっているような気がすると、渋い顔をしていたら『勝手に探るような無粋は……』『女性の位置を探るなど……』『用がある時しか探らないわよ、興味ないし』とお三方。
一応、私のプライベートは保たれていたらしい。でもまあ、基本は王都に居るんだし、緊急時でもない限り調べようとはしないか。国や陛下からの指示なら、盲目のシスターと副団長さまは何の遠慮もなく探るだろうけれど。そんな事は早々ないのだし。
「はい!」
アリアさまが綺麗に笑って答えてくれた。元気で素直な子だ、少し羨ましくはある。一応、私個人の行動ということで、今回の派遣団の何割かはアルバトロス王国へと戻っている。
本来の目的であった聖樹への魔力補填は終えているので、多く編成されていた女性陣は転移魔術陣を使用して国へ送り届けた。もちろんその際には、私が魔力タンク代わりになったのは言うまでもなく。
アリアさまと侯爵家の聖女さまは残ってくれ、捜索に加わってくれるとのこと。
「リヒターさまも、ご協力感謝致します」
「あの、聖女さま……どうして家名呼びなのですか?」
「? ――名前を呼ぶ許可を頂いておりませんし、でも名を呼ばないのは失礼ですので家名を、と」
侯爵家の聖女さまと私の顔を見て、ソフィーアさまとセレスティアさまが小さく噴き出すと、アクロアイトさまが私の肩から何故か侯爵家の聖女さまへと移動した。
「……~~っ!!!!!」
凄く妙な反応というか、めっちゃくちゃ固まっている。泡を吹いて倒れそうなのだけれど、大丈夫かな侯爵家の聖女さま。アクロアイトさまはアリアさまにも、ああして膝上に先程乗っかっていたが『可愛いです! あの、触っても良いのでしょうか?』と許可を求めてくれたのだけれど。
「助けてやれ、ナイ」
「…………妬けますわ」
アクロアイトさまは限られたメンバーにしか懐いていないので、セレスティアさま的には複雑な心境のようだった。ソフィーアさまの言葉に椅子から立ち上がり、アクロアイトさまを回収すると一鳴きされたのだが、その声にはどういう意味があるのやら。
「リヒターさま。――ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ナイ・ミナーヴァと申します」
アクロアイトさまを抱いたままとなるが、普通に礼を執った。聖女でも貴族でもない礼だから、意味合い分かると良いのだけれどと侯爵家の聖女さまを見る。アクロアイトさまが膝上に乗ったショックから抜け出し椅子から静かに立ち上がり、彼女も聖女でも貴族でもない礼を綺麗に執る。
「こちらこそ、遅くなり失礼いたしました。ロザリンデ・リヒターと申します。是非、ロザリンデとお呼びくださいませ」
「では私も名前でお呼びください。これからよろしくお願いします、ロザリンデさま」
「はい、よろしくお願いいたします、ナイさま」
出会いはあまり良くはなかったけれど、こうして平和に自己紹介を済ませられたのならば、これからもロザリンデさまとは関係が続いて行くのだろう。
「呼び捨てで大丈夫ですよ」
多分だけれど、侯爵家と子爵家では家格が違うし、ソフィーアさまとセレスティアさまだって私の事は呼び捨てである。
「いえ、これはケジメのようなものですから」
真剣な顔をしてロザリンデさまが首を振った。よく分からないと思いつつ、こういう事に厳しいソフィーアさまが何も言わないので問題はないのだろう。そうして夜の帳が落ち、夕食を頂いて就寝となった。若干物足りないご飯の内容に、子爵邸の料理長が作ったご飯が食べたいと、ベッドの中でぼやくのだった。
◇
――朝。
城の窓から外を見ると、朝靄が掛かって幻想的な景色を生み出していた。リームの城下町はアルバトロスよりも規模は小さく、国力の違いを垣間見れる。
「おはようございます、アクロアイトさま」
