魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0125:フライハイト男爵領。

 リームから戻って一週間が過ぎ学院へ赴くと、なんとギド殿下がいらっしゃった。驚いて彼の顔を凝視すると私に気付いたギド殿下が『兄上、王太子殿下がアルバトロスで勉強を続けろと仰ってな』と良い顔で教えてくれた。リーム王国の今現在、と言っても一週間しか経っていないが聖樹が枯れたことを少しずつ受け入れ始めているそうな。

 神殿も聖樹がなければ意味がないので、ほぼ崩壊状態だそうだ。ギド殿下は邪魔だから暫くは必要ないだろうと豪快に笑ったが、本気で教えに従っていた人には悪い気もする。まあ、その辺りは五日後に控えている、聖王国の教会へ行った時に文句を言えば良い訳で。

 

 聖樹は枯れてしまったが、リームは新しい未来へ足を進め始めた。で、今日は学院がお休みの日……なのだけれど、私の予定はギッチリと埋まっていた。

 

 以前、リーム王国で聖樹から逃げた魔力を追う為にダウジングを実施して、何故か地図の端にあるアルバトロスとリームの国境に位置するアリアさまの実家がある場所で反応を示したのは記憶に新しい。侯爵家の聖女さま、ロザリンデさまの結果であったが、リームから戻って時間が出来れば調査してみようということになっていた。

 

 朝、ご飯を終えて幼馴染組で『今日も一日頑張ろうっ!』と言ってみんなの拳面を突き合わせ、それぞれの予定をこなす為に別れて、ジークとリンと私は馬車に乗って王城へと向かう。先にお城入りしていたソフィーアさまとセレスティアさまと合流した後、魔術師団の方たちが活動している隊舎へと赴くと、副団長さまが笑顔で迎え入れてくれた。

 

 「皆さん、おはようございます」

 

 副団長さまの声に私たちも挨拶を返していると、少し慌てた様子で遅れてやって来たアリアさまとロザリンデさま。

 

 「お待たせして申し訳ございません」

 

 「みなさん、ごめんなさいっ! ロザリンデさまは悪くないんですっ! お城が珍しくて目移りしていたら騎士の方とはぐれて、迷っていた所を助けて頂きましたっ!」

 

 アリアさまとロザリンデさまは、私たちに頭を下げた。お二人は、なんだかんだで仲良くなっている。リーム王国で政治の話となると彼女たちも一緒に……とはいかない場面があり別室で待機して貰っていたこと多々あった。その時に仲を深めたのだろう。アリアさまは人懐っこい性格で誰とでも話が出来る方だし、ロザリンデさまとは討伐遠征で面識がある。

 

 アルバトロスの城の魔術陣に魔力補填をしているし、先輩後輩みたいな関係になれば良いけれどと願う。ただ、どうして騎士の方とはぐれてしまったのだろう。彼女の後ろに控えている教会騎士は微妙な顔になっているが、大丈夫だろうか。

 

 「大丈夫ですよ。そう気にせずとも、待ち合わせの時間より前ですから」

 

 副団長さまがみんなの代表として、頭を下げたお二人に声を掛ける。魔術が絡んでいなければ、紳士な副団長さま。

 長い銀髪を揺らしてにっこりと笑う姿は、本当にカッコいい。残念なのはこの場に居る女性陣は、そんなイケメンの彼を異性として全く興味がないことだろうか。私は色気より食い気だし、リンもその気配がある。

 ソフィーアさまはどう考えているか分からないけれど魔術の先生と弟子の関係だろうし、セレスティアさまは婚約者であるマルクスさまが居る。アリアさまも副団長さまに熱視線を向けている訳でもないし、ロザリンデさまも興味がなさそう。

 

 こう、甘酸っぱい青春みたいなものはどこかに転がっていないのかね。ニヤニヤしながら眺めるというのに。まあお貴族さまが多く通う学院だし、婚約者が既に宛がわれている人も多い。

 私が通うクラスは特進科で、高位貴族の子女の方々が多いから、自由恋愛は難しそうだし。最良物件であろう、ギド殿下と第四王子殿下に熱い視線を向けている女子は多いけれど、お二人は興味なさそう。

 

 ――なんだか寒気が。まだ暖かい時期だというのに妙なものだ。気の所為気の所為と頭を振って、意識を戻す。

 

