魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
リームの城下町はちょっと寂しいと感じてしまったのは、アルバトロス王国王都の街を知っているからだろうか。アルバトロスも王城から一歩出れば穀倉地帯が広がって長閑な光景なのだが、リームは更に平和な光景が広がっていた。
田畑が広がって森や池が点在しており、道は未舗装状態。風に乗って鳶っぽい鳥が空を滑空して『ピョロロロロ』と鳴いている。
王さまが乗るような豪華な馬車ではないので、衝撃吸収機能が低い。これはお尻に負荷が大分掛かりそうだと苦笑いする。デキモノとかあれば絶対に乗りたくない。
農作業をしている人がチラホラ見え、籠を背負って同じ場所を何度も行ったり来たり。おそらく収穫でもしているのだろう。本当に、長閑な田舎の風景だ。
「アルバトロス王国の方々からすれば、リームは物足りないだろうな」
案内役の第三王子殿下が苦笑を浮かべ、馬の手綱を器用に操っている。私たちが乗っている幌付きの馬車は、全体を覆ったものではなく天井だけが布を囲っていた。
「長閑でいい場所ではありませんか」
物は言いようである。自然は多いが人工物がかなり少なく、ところどころにある村もどこか寂しいものだった。私の言葉に周りの人たちが微妙な顔になる。第三王子殿下の言う通り、アルバトロスに比べるとリームは劣っていると言っても良いのだから。
「だが、きっと兄上……王太子殿下や我々が梃入れをすれば、民は今よりもいい生活になるはず」
うん、素直に頑張って欲しいと願う。聖樹がなくとも、きちんと農業知識が身に付けば改善効果は直ぐに現れそうだし。
聖樹が枯れそうになってからはあからさまに収穫量が下がっていたそうだ。それに対して何も手を打っていなかったと聞き、リーム王の無策に頭を抱えたくなるが、こうしてやる気のある人たちが居れば大丈夫。
「やれば出来ます。大丈夫ですよ」
若いし体力が有り余っていそうだし、彼ならば民と一緒に田畑を耕しそうな勢いがある。第三王子殿下の部下と名乗った方たちも、朗らかで気の良さそうな人たちで、元気が有り余っていますといった感じ。王太子殿下と第二王子殿下が頭脳で、第三王子殿下が現場に出て指揮を執るなら、付いてきてくれる人も多そうだし。
外務卿さまと王太子殿下と第二王子殿下方は事務方として、協議の席についてこれからのことを朝から話し合っている。
リーム王を放っておいて良いのかと疑問になるが、外務卿さま曰く『アルバトロスは王太子殿下に付く、という意味合いもありますので』と言っていた。現在のリーム王政権を認めないということなのだろう。ついでに神殿の方も探っておけと陛下から言伝もあったそうだ。
なんだかリームの王さまが代替わりする為に、ちゃくちゃくと進んでいるこの状況に驚くけれど、私から見ても現王は玉座に就く資格はないと断言できる。だからこそのアルバトロス王家がリームの王太子殿下のサポートをすることに、何の躊躇いもなく出来るのか。
「有難いことにアルバトロス王も我々に好意的です」
本当に留学して貴女と級友になれてよかった、と朗らかに笑う第三王子殿下。彼の周りに居る直属の部下の方たちも、うんうん頷いていた。
「あの、リームの神殿は聖王国の教会が本流ですよね?」
聖王国の教会から枢機卿さまや司祭さまだか、神父さまだかが派遣されているはず。
「ええ。大昔に聖王国の教会から派遣された者が教えを広めつつ、聖樹を崇めていた我々の国に合わせて、馴染みやすいものにしたと聞いている」
教えが広まらないと元も子もないので、その地域の風土に教えが合わなければ、ローカライズするという適当っぷり。そこは自信を持って自分たちの教義を教えようと言いたくなるが、聖王国から他国へ派遣された人たちが追い払われて帰国すれば無能扱いらしい。
聖王国へと逃げて行った枢機卿さまは、自国に戻れば無能呼ばわりされるのでは。いやでもまあ、教えは一応広まって多くの人たちが信徒になっているのだから、昔ほどではないはず。
「アルバトロス王国では教会だが、我々の国では神殿と名を変えて存在しているが……」
