魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.06.22投稿 2/2回目


0130:大聖女さま。

 ――聖王国で一番偉い人が現れた。

 

 沸き上がる大会議室に居る聖王国側の面子は、嬉しそう。最初から居てくれれば面倒がないのに、と心の中で愚痴ったのは内緒である。遅れてやって来ておいて、どっかりと椅子に座る教皇さま。あまり聖職者としての雰囲気は感じられなく、どちらかというとお貴族さまの雰囲気に似てた。

 

 聖王国は政と宗教が密接に結びついている。教皇さまが国家運営をしつつ、教会も運営しなくちゃならないそうで。この国の教会上層部の人も、もちろん政に関わっている。

 

 歴代の教皇さまの選出方法は、七大聖家と呼ばれている家の当主から、選挙権を持つ人たちからの投票で選ばれるそうだ。七大聖家は教会の教義を大陸に広めた立役者だそう。

 それぞれの家に特色があり、治癒魔術に詳しい家、神と交信が出来ると言い張る家、魔力所持量が多い家と様々。

 もちろん目に見えない序列はあるそうで、教皇さまを選出する時期となれば、裏でし烈な工作が行われているとかなんとか。他国に漏れている時点でヤバくないかなと疑問に思うけれど、所詮は他国での出来事。介入すれば内政干渉になるし、知らぬ存ぜぬを決め込むのが吉。

 

 主だった産業は観光で、教会本部を聖地化させて各地から訪れる信者からお布施を頂きつつ、宿屋や食事処で市民の皆さまは生計を立てているそうな。

 教会が終われば、この国はともに滅びなければならないのだけれど大丈夫だろうか。まあ、他国の事をいちいち気にしていると、禿そうだからやらない。

 聖女だけれどアルバトロス所属だし、聖女と言っても滅私奉公の精神なんて欠片も持ち合わせちゃいない。聖女と言う職業を得て働いているという感覚が強く、前世での歴史に残っているマザーなんとかさんのような心なんて、ミリもない。私の手が届く範囲のみんなが幸せならばそれで良いのだ。

 

 『痩せればそれなり』

 

 『趣味じゃないなあ~』

 

 お姉さんズが厳しい評価を下しているけれど、イケメン査定なんてするんだと驚いた。あまり興味がなさそうだというのに。教皇さまと呼ばれた人は、太ってはいるものの顔の造りは良かった。アルバトロスで見せられた姿絵は、痩せていた時のものか、絵描きの人に痩せて描けとでも注文したのだろう。

 こちらに赴く直前に聖王国側の重要人物一覧と、主だった人たちの姿絵を見せられたけれど、彼の顔を見て誰だろうと考えてしまったし。

 お姉さんAが言うように、痩せれば美中年と言った所。見た目はアルバトロスの陛下より少し年上に見えるが、十歳は歳が離れていたはずだから五十歳ちょい。顔若いし、顔面偏差値も高いのに太っているから勿体ないなあと、微妙な顔になる。

 

 竜の方々に取っ捕まった枢機卿さまを引っ張ってきてドヤ顔を披露している辺り、無邪気な人である。聖王国も竜の方々が空を飛んだ昨日は驚いたことだろうし、頭が幸せな人なら捕らえられている枢機卿さまを逃がさなければ、自分たちに被害はないと信じているかもしれない。

 

 教皇さまはアルバトロス王国だけに謝罪をしたけれど、リーム王国にも随分と迷惑を掛けているはずだけれど。

 リームの王太子殿下やギド王子が剣呑な空気を纏わせているので、気付いて欲しい所。教会に迷惑を被っているアルバトロス周辺国の方々も、良い顔なんてしていない。何だあの態度、と言った所か。

 

 「この者が貴国に迷惑を掛けたと聞く。我が国で厳しい処分を下すと約束しよう、それで怒りを納めてはくれぬか?」

 

 捕らえられている枢機卿さまに視線を向けて、割と舐めたことを抜かした教皇さま。自国で処分をするのは勿論だけれど、アレの財産をマルっと没収した上でアルバトロスに差し出し、アレの身柄の引き渡し。