既に起きていたアクロアイトさまに挨拶をする。理解しているかどうか分からないけれど、朝や夜はこうして独り言を呟くようになっていた。
気が向けば一鳴きしてくれるし、手や顔を私の身体に擦り付けてくる時もある。全く反応がない時もあるので、その時はその時でポンポンと軽く頭を一撫するだけで、一人で勝手にやっているようなものだった。
消えた魔力を追う為の移動は馬車を用意してくれるそうで、目的の場所付近には四時間ほど掛かるそうな。近場で降りて、あとは徒歩での移動となる。案内役は第三王子殿下であるギド殿下が担ってくださり、護衛として彼の部下である騎士の方々も付いてくれるそう。
騒ぎになってもいけないし大所帯で移動するのも……と遠回しな遠慮を伝えてみたのだけれど『いや、大切な客人を疎かにする訳には!』と凄い勢いで迫られた。
昨日の王太子殿下との会議ではリーム王の所業に反旗を試みるあたり、優秀な人なのかなあと考えなおしていたが、やはりどこか残念な気も。でも表裏はなさそうだし、付き合いはし易そうである。なにより、例の第四王子さまよりは何倍もマシであった。
ベッドから起き上がってごそごそと着替えやらを済ませて暫くすると、部屋にノックの音が鳴り響き『どうぞ』と入室を促す。
扉がゆっくりと開くと、良く見知った赤毛の双子のきょうだいの姿が。教会騎士服をきっちりと着込んでいる二人は相も変わらず美男美女であると、身内の自画自賛を心の中で唱える。
「おはよう。ジーク、リン」
クレイグとサフィールも顔面偏差値が高いから、私だけちょっと劣っていて何だか悲しくなる。リンは私の事をよく『可愛い』と言って褒めてくれるけれど、可愛いよりも綺麗が良かったんだよなあ。
「ナイ、起きたか」
「おはよう、ナイ」
「ジーク、寝ていない?」
少し眠そうなジークに問いかけてみると、苦笑いを浮かべながら彼が口を開く。リンはベッドの上でまだ眠そうにしているアクロアイトさまに『おはよう』と挨拶をしていた。寝ぼけから覚醒したのか彼女の肩の上に乗ると機嫌良さげに一鳴きして、リンは私の方へと歩いて来た。
「夜番が少し長くてな。気にすることはない、直に慣れる」
人数編成が変わったから仕方ないとはいえ、本来の予定にはなかったことだった。
「無理だったら言ってね。馬車の中で仮眠くらいは取れるだろうし」
「分かった、すまない」
分かったといいつつジークは無言で仕事をやってのける。倒れられると困るので気を付けておかねばと、心にメモした。私が『付き合わせてごめん』と言うと『気にしなくていい』と返ってくるだけだから、ごめんと言いたくなるのをぐっと堪える。
「ナイ、寝ぐせ付いてる」
「え、嘘。鏡……」
「じっとしてて」
手櫛で私の寝ぐせを直してくれるリンに好きにして貰う。侍女さんがくれば身支度ついでに直してくれるだろうけれど、いつもの人たちではない。だらしない聖女さまというイメージが付いても良いのだけれど、そうなるとクレイジーシスターと盲目のシスターから説教コースとなってしまう。
彼女たちは教会の敬虔な信徒でありシスターだ。教会のイメージを落とすようなことをすると、かなりの気迫で『聖女とは』を説かれる。シスターなら教義を説くのが普通ではと、以前にボロッと漏らしたことがあるのだが、信徒ではない私に説いても仕方ないし、私が神さまを全然信じていないのは分かっているので無駄なことはしないそう。
なんだかなあと遠い目になると、聖女なのだから取り繕えと言われる始末。私にだけ手厳しいとまたぼやいたら、他の方は貴女のように手が掛かりませんので、と。クレイジーシスターと盲目のシスターの手を煩わせるようなことはしていないと反論すると、魔力を暴走させたり教会から脱走したりと迷惑を被りましたがと言われ押し黙る羽目になった。
