魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
先々代の教皇さま、通称お爺ちゃんの登場で少し話の流れが変わりそうだった。大会議場にマトモそうな人たちが現れたのだから。
アルバトロスの陛下やリームの王太子殿下は、ようやく政に関してまともに話し合いが出来る人物がやって来たと安堵しているみたい。大聖女さまとお爺ちゃんのやり取りを観察しつつ、これからどうなるのだろうかと黙っている私。
正直、政治の話し合いの場となれば口出しする権利も、口を出す気もない。あとは覚悟を見せた大聖女さまが、血反吐を吐きながら頑張るしかないのだろう。
「我々が聖王国に力添えすれば内政干渉となる。――出来ることは助言程度だ」
アルバトロスの陛下がそう言い、リームの王太子殿下や他の方々もうんうん頷いていた。あまり深入りすると、今この場に居ない他国から何を言われるか分からないし、何を仕出かすかもわからない。
弱体化した聖王国を取り入ろうとする可能性もあるから、やはり協力するには慎重にならざるを得ないのか。ままならないなあと大聖女さまに視線をやると、歯噛みしていた。光明を見つけたのに、直ぐに消えてしまったからだろう。
「私たちだけで考えて教会を再興しなければならないのですね」
「ああ。でなければ、聖王国は亡国となるのみではないか?」
上層部がやらかし過ぎてて、救いようがないからなあ。まあ、話が出来るマトモそうな人が居たからまだ救いはありそうだけど。
「亡国だけは避けなくてはなりません…………あのっ! これから会議を開こうと考えていたのですが――」
大聖女さまは私たちが帰ったあと直ぐに行動を起こす為、今回の件についての会議を開くつもりだったそうだ。ただ、私たちが帰ってしまえば上層部のお金が大好きな人たちが何を言い出すか分からない。だから、誰かが同席して頂けませんかと願ったのだった。
「見守るだけで良いならな」
陛下が大聖女さまにそう告げると、ほっとした表情をして確りと前を見る。
「十分です! それに私がもっと頑張れると思うのでっ!」
今の今までお貴族さまとしてのんびりと暮らし、一年前に聖痕が現れて以来、周りにちやほやされ過ぎていたのだと大聖女さま。
物凄く真っ直ぐで真面目なんだけれど、大丈夫かなあ。最初から全力全開で走って、途中でガス欠になりやしないか心配になってくる。でも走り切るしかないんだよねえ。此処まで酷いと笑いも込みあげてこないが、腐っているんだもの。
しかも他国でやらかしているし。ぶっちゃけ、どうやって収束させるか興味があるけれど、報告で内容を知ることになるのだろう。これ以上踏み込むと内政干渉だから、そうならないように気を配りつつ良い方向へ差し向けるとでも言うべきか。
「きっと今回のことは聖王国としても教会としても良い機会なんだと思います。掴んだものを零さないように、前へ進まないと」
そうして大聖女さまはお爺ちゃんの方を見ると、彼もまた確りと頷き。
「そうだな。フィーネ」
老い先短いおいぼれだが少しくらいは役に立つだろうとお爺ちゃん。いや現教皇さまより全然役に立つだろう。だって常識がある。贅沢を言えばもう少し若ければ良かったが、言っても仕方のないことだし彼の意思を継ぐ人が居れば良いのだけれど。
「はいっ!」
「分かった。手配しよう」
元気よく返事をした大聖女さまに、陛下が静かに頷く。大会議場に居る教会上層部の教皇派の人やお金が大好きそうな人たちは、お通夜状態。ようやく自分たちの立場が理解出来たのか、そろそろ魂が抜けていきそうな感じだった。
――なんで私が。
