魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
どうしてお婆さまは代表さまとエルフのお姉さんズを、この場へと連れてきたのか。お婆さまが消えてしまった後の話を考慮すると、あまり意味がないような。リーム側の第三王子殿下は王太子殿下と話し合っており、聖樹さまに頼らずこの国を発展させていくと決めているみたいだし。
なら聖樹さまにはこの場に留まって頂いて、聖樹と気付かれないまま育てば良いだけのような……。その辺りは聖樹さま次第だろうか。竜の意識が残っているようなので、聖樹として酷使されることはなくなるだろうし、私たち――というかアクロアイトさま――が居なければ問題なさそうだし。
『面白そうじゃない。それに、残っている竜の意識と分けられないかしらって思いついて』
「で、私たちを呼んだわけなのね」
「ふーん」
「私が呼ばれた意味は……」
納得した様子のお姉さんズにまだ納得出来ていなさそうな代表さま。竜の意識と聖樹さまの意識を分けることなんて出来るのか。魔術や魔法がある世界だし、可能なのかもしれない。それにエルフのお姉さんズやお婆さまに副団長さまも居るのだから。
『あ、えっとね――』
お婆さまが代表さまたちが来る前の経緯を説明する。リーム王国の聖樹が私の魔力を取り込んで逃げたのではなく、以前から計画してたものを実行に移しただけ。
本来、そのまま枯れてしまう聖樹が、聖樹としての役割を放棄したのは、聖樹の核となっている魔石の所為。しかも五千年くらい前にご意見番さまに喧嘩を売った、お馬鹿な竜が逆恨みで『人間嫌い』『ご意見番さま嫌い』状態なので、聖樹に悪影響を及ぼしていたと。
「――……ほう。彼の話で聞いていた竜か」
ご意見番さまに喧嘩を売ったことが気に入らないのか、代表さまの魔力が迸る。
『っ!』
びくっと聖樹さまの身体が撥ねて、驚き震えている。代表さまがキレるだなんて珍しいけれど、手を出す気はないらしい。
じーっと聖樹さまを見つめて圧を掛けているだけだ。聖樹さま以外にも怯える面々が複数居るけれど、敵意はそちらへと向いていないのは明らかで、向けられている本人よりは落ち着いている。
「代表、待って、待って~」
「核はその時の竜かもしれないけれど、目の前の妖精は別。魔石の意識が強くて影響を受けているから、そう怒らないで」
「む。すまん」
迸っていた魔力が抑えられて、空気が弛緩する。聖樹さまはほっとした息を吐き、代表さまを見上げる。
『肝が冷えた……』
中身あるんだ。
「すまない。彼のお方のことになるとな……」
竜の皆さんの間では昔話として語り継がれていたそうで、馬鹿なことはするものじゃないと教えられ受け継がれているそうだ。
「気持ちは分かるけれど、過激よね」
「仕方ないよ。竜だもん~」
代表さまへとエルフのお姉さんズが突っ込みを入れているけれど、反論する気はないらしく無言で受け入れていた。
どうやらご意見番さまに対しての事に過激になるのは事実で、代表さま以外の竜の方々も同じなのだろう。私の肩の上に乗っかっているアクロアイトさまを撫でると、顔を擦り付けてきた。
「あの、少々よろしいでしょうか」
「げ」
「あ」
『……』
副団長さまが小さく手を上げてお婆さまとエルフのお姉さんズへ話しかけたけど、三人とも『ヤベー奴が来た』という顔をありありと出してる。魔術に関してのことなので張本人である彼は気にも止めず、口を開こうとしていた。
「魔石の意識と聖樹さまをどうやって分けるのか気になりまして。後学の為に見学させて頂ければと」
「構わないけれど、浄化儀式の応用みたいなものよ」
「おや、そんなことが出来るのですか?」
「うん。一点狙いってヤツだよ~」
「ああ、なるほど。確かに一種の呪いのようなものではありますね。ならば納得です」
何がなるほどで、何が納得なのかさっぱり分からないけれど、四人の視線がこちらへと向けられた。ニコニコ、ニヨニヨしてる四人にはあと溜め息を吐く。
「待ってくれ。その竜の意識は消え去ってしまうのか?」
私が口を開くより前に代表さまが四人へ言葉を投げた。四人も邪魔されたとかは考えていないようで、彼の目を見て言葉を咀嚼している。
「ええ、そうなるわね。浄化儀式の応用なのだし」
「呪いは消さないとねー。でも、代表どうしたの?」
