魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0137:新たな命。

 天馬さまたちに名前を付けて欲しいと願われたセレスティアさまだったが、まだその場に立ち尽くしたままで戻ってくる気配がない。ネーミングセンスが皆無な私に言われなくて良かったと安堵して、どうしたものかと考える。

 ジークとリンには期待できないので、消去法でこの場に居たソフィーアさまへと顔を向ける。私と暫く視線を合わせていたソフィーアさまは呆れたように長めの息を吐いて、セレスティアさまの肩を強めに叩いた。

 

 「いい加減に戻ってこい。天馬さま方が困惑しているだろう」

 

 セレスティアさまの肩を叩いた後に揺らして強めに声を発したソフィーアさま。

 

 「はっ! ――申し訳ありませんわたくしとしたことが。あまりにも名誉なことで意識が飛んでしまいました」

 

 暗くなっていたセレスティアさまの瞳に光が宿った。ようやく戻って来てくれたと安堵しながら、天馬さまの方を見るとセレスティアさまを見ながら目を細めていた。

 

 『名誉などと。気楽に付けて下されば良いのですよ』

 

 『ええ。私たちは貴女に名を付けて頂くことが嬉しいのですから』

 

 天馬さまがセレスティアさまに顔を近づけて、ぐりぐりしている。お貴族さまのご令嬢にそんなことをして良いのかなと眺めていると、彼女がぷるぷる震えている。

 先ほどの二の舞になるのではと心配していたら、セレスティアさまは無様を晒さぬようにとどうにか堪えているようで。ソフィーアさまが微妙な顔で彼女を見ているけれど、助けてあげなくても良いのだろうか。まあ憧れている天馬さまに顔を寄せられているのだから、幸せなのかもしれない。

 

 「念の為にもう一度お聞かせ願いますか?」

 

 『はい、なんなりと』

 

 「名を授けるという大役、本当にわたくしで良いのでしょうか?」

 

 『是非』

 

 『ええ。お気軽に付けて頂ければ』

 

 その言葉に意を決したのか、しばし目を瞑り考える様子を見せるセレスティアさま。彼女ならば変な名前は付けないだろうし、安心して彼女を眺めていられる。きっと素敵な名前を贈るのだろうなあと、笑みを浮かべたその時彼女の目が開かれた。

 

 「――ギャブリエル、ジョセフィーヌは如何でございましょう?」

 

 言い切ったあとドヤ顔をして、ばっと鉄扇を広げて口元を隠したセレスティアさま。しかも物凄く発音が良かった。ソフィーアさまは彼女の様子を見て、片手で眉間を揉みこんでいた。

  

 『ギャブリエル』

 

 『ジョセフィーヌ』

 

 天馬さまがそれぞれの名前を呟くと『いいですね』『はい。気に入りました』とのこと。元の世界だとフランス辺りの人たちが付ける名前のような気がする。

 アルバトロス王国に住む人たちは名前に拘りはなさそうな感じで、欧州系や北米あたりの名前を聞くけれど。そういえばフランス系はあまり聞かないよなあと、天馬さまを見ると付けられた名前を噛みしめているようだった。

 

 「ガブリエル、ジョセフィーヌ」

 

 聞こえた名前を無意識で復唱していた。それを耳ざとく聞いていたセレスティアさまが私の横にシュバっと立った。

 

 「違いますわ、ナイ。――ギャブリエルです。良いですか、ギャブリエル。さあ、もう一度」

 

 真剣な眼で私を見下ろし、名前を二度口にしたセレスティアさま。二度目は凄く饒舌に聞こえたけれど。若干困惑しつつ、名前を口にしようと意を決した。

 

 「ガ……」

 

 すっと右手人差し指を私の口に当てられて、言葉を防がれた。なんだろう一体。私間違えていたっけと、妙な顔となる。

 

 「ギャブリエル。――いいですね?」

 

 目が真剣だった。怖い。ちゃんと言わなきゃ次はない気がして、セレスティアさまの言葉を一生懸命思い出す。

 

 「……ぎゃぶりえる」

 

 「よろしくってよ、ナイ。まだ少し怪しい気もしますが、間違えたら……良いですわね?」

 

 一体何があるというのか。

 

 「えっと、これからよろしくお願いします。ぎゃぶりえるさん、じょせふぃーぬさん」

 

 なんだか言い辛いのは何故だろうか。舌の回りが悪いと言うか、なんと言うか。ちょっとたどたどしくなりながら、どうにか天馬さまたちの名前を口にすると、天馬さまたちは顔をこちらへ向ける。