が、最近はリーム王と共謀して聖樹が枯れそうになっているのを隠そうとしていたそうだ。第三王子殿下が王太子殿下の代わりに苦言を呈すと激高され、殴られたそうな。リーム王は文官畑の人なので大した威力はなかったそうだが、殴り返すのはぐっと我慢して反抗の機会を狙っていたらしい。
「碌な連中を派遣してこない聖王国の教会も腹立たしいが、それらと結託した父が一番愚かだ」
聖樹を奪ってこいと父から言われたと貴女方に言い放った時はスカっとしたよと豪快に笑った。
「アルバトロス王国の教会上層部も褒められたものではないですが……」
「だが、聖女殿は竜を従え一矢報いたではないか」
話を聞いただけでも面白いと更に豪快に笑う第三王子殿下。あまり腹芸は向いていなさそうと彼を見ながら、笑い返す私。
「いえ、まだ終わってはいませんから」
まだ終わっていないんだよねえ。捕まった枢機卿さま二人からお金の回収はまだ済んでいないし、聖王国へと逃げ込んだ枢機卿さまはまだ野放し状態。聖王国へ逃げ込んだ所で、向こうとコンタクトを取る予定だけれど、どうなるのやら。
「――着いたな。皆さま、魔物の出る森となっております、お気を付けを」
副団長さまが居る段階で緊張感がさっぱりなくなっているけれど。行軍に慣れていないシスターたちが居るので、ゆっくりと進む予定となっている。
他の方たちはそれなりに慣れているはず。騎士の方々とジークとリンはもちろん、私も経験者だし、ソフィーアさまとセレスティアさまも経験者。アリアさまとロザリンデさまも一度だけではあるが討伐経験アリ。近距離・中距離・遠距離に対応でき、防御系にバフと治癒なら聖女が三人も居れば、この人数編成ならカバー出来る。
「参りましょう」
私の声にそれぞれが返事をして、足を進め始めるのだった。
◇
鬱蒼と草木が茂る森の獣道の先頭をリームの騎士さまたちが進み、その後を私たちが追う。進むべき道は盲目のシスターが指し示してくれていた。どうやら森の近くになった時点で魔力の気配を感じ取っており『貴女の魔力と同じなので分かり易いですよ』と言っていた。
ただ近くに大元である私がいるので『分からないことはないですが、邪魔ですねえ』とはっきりと仰った。本当に私の扱いが悪いよねと遠い目になりつつ、道なき道を進んでいる。
「殿下、皆さまっ! お下がりください、魔物です!」
先頭を歩いていた騎士の方々に緊張が走る。
「どうやらゴブリンのようだ。我々が対応しましょう。――剣を抜けっ!」
第三王子殿下の声に、リーム王国の騎士の方たちが剣を抜き構える。相対する魔物がゴブリンの為か先程よりも、緊張感は下がっていた。暫く待っていると問題なく倒したようで、安堵のため息が漏れていた。まあ、外国の要人を守りながらの魔物討伐は相手が小物であっても緊張するのか。
「ナイちゃん」
「はい?」
クレイジーシスターがいつの間にか私に近づいて声を掛けられた。彼女の隣には盲目のシスターも一緒だった。
「第三王子殿下にこの付近に町や村はありますかと問うて頂いても?」
「どうしてですか?」
「ゴブリンは群れで暮らします。規模が大きくなれば後々厄介になりますし、付近に村があればそこに住む方々にもご迷惑を掛けますからねえ」
「ええ。個では弱いですが、群れとなると方々に被害を齎しますので」
ゴブリンが現れたら群れを疑えと言われているくらいに常識ではある。村や町が近ければ、被害が出るのは間違いないけれど。王都で魔獣が現れた時も、辺境伯領に討伐遠征で現れた時も、終わった後でゴブリン狩りが実行されたそうだけれど、この場はリーム王国である。
リームの方々にお任せするのが筋なのではと聞き返すと『村や町の方を放置する気ですか?』『貴女は人の痛みを理解できるようにならないと』と凄く酷い事を好き放題に言われる始末。シスター二人の圧に負けて第三王子殿下に問うと『確か小さな村があったはずだ』とのこと。
「ナイちゃん」
「ナイさん」
「あの、聖樹の魔力を追うのでは……」
アクロアイトさまが私の肩からリンの方へと飛んで行った。
「ナイちゃん」
「ナイさん」
「……聖樹」
「ナイちゃんっ」
「ナイさんっ」
「…………分かりました。殿下――」
第三王子殿下に『ゴブリンの被害を考えると、村の方々が心配です』と聖女ムーブをかました上に許可を取り、ゴブリンの巣を探し当てアルバトロスの面子に祝福を掛け速攻で潰すのだった。
「す、凄いっ! あの数を一瞬でっ!!」
「何ということだ!」
