魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.07.04投稿 1/2回目


0140:続・お芋さん。とある侍女の話。

 教会信徒になったのが昨日。今日も学院へと足を向ける日だったのだが、朝にちょっとした騒動が起こった。

 

 「聖女さま、庭師から朝食を終えた後お時間があれば屋敷裏の畑へ来てくださいと、言伝を預かって参りました」

 

 幼馴染組で朝食を取っていると、お食事中失礼致しますと侍女の方がやってきてそう告げてた。一応、ご飯を中断させるほどの要件ではないことに安堵して、侍女の方へと視線を向ける。彼女は託児所へと子供を預けている内の一人で、託児所開設を最も喜んでくれた方。子供のことをあまり気にせずに仕事に集中できるようになったと言って、子爵邸で精力的に働いてくれている。

 

 他にも子供を預けている人たちにも軒並み好評で、時々単発で預かり依頼も発生する。前世での幼稚園や保育園のようにきっちりとしたルールはないので、私の一言でどうとでもなってしまえるのが凄い所。サフィールや託児所で働く人たちには申し訳ないが、単発依頼も受け入れて貰っていた。

 

 そういう人は男性に多い。奥さまが寝込んでしまい、子供の面倒をみなくてはならないが仕事がある。子守りと仕事どちらも無下には出来ないのから、託児所へ預ける方法があると知って、ほっとした顔を浮かべている所を見ると作って良かったなあと思う。

 あとは朝に料理長さんたちに申請すれば晩御飯を用意して貰い持ち帰ることも出来るようにして頂いた。有料ではあるけれど。男性がご飯を作ることは稀なことだから有難がられているし、病気で倒れてしまった奥さま方にも好評のようで。育児支援制度というほどのモノではないが、役に立っていると嬉しい限りである。

 

 「分かりました、と庭師の方にお伝え願いますか?」

 

 「畏まりました」

 

 深くお辞儀をして去って行く侍女さんの後ろ姿を見届けた後に前を向くと、みんなの視線が刺さっていた。

 

 「な、何?」

 

 「いや、なんかやらかしたぞってな」

 

 みんなを代表してクレイグがそう答えた。で、サフィールとリンがこくこくと頷き、ジークは苦笑いを浮かべているだけに止める。失礼だなあと頭の片隅で考えながら食事を続けて食べ終わり、邸の裏の畑へと幼馴染組で足を向けた。

 

 「な、なんじゃこりゃぁああ!」

 

 「ええ……! どうしてこんなことに」

 

 「……」

 

 「ナイ、凄い」

 

 クレイグが開口一番に叫び、サフィールは困惑、ジークは黙ったまま静かに私を見下ろし、リンは何か言ってるから聞こえない振りをした。数日前にようやく萌芽して子供たちとお芋さんの芽が出たと一緒に喜んでいたのだけれど、今は地面いっぱいに緑の葉が生い茂っており、小さなジャングルのようになっている。

 

 『随分と早く育っていますね』

 

 のんびりとした口調のエルがそう言って、彼に続いてジョセが口――念話みたいなものだけれど――を開いた。どうやら騒ぎを聞きつけて顔をだしたようだ。

 

 『聖女さまの魔力の影響でしょう。通常の作物より内包している魔力が多い気がします」

 

 これは良い食べ物ですねと天馬さまのエルとジョセが私たちに語り掛けた。

 

 「ああ、聖女さま、皆さま。一晩でこんなことになっておりまして、驚いて侍従長さまにお伝えしたのですが……」

 

 庭師の小父さまが私たちを見て小走りでこちらへとやって来て、トレードマークの麦わら帽子を脱いで胸に当てる。

 

 「ご連絡有難うございます。――その……ご迷惑をお掛けしてしまい誠に申し訳ないと……」

 

 本当にびっくりしただろうなあ。昨日、少し暇が出来たので様子を見に来ていたのだけれど、可愛らしい若芽が出ていただけだったというのに。驚かせてしまって申し訳ないと小父さまには平謝りである。朝から仕事を増やしたみたいだし。

 

 「いえ、それは構いません。魔力量の多い方が作物を育てると、こういうことが稀に起こると聞いておりましたから」

 

 しかし本当に目にするとは思っていませんでしたと苦笑する小父さま。いや、うん騒がせて申し訳ないと平謝りをした後に、興味が出たので一株だけ抜いてみようと相成った。天馬さまたちは人が食べられないような未成熟なお芋さんでも食べられるから、味見はお任せ下さいと胸を張っているし。

 まあ、お芋さんの魔力量が通常の作物より多いようなので、彼らにとってはご馳走なのだろう。捨てるのは私の主義に反するのでエルとジョセに食べて貰おうと、どれを抜くかみんなで決め。

 

 「抜くぞっ!」

 

 少し緊張した面持ちのクレイグが声を張って、お芋さんの主茎を持って腕に力を入れる。男の人らしい太い腕の筋と血管が浮いたので、直ぐに分かった。ミシミシと茎が軋む音が聞こえそうなくらいに、地面に根を張っているらしいお芋さん。抜くのに手こずっているようで中々地面から抜ける気配を感じない。

 

 「ジーク、サフィールぅ……見てないで手伝えっ!」

 

 頭に血が上り始めたのか顔が少し赤くなっているクレイグが叫んで、男衆を呼ぶ。

 

 「分かった」

 

 「う、うん」

 

 落ち着いた声色で答えたジークと、少し戸惑っているようなサフィール。この関係は何時までも変わらないなあと見つめていると、二人もお芋さんの主茎を握り込む。

 

 「いくぞ」

 

 「うん」

 

 「ああ!」

 

 「せーのっ!!!」

 