 

 『聖女さまには少し言い辛いのでしょうかね』

 

 『そのようです』

 

 「えっと、愛称で呼ばせて頂いても構いませんか?」

 

 正式な名前が決まったのならば、それを基にした呼びやすい名前でも良いのでは。

 

 『愛称ですか?』

 

 「はい。親しい間柄だと名前を短くして呼ぶこともあるんです」

 

 嘘じゃないし、実際にジークとリンは名前を短くして呼んでいる。二人と出会った頃に名前が長ったらしくて、ジークとリンでも構わないかと聞き許可を得て呼ぶようになった記憶がある。

 

 『言い辛いのでしたら、良い方法なのかもしれませんね』

 

 『興味があります』

 

 「エルとジョセはどうでしょうか?」

 

 ちゃんとした愛称が分からないので、自分で考えたものだけれど良かったのだろうか。私の横に立っているセレスティアさまが微妙な顔でこの顛末を見届けている気がするけれども。だってギャブリエルとジョセフィーヌって滅茶苦茶言い辛くないかなあ。セレスティアさまは素敵な名前だと考えて付けたのだろうけれど言い辛い。

 

 『短い名前も良いですね』

 

 『ええ。簡潔ですし、聖女さまも呼びやすそうです』

 

 「では、私はエルさんにジョセさんと呼ばせて頂きますね」

 

 どうにか長い名前を呼ばずに済みそうだと息を短く吐く。私の横で『どうして……』と呟いているけれど、この際スルーを決め込んでおく。

 私以外の人がギャブリエルとジョセフィーヌと天馬さまたちを呼ぶことになるのか。それは天馬さまと他の人たちが決めることだから、本人たちに任せてしまおうと顔を近づけてくる天馬さまを撫でるのだった。

 

 ◇

 

 ――数日後。

 

 天馬さまたちの名前が決まった上に、彼らは子爵邸で二年ほど過ごすことになった。隣が亜人連合国だし魔獣に詳しい方が居るそうなので、出産ということなら男爵領や辺境伯領よりも心配が少ないし、聖女である私も居る。

 もしもの時は直ぐに天馬さまの下へ駆け付けられるようになっているし、出先でもお姉さんズの念話かお婆さまが知らせに駆けつけてくれるそうだ。

 

 『至れり尽くせりで、申し訳ない限りです』

 

 『本当に』

 

 厩の隣で天馬さまたちと話していた。普通の馬と違い人の言葉を理解しているので、放し飼い……というのも変だけれどフリーで過ごしている。時折屋敷の窓から顔を覗かせて、こちらを見ていたりして本当にお茶目な方たちである。

 子爵邸で働く人たちとも仲良くなっているようでお互いに自己紹介をして、仲良くなっている。約束通り子供たちの相手も務めてくれており、本当に良い方たちである。飼い葉も馬用で大丈夫だそうで、厩番の方に増量をお願いしたところだ。

 ゆっくりと着実に出産に向けて準備が進んでいる。王国上層部も注目しているようで、副団長さまや魔獣研究家の人も興味津々。副団長さまは陛下と天馬さまたちと私から許可を取り付けて、観察日記を付けると言い子爵邸に出入りし始めた。彼だから問題ないけれど他の人まで来るのは、騒がしくなりそうなのでちょっと遠慮願いたい。

 

 「エルもジョセも気にしすぎだよ。数が少なくなっているんだし、増えるなら良いことだから」

 

 「ナイの仰る通りですわね。ギャブリエルもジョセフィーヌも安心して屋敷で育児をして頂かなくては」

 

 ちなみに彼らの名前は呼捨てで構わないと言われ、子爵邸の主だったメンバーはエルとジョセと呼び、ギャブリエルとジョセフィーヌと呼ぶ人たちは少数となっていた。敬称は付けたりつけなかったり。アクロアイトさまは私の肩からエルの背に乗って、乗り心地を確かめている。

 

 『楽しいのでしょうか?』

 

 『どうでしょう。でも、お可愛らしいですよ。幼竜は珍しいのですから、皆で育て上げませんと』

 

 あれ、辺境伯領の大木では竜の番がベビーラッシュとなっているのだけれども、彼らは知らないのだろうか。

 

 「エルとジョセは辺境伯領には行ったの?」

 

 「わたくしも興味がありますわね。機が合わなかったようですし」

 

