魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.06.20投稿 1/2回目


0122:誘引されて。

 クレイジーシスターが神官さまへと魔術を施してしばし、そろそろ王城へ戻ろうかとギド殿下と相談をしていた。

 

 「ナイさん」

 

 盲目のシスターに名前を呼ばれて何だろうと振り返ると、背を屈めて耳打ちされた。その内容に驚くがお婆さまやお姉さんズの説明で納得し、ギド殿下たちと相談した後、取りあえずリームの城に戻ろうと決めたのだった。

 

 『オレはこの場で木としての役割を全うする。元の場所より良い所だしな。落ち着いて暮らせそうだ』

 

 聖樹さまはこの場で生きて行くことを決めたので、それも報告するようで。ただリーム王たちには教えないとギド殿下が言い放った。

 

 「では私たちはリームの王城へ戻って、王太子殿下に報告を。リーム王が目覚めているようなので、なるべく気取られないようにしましょう」

 

 ひっ捕らえた男を何故か第三王子殿下が捕縛用の縄を掴んで引き摺って歩いている。しかも同行者が増えて代表さまとお姉さんズも一緒にリームの王城へと行くと告げられた。代表さまはリーム王が何が起こっても文句は言わないと契約していたのに、それを反故にしたことに立腹しているし、お姉さんズは面白い物が見られそうと愉快に笑ってた。

 ギド殿下がちょっと引いていたけれど、亜人連合国の方々の力添えがあれば、父親を引き摺り下ろすことに少しでも役に立つだろうし、王太子殿下との繋がりが出来れば益しかないと判断したようだった。

 

 「何故だろうな。いつもより力が滾っている気がする」

 

 祝福の効果ですとは告げないまま、元来た森の獣道を歩いている。右手で捕縛用の縄を握っているので、空いている左手をにぎにぎしているギド殿下。リーム王国の騎士さま達は『凄いです、殿下っ!』『しかし不思議ですな』とか首を傾げていた。

 結構な距離を歩いているから疲れている筈だろうに、痩せているとはいえ成人男性一人を引き摺っているのだから、驚異的な体力だ。神殿の神官さまな男は顎が外れている所為で、まともに喋れなくあがあが声を上げている。

 

 『みっともないわねえ。男の癖に』

 

 飛びながらそんなことを呟いたお婆さま。顎が外れていることを考慮してあげて下さい。お馬鹿で救いようのない男だけれど、一応生きているのでなんらかの使い道はある筈なのだ。路傍の小石位の価値しかなくとも、物質としてそこに存在しているのだから。

 時折、男が絶叫するのでリームの騎士の方が鞘を佩いたままの剣を手にして殴打して黙らせてた。手違いで息を途絶えさせてもいけないので、こっそりと治癒魔術を掛けてる。連行中に息絶えたとしても問題はないのだろうが、妙な展開になってもいけないし保険だった。

 

 『気にしすぎじゃないかしら?』

 

 『そだよ。こんなのに価値なんてないよ~』

 

 また頭の中にお姉さんズの声が響く。どうにも顔に出やすいのか私の考えを読み取るのが上手い方たちである。

 念の為だし証拠なのだから大事に扱わないとと念じてみると『それはそうだけれどね』『ん~他にも居そうだけれどね証拠品』とお姉さんズ。神殿を捜索すれば何か証拠が沢山出てきそうではあるが、それは王太子殿下の役目だ。他の人の仕事を取っちゃ駄目だよねえと、森の隙間から見える空を見あげる。

 

 「もう少しで森の外縁に辿り着くな」

 

 リーム王は目覚めたと聞いているし、追っ手を仕掛けて来るならこのタイミングが一番絶好かもしれない。

 第三王子殿下の言葉に、周りの人たちの空気が変わり始める。唯一変わっていないのは亜人連合国の方々のみ。まあ、取り囲まれても単体でもどうにかしそうな勢いだけど。

 