 そしてアレを任命してアルバトロスに派遣した責任を忘れ去っている。ワザと呆けているなら、脅すなり付け入るなりすればいいが、天然で言っているなら目も当てられない。そんな人間が教皇さまという椅子に座してて大丈夫なのかと心配になってくる。

 

 「異なことを。我が国で起こした不祥事を聖王国だけで処分を済ませるなどあり得ぬよ。それにアルバトロスだけではなくリーム王国や周辺国も聖王国から派遣されてきた者に頭を抱えておってな」

 

 任命責任も問われようと陛下が続けると、にっと笑って教皇さまが口を開いた。

 

 「おお、忘れておったよ。そうだな、今回騒動を起こした者は聖王国で厳しい処分を下した後に、貴国らに引き渡そう!」

 

 うーん。事の重大さを正しく認識していない雰囲気だけれど、大丈夫だろうか。陛下の顔を見ると『悠長に構えすぎだろうコイツ』といった雰囲気で顔が引きつっている。

 代表さまは表情を全く変えずに話を聞いている。お姉さんズはにこにこと笑みを浮かべたままだ。で、アルバトロスの面々は私に視線を向けていた。なんだか『余計なことはするなよ』と視線に気持ちが乗っているような。特に真面目な方たちから強く感じる。

 

 「感謝する。――では、我々からの要求だ」

 

 陛下の言葉に財務卿さまの部下の方が、聖王国側へ紙を渡している。それをまた回し読みしていく聖王国の皆さまは驚いた顔をしている。

 

 「そんなっ! このような金額を唐突に払えなどっ!!」

 

 聖王国側の人たちが困惑に包まれた上に口々に声を上げており、それを確認した陛下がゆっくりと目を閉じてもう一度開く。

 

 「分割でも構わんぞ。聖女たちへの補填は既に我が国と我が国の教会が済ませてある」

 

 あとは聖王国から回収すればアルバトロスの懐は痛まないという寸法で。使い込まれたお金はアルバトロス王国と教会が補填を既に済ませてくれているから、聖女である私たちの懐もどうにかなっているし、教会所属からフリーになるという手段も取っていない。

 首の皮一枚で繋がったから、陛下やアルバトロス上層部はホッとしているのだろう。ノリノリで聖王国の教会の人たちを脅しているし。

 

 「リーム王国も貴国が賠償してくれるなら分割でも構わない。――だが譲歩するつもりは微塵もないと伝えておく」

 

 リームの王太子殿下もノリノリだった。これから国を盛り立てていかないといけないし、神殿はもう役に立たないから新しい教会を求めている。

 聖王国からまたお偉いさんを派遣されるのは、あまり気分の良い物ではないだろう。アレ、リームは確実に宗教の部分は聖王国の教会から独立ルートだろうか。

 まあ、神殿に残っているまともな人たちを集めて、聖樹に頼らない宗教を確立するしかないよねえ。あったらあったで宗教って便利だろうから。他の周辺国の方たちも同様で、こくこくと首を縦に振っていた。

 

 「額が多いな……流石に我々ではこの金額を払うことは出来ぬ。清貧を旨としておるのでな、貴国らのように潤沢な予算などないのだよ」

 

 教皇さまが両手を上げて肩を竦める。清貧、ねえ……。その指や首からぶら下げているものを外してから、口にすれば良いのに。流石に教皇さまには立場があるのか、大きな青い宝石が付いた指輪しか付けていないけれど。あれは教会の教えで、お偉いさん方が信徒へ祝福や神託をする時に用いるものだから仕方ないとして。

 

 他の面子は金の指輪をベースにジャラジャラと赤や緑の宝石が付いた豪華なものを身に着けている。あまり聖職者らしくない態度だし、舐められていないかなあと目を細めると、私の直線上に座っている少女が小さく手を上げるのだった。

 

 ◇

 

 要求した金額にケチをつけた教皇さまに、手を上げて発言をしようと試みている一人の少女。青味のかかった銀髪に、翡翠色の瞳には意志の強さが宿っている気がした。

 

 「教皇さま」

 

 彼女は七大聖家の一つであるミューラー家出身だそうだ。最近、聖痕が現れて大聖女さまの座へと就いたそう。魔力量も多く所持し教会の教えに忠実であり敬虔な信徒なのだそう。雲行きが怪しい聖王国の教会の現状を憂いており、根回しやコネ造りに精力的に動いているそうな。

