魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.06.26投稿 1/2回目


0129:大会議場。

 聖王国の教会の大会議室はざわついており、私たちに向けられた視線は余り良いものではなかった。

 

 教会の枢機卿さまたちに使い込まれた聖女さまたちのお金は、全額戻ってくることになっている。アルバトロスの教会や王国が必死に工面したものだ。もちろん捕まった枢機卿さま二人からは全財産毟り取って、何も残らない不毛の地状態になっている。

 領地も没収されているのだけれど、領民の人たちは肩身の狭い思いをしているようで。使い込んでいた領主が悪いのだけれど、噂やらは勝手に広まって『聖女さまたちのお金で良い思いをしていた』とか『他人の金で発展させた土地に住んでいる愚かな連中』とか言われているそうだ。

 教会やアルバトロス王国上層部の面々で問題解決の為に動いている所。王国側も教会も枢機卿さまたちの使い込み発覚を見逃した負い目がある為か、代わりの人間を派遣しても状況はそう変わらないだろうと頭を抱えているそうだ。

 

 「今回、聖王国の教会から我が国の教会へ派遣された枢機卿が聖女の金に手を付けるという、あるまじき行為が露見した」

 

 席に着いて暫く、聖王国の教会の人たちが誰も音頭を取らない為に、痺れを切らした陛下が口を開く。一連の経緯を説明して事態を正しく認識して貰うようだ。アルバトロス王国に竜がやって来て、王都の空から降り立ち、王都の民を恐れさせた。

 

 「聖女は竜に気に入られていてな。多くの彼らが立腹している」

 

 陛下が代表さまに視線を向けた。

 

 「ああ。私の制止も聞かずアルバトロスへと飛び立ったぞ。――誠意がなければ大陸を滅ぼすことも厭わんと言い残してな」

 

 そんなことは全く聞いていないから代表さまの茶目っ気だろう。創作話で聖王国の教会を脅してたんまり頂こうという寸法みたい。お金がなければ困ってしまうが、お金があり過ぎて困るという事はないので大歓迎だ。

 

 「竜を従えることが可能な聖女がおらぬ聖王国は、一体どうするのだろうなあ?」

 

 「私は代表だが、怒った者を引き留めるのは難しいからな」

 

 くつくつと陛下が笑い、代表さまも目を細めながら大会議場に居る人たちを見渡した。亜人連合国の竜を統べてはいるが、基本干渉することはなく自由にそれぞれが行動していると言い放つ。

 ご意見番さまが居なくなったから、ご意見番さまの意思を継いで竜族の代表に就いたから、代表さまが竜の皆さまに命令するとみんな右へ倣えなのだけれどね。

 

 いやはや、陛下も代表さまも容赦がないが、聖王国からお金をたんまりと毟り取る為にみんなには頑張って頂かないと。

 

 「聖女よ、教会に所属しているが教会信徒ではないな?」

 

 「はい」

 

 陛下が私に顔を向けて語り掛けたので、ちゃんと彼の目を見て返事を返した。陛下の言う通り私は教会所属ではあるが、教会信徒ではない。入信の為の洗礼を受けていないし、教会に入れとも言われていないから。

 神さまを全く信じていないから、その辺りの事を自由に決められるのは有難かった。恐らく、無理強いして聖女が教会に不信感を持つことを防ぐ為だろうけれど。

 

 「だそうだ。――教会が潰れても我が国は全く困らんのだよ。教会預かりの聖女を国が引き取れば良いし、貴族にも聖女は居るからな」

 

 とはいえ熱心な信徒兼聖女さまも居るから数が減る可能性があり、討伐遠征の際に聖女が足りないなんて事態にもなりかねない。

 アルバトロス王国だけの話し合いの場だと、王国の教会存続は決定事項。ただ、この事実を聖王国側に知らせる義理はないわけで。あと私が教会の教えに全く興味がないことも向こうに伝えたいのだろう。私が教会信徒であれば、縋りつかれそうだから。余計な手間は早々省いておこうというのが、陛下の判断らしい。

 

 「あ、アルバトロス王よ。――彼の枢機卿たちは一体いくら使い込んでいたのだ?」

 

 「ああ、良い質問だな」

 