 ソフィーアさまはクラスの女性陣の中で最高位である公爵家のご令嬢だが、第二王子殿下のアレを引き摺っているのかアプローチする人を見たことがない。確かフリーの伯爵家出身の男の子がクラスに居るというのに。

 ソフィーアさまは話し方は男前だけれど、優しい人だし常識人だし、良い人だというのに勿体ない。ただ、気楽に話しかけられる人物ではないか。公爵家ということは王族の血を多少なりとも引いているだろうし、高嶺の花すぎて手が出せないのだろう。

 

 「さあ、みなさん。行きましょうか」

 

 副団長さまの声で我に返る。どうやら出発準備が整ったらしい。副団長さまや護衛の騎士さまたち、ソフィーアさまとセレスティアさま、アリアさまとロザリンデさまにジークとリンと私が、副団長さまの転移によってアリアさまのご実家へと移動していた。

 アクロアイトさまが私の肩で一鳴きしたので、忘れるなと言いたいらしかった。アクロアイトさまにまで、心の中を読まれるようになっている。何だろう、魔力をあげすぎなのだろうか。

 

 報告書に記載していた為に陛下や上層部も把握しているのだろう。副団長さまからも話を通しているので、地質学者の方が同行している辺り本気度が伺える。

 

 「あ、あのっ! あんな場所に何かあるのでしょうか? もし、何もなければ皆さんのお時間を奪っただけになりますし……」

 

 調査団である私たちに、アリアさまが胸に手を当てて申し訳なさそうな顔を浮かべてそんな事を言った。

 

 アリアさまのご実家であるフライハイト男爵領は一言で表すと田舎で、農業を営みながらギリギリの生活を送っているそうな。

 男爵さまが領民と一緒に鍬を振るっているそうなので、領地経営が上手くいっているとは言い難い。アリアさまも一緒に鍬を振っていたというし、大変なのだろう。学院へも継嗣であるお兄さんしか通えなかったと以前言っていたし。

 

 「聖女さまによる探索で反応があったのですから、何かしらはありますよ」

 

 はてさて水脈か金脈か鉱脈か岩塩に魔石に……まあ何でもござれらしい。魔力持ち、しかも魔力量が多い人間ほど反応しやすいとか。それなら副団長さまがやればいいのではと興味本位で聞くと、何故か男性は反応しないとのことで。副団長さまの切なそうな顔をみて、なんだか世知辛い世の中だねえと目を細めた記憶がある。

 

 「領が潤えば、そこに居る民のみなさまも潤うことになります。遠慮など必要ないかと。とはいえわたくしが反応を示しただけなので、大したものではないかもしれませんが」

 

 ロザリンデさまが副団長さまの言葉に補足した。確かに何か見つかって、事業を起こせば儲けることが出来る。水脈でも農地や各家庭に届けることが出来れば楽になるだろうから、こういうことは考え方次第だろう。

 

 「そんなことはありませんっ! ロザリンデさまは実力のあるお方だと私は信じていますっ!」

 

 あの討伐遠征の時の失態から彼女は心を入れ替えて頑張っていると、ソフィーアさまが教えてくれた。お貴族さまとしての評判は落ちてしまったが、聖女としての評判は上がっているらしい。

 高慢ちきな態度から一転、しおらしくなったあげく治癒院への参加や炊き出し等に参加するようになったと。一度、底まで落ちてしまったから後は上がるだけだ。彼女のように腐ることなく頑張れば、周りはちゃんと認めてくれるという好例だろう。

 

 「ありがとうございます、アリアさま」

 

 あの時の彼女を知っている人間が多い所為か、空気が温かい。それに気付いていないのはアリアさまとロザリンデさま。そうして盛り上がっていた片方がはっと気が付いて、私たちの方を見る。

 

 「なっ! どうして皆さまはその様な顔でわたくしたちを見ているのですかっ!!」

 

 いやだって、ねえ。そこまでロザリンデさまが変わるだなんて思っていなかったんだもの。この空気も仕方ないことだろうに。

 

 「さあ、時間は有限です。男爵領へ参りましょうね」

 

