魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0132:知らない。

 死んだ。何故か転生した。聖王国教会の七大聖家の内の一家に生まれた。有名乙女ゲームキャラに憑依転生したと気付いたが、お貴族さまライフを気ままに楽しんでいたら聖痕が現れ大聖女に選ばれた。

 

 ――なんで……どうして、こんなことになるのよっ!

 

 聞いていないし、考えてもいなかった。というか、乙女ゲームのシナリオにこんな話はなかったでしょっ!!

 

 二作目のおまけとしてアペンド化され三作目の番宣役を務める為に新登場したキャラ、フィーネ・ミューラーに憑依した私は気楽に考えすぎていたのかも知れない。

 三作目はアルバトロス王国から聖王国へと舞台を変えて、各国の聖女が聖王国入りして切磋琢磨しながら、友情に恋に愛にと励むのだけれど。その為の前宣伝として生み出されたのがフィーネ・ミューラーというキャラだった。

 

 乙女ゲーのキャラらしく、銀髪で翡翠色の瞳に可愛らしい容姿。周りの人よりちょっと背が低い所がご愛敬。

 一年前に聖痕が現れてから大聖女として取り立てられて、持ち前の能力や人を引き付ける性格で、失敗してもへこたれることなく前へと進む。そんなキャラ。三作目では三作目のヒロインと友情を築くキャラの為、ヒーローにさえ手を出さなければ、ゲームのキャラと性格が違っていても問題なく進むと考えていたのに。

 

 ゲームのシナリオ選択を失敗する前に、既に人生が詰みそうってどういうことなの……。

 

 大聖女として言われるがままのことをやりつつ、人脈やコネを広げていればゲーム開始時間に辿り着くと考えていた。ただ聖王国上層部は頼りに出来ないのは目に見えていた。両親もお金お金とさんざん言っており、嫌な予感がすると自覚していた。

 だからマトモな下の人たちに大聖女として近づいて、いろいろと便宜を図ったり図られたりしていたのだけれど。ゲームのフィーネも上層部の人たちより、教会に赴いて神父さまやシスターに信徒の方たちと交流をもっていたからそれで良いと思ってた。

 

 聖王国教会本部の大会議場で下がらせた教皇さまを恨む。今回の教皇選出選挙で軽い神輿を担ぎあげた結果も恨むが、目の前の出来事から逃げられるはずもなく。

 乙女ゲームのシナリオだから、あまり小難しくしてもウケないのは理解している。通常シナリオや共通ルートよりも、恋愛パートに力を入れるのが普通だし。イケメンに良い声で甘く囁かれ『嗚呼、耳が孕むっ!』と悶えるのが、気持ちいいのに。

 声豚であった私のカタルシスだったけれど、現実を目の前にすればそんなことに悶えていた私の前世が、なんとも平和で幸せな人生だったのだと振り返ってしまう。

 

 「で、大聖女よ。君が教皇の代わりを務められるのかね?」

 

 「若輩の身ではありますが、教皇さまより話が通じるかと……」

 

 ごくりと息を飲む。アルバトロスの国王陛下は為政者として、私を厳しい視線で見定めている。ゲームでは優しい王さまだったというのに。もちろん亜人連合国の代表やエルフの二人も同様で、リーム王国の王太子殿下に二作目の攻略対象であるギドさままで、圧を掛けるように見ていた。

 そしてアルバトロスの黒髪黒目の聖女は一体なに者なのだろう。私が知っている限り、ゲームに黒髪黒目のキャラなんて出ていない。でも、あんな馬鹿げた魔力持ちというならば絶対にゲームに出てきそうなものだけれど。しかもアルバトロスの王さまと亜人連合国の代表たちと同格に扱われているってどういうことなの。

 

 「そうかね? 我が国に派遣された枢機卿の処分を軽くするよう望んでいたようだが」

 

 甘い事を抜かすのではないかと、牽制を掛けられた。

 

 「……っ」

 