 大聖女さまとなったので、彼女に肩入れする者も多く、お飾りでしかない『大聖女』を教皇さまたちは危惧しているとかなんとか。急いで情報を集めましたよと後ろで控えていた外務卿さまが、陛下や私たちにこっそりと耳打ちしてくれた。

 

 「どうした、フィーネ嬢よ」

 

 役職持ちを役職呼びではなく、普通に名前を呼んじゃった。教皇さま、ここは他国の人間が居る話し合いの場だ。身内で話しているならばまだしも、それはどうなのだろうか。でも、教皇さまだし仕方ないのかも。

 

 「意見がございます」

 

 静かに席を立って礼を執って教皇さまへ視線を向ける大聖女さま。背は私より高そうだけれど、この大陸の女性の平均身長には届いていない。年頃はおそらく十五歳程度だと思う。外務卿さまは必要な部分しか耳打ちしてくれなかったので、外見で判断するしかないが。もう何年かすれば恐ろしく美人に成長しそうだった。

 

 「ほう。この状況を打開する策があると申すか?」

 

 鷹揚に声にする教皇さまに、大聖女さまが確りと彼を見定め口を開いた。

 

「ここは無理をしてでも全額揃えて各国の皆さま方へ返済すべきかと」

 

 あれ、大聖女さまもお金を出し渋るのかなあと思いきや、教皇さまとは真逆の意見のようだった。周りの人たちは『あんな大金用意出来る訳なかろう』と口々に呟いている。うーん、教会本部だし隠し金くらいありそうなものだけれど。

 根拠がないまま全額揃えて返すべき、だなんて言えないだろうし。だって聖王国の大会議室とはいえ他国の人間が居る外交の場なのだから、その言葉には責任が発生する。多少頭が回るなら、身を滅ぼすような言葉を簡単に告げたりはしまい。

 

 「しかしな、返すものがなければ返しようがなかろうよ」

 

 「では、秘匿しているお金を出せばよろしいでしょう」

 

 あ、やっぱりあるのかと一人で勝手に納得していた。隠し金はデフォだよねえ。探せば埋蔵金とかありそうだし、聖遺物とかあるなら売り払えば高値が付きそう。

 きっとマニアな人か熱心な信徒でお金持ちの人なら喜んで買ってくれるはずだから、用意しようという意思さえあれば直ぐにお金を用意できる筈なのだけれどね。教皇さまや彼に賛同している人たちは、単純にアルバトロスやリームと周辺国の面々にお金を出したくないだけみたい。

 

 大聖女さまの言葉に『余計な事を……』と厳しい視線を向けている人たち。誠意を見せてくれなければ、竜の方々が再び聖王国の空を舞う事になるのだけれど、分かっているのかなあ。真っ先に代表さまが竜化して飛んでくれそうだけれどね。

 

 『あら、内部で対立しているのかしら?』

 

 『面白いね~』

 

 お姉さんズが念話っぽいもので『もっとやれ!』と煽ってた。どうやらこの状況が楽しいみたい。まあ、他人事なので落ち着いて観察出来ていることがウケるけれど。

 

「……それはもしもの時の為に取っている寄付金だ。手を付ける訳にはいかぬっ!」

 

 災害やら飢饉に備えてお金を貯めていたそうな。一応は国民の事を考える頭はあったのか。私腹を肥やすだけの傲慢な人たちかと思っていた。だって政と宗教が一緒になっている国だもの、絶対にどこかは狂っていると考えていたけど。

 疑って申し訳ない事をしてしまった。アルバトロスに派遣された枢機卿さまは、聖王国を離れたことにより悪に染まってしまったのかも知れない。

 

 「今がもしもの時ではありませんか? 残念なことに聖王国の者が自身の役割を忘れ、他国で欲に染まってしまい罪を犯しております」

 

 誠意を見せるべきでしょうと大聖女さまが告げると、今回抗議の為に参加している人たちが大聖女さまの意見にうんうん頷いた。お金貰ってとっとと帰りたいのかなあ。大会議場の雰囲気はあまり良くないし、保身に走っている人が多そうだし。誠意とか反省の気配が感じられない。