確かにあの時は教会のみんなに迷惑を掛けたけれど、五年近く過ぎているのだから無効だろうに。
「はい、直ったよ」
「ありがとう、リン。リンも夜番に立ってたの?」
お礼とばかりにリンの騎士服の装飾を良さげな位置へと直す私。気配を察したアクロアイトさまがジークの頭の上に飛び乗ると、乗られた本人は黙ったまま微妙な顔をしている。
「うん、兄さんよりは短いけれどね」
「そっか。リンも眠いなら言ってね。仮眠取ろう」
「ん」
へにゃりと笑うリンに笑い返すと、部屋に新な訪問者が。扉は開放したままだったので、姿は直ぐに確認できた。
「おはよう、ナイ。ジークフリードとジークリンデもおはよう」
「皆さま、おはようございます」
ソフィーアさまとセレスティアさまが、借りている部屋へとやって来て挨拶を交わす。アクロアイトさまが彼女たちの周りを何度か飛んでこちらへと戻って来たので、どうやら挨拶代わりだったらしい。
「!」
「まあっ!」
その様子に驚いたお二人、というか約一名が凄くデレデレした顔になる。アクロアイトさまはどんどんと多芸になっていくなあと、成長を実感。まだまだ大きくなるであろうアクロアイトさま。将来はどこまで大きくなるのやら、そしておデブにだけはなってくれるなと願う私。
魔力をバカスカ食べているので健康は大丈夫なのか心配になって、代表さまに聞いてみると問題はないとのこと。お腹が一杯だと食べないとのことだから、もしかして足りていない可能性もあるのだろうか。今度、限界まで魔力を練ってみようと画策中である。
「さて、手直しするか」
着替えは済ませているものの細々としている所は人の手が必要になる。極上反物で作った聖女の服は、仕立て屋さんが気合を入れて作ったのも原因にある。ソフィーアさまとセレスティアさまの手を借りるのは慣れないが、最近諦め始めている自分が居る。
この後にリーム王都の外へ出るので、余所者と分かり辛いようにこちらの国の衣装に替えるから意味はないかもしれない。朝ご飯を済ませ、用意してもらった衣装に着替えて王城の中庭に出ると、王太子殿下と第二、第三王子殿下が揃っていた。一人、女性が王太子殿下の横に立っているのだけれど、誰だろうと首を傾げた。
「聖女殿、こちらはリーム王国の王妃殿下だ」
まあ、我々の母だなと王太子殿下に紹介されると王妃さまも自己紹介をしてくれた。
「王妃殿下、初めまして。アルバトロス王国にて聖女を務めております、ナイ・ミナーヴァです」
「この度はアルバトロス王国の皆さまへ我が国の王が多大なご迷惑を掛け、大変申し訳ありません」
開口一番これである。なんだかリーム王たち聖樹派は追い込まれているような。頼りの聖樹は枯れ果てて、その信仰を一番信じているリーム王は倒れてしまっているし。ちなみに彼はまだ目が覚めていないらしい。
王妃さまによるとリーム王国と国力が一緒くらいの国から嫁いできたそうだが、この聖樹信仰には違和感を持っていたようだ。王子さまたちが聖樹から脱却しようとしているのは、王妃さまのお蔭なのかも。諸外国への留学も王妃さまがプッシュして王太子殿下を国外へと出すことに成功したそうで。
「ただいきなり聖樹を失う訳には参りません。――本当にご迷惑をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いいたします」
聖樹に依存している状態を払拭するには、何か劇的なものを用意しなければならないだろう。ゆっくりで良いなら、教育を施して現状がおかしいと気付かせるだけなのだけど、聖樹が枯れたから時間はないし。
兎にも角にも、聖樹の代わりになるようなものか、聖樹自身を探し当てないと。さて、リームが亡国になるのだけは回避しなければと気合を入れ、王城から町を抜けて外へと馬車で出て行くのだった。