 だって仕方ないじゃない。大聖女として慈悲の心を示せと言われているのだもの。弱き者を救い、徳を積んで神託を齎せと。

 彼を厳罰に処せば聖王国の高位聖職者から、何故あのような厳しい処罰を下したと言われる。聖痕が現れて大聖女となったのが一年前。ゲームのシナリオ通りに聖痕が現れて、きちんと大聖女として取り立てられて安堵していたのだけれど。

 

 「私の認識が間違っておりました。聖王国教会の代表として厳しい処分を下しましょう」

 

 いつの間にか逃げ場がなくなっている。聖王国の上層部は厳しい処分を決めた私を大聖女として推すことはないのだろう。でもここで逃げたら後がない。私は聖王国上層部の腐っている人たちと同類に成り下がるつもりなど毛頭ない。

 

 「では、各国へ派遣を承認した者を明示し、その者たちにも処分を下せ。もちろん被害国へ派遣し直接我らの国々に関係した者にもだ」

 

 ああ、もう期待されていないのだなと気付く。信頼されているのであればアルバトロス王からこうして口出しされることはなかったのだろう。生まれ変わってから十五年、貴族の家に生まれて可愛い可愛いと両親から言われて育ってきた。

 それを受け入れ豪華な食事に舌鼓を打ち、教育もほどほどに受けつつ甘んじて生きてきたことが、ここに来てそのツケが回ってきたのかなあ……。

 泣きそうになるのを堪える。ここで泣いては駄目。余計に彼らに呆れられる。そして黙ったまま私を見据えている黒髪黒目の聖女にも笑われるのだろう。覚悟も何もない者が刑を軽くしろと懇願するのは笑えると。大聖女の衣装の裾をぎゅっと握り込む。

 

 聖女だというのにかなりの大金を貯めていたことに驚き、そのお金を困っている人々の為に使わないのか疑問だった。

 

 黒髪黒目のアルバトロス所属の聖女が、亜人連合国へ赴き彼らと繋がりを持ったと聞いたことはあった。随分と見た目は若そうだが彼女と話をしてみると、随分と達観している大人と話しているようだった。

 甘さや優しさなんてないし、アルバトロスの陛下や亜人連合国の方たちと同席している意味を今更ながらに思い知らされ、奇跡まで起こしていた。

 

 「分かりました。時間が掛かるかもしれませんが、必ずや報告に上げ厳しい処分を下しましょう」

 

 きっと、反論や口答えなんて望まれていないし、それを口にする資格さえ聖王国側には残されていないのだ。だから彼らが告げる言葉を受け入れて、粛々と実行するしかないのだろう。握りしめた拳をさらに強く握りしめる。教会上層部には期待できない。

 

 「そうか。大聖女の言葉、信じるぞ」

 

 そうしてアルバトロス王は椅子に座している聖王国の面々に厳しい視線を向ける。みんな保身に走っているのか、彼が怖くて何も言わない。ひっと声を漏らす者、顔色を悪くする者、この場から逃げたそうに落ち着きのない者。

 こんなにも格の違いを見せつけられれば、敵うはずもないとすっぱりと諦められる。だからアルバトロス王が私に向けた期待を裏切る訳にはいかないのだ。たとえ時間が掛かったとしても、ちゃんと調べ上げた上で報告に赴かなければならないし、処分も下さなければならない。

 

 ――覚悟をしないと。

 

 大聖女の座に座っているだけではいけないのだ。彼らと同じステージに立つには覚悟を決めて、前を向いて進まなければ。例えそれがいばらの道だったとしても。

 

 「しかし、周りがコレでは苦労するな。いっそ教会を解体させて、新たに築き上げれば良いのではないか?」

 

 背凭れに背を預けてアルバトロス王がふっと笑って問題発言を放り投げた。

 

 「む、無茶を仰らないで下さいっ! 私にそのような事を出来る権限も人脈もなにもかもが足りませんっ!」

 

 そう、覚悟があっても何もかもが足りない。急に話題をアルバトロス王から話を振られたことに驚いて、妙な顔になってしまう。

 

 「教会の聖地を解体させる意味などなかろうっ! 何を勝手にっ!!」

 

 「我々の立場を乗っ取るつもりかアルバトロス王っ!」

 