 陛下が片手を上げて財務卿さまの部下に指示を出すと、数枚の紙が聖王国側に回された。ざっと目を通すと次の人へと渡されることが何度も繰り返され、最後の人にまで行き渡る。

 

 「冗談だろう!? 一介の聖女にこのような額が与えられる訳はない! 我らを謀かるつもりかっ!!」

 

 紙に目を通した最後の人が大声を上げると、周囲の人も頷いている。あの紙には私を始めとした、お金を使い込まれた聖女さまたちの金額が記されていた。言うまでもなく、私が一番額が多く貯め込んでいたし、使い込まれた額もかなりの金額となっている。

 

 「我が国の障壁維持に一番貢献し、竜を従わせる聖女が一介と申すのか。それとも聖王国の教会には我が国の聖女を超える者が沢山居ると? ああ、確か聖痕によって選ばれる大聖女が居ると聞いているなあ」

 

 一度、会ってみたいものだと煽りまくる陛下。聖痕を所持していれば問答無用で大聖女に任命されるらしい。

 お飾りの要素が強いと聞いたけれど、大聖女さまに会ったこともないのでどんな方なのか情報が手元にない。聖痕持ちの女性が居なければ、刺青を施して周囲を騙すこともできるから、本当に大聖女さまなる者が存在するのか怪しいし。

 

 「居るというならば、紹介して欲しいものだな。興味がある。本物ならば我々亜人は魔力の多さ故に惹かれるだろうしな」

 

 そんな事実は初耳だ。私より魔力を多く持つ人が居れば、代表さまたちはその人に惹かれるようになるのか。私の肩に乗っているアクロアイトさまが急に顔を擦り付けて、一鳴きした。何の意味があるのかは分からないが、頭を撫でると満足したようだから、単純に暇だったらしい。

 

 「なんと……」

 

 「っ!」

 

 代表さまの言葉に息を飲む聖王国教会の面々。亜人連合国の方たちを従わせることが出来れば大陸統一も夢ではないだろう。そのくらいの戦力が代表さまの国にはある。喜色の笑みを浮かべながら『誰か居らぬのか』と小声を上げている面々を、アルバトロス王国やリーム王国を始めとした周辺国の皆さまは冷ややかな目で見ているのだった。

 

 ◇

 

 人間に追われて大陸北西部へと逃げ込んだ亜人の方々は一個の力が大きい故に、彼らが束となれば大陸統一など簡単な話であろう。というか代表さま一人でもやろうと思えばできるんじゃないかなあ。

 普段は人化して過ごしているけれど、竜になればとても大きいサイズだし、力を振るっている所を見たことはないけれど、魔力量は凄くえぐいし。白竜さまだって代表さまに迫る勢いだし、エルフのお姉さんズやお婆さまもかなり凄い。亜人連合国で見かけた亜人の護衛の方々だって、人間の力量を軽く凌駕している。

 

 そんな彼らが大陸北西部へ追いやられたのは不思議でならないけれど、人間って欲が出ると凄く力を発揮する生き物。

 卑怯な手や彼らが思いつかないような知恵を働かせて、亜人のみなさまを追いやることを叶えてしまったのだろう。共存していれば大陸はもっと発展していたかも、なんて詮無い事を考えてしまう。

 

 大陸統一を目指さないのはご意見番さまに無暗に力を誇示すべきではないと教えられたことと、さして人間に興味がなくて大陸北西部にずっと引き籠っている。

 ただ若い世代は大陸北西部だけでは満足できないようで、興味が先立つらしい。だから代表さまたちは『融和』が出来るならと、第一歩としてアルバトロス王国と国交を開いた訳で。

 アクロアイトさまが私に懐いてしまったというのが一番大きな理由かもしれないが。

 

 「せ、聖女を紹介すれば貴国との関係を持つことが出来るのか?」

 

 己の欲を知られないようにとどうにか言葉を繕いながら、声を上げた聖王国側の一人の男性。その人に追随して顔色を真剣なものに変える面々の心の内は、一体どういう物なのか。聖職者だというのに欲に塗れすぎなのではと、疑問を浮かべてしまう。

 

 「さあ、どうだろうな。我らの目に適う者が居ればの話だ」

 