 

 「しかしなあ……」

 

 「こうして私たちの事情を他国の方々に露見されております。ここは私たちの誠意を見せ、各国での活動を円滑にする為の話し合いをすべきかと存じます」

 

 教会が存続することは決定しているけれど、聖王国には知られていないはず。リーム王国も神殿は潰す予定ではあるけれど、無宗教はキツイみたいだから何か新設したいようだけれど。

 ただ聖王国の教会を頼るかどうかは別の話だろうから、誠意の見せ方次第になりそう。なので大聖女さまの言葉は正しい。お金でどうにかなるなら、どうにかすべきなのだろうに。出し渋ると聖王国側の立場が危うくなるだけである。

 

 「…………」

 

 お金を出し渋っている教皇さまと、お金をさっさと払って教会を維持したい大聖女さまの図が出来上がっているみたい。本当なら教皇さまが国の代表として、頭を下げてお金を払うと約束すべきだろう。

 

 「聖王国の事情に我々が口を出すべきではないが……見苦しいやり取りは見たくはないものだな」

 

 「同意見だよ、アルバトロス王よ。分割でも構わないと譲歩しているのに、それでも渋るとは如何なものか。不義理を働いたのは聖王国であろうに」

 

 大聖女さまの意見を推すように陛下と代表さまが、聖王国の皆さまを煽る。

 

 「……ぐぅ。――分かった払おう」

 

 聖王国の皆さまが教皇さまに微妙な顔を向けているし、大聖女さまには余計な事をと言いたそうな顔をしてた。アンタら聖職者だろうにと呆れた視線を送ってしまうのは仕方ない。

 

 「流石、教皇さま。寛大なお心を神もお認めになるでしょう」

 

 「うむ」

 

 随分と軽いなあと微妙な顔になる。え、こんなのが一国の代表を務めて大丈夫なのだろうかと、疑問になる。

 そしてこんなのが統治する国から派遣されたのだから、有能な筈はないよなあと聖王国大会議場の天井を見る。教会の天井と同じように、絵が書き込まれていた天井は随分と豪華であった。こんな所にお金を掛けるよりも、国が潤うように動けば良いのに。

 

 王国で大人しく報告を待っていた方が、気疲れしなかったなあと後悔しそうになる私だった。

 

 ◇

 

 お金を払うと腹を決めた教皇さまによって、大会議場へ集まっていた聖王国の人たちはなんとか私たちの要求を認めたようで、返済額や期限に回数やらが順次決まっていった。

 アルバトロス王国にリーム王国に大陸南方部で被害を被った国へもきちんと返済すると書面を取り交わす。これでお金の心配がまったくなくなったので良かった、で済めば良いんだけれど。

 

 「我が国の者が被害を出したことは誠に遺憾である。――此度の件、聖王国を統治する者として責任を果たそう」

 

 大聖女さまに絆された教皇さまが鷹揚に告げるけれど、本当に責任を果たせるのか甚だ疑問である。だって私と同じ年ごろの少女に言い含められているんだよ、親子ほど年齢が離れているし性別も違うというのに。

 教皇さまの選出理由が軽い神輿が必要だったからと言われれば、凄く納得した後にご苦労様ですと言いたくなるような軽さの教皇さま。まあ扱いやすいという点では便利ではあるが。こうして国外で問題が起こった時に、きちんとした対応が教皇さま自身の判断で取れないのは問題だ。

 

 「しかし教皇よ、教会への不信は募るばかりだ。貴公で本当に責任を果たせるのか?」

 

 アルバトロスも聖王国の教会とは縁を切りたそうだし、リーム王国は自国で賄う方が良いかもしれないと考えている。他の周辺国の方々も同様に考えているようで、聖王国からの独立を掲げそうな勢いだ。

 

 「おいっ! 不敬だぞっ! 引き篭もり風情が何を言うっ!」

 

 だん、と机に片手を当てて凄い剣幕で怒った人が居た。うーん、まだそう言われてしまうのか。引き篭もりなのは必要がないから外に出ないだけで、弱腰とかじゃあないんだけれどね。

 どこか攻め込む国があれば遠慮なく叩き潰すはずだ。主に副団長さまや公爵さまが嬉々として相手を受けて立ちそう。

 