 口々に叫び始めた教会上層部の人たち。嗚呼、やはりこんな人たちと同じに見られたくはない。少しの時間だけでも、アルバトロス王や亜人連合国の方々にリーム王国や周辺国の皆さまに私の覚悟が伝わっただろうか。

 

 「――自身の立場が危うくなれば、声高に叫ぶ無様。いい加減になさいませ」

 

 ゆらり、と黒髪黒目の聖女が立ち上がった。背が小さい為なのか、分かり辛かったけれど。 声に魔力を込めているのか随分と重みのある言葉で、ぶるりと心が震え上がるのだった。

 

 ◇

 

 ――甘いと言われて笑われるのだろうなあ。

 

 でも聖王国の教会が潰れて、難民やら信者やらが他国へ向かうと迷惑を被るのは周辺国の人やアルバトロスだし。

 甘くても陛下やリーム王国と対等であろうとする大聖女さまを遮って、己の保身の為だけに声高に叫び始めた連中にイラっときた。口を出すなら、黙っていないで最初から口を出しておけと思うし、本来なら大聖女がやる仕事ではなくアンタらの仕事だろうにと心底思う。

 

 「自身の立場が危うくなれば、声高に叫ぶ無様。いい加減になさいませ。――話にケリがつき、次へ進めると思えば」

 

 どうにも口出しせずにはいられなかった。立場上許されることではないだろうが、まあ私の首が飛ぶことはあるまい。首が飛ぶのは、馬鹿なことを言い始めた教会上層部のコイツらの方が確率が高いだろうし。キレて陛下と大聖女さまの会話を遮ったのだから、盛大に文句をぶちまけてしまっても構わないか。

 

 陛下が言うように、教会を一度解体させて新な別宗派でも立ち上げた方が良いのでは。全員が全員という訳ではなかろうが、腐敗している人間が多すぎる。臭さ過ぎて、この場に居たくないのだけれど。

 

 『怒っちゃった』

 

 お婆さま、制御下におけない漏れた魔力を吸い取ってるし、アクロアイトさままで吸い取っているのだから相変わらず。まあ良いか、好きにして貰って対価はあとで頂こう。

 

 『え゛』

 

 私の周りと飛びながら器用に魔力を吸い取っていたお婆さまが、ぴたりと止まって滞空して私を凝視した。だって私の魔力がタダなんて一切言っていないし。

 

 『あら。潰すつもりなら応援するわよ』

 

 有難うございます。でも、応援だけなんですね。

 

 『ね。というか、碌でもない人間ばかりだね~』

 

 本当に。あの阿呆な教皇さまを引き摺り下ろして、首を挿げ替える仕事をしなきゃいけないのは、声高に叫んでいる連中じゃないと。大聖女さまがどこまで権限を持っているか知らないけれど、聖女に権限なんて殆どないのでは。だって称号とか象徴とかの意味合いが強いだろうし。

 

 上が無能な時にこうして立場を持ってしまったことに同情を覚えるが、私ではどうにもならないから、その辺りは大聖女さま次第。大聖女という称号持ちを辞めたきゃ、改宗でもして辞めりゃ良いんだし。

 

 それか大聖女さまの称号があるなら、適当に新宗教を立ち上げられるだろう。聖痕持ちだと崇められているみたいだし。

 

 リーム王国の聖樹みたいになれば良いんだよ。しかも人間だから言葉が通じるし、喋ることも出来るのだから、人々をあーだこーだと騙し放題で、甘い部分も持っているから人気出そうだけれど。

 宗教家なんて詐欺師と同類だし、如何に人々を騙せるかだと思う。あとは自分をどう良く見せられるか。そして口が上手いか。

 

 「枢機卿という立場にありながら神の教えに背く者を異端審問にも掛けず、焚刑にも処す気概も持たない者に教会上層部を務めることが出来るのでしょうか?」

 

 なんで私がこんなことを言わなくちゃならないんだと暴れだしたくなるが、気付かせなきゃ自分たちの尻に火が付いていると分からない集まりだからなあ。唯一分かっていそうなのが大聖女さま周りかな。今の言葉で顔色を悪くしたし。