 少し声が楽しそうな副団長さまの言葉のあと、転移魔術陣が私たちの足元に展開して光りはじめる。

 その光に包まれ視界が遮られてから暫く、緑が生い茂る山々を背後に、目の前には田畑が広がる長閑な景色。アリアさまのご実家であるフライハイト男爵領へと、無事に転移を終えるのだった。

 

 ◇

 

 小高い丘の上に調査団一行は転移したようだ。私たちの背には高い山々が、目の前には田畑が広がっている。水車が見えるし、水車小屋の中では小麦かなにかを挽いているのかも。本当に長閑で目に優しい光景。

 聖女の服に、騎士服を纏った一団と魔術師である証の外套を纏った副団長さま、かなり良い身形のソフィーアさまとセレスティアさま、ようするに私たち調査団はこの景色に溶け込むのは無理があった。

 

 「そういえばフライハイト男爵さまにこの話は通してあるのですか?」

 

 まあ仕事でやってきているのだから、気にしても仕方ない。ただ、この長閑な場所に似合わない一団がいきなり現れれば、男爵領の方たちはさぞ驚くだろう。

 

 「通信用の魔術具もお持ちでないようでしたから、直接お話する予定です。一応、先触れは出してあるので僕たちが来ることは知っているはずですよ」

 

 副団長さまの言葉に胸を撫でおろすと『失礼ですねえ』と本人からそんな言葉が返ってきた。だって副団長さまって自分の興味優先の人だもの。意外だっただけで、失礼じゃないと思う。

 

 「あっ! では、私は皆さんが来たことを父に知らせてきますねっ!」

 

 アリアさまが突然に声を上げて、ぴゅっと走り出した。彼女の護衛である教会騎士さま二名が驚いた顔をして、私たちに頭を下げ『お待ちください、聖女さまっ!』と声を上げながら彼女の背を追いかける。

 アリアさまの足が意外に速く、なかなか追いつけない。その姿を見て野生児だなあと、目を細める。彼女が野生児なら、私は野犬とかそんな感じになるのか。生い立ち的に。

 

 「足、速いな。しかし護衛を放って行くのはな……」

 

 「ええ。足腰が確りしていらっしゃるようで。騎士の方、怠けていらっしゃるのかしら?」

 

 ソフィーアさまが小さくなっていくアリアさまの後ろ姿を眺めつつ苦言を呈し、セレスティアさまが教会騎士さまの鈍足っぷりを嘆いていた。いや、あれはアリアさまの足が速いだけのような気がする。お二人とも運動神経が良いから、騎士に対する評価が厳しすぎるだけだろう。

 

 アリアさまは自分に護衛が付いているということにまだ慣れていないのか、単純に思い立ったから即行動に起こしただけなのか。

 

 「後で彼女には言い含めておきませんと」

 

 アリアさまの背を見ていたロザリンデさまがぼそりと呟いた。

 

 「お願いします。あれでは彼女の護衛に就く人間が迷惑を被るだけです」

 

 城で騎士の方とはぐれたのも、今と似たような理由なのかも。

 

 「ですわね。――元気が良いのは構いませんが」

 

 ロザリンデさまにソフィーアさまが口調を変えて目だけを下げ、セレスティアさまは鉄扇で口元を隠していた。

 

 ジークとリンがまだ見習いだった頃は、教会から宛がわれた騎士さまが控えていたが苦手だったものなあ。

 何をするにも、どこへ行くにも後ろに控えている。気にすると余計に気になるし、護衛の方は気にするなという顔をしているし。まだ新米聖女さまなのでアリアさまも直に慣れてくるのだろう。彼女は一度伝えれば二度目は失敗しないし、素直に受け入れる子だし。

 

 「ゆっくり男爵邸まで参りましょう。――お二人には、こちらを」

 

 副団長さまから紐を括りつけた指輪を渡される。どうやらロザリンデさまと私はダウジングをしながら移動しなければならないようだ。手のひらの上に置かれた指輪の片方を受け取って、糸の端を持ち指輪を垂らす。今の所何の反応も見せていない指輪が、反応を見せることはあるのだろうか。

 

 「足元にはお気をつけて」

 

 そうして歩き始めた調査団一行。先頭は護衛の騎士さまが二人歩き、その後に続いて私とロザリンデさまが。その後ろにゾロゾロと固まって続いてた。

 なんとなく垂らしていた指輪が反応することはないまま、フライハイト男爵邸へと辿り着く。立派とは言い難く所どころに自前で修繕したのだろうかと思えるような場所がある。門扉の前にはアリアさまと護衛の騎士さま――大汗を掻いている――が待っており、邸の前まで案内してくれた。

