魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0124:動き出したリーム王国。

 静かにそっと現れた王太子殿下に王妃さまと第二王子殿下に、聖樹脱却派貴族の方々。リーム王を取り囲んで、表現しがたい顔で彼を見ていた。

 逆にリーム王や神殿の神官さまたちや聖樹派のお貴族さまは何事かと、状況を把握しかねているようだった。転がっているオークの死体が異様な空気を醸し出している。

 

 「父上、いえ陛下。もう貴方にはリームを任せておけません」

 

 他国の者、しかも重要人物に手を出したあげく、約束も反故にして責め立てた上に騎士を差し向けたことは、アルバトロスや亜人連合国に対して喧嘩を売ったようなもの。理性が残っている聖樹派の貴族は、聖樹が枯れたことを認め王太子殿下が後ろ盾を得たことで簡単に寝返ったこと。

 

 「貴方は玉座に居る価値はあるのでしょうか?」

 

 王太子殿下が目を細めて、厳しい言葉を紡ぎながらリーム王を見据える。第二王子殿下も王妃さま、彼らの側に居るお貴族さま達も厳しい視線を向けていた。

 

 「陛下、私は兄上を……王太子殿下を支持させて頂きます。聖樹がもう持たないと言われて久しいというのに、貴方は聖樹に頼るばかりで何も方策を示さなかった」

 

 第二王子殿下がリーム王を否定し、王太子殿下の後ろへ移動する。

 

 「俺も王太子殿下を支持させて頂く。貴方がアルバトロスへ留学を命じた時は呆れ果てたが、向こうで知識を手に入れられて良かった。聖樹に頼り切りのリームが間違っているのだと知った」

 

 第三王子であるギド殿下もまた厳しい言葉を告げ、王太子殿下の後ろに着いた。王妃殿下もまた厳しい顔で王太子殿下の後ろへ移動した。二学期よりも前にアルバトロスへとやって来ていたギド殿下は、出来る限りアルバトロスの農業事情を調べたらしい。

 特段隠している事ではないので、情報は簡単に手に入ったそうだ。そうして自国と他国の大きな違いに気付く。聖樹に頼らずとも、農業は十分に発展しており成果も十分にある。下手をすれば聖樹に頼っているよりも、収穫量が多いのではないかと。

 

 「貴様らっ、何を言うっ! 王であるワシを引き摺り下ろそうなど、無理に決まっておろう!」

 

 息子たち三人に激高するリーム王。神殿の神官さまたちは、リーム王のその声でびくっと肩を揺らした。

 

 「引き摺り下ろす? 何を言いますか。貴方は聖樹が枯れたことに気落ちし、そのまま退位するのですよ。そういう筋書きです」

 

 この機会をずっと伺っていたのだろう。今回、アルバトロスの聖女が聖樹へ魔力補填を行ったことによって、王太子殿下はアルバトロス王と接触することが出来た。

 アルバトロスの外務卿さまと王太子殿下はいろいろと話し合いの末、協力体制を築いた。私たちが聖樹から逃げた魔力を探している間に、随分と話が進んだようだ。リーム王を追い落とす気満々みたいで、急展開過ぎてついて行けない。でもギド殿下は打ち合わせも何もしていないと言うのにノリノリなのだけど。彼の心の中までは分らないけれど。

 

 「リームの象徴たる聖樹を枯らせた責任を、取って頂かなくては。これ以上醜態を見せ、後世に愚王と評されることをお望みか」

 

 「陛下、聖樹の元である魔石が魔物を誘引させております。このまま放っておけばいずれ我々だけでは対応出来ません。其処に転がる魔物は聖女殿の騎士の助力により倒せたのです」

 

 また強い魔物が現れれば被害は更に広がることや民に被害が出ること、リームの騎士で対応出来るか分からないこと。そして王都も王城も危険にさらされ危ないこと。

 

 「な、何故聖樹が……我々に……」

 

 「父上、聖樹はもう疲れ果て病んでしまったのでしょう。ずっと頼り切りの我らに愛想を尽かし、魔物をけし掛けている」

 

 ギド殿下が事実を伝え――少々違うけど――て、リーム王に僅かに残っている気力を折ろうとしていた。

 

 「そんな……聖樹はリームに豊穣を齎すと言って…………神殿が……」

 

 両膝から崩れ落ちたリーム王は、静かに涙を流していた。

 