 厳しい処分を下して教会改革に乗り出さなければ、本気で聖王国の教会が潰れる。被害国はアルバトロスやリームだけじゃないだろうから、後からどんどん問題が発覚して自らの首が締まってしまうのは聖王国。

 

 自分の手を汚したくないなら、黙っていれば良かったのに。

 

 「問答無用で良いならば竜の方々を差し向けて、聖王国を灰燼に帰すこともわたくしであれば可能です」

 

 大聖女さま、無能でないなら気付けるよね。これで気付けなきゃ本当に聖王国を灰燼に帰すよ。あと代表さま、ごめんなさい。竜の方々をダシに使わせて頂きました。

 

 「それが無理ならば自身の魔力量を頼り、竜の方々ほどではなくとも時間をかければ聖王国を滅ぼせましょう」

 

 竜の方々がやってくれないならと言うか、やってとお願いすれば問答無用でやってくれそうなんだよね。私の勝手でそんなことをして頂く義理はないのだから、副団長さまに頭を下げて広域殲滅魔術を習得するか独学で学んで、文字通り私自身の手で聖王国を滅ぼそう。

 

 その時はアルバトロス王国の所属を抜けてフリーにならなければ。貯めたお金はジークとリンとサフィールにクレイグたちに分配だなあ。ソフィーアさまとセレスティアさま、子爵邸のみんなには迷惑を掛けてしまうだろうけれど。無国籍……かあ。無国籍って凄く問題なんだけれどね。難民みたいなものだからなあ。まあ仕方なかろう、それくらいの覚悟がなきゃ言っちゃ駄目な言葉だ。

 

 「これ以上醜態を晒すなら……――」

 

 「――お待ちくださいっ! 聖女さまのお怒りは十分に理解致しました! 聖王国を滅ぼすとなれば民も犠牲となります、それだけは避けないとっ!」

 

 ガタンと椅子から立ち上がって大聖女さまが悲鳴に近い声を上げた。やはりソコに行きつくか。流石、聖王国教会の大聖女さまである。民の心配をもちろんするだろうと利用させて頂いたが。

 

 「どうか私たちに機会と時間を下さいっ! 必ずや聖王国教会を再興させてみましょうっ!」

 

 「本当でしょうか? 先程まで枢機卿さまへの処罰の軽減を願い出ていた甘い方が、そのような大言壮語を仰られるとは」

 

 一度鼻で笑うと、大聖女さまが微妙な顔になる。確かにこのままいけば民が犠牲になって多大な被害が出るだろう。というかそれを引き起こすのは私だし、私も覚悟を決めなければ。しかし彼女は本当に覚悟は決まっているのだろうか。

 

 「聖女さまのお言葉でこの場に居る皆さんも目が覚めたはずです! 聖王国の教会を腐敗させ、このまま地に落ちてしまうことは断じてあってはなりません……!」

 

 自身の立場が不味いとようやく感じ始めたのか、大聖女さまの言葉に大きく首を縦に動かしている教会上層部。初めから素直に認めて、仲間意識など発揮せず切り捨てておけばこんなにも追い込まれることはなかっただろうに。お陰で私も、覚悟を持たされたけれど。

 

 「では、どうするおつもりですか?」

 

 「アルバトロス王へお約束した通り、まずは諸外国へご迷惑を掛けた者たちに厳しい処分を下し、補填と賠償を済ませます」

 

 次に教会の改革に乗り出すと続けてた大聖女さま。具体的なことを言わない限り、信頼性は低いけれどどうするのやら。

 

 「――教会内部の方々には頼れませんっ! 皆さまのお力添えをお願いいたします!」

 

 なんて事を言い出す……と思ったが、割と悪手ではないのかもしれない。おそらく教会上層部は使えない人たちが多い。

 ソコから使える人間を選出するのも如何なものか。ただ彼女の言葉は、この場に居る聖王国教会の人間は使えないと宣言したようなもので。平和主義のお優しい聖女さまかと思いきや、追い込まれてようやく見えてきたものがあったらしい。

 

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