大聖女さまが執り行う会議の場に、私が見守り人ということで選出されてしまった。何故かと陛下に理由を問うと、一番の脅しとなるから後ろ暗い連中は黙り込むだろうと。確かに先程『聖王国を滅ぼす』と脅しを掛けたが、余計な事を言ってしまったなあと溜め息が出る。
あとは政治に関係のない『聖女』だからということらしい。助言とか要らないなら構わないけれど、ある意味で政治の場だというのに私で良いのだろうか。で、無茶振りくんことアウグスト・カルヴァインさまも勉強の為出席し、アルバトロスの枢機卿さま一人もご一緒するそう。教会の事で分からないことがあれば、彼らに聞けということだろう。
私の参加を知った大聖女さまは何故か嬉しそうな顔をしていたし、お爺ちゃんも嬉しそうだった。解せぬ。まあ、妙な事を口走る人が居ればジト目で睨みつければいいか。それぐらいしか、私には出来ないが。
会議の準備をするということで、私は椅子に座って待っていた。
「結局、ナイはキレたな」
「だね、兄さん」
両隣に控えて私の護衛を務めているジークとリンが、小さい声で口を開いた。準備の最中ということで、周りは騒がしいしこちらに注目している人も居ない。少しくらいお喋りしても怒られることはないだろう。
「む。だって仕方ないじゃない、馬鹿な人が多すぎるから」
それに返事をしてしまうと不味いのでジークとリンは苦笑いに止めると、気配が増えた。
「しかし、お前自身で聖王国を滅ぼすと言ったときは本気かと肝が冷えたぞ」
「ですわねえ。今の今までそういう事は言わなかった貴女ですのに」
ソフィーアさまが困ったような顔を浮かべ、セレスティアさまが不思議そうに私を見ていた。お二人も私の後ろで控えていたから、会談内容は全て把握している。
「少しくらいの援護ならば許されるかと」
「誰に対してだ?」
分かっていて聞いていないかな、ソフィーアさま。まあ、いいけれど。
「大聖女さま、ですかねえ」
「どうしてです?」
もしかしてこっちが聞きたかったのか。セレスティアさまが何故かと問いかけてきた。
「国を捨てて逃げることも出来たでしょうが、それをしなかったから」
大聖女さまで魔力量も多いと聞いていたから、国を出ても職に困ることはなさそうだし。聖痕持ちだから、聖王国が必死こいて探して連れ戻される可能性もありそうだけれど。甘いことをいっていたが、追い込まれて本領を発揮した彼女だ。更に追い込んでおけば奇跡が起きるかもしれないし。
「聖女殿っ!」
にっと笑ってギド殿下が私に声を掛けた。王族の衣装ではなくリームの騎士服に身を包んでおり、どうやら着替えてきた様子。一体どうしたのだろうかと、椅子から立ち上がり礼を執る。
「ギド殿下。どうしてこちらへ?」
アルバトロスの面々やリームの方や周辺国の皆さまは別室待機となったはずだけれど。亜人連合国のメンバーは誰も参加しない。教義はさっぱりだし、口出しすることもないからと代表さまだけ残って、他の皆さまは帰ってしまった。後はお婆さまが興味本位で私と一緒に見ているとのこと。
「そのように畏まらなくとも。王子としてではなく護衛の騎士として参加させて頂くことになってな。兄上に、見届け人として参加してこいと言われたよ」
そう言いつつも報告書はきっちり書いて、事細かく会議の内容を知られるのだろうなあ。聖王国は大変だ。アルバトロスも会議の参加者や私から報告書が提出されるはずで、今回起こった件を大陸全土にばら撒くつもりだろうか。
露見すればあの教皇ちゃんは教皇の座に居られないだろうし、同格といえど他国の王族に向けた不敬を問われることになりそうだ。なんだか包囲網が既に敷かれているようなと感じつつ、ギド殿下を確りと見ると私の肩に乗っていたアクロアイトさまが首を傾げる気配を感じた。