 「確かに他国から見れば障壁に頼り切った引き篭もりであろうよ。だがな、国を守る巨大な障壁を維持できるということは、魔力を有するものが多いという証拠ぞ」

 

 貴国に我が国が落とせるかと陛下が男性に問いかけた上に、転移魔術を使用して兵や騎士に魔術師を送り込めば容易にこの国は落ちると告げた。落とす価値が低いので無駄なことはしないと付け加えてさらに煽る。

 アルバトロス王国と聖王国は距離があるので攻めたとしてもあまり意味がないし、聖王国は聖地として宗教的な意味合いの価値があるだけ。だから戦争を起こして勝った上に賠償と称して聖王国を得たとしても、目立った特産物や工業的価値もないからヤリ損するだけである。

 

 「今は魔力に優れた者が多く揃っているのでなあ。喧嘩を売るならば安く買い叩いても良いのだが、聖王国を手に入れても旨味がない」

 

 あ、陛下ぶっちゃけた。聖王国側の人たちは価値がないと言われて、顔を真っ赤にしている人が多くいる。平然としているというか、平常心を保っているのは大聖女さまとその周囲に居る人たちだった。

 うーん、もしかして対立でもしてるのかな。教皇さま派対大聖女さま派。あからさまに教皇さまは軽い神輿だから、それを良しとしている人たちと危惧している人たちとか。政権交代というか教皇さまの就任期間を知らないので、何とも言えない。

 選出されれば辞退か任期満了か死ぬまで務めなければならないなら、そりゃこんなのは引き摺り下ろしたくなる気持ちは理解できる。教皇の座を大聖女さまが担った方がマトモに機能しそう。

   

 「……っ」

 

 ぐうの音も出ない程に言い返すことがでないようだ。引き篭もり風情と叫んだ男性は歯噛みしたまま押し黙っている。今にも額の血管が切れそうだけれど、聖職者としてそんなに血気盛んなのはどうなのだろうか。

 あ、でも戦闘も出来る神父さまも居るみたいだから、そっち系の人なのかも。教会の印を切って短い祈祷文を唱え、教会の敵となる者を問答無用で屠るのである。なんだそのクレイジー神父はと一人心の中で突っ込みを入れ。

 押し黙った人にその気概はなさそうだと苦笑い。アクロアイトさまが耳元で小さく一鳴きしたのだけれど、何の意味があるのかさっぱりだった。

 

 「そう言われても仕方ない。同時期に不祥事がいくつも発覚したのだから管理責任は問われよう。それをきちんと果たしてこそ上に立つ資格があるというもの」

 

 問題が以前からだというならば、今教皇の座に就いていた運のなさを嘆くしかないと代表さま。

 

 確かに、不祥事を起こした大企業のトップが記者会見で頭を下げるのは常で、代々続いていたとなれば『何故このタイミングで……』と心の中で叫ぶしかない。

 それを口に出して良いのは、一人になった時だけだ。上に立つということは、背負っているものが大きいと認識しなければ。軽い神輿に罪を擦り付けるのは簡単だろう。首を挿げ替えて新な頭を用意すれば良いのだし。

 

「それで、教皇よ――どう責任を取るつもりだ?」

 

 それさえ果たしてくれれば文句はないのだがねと陛下が告げる。

 

 「……被害を被った額はキチンと払う。それにある程度の上乗せもしよう……それで納得してもらえぬか」

 

 誠意を見せるにはお金しかないよねえ。他に払えるものがないのだし、聖王国の教会を維持したければ陛下やリームの王太子殿下たちが言っていることを呑むしかないのだ。ぐぬぬと顔を顰める教皇さま。なんだか似た光景を最近見た気がする。

 

 「聖女よ、どう考える?」

 

 不意に陛下から私に声を掛けられたので、ちょっと慌ててしまった。いきなりは勘弁して下さい。猫を用意していなかったので、猫が居ないが……いいか。

 

 「アルバトロスへ派遣されていた枢機卿さまの処分の内容を知りたく存じます」

 

 甘い処分を受けるようなら厳しい物にして頂かないと、また次に派遣された人が居るなら舐められても困る。

 

 「そうだな、聖王国側の処分内容を是非聞きたいものだ」

 