 外で待ち構えていれば簡単に捕えられえる状況だろう。後ろは森で私たちが逃げ込んだら、後で山狩り命令でも下せばいい。この森、そんなに広くはないからなあ。後は数が多ければ多いほど楽にはなるか。争いごとや戦争は質より量と言うから、数を揃えてきそうなんだよね……って考えている事って的中するんだねえ。

 

 森が開けて外に出るとリーム王国の騎士の方々が大勢揃っていたのだった。一部には神殿の神官さまの服を着込んでいる人も居るので、先ほどの神官さまは斥候扱いだったのだろうか。

 勝手に行動したとしても、ドンマイな人には違いない。一人でさっさっと私たちに捕縛されているのだから。

 

 「これは何事だっ!」

 

 ギド殿下が私たちより前に進み、怯むことなく大音声を上げた。

 

 「ギド殿下っ! リーム王から言伝です! 逃げた魔力の居場所を特定したなら教えろ、とのことですっ! 殿下、聖樹はどこへ行ったのですかっ!」

 

 向こう側に立つ騎士さま達の態度はまちまちである。敵意を明確に向けている人に、困惑している人、何かもう全てを諦めているといった顔を浮かべている人。神殿の神官さま達は明確な敵意で、碌な人がいなさそう。お金の臭いがぷんぷんしているんだよねえ。

 身に着けている指輪は金でドでかい宝石が付いているし。金より白金の方が確りしているのに、金を身に着けるのは富の象徴と言われているからだろうか。金は大陸統一価格が存在するので、国内で流通している金貨でも重量で価格が決まる。逃げた時用に隠し財産として丁度良いのだろう。

 

 「そんなもの見つかってはおらんっ! 逃げた魔力は霧散し、リームの大地へと還ったのだっ!! もう聖樹に頼ることは止め、我々は自立すべきなのだと父に伝えろっ!」

 

 「……そう、ですか。申し訳ありません殿下、リーム王より貴方方やアルバトロスの客人たちを連れてこいと厳命されております故、無礼をお許し頂きたい」

 

 集まった騎士長さんが叫び終わると同時に森の奥から咆哮が上がり、木々の上で休んでいた鳥たちが一斉に飛び立っていく。

 

 「っ!」

 

 「なんだっ!?」

 

 「魔物の声、か……?」

 

 聞いたことのない断末魔のような低く唸る叫び声に、私たちを待ち伏せしていた人たちが慄いてた。

 

 ――来たか。

 

 私たちはこの状況を掴んでいたので驚きはしないが、リーム王が差し向けた騎士の人たちには動揺が走り士気が下がっているのが丸わかりで。さて、そろそろこちらに来る頃だろうと、悪い顔をする私だった。

 

 ◇

 

 古い竜の意思が入った魔石に誘引され魔物が押し寄せてきているようですと、盲目のシスターが私に告げたのは聖樹さまが居た切り株から離れる少し前。この場所で戦う訳にもいかないし、森の中よりも開けた場所の方が戦闘に適しているからと森を抜けてこちらへとやって来た訳だが。

 待ち構えていたリーム王の息が掛かっている騎士たちに阻まれて、さてどうしたものかと考えていた。後ろには魔物、前には騎士の人たちプラス神殿の神官さまたち。前門の虎後門の狼状態だけれど、前門の虎は今にも死にそうな虎なので、問題視する必要はなく。

 

 「間引いていて良かったです」

 

 本当に。あの時にゴブリンたちの巣を処理していなければ、相手をする数が増えて面倒なことになっていたに違いない。

 

 シスターたちの言葉に渋々頷いて決行したが、もしかして彼女たちはこの展開を予測していたのだろうか。まさかそんなことはあるまいと否定しつつも、割とクレイジーでヒャッハーな気配のある人たちなので予見していたのかも。

 

 副団長さまにお願いすれば一瞬で消し炭に出来るけど、リームの為にその力を振るうのは勿体ないような。

 勿論本人は私の防御魔術があれば高威力の魔術を連発することが出来るし、祝福も掛かった状態だから試し撃ちをしたそうな顔をしていた。ギド殿下も、高名な魔術師の神髄を見られるならばと息巻いていたけれど、この辺り一帯を焦土と化したいですかと問うと、しょんぼりした顔で諦めると言ったし。