 良い流れじゃないようなと、不安を覚え始める。リーム王国の話もあるというのに、聖王国の教会の皆さまは自国の利益に目が眩んでいるようだ。

 どうしてこうも自身の欲を優先させてしまうのだろうか。今回の議会は教会から不利益を被った人たちが集まっているのだから、悪印象しか育たないのだけれど。はあと溜め息を零すとアクロアイトさまが、私の右肩から左肩に移動した。

 

 「話が逸れているな、戻そう。して、聖王国は此度の一件、どう我々に釈明をする? ――リーム王国の件も意見を聞かせて貰うぞ、なあ王太子よ」

 

 陛下がリームの王太子殿下に顔を向け、場を譲る。王太子殿下が確りと頷き、口を開いた。

 

 「ええ。話を都合よく吹き込み聖樹の管理を怠らせた一因は神殿……教会にもある。貴国から派遣された者は歴代、聖樹に頼り切りの方策しか打ち出さず、私が聖樹を酷使していることを指摘すれば否定した」

 

 それをリーム王へ告げ口をしたそうで、王太子殿下はたんまりとリーム王から怒られたと苦笑いを浮かべている。聖樹に頼り切りの方策しか打ち出さなかった王家にも責任があるが、神殿の者による吹き込みにも責任はあるだろうと。

 私がお金の使い込みが発覚して倒れてしまったことにより、アルバトロス王国からリーム王国への聖女派遣が遅れた事実もある。その辺りもどう釈明し責任を取るつもりかと、責め立てる王太子殿下。その後ろで、ギド殿下が良い顔を浮かべていた。

 

 「……しかし、此度の件はそちらの国々できっちりと処分を受けたと聞く。それで十分では?」

 

 いやいや逃げた枢機卿さまの存在を忘れては困る。彼からもお金になるものは全て引っこ抜かなければならないだろう。そして私やお金を使い込まれた聖女さまたちの肥やしとなって頂かないと。全て毟り取った後は、聖王国で煮るなり焼くなりお好きにどうぞという感じ。

 

 陛下にコレを伝えると、顔色を悪くしていた。いや、お金を使い込んで私腹を肥やしていたのは枢機卿さまたちで、その報いを受けているだけ。

 私の考え方が異常な訳じゃあない。公爵さまは面白そうに笑っていたけれど、今回はお留守番。流石に同行者が多すぎるので、選抜から漏れてしまった。陛下より公爵さまが聖王国へ赴いた方が、更地にする勢いでなにもかも毟り取ってくれたかも。

 

 「異なことを。貴殿らの任命責任もあろう。それにこの国へ逃げ込んだ枢機卿をこの場へ直ぐに連れて来ぬ時点で、奴を庇い盾しておると判断されてもおかしくはないと誰も気付いておらぬ」

 

 間抜けよなあ、と陛下がにたりと笑った。どうにも亜人連合国の人たちや妙な人たちを相手にし過ぎた所為なのか、陛下が吹っ切れているような。それかここ最近のストレスを聖王国で吐き出そうという魂胆なのか。

 聖王国の教会の皆さまを玩具にしているとも言えるけど。まあ、確りと謝罪と賠償を頂ければ私はソレで良いのだ。――仕事が更に増えそうだけれど、もう腹を括るしかない。

 

 「ぐっ!」

 

 下唇を噛んで陛下の言葉に反論するのを我慢している人たちが大勢いるが、反論する気概はないらしく黙り込んでしまった。これで終わりかなと視線を天井へと向けたその時、大会議室の大扉が開く音が部屋へと響く。視線を扉へ向けると、逆光でシルエットしか確認できなかった。

 

 「――済まぬなあ、アルバトロス王よ」

 

 目が慣れたのか、豪華な聖職者の服を着込んだの年老いた男性が入ってきて声を上げた。アルバトロス王国から逃げた枢機卿さまを警備の人たちが引き連れ、後ろに控えさせている。彼よりも簡素にした聖職者の格好をした男性が数名居て、この大会議室へ居た人たちよりも格上であるというのが、一目で分かった。

 

 「教皇さまっ!」

 

 「おいで下さったのですねっ!」

 

 一人の男性の登場で、大会議室の雰囲気が明るくなった。安堵の表情を浮かべた聖王国の教会の皆さま。さて、教皇さまと呼ばれた彼の登場で、話の流れは変わるのかなと首を傾げる私だった。

 


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