 

 「このような田舎に……皆さま、ようこそいらっしゃいました」

 

 男爵邸の前で割と年を取った男性と青年と中年女性に迎え入れられた。アリアさまの紹介で男爵さまと、次期男爵さま、そして男爵夫人と教えてくれた。

 使い込んだ服を着たフライハイト男爵さまは、疲れているのか覇気がない。継嗣であろうアリアさまのお兄さまも男爵さまと同じ様子で、静かに頭を下げるのみ。どちらかというと男爵夫人の方が明るく、アリアさまと血縁なのだなあと実感。ただみんな目鼻立ちが整っており、年相応の美男美女であった。

 

 「満足なおもてなしも出来ませんが、中へどうぞ」

 

 そうして屋敷の中へと案内されたのだけれど、屋敷の中は質素という言葉が凄く似合うほどに質素だった。

 ま、まあアリアさまから話は聞いていたので驚きはしないが、お屋敷を賜った身としては自身の屋敷と比べてしまう訳で。王都と辺境の田舎では違うのかもしれないが、それでも調度品が少なく最低限といった感じ。

 

 「ではフライハイト卿、こちらは陛下からの書状となります。ご一読を」

 

 今回の調査団のリーダーである副団長さまが、懐から手紙を取り出して男爵さまの前へと出した。

 

 「へ、陛下っ、からですかっ!!?」

 

 片田舎の男爵さまが陛下と会う機会は人生で一度あるだけだろう。代替わりの叙爵の際は、陛下が式を執り行うからその時に顔を見ているはず。アリアさまのお父さまならば前の陛下の可能性もあるけれど。

 

 「はい。ご確認いただけると分かるかと」

 

 にっこりと笑って中身の確認を勧める副団長さまの顔を見たあと、手紙へ視線を落とした男爵さまは覚悟を決め、封蝋を確認すると顔を更に引きつらせた。

 

 「決して悪い話ではありませんので、落ち着いて下さい」

 

 副団長さまの言葉にごくりと息を飲んで、意を決し手紙に目を通す男爵さまの顔がどんどんと赤味を差していく。

 

 「ほ、本当なのでしょうか。我が領に何か資源があるかもしれないとっ!」

 

 「ええ。偶然、そちらにいらっしゃる聖女さまの探索で反応を示しました。ですので我々に領内を調べる許可を頂きたく」

 

 副団長さまがロザリンデさまに視線を向けると、彼女が男爵さまに軽く頭を下げた。

 

 「分かりました。しかし、発見された場合はどういう扱いとなるのでしょうか?」

 

 「それは尤もな質問ですね。……――」

 

 男爵さまの質問に副団長さまが丁寧に答える。調査団が何かしらを発見した場合、領主に報告し自前で開発するか国も関与するかの選択が与えられる。勿論、見つかったモノによるので、一番しょっぱい水脈ならば『この辺りを掘れば井戸が使えるようになる』で終わるらしい。あとは岩塩なんかも、場所を教えてそれで終わり。

 

 国が関わって開発する価値があるもの、金や銀に金属類の鉱脈に宝石類に魔石等は、取り分や出資率を協議した上でそこから開発に着手する。揉めて戦争になる可能性もあるそうだから、かなり慎重になるらしい。お金を生み出す卵だから、欲が凄い事になるそうで。

 

 「こんな田舎に……ですが我が家が出資できるお金は微々たるものです……」

 

 「フライハイト卿、悩むのは見つかってからで良いでしょう。空振りになる可能性があることも考えておいて頂かねば」

 

 確かに空振りに終わる可能性もある。それなら知らない方が幸せだろうけれど、勝手に領内をウロウロする訳にもいかないので、こうして話をしている。

 

 「そうですな。――ではヴァレンシュタイン卿、調査をよろしくお願いいたします」

 

 男爵さまが副団長さまに頭を下げる。

 

 「はい、承りました。日没までには一度こちらへ戻りますので」

 

 副団長さまが立ち上がったので、私たちも立ち上がる。そうして男爵邸を後にして、捜索開始と相成るのだった。

 

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