 セレスティアさまが、若干しょぼんとした顔になる。上手くいけば天馬さまたちに合えるかもと考えて、辺境伯領へ報告しに戻ったようだし、会えなかったのが余程悔しかったのか。

 竜の方と天馬さまが一緒に居る光景を見たかったと零していたが、今の光景も一応竜と天馬が一緒に居る光景なんだけれども。彼女の場合は大きい竜と天馬さまが一緒に居る光景で、アクロアイトさまだと物足りないのかも。

 

 『お伺いしましたが、竜の方が多くいらっしゃいましたし、卵も抱いていたので遠慮しました』

 

 『ええ。天馬の数も少ないですが竜の方々も少なくなっていると耳にしました。邪魔をする訳にもいけませんので』

 

 自然が多く丁度良い場所だけれど、竜の番が仲睦まじく子育てをしているならば、天馬さまたちは邪魔になると。

 気遣いのできる優しい天馬さまたちである。他の天馬さまたちも彼らみたいならば大歓迎だけれど、自然の中で出産育児する方が本当は良いのだろう。でも、密猟者に捕まって命を奪われたり檻に閉じ込められたりする理不尽な目には遭って欲しくない。

 

 「じゃあ、ここでゆっくり子育てしないとね。自然は少ないけれど、病気や怪我は直ぐに対応できるし」

 

 呼んでくれればすっ飛んでいきますとも。エルとジョセなら危ないことはしないから怪我の心配はないけれど、病気だけはいつ罹るか分からない。

 こういう時は聖女をやってて良かったと思える瞬間だ。人間相手なら対価を頂かなければいけないけれど、動物から頂く訳にはいかないが、癒しをくれるから対価はそれで十分。

 

 「ですわね。お隣は亜人連合国の方々が常駐されていますから、問題があれば問い合わせすることも出来ます」

 

 『何から何まで』

 

 『安心して仔を産むことができます』

 

 すりすりと私に顔を寄せてくるジョセの顔を撫でた後、首から肩お腹へ手をゆっくりと移動させる。お腹のなかに違う命が育まれているだなんて信じられないけれど、無事に生まれてくるようにと願わずにはいられない。

 

 『?』

 

 『どうしました?』

 

 『いえ、きっと気の所為です』

 

 エルとジョセが何か言っている気がしたが、お腹を撫でていたので気付かなかった。

 

 「ナイ、そろそろ屋敷へ戻りましょう。学院の遅れている分の復習や予習をしませんと」

 

 二学期に入ってマトモに学院へ通っていないので、勉強に遅れが出ている分はソフィーアさまとセレスティアさまに教えて貰っている。

 お二人とも学院に通う必要はないそうだが、箔付けの為に通っているそうで。上流階級のお貴族さまは流石だ。彼女たちの性格や頭の良さも起因しているのだろうが、私には無理だし。

 

 「はい。――また様子を見にくるねエル、ジョセ」

 

 『ありがとうございます』

 

 『聖女さまのお心遣い痛み入ります』

 

 手を軽く振ってエルとジョセと別れて屋敷の中へと入ると、ソフィーアさまが準備をして待っていてくれた。時間には遅れていないけれど、急いで席に着いてよろしくお願いしますと頭を下げると、勉強会が始まる。

 

 「ここの所忙しかったからな。仕方ないとはいえ学院の授業についていけなくなれば恥を掻くのはナイ自身だ。確りとやるぞ」

 

 「ええ。わたくしたちの主人なのですから、確りとして頂きませんと」

 

 「はい。お手柔らかに……」

 

 最上級の教育を受けてきたお二人の手解きは割と厳しい。間違えると容赦はないし、間違えた所と同じような問題を何度も解いたり。お二人が居なければ私は学院の特進科クラスから追い出される訳なので……ん、普通科クラスでも良くないかな。あれ、何か考えちゃいけないことに気が付いた気がする。

 

 「ナイ、どうした?」

 

 「いえ、普通科でもよくないかなと一瞬考えてしまいました」

 

 だって聖女として王国内どころか各国を渡り歩いている気がするし、勉強どころではない気もする。いやでも勉強は大事だし、これから先どうなるか分からないので学は必要。後で後悔するならここで確りと学んでおいた方が良いはず。

 

 「確かに普通科でも良いでしょうが、ナイは特進科クラスでも十分にやっていけましょう」

 

 「ああ。少し抜けている所があるが、こうして教えれば吸収するんだ。問題ないさ」

 

 ほら、ちゃんとやれというソフィーアさまの声に、机に広げられている問題集に取り掛かるのだった。

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