 口上手く騙されたのか。六十年ほど前からゆっくりと弱っていたハズなのに、甘い言葉に惑わされて信じ込んでしまった。

 聖樹が目の前で枯れ果ててもなお信じず、聖樹はどこかに消えただけと考えていたのだろう。現実を見据えていた王太子殿下たちに心を折られて、もう立つ気力もないリーム王。

 

 「聖樹が枯れたならこの国は終わりだ! これから魔物に襲われ、天災にも見舞われるのだっ!」

 

 リーム王の横に居た神官さまが、急に叫び始めた。王都近くの森の中へと移動しただけで、聖樹は枯れていない。

 だから竜の意識を取り込んだ魔石さえどうにかできれば、問題はない訳で。聖樹の行方を知っている身としては、神官さまが凄く滑稽に見える。追い詰められた故の、その場しのぎの茶番に呆れ溜息が出る。

 

 「何を根拠にそのような戯言をっ! 確かに聖樹は枯れたっ! だが聖樹が見つかる前のリームでは魔物も災害に見舞われることも稀!」

 

 神官さまの声をかき消すように、ギド殿下が叫んだ。こちらへと戻る際に、隠し事は苦手だと言って暴露してくれた話だ。いつしか神殿が都合の良いように事実を改竄し、リームも受け入れてしまった。その秘密は王族や貴族のみが知る事実だそうだ。

 

 今の今まで聖樹に頼り切っていたツケが自分の世代に回ってきてしまった。けれど王太子殿下や第二王子殿下に王妃さまのお蔭で、父であるリーム王からの言葉を真に受けて育たなかった。兄二人や母が居なければ、自分も父のようになっていたかもしれないと苦笑いしていたギド殿下が印象的だった。

 

 「魔物を誘引している魔石は亜人連合国の方々により、厳重に封印処置が施されるっ! 聖樹がなくともこの国は終わらぬっ!」

 

 ギド殿下が代表さまへと視線を向けると、ゆっくりと頷いて殿下の横に立った。

 

 「ああ、確約しよう。黒髪の聖女から乞われ我々はこの国へ参った。呪われた魔石は我が国で預かり管理する」

 

 いや、代表さまたちはお婆さまの気紛れに巻き込まれただけなんだけれどね。たまたま聖樹の元となっている魔石が、ご意見番さまに喧嘩売った竜で未だに逆恨みしているという、女々しい奴だっただけで。

 この場に居る全員に聞こえるように代表さまが声を出すと『亜人連合国が何故?』『黒髪の聖女とは懇意と聞いているが』『いつの間に王子たちと接触を』と困惑している。代表さまたちがリーム入りしている理由は、私経由でギド殿下と知り合いになって殿下が私的に招いたと、適当に理由をでっち上げているからどうにかなる。

 

 「代表殿、感謝いたします」

 

 代表さまは、リーム王が私に対して契約不履行を起こしたことを怒っていたし、聖樹の話を聞いて『自立すべきだ』と語っていたので殿下たちの後援につくのは問題ないらしい。エルフのお姉さんズも約束を反故にして逆ギレしたリーム王に呆れ、リーム王が代替わりすることに反対はしていない……というか今の状況を楽しんでいる。

 

 「父上、お体に障ります。部屋へ参りましょう」

 

 王太子殿下がリーム王に優しく声を掛け、騎士二人に抱えられて城の中へと消えていくのだった。

 

 ◇

 

――リーム王が病に臥せった。

 

 そんな噂が流れてきたのは、私がリーム王国からアルバトロス王国へ戻って一週間後のことだった。

 

 リームの聖樹が枯れたことは、アルバトロスのお貴族さまたちの間でも持ちきりだそう。以前から聖樹に頼り切りのリームには疑問に感じていたそうだから、その話で盛り上がるのは仕方ないと言えるのだろう。

 

 聖樹の妖精さんを見つけて切り株に挿し木をして、リームの王城へと戻って一悶着あったが、リームの王太子殿下が有能だったお蔭かリーム王国内の掌握がいつの間にか済んでいた。おそらくは聖樹が枯れかけていたということ、枯れてしまったことが聖樹脱却派に回らざるを得なかったと言うべきか。

 

 リーム王が城へと消えた後、神殿の神官さまたちもほとんどが王太子殿下の手によって粛清された。勝手に『聖樹が枯れたからリームは終わりっ!』だなんて叫ばれたら、そりゃ粛清されても仕方ない。捕まったあげくに財産没収され、王太子殿下が国営の足しになると良い顔で告げてた。

 