 

 「だな」

 

 「ええ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の言葉に同意して頷き。

 

 「取りあえず、試し切りが出来たからな」

 

 「良い切れ味で手に馴染むから使いやすい」

 

 ジークとリンは頂いた剣をずっと試し切りがしたいと言っていたので、満足だったらしい。

 

 「あ、あのな……魔物が近づいてきているんだが、どうして聖女殿たちはそんなに落ち着いていられるのだ?」

 

 ギド殿下はこの状況に不安があるのか、少々落ち着かない様子。

 

 「そうですっ! 魔物が近づいてきているんですよ?」

 

 「ええ。この辺り一帯にも被害が出ましょうし、対応した方が良いのでは?」

 

 アリアさまとロザリンデさまが真っ当な事を申し出て、ギド殿下とリームの騎士の方々が安堵の顔を浮かべる。

 

 「近隣の方々のご迷惑になりますから、対応は勿論します」

 

 そう。対応するのだけれど、この場に居る面子を考えて欲しい。亜人連合国の方々が肩入れするといろいろと問題が発生しそうなので、頼らないのは決定。危なくなれば我々も対処すると、代表さまは仰っていたけれど。

 

 副団長さまが居る状況で、苦戦する情景が全く浮かばないのである。ソフィーアさまとセレスティアさまも高威力の魔術が使えるし、近接ならばジークとリンも居る訳で。私も補助でバフや防御系の魔術を駆使すればいいし、アリアさまとロザリンデさまも居るのだから治癒に関しては万全の体制。

 護衛に就いてくれている近衛騎士の人たちも精鋭を選んでいるそうだから、実力はかなり高いと聞いている。あとはギド殿下とリームの騎士の方々がどれだけ実力があるかが問題だけど、出番……あるのかなあ。

 

 「ただ魔石に魔物が誘引されているので、コレをどうにかしないと根本的な解決にはなりません」

 

 ちなみに魔石は代表さまが持っている。リームの王城へ着いたら少しの間借り受ける予定だ。それが終われば亜人連合国で魔石の保管をしてくれるそう。

 魔物の数にも限りがあるし、一度倒しきれば暫くの間は凌げるそうだ。なら、今誘引されている魔物を駆逐すれば数日間は時間を稼げる。昔から魔物の数が少ないのがリームの特徴。聖樹が現れる前からそうなので、この辺りの土地は比較的安全なのだそうだ。

 

 リーム王の前で魔石の所為で聖樹が病んだことと、聖樹から魔石を分離させたことを王太子殿下から伝えて貰って、もう聖樹に頼るのは止めろと止めを刺して頂く。

 

 「魔物が出たようですが、我々をどうなさいますか?」

 

 と言っても向こうの指揮官さんが言った通り素直にリームの王城には向かうのだけれどね。王太子殿下に報告の義務があるし。目覚めたリーム王は知ったことではないが、アルバトロス王国は現リーム王ではなく、次代のリーム王に助力すると決めているんだから、私たちもその方針に従う必要がある。

 

 「ぐっ! 我々が陛下から命じられているのは殿下を始めとした貴女方を城へと連れて戻ることだっ!」

 

 「おや。国と民を守る騎士さまがそのようなご様子では、民から見放されても仕方ありませんね。――もしや、聖樹が枯れた原因の一つにはそういう物が含まれているのではありませんか?」

 

 煽ってメンタルを揺さぶっておこう。彼らは聖樹が枯れた本当の意味を知ることは後になってからだし。確かにリーム王から下された命だけ守っていれば良いが、こういうものは時と場合だ。堅物騎士さまでは柔軟な対応は無理そうだなあと、ギド殿下を見てどうするのか判断を仰ぐ。

 

 魔石に誘引されているので、魔物たちは村や町、人間には目もくれずこちらを目指すそうだ。本当に執念深い魔石だなあと目を細めていると、ギド殿下が口を開いた。

 