リームの騎士の人たちが驚きの声を上げているけれど、祝福を掛けて底上げしているし戦力的には過剰なメンバーだし、巣の特定は盲目のシスターが探し当てたし。
「皆さま、わたくしの我儘を受け入れて下さり感謝致します」
討伐が終わって頭を下げる私に、ゆっくりと頷いてくれた。シスターズは言わずもがな満足そうな顔で微笑んでいる。
盲目のシスターのお陰で直ぐに終わったから良いけれど、普通に探すとなればもう数時間は掛かっていただろう。本当に特殊な力だよなあと盲目のシスターを見ると、私の視線に気が付いたのか軽く頭を下げる彼女。
「さあ、行こう」
「はい」
また聖樹から消えた魔力を追う為に歩き始めて暫くすると、また魔物に出会う。その魔物もさっくりと倒し道なき道を進んでいると、突然に光る玉が現れるとお婆さまが楽しそうにこちらへとやって来た。
「お婆さま」
『そろそろ着く頃かと思って、来てみたの! あ、そそ。あのおじさん目を覚ましたわ』
リーム王をおじさん呼ばわりのお婆さまに苦笑いを返すと、リームの方々が不思議そうにこちらを見ているし、アルバトロスの祝福が掛かっていない騎士の方たちも同様で。どうしたものかと考えた末に事情をお婆さまに話して、全員にまた祝福一節分を施す。掛かった後で一様に驚いている人たちに説明すると、お婆さまをあんぐりした顔で見てた。
「驚かせてしまい申し訳ありません、さあ参りましょう」
私の言葉に頷いて歩みを進めるけれど『竜だけではなく妖精まで……』『アルバトロスの聖女は一体どうなっているんだ』とか好き放題言われていた。好きでこうなった訳じゃないし、単純に私の魔力の多さでこうなっただけである。他に魔力量が多い人がいれば、私の代わりになっていたかもしれないのだ。
ちょっとの差でこういうことって変わるのだと思う。行動の選択が何か違えば、齎す結果も違っただろうし、備わっている能力を使い切ることが出来なければ死んでしまうことだってあるだろうし。
人生なにが起こるか分からないし、楽しんだ者が勝つのだろう。その辺り副団長さまやお婆さま辺りには敬意を抱く。副団長さまは国へ忠誠を誓いつつ、魔術に関して好き放題やっている。お婆さまは妖精さんとして、自由気ままに生きているし。真似をしようとは思わないが、精神面の強さは見習わないと。
「きゃっ!」
考え事をしながら歩いていると、前を歩いていたロザリンデさまが木の根に引っ掛かって転倒しそうになった所を第三王子殿下がその逞しい腕で受け止めた。
「大丈夫か?」
「は、はい。ギド殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「なんの。騎士たる者は女性や子供を助けて同然だ、迷惑ではないよ」
第三王子殿下も王族故か随分とイケメンである。あと鍛えているようで、結構がっちりとした身体つき。で、ロザリンデさまも美人だから随分と絵になっている。
私じゃあああいう光景にはならないよなあと、眼前で繰り広げられているやり取りをぼーと見ていた。ちんちくりんを騎士が助けても、感動的なシーンにはなり難い訳で。照れた顔をみせているロザリンデさまと、ずかずかと前を歩くことを再開させた第三王子殿下。おやおやおや、と顔がにやけてくるのが分かる。
「ナイさん、そろそろ近いようです」
『本当、良くわかるわねえ。私も近い気がするわ』
「何となくですが、僕もこの辺りが怪しいかと」
魔力探知に長けている三人から同時に声が上がる。行軍する人たちを止めて、周囲の散策をお願いすると一人の騎士が妙なものを見てしまったと言って、こちらへと戻ってきた。
「こ、子供が居ましたっ! しかも半透明のっ!!」
慌てた様子で語るリームの騎士さまは随分と必死な様子で訴えかけている。お婆さまは見ている筈だから、そんなに驚くことでもないような。でも、最近はお婆さまや妖精さんたちが近くに居ることが当たり前になっていたから、普通の反応は今目の前で慌てている騎士の方が普通なのだろう。
『全員に祝福を掛けておいて良かったじゃない。でなければ、見逃していたはずよ』
確かに。結果オーライだけれど、リームの方々に掛けておいて良かった。
「聖女殿っ!」
「行きましょう」
第三王子殿下に声を掛けられ、半透明の子供が居た現場へと向かう私たちだった。