「そうでしたか。よろしくお願いします」
「ああ、聖女殿。王子としてではなく護衛の騎士としてだから気楽なものだ」
はははと笑ってギド殿下が何故か私の横に控えた。いや、護衛の騎士なら会議に参加するリームの事務方を護衛しようよと頭を抱えるのだった。
◇
陛下から会議に参加するにあたっての注意点を頂いていた。
妙に動きが怪しい者や不信な者、大聖女さまや先々代の教皇さまを害する可能性もあるので気を配っておけと。
教会の騎士も居るが役に立たないようならば、アルバトロスの騎士を使っても構わないと。おそらく教皇ちゃんが錯乱した時に、教会の騎士たちは誰も動かなかった。大聖女さまの声でようやく止めに入ったからなあ。
他国介入になって不味くないのかと聞くと、その時は大聖女さまに手を出そうとした暴漢からアルバトロスの騎士が助けたと吹聴すればそれで済むと。まあ人助けだし、大聖女という地位がある人を守るのは騎士の務めの一つになるのだろう。
他にも警備が薄くなったと勘違いして、私を襲う者が居るかもしれないから十分に気を付けろと言われた。
副団長さまが陛下方の護衛で別室に居るから、そう勘違いしてもおかしくはないのかも。それこそそんな人が現れれば問答無用だけれど。無詠唱で防御魔術を展開すれば良いだけだし、ジークとリンが居る。ギド殿下も騎士として十分に腕の立つ人だし、他の騎士さまたちも精鋭である。
此処で手を出せば蛮勇だ。目的達成できないまま首を刎ねられるのがオチで。
陛下方は別室待機となっているけれど、聖王国側の事務方――まともな人たち――と会談を行っている。アルバトロスの枢機卿さま一人はあちらに参加となっており、宗派を分けるかどうかやら相談するみたいだし、陛下方はこれからの話や助言、他国との対応やら。
あとは大聖女さまや教皇ちゃんのことやらを話すそうだ。勿論、内政干渉とならないように気を付けて。時間が勿体ないし、丁度良いのかも。先程まではマトモな人が少なかったし、碌に話し合いなんて出来なかったから。
「――始まるな」
不意に声が聞こえて、意識が浮上する。どこの誰とも判断の付かない声が聞こえると、既に準備は整っているようで大会議場には聖王国の主だったメンバーが、厳しい顔を浮かべて大聖女さまの登場を待っていた。
先程の大会議場の時よりも人数が随分と増えており、教会の上層部と中堅クラスの人たちが招集されたようだ。そうして大扉が開かれると大聖女さまが現れ、上座へ腰を掛けた。先々代の教皇さまも一緒にやって来ており、彼女の隣に腰を下ろす。
「表舞台から離れていたのに……何故」
「……邪魔な奴が」
「戻ってこられたのか」
「ようやくか」
ひそひそ声が凄くクリアに聞こえる。まあこれには仕掛けがあるのだけれど。聖王国の人たちから随分と離れているから、聞こえないと思って安心しているのだろう。けれど、今の私には身体強化、特に聴力を強化しているのだ。
副団長さまに聴力を強化する補助魔術を掛けてもらおうとお願いしたら『僕、攻撃一辺倒でして……』と何とも言えない台詞が返ってきた。耳ざとく聞いていたらしいお婆さまが『私が掛けてあげるっ!』と凄い勢いでやって来て掛けてくれたのだけれど、もしかして対価を払ったつもりなのだろうか。
『え、あれじゃ駄目!?』
姿を隠していたらしいお婆さまが私の横に現れて、慌てた顔になっていた。あの、割と頻繁に私が漏らした魔力を吸い取っているじゃないですか。寿命が延びたと言っていたし、魔法一つで解決してしまうほど私の魔力は安いのだろうか。あ、でもお婆さまの魔法でないと、彼らの声が聞こえなかった可能性もあるのか。
『そ、そうよ! そうなんだからねっ! 感謝しなくちゃっ!』
