魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0123:目覚めた王さま。

 遠くから響いていた魔物の咆哮がどんどんと近くなる。雑魚はゴブリンの巣を掃除した時に大方片づけているから、中型か大型の魔物がこちらに向かってくると予想していた。

 木の幹がひしゃげる音が聞こえて姿を現したのはオークが二十匹ほど。ゴブリンよりも大型で狂暴で強いと言われている。魔石に誘引されている所為なのか、狂化している気がする。初めて見たけれど臭そうというのが第一印象。お風呂に絶対に入っていないよねえと、目を細める私にギド殿下が視線を向けた。

 

 「オークっ! 聖女殿、助力を願えるか?」

 

 「勿論ですが、出来ることならリーム側の騎士さま方で倒して頂けると」

 

 このくらいならば私たちが出しゃばらなくとも対処出来そうだ。近接攻撃しか出来ない騎士さまたちだが、数は多いし組織的行動を取れるなら大丈夫そうだけど。あとはギド殿下の指揮能力次第だろう。

 

 「何故?」

 

 きょとんとした顔でギド殿下は私に問う。

 

 「自国のことは自国で解決しないと、自立できませんよ。これから聖樹を頼らないのでしょう?」

 

 「然りっ! ――聞いての通りだっ! 我々だけで対処するぞっ!」

 

 にやり笑みを浮かべてとギド殿下を見ると、彼も同じような笑みを浮かべて騎士の方たちを鼓舞する。アルバトロス王国の面子は高みの見物の態勢だった。

 

 いまだぐぬぬと歯軋りしている向こうの騎士長さんには申し訳ないが、出現した魔物を処理しないと不味いのは理解出来ているようで黙ってこちらを見ているだけだった。

 彼が率いていた騎士のほとんどは第三王子殿下に賛同してこちらへついたので、戦力が全く足りず何も出来ないというのが正解だけど。神殿の神官さまたちも、怯えながらこちらの様子を伺っているが、逃げたそうな顔を浮かべていた。嫌なら王都に戻れば良いのにと一瞥して、現れたオークに視線を向ける。

 

 こちらの様子を伺っているのかオークは進んでこない。うーん、代表さまがいるから本能的に強い方を理解しているのだろうか。

 抑止になっているのなら構わないけれど、こっちに攻めてきて欲しいのが本心。森に逃げられると、追うのが面倒だから。そんなことを考えていると、痺れを切らしたのか一匹のオークが一歩を踏み出すと、リームの騎士さまたちに緊張感が走る。

 

 「相手は一匹だが、直ぐに後続が来る可能性もある。注意を払いながら、まずは一匹目を確実に倒すぞっ!」

 

 ギド殿下が吠え、それに答える騎士の皆さま。私たちに出来ることは頑張れーと応援することくらいである。四人一組で小隊なのだろう。殿下の指示によって、即席小隊がいくつか編成されていた。二小隊が切り込み隊として左右から挟み込む作戦のようだった。

 

 「行けっ!」

 

 「はいっ!」

 

 「はっ!」

 

 ギド殿下の号令でざっと駆け出す騎士の方たち。オークに向かう二小隊の内の一つは私たちの護衛として同行してくれた方々だから、祝福が掛かっているから少しは戦力の底上げに期待出来るだろう。

 

 「はあぁあああっ!」

 

 オークの動きが鈍いのか上手く相手を翻弄しつつ、一人の騎士さまが大上段を構えてオークの頭へ剣を下ろした。頭蓋が割れて中身が見えているので、慣れていない人には少々きつい光景かと、アリアさまやロザリンデさまを見ると顔色を悪くしていた。ソフィーアさまとセレスティアさまは平気そうだし、クレイジーシスターはこの状況でも笑みを携えている。

 

 盲目のシスターは視界を失ってはいるものの、魔力で状況を把握出来ているそうだから、オークを一匹倒したことは理解しているのだろう。ジークとリンは慣れているし、近衛騎士さまたちは訓練を積んでいるから問題ない。副団長さまも平然としているし、代表さまたちも当然普通。

 

 『弱いわねえ』

 

 お婆さまが呟いたけれど、リームの騎士に対してなのかオークに対してなのか良く分からなかった。ただ聞かない方が精神的に良さそうなので、スルーしておく。

 というかお婆さま、オーク十匹を相手取る力を持っているんだ。可愛らしい見かけによらないが、長く生きている個体だし私の魔力をしょっちゅう吸い取っているからなあ。強いのだろうと一人で勝手に納得する。

 

 「次っ! また一匹だっ、同じように対応しろ。落ち着いて行けば大丈夫だっ!」

 

 そうしてまた一匹倒すと、オークは駄目だと悟ったのか三匹ほど一気に前に出る。

 

 「他の者たちも前に出ろっ! 一人で倒そうと欲張るなっ! 相手を翻弄して上手く立ち回れっ!」

 

 知能が高くないようで、同じ作戦でも効果は十分にあった。そうしてどんどん倒していき最後の二十匹目を倒したその時だった。森の奥からオークの五割増しな大きさのオークが、随分と大きく立派な両手斧を携えて一匹現れたのだった。