「いや、その竜の意識を何かに閉じ込められんかと思ってな」
「閉じ込めてどうするの~?」
「若い者たちの教訓にしようと思ってな」
「過激な教育方法ねえ。まあ、出来なくもないけれど……純度の高い魔石を用意出来る?」
生き物由来の魔石ではなく、自然由来の物が適当だそうだ。となると魔素量の高い場所で、鉱石へと取り込まれたものとなるけれど、かなり貴重で高値が付くと聞く。
「無理だな、諦めるか」
「代表殿、こちらは如何でしょうか?」
副団長さまが内ポケットから取り出し、代表さまへ見せた物は魔石だった。
「へえ。良い物を持っているじゃない」
「本当だ~。良く手に入れられたねえ」
「僕がコレを手に入れられたのは偶然ですよ。魔術具作成の為に使おうと考えていたのですが、こちらの方が面白いものが見られそうなので、気兼ねなくお使い下さい」
副団長さまは魔石の価値を無視しても良いくらいに、今回の件には興味があるらしい。凄く明るく楽しそうな雰囲気で、代表さまへ魔石を渡そうとしている。
「しかし……何も対価がないまま譲り受けるというのはな」
「おや。では叶うならばで良いのですが――」
もちろん僕の我儘なので駄目ならば断わって下さいね、と前置きした上で『竜の血が欲しいのですが、譲り受けることは可能でしょうか?』と代表さまへと乞うたのだった。副団長さまは竜の血を手にして一体何に使おうというのか。魔術師よりも、呪術師や他国に存在するという錬金術師が欲しがりそうだけれど。
「そんなもので良いのか? ならば私の血を取れば良いだろう。但し、条件付きだ――」
自然破壊や大陸国家を危機に晒すようなことはしてくれるなよ、と代表さまが告げる。その言葉に大陸の覇者になるつもりなど毛頭ありませんし、そのような面倒なものは欲しくありませんのでと副団長さまが言い放つ。
竜の血ってそんなことが出来るレベルでヤバいものだということ、やろうと思えば実行できるという副団長さまの実力に唖然としつつ、聖樹さまを見る。
「聖樹さま、聖樹さまはどう考えますか?」
どんどん話が進んでいるけれど、勝手をする訳にはいくまいと聖樹さまに確認を取った。
『オレか? そりゃ邪魔な竜の意識が無くなるのならば有難いことだ。この場所で木としての役目と天寿を全うしたい』
一瞬考える素振りを見せる聖樹さまは、自身の希望を口にした。聖樹という役目を果たさなくても良くなったが、植物としてちゃんと天寿を全うしたいそうだ。ならば、ちょっと先手を打っておくべきか。
「ギド殿下」
「どうした聖女殿」
「この一帯をリーム王国が管理することは出来ませんか? 立ち入り禁止措置を取って人の流入を抑えれば、聖樹だと気付かれることはないでしょうから」
気付かれて崇められるとまた聖樹として生きなければならなくなる。聖樹から自立すると決意しているのだから、それくらいのことはやって欲しい。周辺の村の人たちには狩猟場が無くなって不便かもしれないが、農業改革がこれから起こるのだし王家もその辺りは考慮してくれる……一応、伝えておくか。
「名案だなっ、聖女殿! 王太子殿下に進言すれば必ずや聞き届けてくれる」
「有難うございます。あと森の近辺に住む方々に立ち入り禁止措置を取ったご迷惑が掛からぬよう、何か対策を。狩猟の場が狭くなりますし、食糧を確保できないとなると問題ですから」
「勿論だ! 直ぐにこうして案が思い浮かぶ聖女殿は凄いなっ!」
カラカラと笑う第三王子殿下に苦笑する。誰だって思いつくことだし、そう難しい事でもない。聖女が言ったからと伝え、行動にしやすくなるならそれで構わないけど。
「じゃあ、やっちゃいましょうか。浄化儀式を応用して魔力の移行作業ってだけだから、直ぐに済むはずよ」
お姉さんAが私に顔を向けてにっこりと笑った。どうやらこの場で済ませてしまうようだ。ならば私一人だけではなく、アリアさまとロザリンデさまにも加わって貰おう。報告の義務があるから、彼女たちの報酬上乗せになるだろうし。
一人でやるよりも三人でやった方が、効率が良くなる可能性だってある。お姉さんズやお婆さま、副団長さまに私の考えを告げると『まあ、失敗しても問題はないのだし、やってみれば良いわ』と気軽に頷いてくれるのだった。
◇
儀式といえど作業のようなもので、服は着たまま。切り株の上に魔石を置き聖女三人で取り囲んで聖樹さまと魔石、そして竜の意思の核となっている魔力を意識する。竜の魔力はかなり少なく、感知するにはかなり精神を消耗する行為だった。