まあ深く考えるのは止めよう。私の魔力制御が甘いこともあるのだし、お婆さまやアクロアイトさまを責めるのは筋違い。よかったと言いながらお婆さまがまた姿を消した。アクロアイトさまは私の肩で呑気に舟を漕いでいる。肩から落ちないのが不思議だけれど、ちょっと危なっかしいので抱き上げて私の膝上に移動させる。
一度起きて後ろ足で足踏みしながら居心地の良い場所を探し出して、丸くなってまた寝てしまった。会議や周りの事は何も気にならないようだ。本当に自由だとアクロアイトさまの頭を一撫ですると、気持ち良かったのか眠りを邪魔するなと言いたかったのか、ふすーと息を吐いた。
「ただいまより、此度に不祥事を起こした者の裁きと、これまで教会から迷惑を被った方たちへの賠償をどうするかの打ち合わせを行います」
大聖女さまが少しゆっくりとした声で、しかしはっきりと聞こえるように声にした。その声にざわつく周囲の人たちの顔色が悪い。どうやら心当たりがあるようで顔色を悪くする人たちが多数。なんだか早鐘のように耳に届く音は、心拍数の音なのか。
お婆さまの魔法は凄いなと感心しつつ、ちょっと五月蠅いかも。まあ、仕方ないよねえ。悪い事をしていたのだから。お天道さまの下を堂々と歩けない人たちは、今回の件と一緒に裁かれるみたいで。
配られた紙に目を通す面々を注意深く見ていると、ぷるぷる震えている人も。
「昨日、アルバトロスより聖王国へと戻って来られた枢機卿さまには、全財産を没収の上に鉱山で就労して頂きます」
これは私の望んだ通りとなるようだ。没収された財産はアルバトロス王国へ渡されて、使い込まれた聖女さま方や私の補填に充てられる。
彼が鉱山送りとなるなら、アルバトロスの枢機卿さま二名も同じ鉱山に送って貰っても良いかも。そうなれば愉快な事態になりそうなので、陛下にお願いしてみよう。
「リーム王国で好き勝手を働いていた者も同様です。教会の未来を守る為、神の裁きを受けて頂きましょう」
リーム王国で不敬を働いた神官さまも割と厳しい処分が下っていたので、リームの王太子殿下が大聖女さまと話して下した結果かもしれない。他国で問題を起こした聖王国所属の人たちも同様な処分が。どんどん人が減ってきている大会議場。これで少しは話がしやすくなったのかもと、息を深く吐く。
「……次に――」
「大聖女よ。貴殿にそこまでの権限があるのか?」
おや、尤もな意見がようやくここで出た。手を上げてから大聖女さまの言葉を遮った男性。服装で教会の聖職者であることが分かる。
「教皇さまがお倒れになり、枢機卿さま方も私の代わりを務めて下さらないならば、矢面になるべきは私かと」
大聖女さまの言葉に、豪華な衣装を着込んだ人が幾人か視線を逸らした。どうやら自覚はあるらしい。そういえば力関係ってどうなるのだろうか。一応、大聖女さまにもある程度の権限はあるはずだ。でないと議会招集なんて出来ないからなあ。
「確かに。だが今の大聖女に教会の改革を務められる力量があるのか?」
「正直に言えば私の力なんて大聖女という称号のみ。ですが、やるしかありません」
お飾りの人がいきなり前線に立たされたようなものか。でもやりとげなきゃ後がないからなあ。
「私も彼女の力添えとなろう。引退した者を幾人か引っ張ってこられる。これでも先々代の教皇を務めておったのだ。顔は利く」
お爺ちゃんの言葉に、彼が連れて来た人たちが頷く。大聖女さまの言葉を遮ったその人は静かに頷いた。
「分かった。微力ではあるが、私も大聖女の教会改革を支援しよう」
「あ、有難うございます!」
彼がどの立ち位置に居るのか、全く分からないけれど大聖女さまにとって彼の言葉は嬉しいものなのだろう。その証拠に彼女は綺麗な笑みを浮かべているのだから。