 「私も興味があるな。聖女が信頼して教会に預けていた金を使い込んだ者の末路は気になるものだ」

 

 陛下が頷き、代表さまはエルフのお姉さんズに顔を向けると、お姉さんズは意味深な笑みを浮かべながら確りと頷いた。

 

 「あ、ああ。厳しいものになるだろう……」

 

 「具体的には?」

 

 言い淀んでいる教皇さまに、もっと詳しくと聞いてみた。更に顔色を悪くした教皇さまは、どうしたものかと周囲に助け船を求めた。

 

 「アルバトロスの聖女さまは如何様な処分をお望みでしょうか?」

 

 声を上げたのは大聖女さまだった。お金は戻ってくるから、枢機卿さまの処分に厳しいものが下るというなら文句はないが、聖王国は甘そうだ。人様のお金を取り込んで、己の私腹を肥やしたことを後悔して頂かないと、キレた価値がなくなってしまう。

 

 「全財産を没収の後に鉱山送りなどは如何でしょう。枢機卿さまは貴族家出身と聞き及んでおりますから、己の身体でお金を稼いだことなどありませんでしょう」

 

 にっこりと大聖女さまに笑みを返しつつ言葉にすると、彼女もまた私と同じような笑みを浮かべた。

 

 「確かに厳しい物ですが、そこまで行う必要はあるのでしょうか?」

 

 「もちろんありますよ。ご自身で汗水垂らして頂いたお給金を横から取られる。その虚しさを味わって頂きませんと」

 

 あの時の頭が真っ白になってしまった感覚を、少しでも枢機卿さまには味わって頂かないと不公平である。それに使い込んだお金を自身の資産で賄って貰ってもなあ。ちゃんと働いて返せという気持ちが強いし。

 

 「アルバトロス王国では聖女を務めていらっしゃるのですよね?」

 

 「はい。もう四年になりましょうか」

 

 十一歳からだから四年は務めている。最近大聖女さまとなった彼女よりは年季が入っているし、修羅場もいくつか潜ったつもりだ。初陣の時は恐怖で漏らしそうになった事もあるし、救えなかった命もある。

 

 「教会に所属し四年も務めていらっしゃったというなら、慈悲の心があってもよろしいのでは?」

 

 慈悲の心ねえ。そんなものがあればジークやリン、サフィールにクレイグや死んでしまった仲間たちは、とっとと貧民街から救い上げられていただろうに。あの過酷な状況を生き抜いたから今があると言えるけれど、慈悲の心なんて元から持ち合わせちゃいないのだ。要らないものは背負わない主義だし。

 

 「確かにわたくしは教会に所属してはおりますが、教会信徒という訳ではありません。アルバトロス王国では聖女の称号は職業としての意味合いが強いのです」

 

 「なるほど、把握いたしました。しかし対外的な問題や人々の心象もありましょう。貴国の看板というのであれば、聖女として慎ましやかな行動も必要かと」

 

 慎ましやかな行動なんて本来必要ないんだよね。王城で魔力補填を行うので、お貴族さまに失礼にならない程度の礼儀作法、討伐遠征時に必要なサバイバル的な知識、治癒院を開いた時に使う魔術に長けていれば良いだけだ。

 慈悲なんて余計なものを芽生えさせて、判断が鈍くなるということもある。慈悲よりも、魔術で治らない人間を見捨てることが出来る非情さの方が必要だ。

 

 「そのようなものは、わたくしには必要ありません。看板というのであれば筆頭聖女さまがいらっしゃいますので。――大聖女さまは『聖女』という称号に何を求めていらっしゃいますか?」

 

 老齢を理由に表舞台に最近出てきていないけれども。その代わりに私が方々を駆けずり回っている気もするが、筆頭聖女さまが動けないなら仕方ない。筆頭聖女選定が何故執り行われないのか不思議だけれど、大きい組織だ何か理由があるのだろう。

 

 というか彼女、討伐遠征や治癒院への参加をしたことがあるのだろうかとふと思い、聖女に対して一体どんなモノを求めているのか気になって聞いてみた。

 

 「そうですね。――……」

 

 大聖女さまの口から出た言葉は、私には一生理解出来そうもないものだった。

 

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