 

 ――あ、不味い。

 

 本能的にそう理解する。現状ではリームの騎士さまたちでは太刀打ちできないと頭の中で警報が鳴る。

 

 「ギド殿下っ!」

 

 「どうした、聖女殿?」

 

 「申し訳ありませんが騎士の皆さまを引かせて下さい。恐らく太刀打ち出来ないでしょう」

 

 「しかし、我々だけで対処せねば……」

 

 そんなものはどうとでも言い訳が立つから大丈夫。リームの騎士さまたちとアルバトロスが協力したと、美談に仕立て上げれば良いだけだし。

 

 「大丈夫ですよ。我々と一致団結して倒せば、リームの騎士さまたちの評判が下がることはありません」

 

 とはいえ手柄をアルバトロス側に傾けすぎると駄目だから、止めはギド殿下にお願いするけど。

 

 「ジーク、リン。リームの騎士さまたちの助力(・・)をお願いしても良いかな?」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 「ごめん、よろしくね」

 

 二人には『助力』という私の言葉で伝わっているはず。確りと頷いて教会騎士としての礼を執った二人は、鞘から剣を抜いて前に出て爆ぜる。

 ジークとリンが居た場所の地面は、大きく土が抉れていた。一気に大きなオークへと詰め寄って、両手を動かす為の腱を切断。その途端、ぷらんと両手が垂れ下がり片腕に抱えていた両手斧が自然と地面に落ちて、突き刺さった。

 

 「凄いな……」

 

 「ええ。お見事ですわ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが感嘆の声を漏らしているし、リームの騎士さま達は口をあんぐり開けて驚いていた。まだ凄い人が控えているから、ジークとリンは地味な方と思うのだけれど、感覚麻痺起こしているのかな、私。

 

 「ギド殿下、首の側面を狙って下さいっ!」

 

 人型の魔物なので、弱点は人間と同じ。切り口が浅くとも致命傷となる首の側面を指定して、ジークとリンではなくギド殿下が倒したように見えるようにしないと。首を斬るから派手な演出になるはず。

 

 「ああっ! 聖女殿の騎士たちよっ、助力感謝する!」

 

 そう声にしてギド殿下は私が伝えた通りにオークの首を狙って切ると、大動脈が丁度の位置にあったのか、かなりの勢いで血を噴き出し絶命するのだった。

 

 ◇

 

 リームの騎士の方々がギド殿下に駆け寄る。殿下のすぐ横には大きなオークの死体が転がっていた。念の為に盲目のシスターに周辺を探って貰うと、魔物の気配は一切ないとの事で一安心。これで数日間、魔物が魔石に誘引されることはない。

 取りあえず魔物の死体をどうしようかと、リームの騎士の皆さまとアルバトロスの面々で案を出し合っている所。

 

 私たちを追って来ていた騎士長さまは、ずっとその場に立ち尽くして機能していない。ギド殿下曰く、お貴族さま出身のボンボンで箔付けの為に騎士長の座に就いたようなものだから、こういう経験は全くなく血生臭い現場も初めて。

 あー、本当に残念な人たちが多いなあ。でもアルバトロス王国もそういう人は少なからずいるし、お貴族さまの社会だと仕方のないことかも。前世だってズケ取り――ゴマすり――でのし上がって無能な人は居た。社会の構図だねえと、さっきから微動だにしない騎士長さまや、神殿の神官さまたちを一瞥し、ギド殿下たちを見る。

 

 「殿下、凄いですっ!」

 

 「ええ、このような魔物をいとも簡単に」

 

 「いや、俺が凄いんじゃない。倒せたのは聖女殿の騎士が動けないように場を整えたからだ」

 

 殿下を褒め称えるリームの騎士さまたちに、ギド殿下がジークとリンに視線を向け、目だけで礼を伝えてた。

 

 「しかしどうします?」

 

 「埋めるにも数が多いし時間が掛かるな」

 

 「少し良いか?」

 

 ぬっとギド殿下の横に立った代表さま。

 

 「だ、だだだ代表殿っ!」

 

 落ち着いて、ギド殿下。声が上ずってる。代表さまは常識人で、取って喰われやしないから。むしろ取って喰うのはエルフのお姉さんズやクレイジーシスターである。失言なんてした日には、死ぬまで言われ続けそうなんだもん。基本、優しいし面白い人たちなのだけれど、怒らせると絶対怖い。危険人物、混ぜるな危険。

 

 『失礼なことを考えていないかしら?』

 

 『なんだか嫌な感じがしたよ~』

 

 ほら、これである。美人で有能で心優しいエルフのお姉さんズが怒ると怖いだなんて、あはは、ありえないありえない。天地がひっくり返ってもあり得ませんとも。

 

 「この一番大きいオークは城まで引っ張って行こう。リーム王に現実を突きつけるには丁度良い薬だ。残りは家畜の餌として村々に配れば良かろう」

 