 神殿がそんな状態なので、アルバトロスが聖王国へ乗り込むときに一緒に抗議に向かうと約束している。お金を聖王国から沢山ぶんどりましょう――意訳――ねと、王太子殿下と別れ際に固い握手を交わしてきたので、乗り込む際にはその有能っぷりを是非とも見せて頂きたい所。

 

 魔物を誘引していた魔石は代表さまが亜人連合国へと持ち帰った。ご意見番さまに喧嘩を売った竜が死んでも尚、彼を恨んでいると向こうに住んでいる竜の方たちに懇切丁寧に教えるそうだ。

 エルフのお姉さんズやお婆さまもソレに加わるそうで、なんだかあの魔石がちょっと可哀そうになってきたが、自業自得である。ただ、あの魔石になった元がもっと真面目な竜とかなら、頑張って頑張って頑張り抜いた後に一瞬で枯れそうだから、リームにとってはあの魔石で良かったのかも。

 

 今のところ王太子殿下がリーム王の代理として王国の政を担っているが、落ち着いたら戴冠式を執り行うそうだ。その際には是非とも参加してくれと言われたのだけれど、行かなきゃ駄目なのだろうか。こういうことは筆頭聖女さまの役目で、一介の聖女がやることじゃあないのだけれど。

 

 新たな聖樹さまは、あの森の中で静かに暮らす予定である。聖樹さまが別の場所へと移動したことは、ギド殿下から王太子殿下とリーム王国の極一部の人間しか知らない。

 森には進入禁止の柵が設けられ、見回りの騎士さまたちを配置するそうだ。私が願い出た通りにリーム王国があの森一帯を管理するそうで、周辺の村々には狩場を奪ってしまった補填としてお金を出すとのこと。

 

 そして一番大変だったのは、神殿の枯れた聖樹を欺瞞魔術で隠していたのを、リーム王国の民に知らせる時だった。

 

 『聖樹が枯れ、リームはもう聖樹に頼ることは出来ない』

 

 王城の前に集まった民に王太子殿下は事実を包み隠さずはっきりと告げ、不安に駆られる民を一喝する。

 

 『だが悲観することはないっ! 我々は協力者を得たっ! アルバトロス王国や近隣国が技術提供を申し出てくれ、技術者を派遣してくれると確約をくれたっ!』

 

 叫ぶ王太子殿下の横にはアルバトロスの陛下や周辺国の陛下や名代の方々が立っていた。リームが亡国になると困るのは隣国であるアルバトロスやその周辺国である。教育を十分に施されていない難民が押し寄せられても困るだけで、益がない。だからこうして王太子殿下の横に立ち、聖樹がなくとも我々がサポートしますよアピールだった。

 

 おお、と歓喜に染まるリーム王国の人たちを城の城壁から見ていたのだけれど、単純だなあと苦笑いしていた。

 

 農業の知識や技術の普及には時間が掛かるだろうが、あの三兄弟ならばなんとか出来るだろうと考えながら帰国の途に就いた私たち。

 次の日には学院へと行き、授業を受けていた。私の休みの日って一体いつなのだろうと頭を捻る。ただ、長期休暇に入って討伐遠征へ赴いたあの日から、休みらしい休みなんてないよなあと乾いた笑いが込みあげそうになった。

 

 「ナイ、どうしたの?」

 

 サフィールに声を掛けられ、意識が浮上する。そういえば自室で仲間内五人でお茶を飲んでいたのだった。

 

 「サフィール、いつものことだ。また何か考え事でもしてたんだろ」

 

 クレイグが私の顔を見てくつくつと笑いながら、出されたお茶を飲み干し席を立つ。

 

 「悪い、家宰殿に油を売るのはいいが、早く戻ってこいと言われてるんだ。行くな、お茶ごちそうさんっ!」

 

 「いってらっしゃい」

 

 片手を上げて部屋を出て行くクレイグに私も軽く手を振って見送る。部屋の扉は空いているので、そのまま小走りで出て行ったクレイグの背を暫く見ていた。

 

 「忙しそうだね、クレイグは」

 

 「サフィールも忙しくなるでしょ。そろそろ託児所が用意出来るから、期待してる」

 

 以前、子爵邸で働かないかと声を掛けていた孤児仲間であるサフィールとクレイグが、ようやく引っ越しを終えて子爵邸で住み込みで働くようになった。商家で働いていたクレイグは家宰さんの下に就いて、見習い兼補佐役を。サフィールは孤児院で働いていたことを生かして、数日後に始まる託児所の職員さんである。

 