そもそもこういう細かい魔力感知や操作系は苦手な類であったが、アリアさまとロザリンデさまは平気そうな顔のまま儀式に挑んでいた。
「…………」
私、この儀式に役に立っていないと少々凹むが、私だけだったら失敗していたかもしれないし、お二人を誘っておいて良かった。報告書には二人を褒めちぎっておこうと、心の片隅に置いておく。
『随分とスッキリしたよ』
言葉通りに聖樹さまはスッキリとした顔を浮かべていた。頭を手で軽く押さえて何かを確かめているが、なんだか嬉しそう。
「お役に立てて、良かったです! これで聖樹さまは落ち着いた日々が過ごせますね!」
アリアさまが胸の位置で両手を組み、嬉しそうに綺麗な笑顔を浮かべていた。今にも尻尾と耳が生えそうな勢いで。
「良かったですわ。――しかしナイさまの魔力のお陰で竜の残滓が分かり易いものでした。流石です」
ロザリンデさまが私の魔力と聖樹さまの魔力、竜の残滓となっている魔力の違いが分かり易かったと言っているけれど、把握するのに結構精神を擦り減らした。平気そうにして、私のお陰とか言われてもなんだか腑に落ちない。人によって得手不得手があるので、アリアさまとロザリンデさまはそういうことが得意なのだろう。
『オレの為にすまない。これで残りの命を使うことが出来る。まあ、そう長くはないだろうが』
『本体を失ったものねえ。代わりになる木でもあれば良いけれど、そんなもの何処にも……あら?』
王城横の神殿の木自体が本体となるので、妖精化が出来ても命は長くないらしいが、代わりになるものがあれば大丈夫なようだ。その辺にある木から枝を切って、株に刺しておけばどうにかなりそうだけれど、どうなのだろう。
「辺境伯領の大木から枝分けすればいいんじゃない? ちょうどこの子の魔力を大量に吸収しているんだし、良い代わりとなるんじゃないかしら?」
「ああ、そうだね~。切り株に挿し木でもすれば良いよ。多分根付くでしょ」
『丁度良いわね。――じゃあ転移でそっちまで行きましょ。私が連れてってあげる』
なんだか当人や周りを置いて勝手に話が進んでいるけれど、良いのだろうか。聖樹さまは意味が分かっていないようで目を白黒させているし、第三王子殿下も『そ、それは不味いのではないだろうか……』と口を引きつらせていた。
「良いよね?」
「良いわよね?」
エルフのお姉さんズの視線がセレスティアさまへと向く。お二人はセレスティアさまが辺境伯家のご令嬢さまと知って問いかけているようだ。二人の言葉に逆らえるはずもない彼女が、珍しく気圧されている。
「止めろ、二人共。辺境伯に許可を取るのが筋だ。済まないが、仲介役を頼めるか?」
「勿論ですわ! 一緒にお連れ下されば、直ぐに父である辺境伯へ面通しか連絡を取れるよう手配したします」
竜は竜でも人化できる代表さまに語り掛けられ、先ほどとは百八十度態度が変わってびしっとした声で答えたセレスティアさま。本当に竜に対する憧れが凄いと感心していると、あれよあれよという間に私も同行することになり、一時間ぐらいで戻って来るからと待っていてねと話が付いていた。
で、代表さまとエルフのお二人にお婆さま、セレスティアさまにジークとリン、アクロアイトさまと私というメンバーで転移で辺境伯領都まで一度飛ぶ。
突然の訪問に慌てふためく辺境伯家で勤める人たちを宥め、事情を話すと辺境伯さまは王都へ出張っているようで、魔術具を使って連絡を取って事情を話し『そういう事情なら構わない』と告げた。代表さまとエルフのお二人とお婆さまの言葉が決定打だったのだろう。あっさりと許可が下りて直ぐに、若木があった少し手前の場所へ転移したのだった。
「――っ、誰だっ!! ここは神聖な場所であるっ! 許可なくの立ち入りは首を切られても文句は――」
大樹の警備に就いていた騎士の人たちが私たちの登場に血相を変え、剣の柄に手を掛けてこちらへとやって来る。
「お待ちなさい! この方々を誰と心得ておりますのっ!?」
セレスティアさまは鉄扇をどこからか取り出し騎士の方々へと先を向けて、警備の騎士を諫める。
突然の登場だし許可なくの立ち入りは禁止されているようだから、目の前の騎士さま達の行動は正しいこと。セレスティアさまを認識して、闖入者ではないと認識してようだ。