 聖樹の核となった魔石が魔物を誘引していると、ほんの少しだけ事実を曲げてリーム王に伝える。神殿にある魔石がまだ機能しており、聖樹を酷使した恨みにより枯れた聖樹が王都を魔物の手で滅ぼそうとしているのだと。

 

 それを解決する方法はリーム王が玉座から退き、聖樹脱却派である王太子殿下に譲れば収まるだろう。これで退かなければリームは滅びの道を歩むのみと、エルフのお姉さんズに解説してもらう予定だ。何だか胡散臭い占い師みたいである。ただ、神殿の神官さまたちより説得力がある気がするのは可笑しいけれど。

 

 「そうですね、そうしましょう。――オークを解体出来る者は居るか? それか村の者を呼んでこい!」

 

 「はっ!」

 

 走って小さくなっていく騎士さまの背を見送り、騎士の方たちが慣れた手付きで倒したオークを捕縛用の縄で足を縛って木に吊り下げて血抜き処理。

 血があると妙なモノを引き付けかねないので、防水処理された布を敷いて近くの川に流す。環境破壊をしている気がするが、気にしたら駄目。そうして待つこと暫く、オークの死体処理を終えたリームの騎士さま達やギド殿下が良い顔を浮かべ。

 

 「聖女殿、皆さま、城へ戻りましょう」

 

 ちなみにリーム王の命令でやって来た騎士さまは、意気消沈していて使い物になっていない。どうせ、王城に戻るのだからあんな手荒なことをしなくても良かったのに。でも彼が率いていた騎士の殆どを聖樹脱却派に回すことに成功したので、役には立ったか。

 

 ギド殿下の声に呼応しなかったリームの騎士さんたちは捕縛されてる。王族を守る立場なのに何もしなかったという理由で。

 

 寝返った皆さまには実家に戻って吹聴していただいたり、奥さまや婚約者さまの実家にも現王の所為で聖樹が枯れたこと、王太子殿下にはアルバトロス王国と亜人連合国が後ろ盾になったとお伝えくださいませ。これで少しは楽に代替わりが出来るだろう。あ、あと王妃さまの実家にも王太子殿下の後ろ盾になって頂かないとなあ。

 

 どんどん話が大きくなっているが、王太子殿下には覚悟を決めて頂くしかない。

 

 まあ、聖樹脱却を掲げた時点で相応の覚悟はしていただろうけれど、こんなに話が大きくなるだなんて考えていなかっただろうなあ。自分の身に降りかかると厄介ごとだけれど、他人の身に降りかかるならば面白いものなのだなあと実感する。聖樹についても解決したから、他人事になっちゃったし。

 

 もしかして公爵さまは私がこうしてやらかしたり人脈を築いていることを、面白おかしく眺めていたのだろうか。あの人なら呵々と笑って楽しんでいそうである。豪胆な性格だし、荒事も楽しむ傾向がある。今回の事も愉快愉快と楽しんでいるに違いない。

 アルバトロスの陛下は気が気じゃないかも知れないが、リーム王国の王さまが交代すると大陸最年少は王太子殿下になるはず。良かったね後輩ができてと、神妙な顔を浮かべていそうなアルバトロスの陛下に心の中で合掌した。

 

 大きなオークは代表さまが歩いて引っ張っていくそうだ。大事な客人の扱いが雑だがあのオークを馬に引っ張らせるのも難儀するし、選択肢がなかった。大所帯になってしまったのでジークやリン、アルバトロスの騎士の皆さまは徒歩である。待たせていた馬車に乗り込んで、一路リームの王城へと戻るのだった。

 

 そうして王都へと入って城の門を潜ると、リーム王と聖樹派貴族と神殿の神官さまたちが私たちを待ち構えていた。

 

 「良く戻って来てくれた、ギドよ。聖樹は見つかったのか?」

 

 少しやつれた顔のリーム王は、柔和な声でギド殿下に言葉を告げる。

 

 「陛下。聖樹は枯れました。聖樹から逃げたという魔力も霧散し大地へ還りました。――それよりも報告したいことが……」

 

 「何を言うっ! 聖樹は我が国の要、なくてはならぬ存在っ!」

 

 ギド殿下には聖樹の魔石が魔物を誘引していると、伝えて頂く予定だったのだが、声を荒げたリーム王本人に遮られた。人の話は最後まで聞けよと、心の中で悪態をつく。

 

 「陛下っ! いい加減にして下さいっ! 事実を直視せず、聖樹に頼ろうとする姿はもう王の器ではございませんっ! 聖樹の元となっている魔石が魔物を誘引しておりますっ!」

 

 一度言葉を止めて騎士の方たちへと視線を移すと、リームの騎士の方たちが五人で大きなオークを引っ張ってリーム王の前に転がした。

 

 「ひぃっ!」

 

 神官さまたちは死んでいるオークに怯えて顔色が悪い。リーム王もあまり見たことのない魔物に引いているようで、何かを考えているような素振りを見せる。

 

 「父上、いえ陛下。もう貴方にはリームを任せておけません」

 

 静かな声色でこの場へとやって来たのは王太子殿下と、王妃さまに第二王子殿下が姿を現したのだった。

 

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