 「先程の咆哮は普通の魔物の声ではない。我々だけでは対応できぬ、聖女殿助力を願えるだろうか」

 

 これも話し合い済み。リーム側の面子では倒しきれないと判断して、魔物討伐の報酬は第三王子殿下に充てられているお小遣い予算で支払うそう。分割で。

 なんだか世知辛いというか可哀想になってきたのでどうにか安くしたい所だが、リーム王を引き摺り下ろせば解決するような。王太子殿下も放っておかないだろうし、報告されれば考えるだろう。出来ればリーム側だけで解決を願いたい所だけれど。

 

 「……何を勝手にっ!」

 

 「勝手ではなかろうっ! 本来は我々の手で対処しなければならないものを、他国の聖女殿に助力を乞わなければならぬのがリームの現状であると理解しろっ!」

 

 「殿下っ! 貴方はリームを裏切るというのかっ!

 

 「何を言うっ! 俺の忠誠はリームのみだっ! だが聖樹が枯れた今、聖樹に頼るだけの陛下方や神殿には疑問を呈す必要があるっ!」

 

 第三王子殿下の言葉にはっと顔色を変える、対面しているリームの騎士の皆さん。彼らは公務員なのだから、聖樹が枯れたことは知っているはずだし、欺瞞魔術で誤魔化しているけれどその内に情報は洩れる。

 いずれにしても、枯れた現場を見た人間から噂は王都に流れ、次第には国中に広まるのは自明の理。

 

 「聖樹に頼るだけの歪さに気が付いている者は俺に続けっ! 聖樹が枯れた今、頼れるのは己自身だっ! 言われるがままの人形に徹するか、自ら考え動くかっ!!」

 

 ギド殿下の大音声はリームの騎士たちに響いているのか、どんどんと顔色を変えて現状を認識し始めているようだった。貴族の人たちが多いのだろう。知識階級の人たちならば国外の事情にも多少は精通しているだろう。

 

 「後悔しても遅いのだっ! ならば己の意思で決めた道を信じて進み、後悔した方が悔いは残らんっ! さあっ!」

 

 ――リームの騎士として覚悟を決めろ! 決断しろっ!

 

 聖樹派であるリーム王に与するか、脱聖樹派である王太子殿下に与するか。言葉にはしないが、聞いていれば分かるだろう。ギド殿下が言った通り、自分で考えて決めればいい。なら、結果が出た時に不満が少なくなる。

 

 「俺は……俺は……」

 

 「……聖樹は枯れたんだ。未来がないというなら、未来へ続く道を造るだけだ!」

 

 神殿の神官さまたちはかなり嘆いていたし『リームは終わりだ』とか口にしていたものなあ。そりゃ不安は伝播しますとも。そこに現れた未来を指し示す人間が出て来れば、希望の御旗になる。あとギド殿下は騎士の方たちに慕われているそうなので、聞き入れやすい事もあるのだろう。

 

 「お、おいっ! 貴様らっ!」

 

 「このまま滅ぶというのなら、希望がある方が良い。破滅を待つしかないなんて、そんな馬鹿なことにしたくない。何より、守るべき民が居る……」

 

 「ああ、枯れた聖樹の代わりを探すよりも、常々殿下たちが語っていてくれた、聖樹からの脱却を叶える時が来たんだ!」

 

 リーム王に隠れて殿下たちは、若手の騎士や文官たちにリームの危うさを説いていたらしく、蒔いていた種が上手く咲いたようだった。ちらほらとギド殿下の側へとやって来る方たちを受け入れる。

 

 「決断した者たちよっ! 騎士の本懐は弱き者を守ること、民を守ることであるっ! 魔物が現れた今、危機に晒されているのは民たちなのだっ!」

 

 ――我らの力を見せようぞっ!

 

 剣を抜き高く掲げたギド殿下に賛同しているリームの騎士さまたちの『応っ!』という厳つい声が辺りに響くのだった。

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