「お、お嬢さまっ!! どうしてこちらに? それにどうして貴方方が……――申し訳ございませんっ!」
「大変失礼をいたしましたっ!!」
ばっと勢いよく頭を下げた騎士の方々へと背を向けて彼女もいっしょに頭を下げた。
「我が領の者が失礼を致しました。わたくしの頭で足りるか分かりませんが、お許しを頂けると幸いです」
「気にせんよ、それが君たちの仕事だろう。それより、驚かせて済まなかった。火急の用件で転移でこちらへと参ったのだ」
代表さまが許しと、こっちへ転移してきた理由を告げる。辺境伯さまから枝を分けて貰う許可は取ってあると伝え、セレスティアさまが父からの許可はキチンと頂いていると騎士の方々に補足した。
「そういうことでありましたか。――では、こちらへ」
木を護衛している方々に連れられて若木の下へと歩いて行く私たち。暫く歩いて行くと森が開けた場所の真ん中辺りに一本の立派な大木が悠々と茂っていた。まあ、話は聞いていたから問題はない。問題はないのだ。大木を取り囲んで竜が十匹ほど居るのだろうか。
「…………」
うわー……第三王子殿下たち、この中に突っ込まなくて本当に良かったねえと安堵する。手前で辺境伯家が抱える手練れの騎士さまたちを相手にした上に、辿り着いたと思ったら竜が控えているという無理ゲー状態なんだけど。
「どうにもこの場所が気に入ったらしくてな。番で此処へとやって来て、卵を産んだ」
一体どういう事で。産むなら亜人連合国内の方が安全なのでは。妙な顔になっている私に気が付いたお姉さんズがくすくす笑って、口を開く。
「あのね~、彼の方が朽ちた場所ってこともあるけれど、魔素が多いし君が若木に注いだ魔力も周辺に漏れているんだよね」
「竜は魔素の多い場所を好むのだけれど、代替わりが生まれたことで竜の連中が色づいたのよ」
「はあ……」
「番が数組できた上に、単体で子を成す連中もこの場で産みたいと言ってな。辺境伯には無理を言って許可を得た」
で、この状態だそうだ。あと妙な連中が来ると困るので大木の警備も兼ねているのだそう。辺境伯さまストレスで倒れないかなあ。卵を奪われたとあれば、生きた心地がしなさそう。
「有難い事ですわ。我が領には大木を守る竜が住んでいると話が広がっていますし」
いつの間にそんなことになっていたのか。まあ国境に接しているのだから、ある意味でタダで戦力を手に入れたようなもの。
辺境伯家にとっては悪い話ではなかったのだろうが、やはり辺境伯さまの頭か胃が心配。セレスティアさまは豪胆な方な上に、竜至上主義者。多分、卵が産まれて舞い上がっていそうだからノーカウント。
『若、どうしました?』
私たちに気付いた一匹の竜の方がこちらへとやって来て、首を下げて語り掛けた。この場に居る竜の皆さんが集まると、狭くなるので話し合いの末に選ばれたそう。
「枝分けをしたくてな、お婆さまの転移でこちらへと参った次第だ。――どうだ、順調か?」
『はい。もうすぐ卵が孵りそうなのです。――聖女さまには感謝せねば』
竜の皆さんの間ではベビーブームが起こっているそうで、個体が増えることに喜んでいるそうな。あとこの場で産めばご利益がありそうだと予感がしているそうで、余計に加速しているそうで。
繁殖期とかに入れば勝手にペアが組まれて増えるという訳ではなく、番となって一生を共にして同意の上で子供を作ったり、個体が強ければ単体で子供を残すことが出来たりいろいろだそうで。長命種故か子孫を残すことに余り頓着していないそうで個体数の減少を懸念されていたが、ご意見番さまが代替わりしたことによって繁殖意欲が高まっているとのこと。
『我が子らが共にこの空を飛べる日が楽しみです』
そう言って竜の方は、どこまでも広がっている青空を見上げた。ああ、でも、そうだ。――悪い話ではないのだから、喜ぶべきなのだろう。理性的な方が多いようだし、子育ても問題なさそうだ。
「はい。きっといつか空を飛べます」
私も広い空を見上げる。アクロアイトさまは他の竜の方のように、あの空を高く飛ぶことは今は出来ないけれど、いつかは自由に飛び回る日がやってくるのだろう。
『ええ』
『――ねえ、早くしましょ』
しみじみとしていたら、お婆さまが待ちきれなかったのか急かすような言葉が掛かった。それに頷き辺境伯領の大木の下へと行く私たちだった。