 「うん、頑張るよ。それにしても、良く思いついたね。子爵邸で働く人たちの子供を預かるなんて」

 

 「子供が小さいけれど働きに出なきゃいけない人って居るだろうし、家で留守番させるのも心配だろうしね」

 

 それならいっそのこと、親子で一緒に子爵邸に来て、親は働き子供は託児所で面倒を見て貰えば良いだけだ。まあ、前世の記憶で保育園とか幼稚園の知識があるから思い付いたことなので、自慢にはならないけど。

 

 王都といえど、家に小さい子供一人とか怖くて仕方ない。人攫いとか普通にあるし、それなら警備が確りしているウチで預かれば安心して働けるというもので。

 ご飯も出るし、文字の読み書きや簡単な計算くらいは教えられるし、結構いい環境じゃないかと自負している。始まっていないので不便なことや問題点なんかは、逐次報告に上げて貰う予定。こうやって試行錯誤することは嫌いじゃないから、楽しくはある。

 

 あとはお金が問題になってくるけど、リーム王国に派遣やら障壁の魔力補填やらで随時入ってくる。王都の扇動騒ぎで孤児院がどうのと言っちゃったので、そっちにも手を回さなきゃならないし、教会の改革にも顔を出さなければならない。だというのに学院にはキチンと通いなさいというのが、公爵さまからのお言葉だった。今も変わらず学費を出して貰っているので、逆らえなかった。

 

 貧乏暇なし金もなしって言うけれど、お金持ってっても凄く忙しいじゃないかっ! って声を大にして言いたい。

 

 「ジークとリンも大変じゃない? どんどんナイの名声上がっているから、やっかみとかもありそうだけど」

 

 サフィールが同席していた兄妹へと視線を向ける。

 

 「男爵家の籍に入って減ったな。時折、馬鹿が居るが放っておけば良いからな」

 

 「うん。亜人連合国に行ってからは、遠巻きに見られてる感じだから、面倒事は随分減ったかな」

 

 リンの亜人連合国という言葉にアクロアイトさまが反応して顔を上げた。どうやら、なんとなく気になっただけで、深い意味はなさそうだ。私の膝の上に乗っているのだけれど、また寝る態勢に入ったし。

 

 「竜を従えてるって噂になったけれど、本当に竜を引き連れているとは思わなかったけれどね……」

 

 サフィールが膝の上のアクロアイトさまを見る。サフィールとクレイグがアクロアイトさまを初めて見た時は、かなり驚いていた。

 二人も私の祝福を受けているので、アクロアイトさまから近寄ってビビりまくっていたのが面白かったけど。そしてそんな二人を笑ってみていたら、怒られるまでがセットだったりする。

 

 「私もこんなことになるとは思ってなかったけれどね。でも可愛いからなあ」

 

 懐いて甘えてくれるし、基本大人しいし、こっちの言葉を理解しているようだから問題が少ない。時折、ごっそりと魔力を持っていかれることがあるので、問題らしい問題はそのくらい。犬猫みたいに予防接種とかも必要ないし、病気になれば魔術を施せばいいから。

 

 「確かに可愛いけれど、大きくなったらどうするの?」

 

 「亜人連合国に戻ってもらうしかないのかなあ…………」

 

 流石に一緒に生活出来なくなったら、そうするしかないような。寝ていたアクロアイトさまが急に起き上がって、一鳴き二鳴きする。どうやら話を聞いていたらしい。

 

 「嫌だって」

 

 サフィールが笑って、アクロアイトさまを見た。

 

 「みたいだね」

 

 苦笑いを浮かべてアクロアイトさまの頭を撫でると落ち着いたのか、また寝る態勢に入った。クレイグは仕事に行ってしまったけれど、こうして幼馴染組で穏やかな時間が流れるのも良い物だなあと改めて思う。

 

 リーム王国は新しい世代がきっと盛り立てて行く。苦労はあるのかもしれないが、聖樹に頼り切りという歪な形は終わらせた。農業以外にも畜産業にも手を出してみると気合が入っていたし、これからどうなっていくのか楽しみだ。

 

 「ナイ、悪い顔してる」

 

 「え? してないよっ!」

 

 サフィールの声にぎょっとして彼を見る私。そんなつもりは全くなかったのだけれども。

 

 「してたぞ」

 

 「してたね」

 

 ジークが静かに笑い、リンはへにゃりと笑った。

 

 「みんな酷い……」

 

 あと一週間経てば聖王国へと乗り込む手筈になっているけれど、今は穏やかな時間を楽しまないと。

 

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