 三人の声が重なるとようやくお芋さんの地下茎と根っこが土から抜ける。沢山垂れている地下茎の先の部分にはまだ小さいお芋さんが鈴生りに生っていた。しかも尋常ではない量が……。

 

 「いやはや、これは凄いですな。三倍量ほど収穫できそうな感じではありますが」

 

 『ええ、本当に』

 

 『きちんと育った時が楽しみですね』

 

 驚いた顔の庭師の小父さまとエルとジョセが感心したような声を上げるけれど、収穫はまだ先だろうし沢山採れるのは決定事項。まあ未来の事だから今は気にしても仕方ない。

 エルとジョセが食べたそうな顔をしているので、井戸から水を汲んでざっと泥を落として差し出すと優しく器用に口を動かして食む。生で味が分かるのだろうかと疑問になるが、生しか食べたことがないか。天馬と言えど元を正せば馬らしいし。

 

 『味が濃い気がします』

 

 『魔素も多く含まれていて、いい感じですね』

 

 人間が食べられるようになるのはまだ少し先だなあと目を細めて、畑に生い茂っているお芋さんを見つめるのだった。

 

 ◇

 

 ――ミナーヴァ子爵邸へ仕え始めて二ヶ月強。

 

 黒髪の聖女さまがアルバトロス王国と亜人連合国との国交を開いた功績で叙爵された。子爵家を運営する為に結構な人数の使用人が雇われると噂が囁かれ、席の争奪戦が始まるのかと他人事のように考えていた私に奇跡が舞い降りた。ラウ男爵の紹介で子爵家使用人試験を受けてみてはと打診が私の下へと舞い降りた。

 

 騎士爵家の令嬢に過ぎない私がまさか選ばれるなんて思わないし、しかも試験に受かることになるだなんて、一生分の運を使い果たしたような気持ちだった。

 ただ試験の際にはハイゼンベルグ公爵閣下やヴァイセンベルク辺境伯閣下が指揮を執り、随分と雰囲気の重い試験となったが無事に合格を頂いた時は驚いたものだ。駄目元で受けたようなものだし、ラウ男爵さまからも落ちても構わないから受けて見なさいと言われていたから本当に驚いた。

 

 通常であれば紹介状があれば試験なんて必要のないものだけれど、今回叙爵された黒髪の聖女さまはアルバトロス王国にとって大事な存在。

 王城の魔術陣への魔力補填を週に一度務めておられるし、教会が開催する治癒院にも学院へ入学されるまでは頻繁に顔をだしていたそう。魔物討伐の際の治癒師としての同行も依頼があれば断らないと聞いていたし、本当に真面目に聖女さまとして務めている方だ。

 

 しかも年齢がまだ十五歳で成人もしていないというお歳で、叙爵されるなんて滅多に聞かない話。

 

 本当に子爵邸へ勤めることになったのは奇跡であり、平凡な人生を歩んでいた私の誇りである。子爵邸の警備を務める騎士さまや軍の方に『おはようございます』と挨拶を交わしながら、正門横の小門を通ってお屋敷を目指す。

 このお屋敷に入るには特別な方法がある。徹底管理されながら支給される魔術具を身に着けなければ、邸内に入ることは不可能だそうで。興味本位で試した方が居るそうで、本当に入れないそうだ。

 特別な魔術陣が屋敷内のどこかに設置され、常に子爵邸を防御壁で覆っているとかなんとか。出る時は自由だけれど、入る時は魔術具が必要となる。聖女さまに認められている方は必要がないらしい。子爵邸で働く人たちの密かな目標となっていることは、当主である聖女さまは知らないだろう。

 

 「おはようございます、ご当主さま」

 

 朝、学院の制服を着込み肩に幼竜を乗せた黒髪の聖女さまと廊下で出くわし、隅に寄って頭を下げる。

 

 ミナーヴァ子爵家当主である黒髪の聖女さまは、凄く腰が低い。平民出身とは聞いていたけれど、まさか貧民街出身の孤児だとは全然知らなかった。彼女の専属護衛を務めるジークフリードさまとジークリンデさまも、聖女さまと一緒に貧民街から教会に拾い上げられたと聞いている。

 そして最近子爵邸へ住み込みで働くこととなったクレイグくんとサフィールくんも、幼馴染だそうで。黒髪の聖女さまの価値が更に上がったことで、孤児仲間である彼らに危険が及ぶ可能性もあるからと、子爵邸に迎え入れた事情がある。

 

 これについては家宰さまやハイゼンベルグ公爵令嬢さまにヴァイセンベルク辺境伯令嬢さまたちから、子爵邸で働く使用人全員に説明があった。平民ではあるが聖女さまの大切な方となるから、粗相のないようにと告げられた。

 

 「おはようございます、今日も一日よろしくお願いします」

 

 私が黒髪の聖女さまへ挨拶し挨拶を返されると彼女は小さく笑みを浮かべながら、朝食を採る為に食堂を目指して廊下を歩いて行く。その後ろ姿を見送って『よしっ』と気合を入れた。他の子爵家で働くよりもお給料は良いし、子爵邸で雇われている料理長の腕が良いのでご飯も凄く美味しい。

 

 私は通いで勤めているからあまり詳しくないけれど、住み込みで子爵である聖女さまに仕えている人たちは軒並み部屋が広いし、使用する備品や消耗品は当主である聖女さま持ちだそうだ。少し前まで教会宿舎で生活して贅沢をしない方だと聞いていたのに、随分と大盤振る舞いだ。

 

 使用人の朝は早く、主人である聖女さまが起きる前から仕事は始まっている。侍従長さまや家宰さまの指示に従って割り振られた仕事をこなすこと暫く、お昼の時間がやってくるのは直ぐだった。

 ご当主さまは学院生なので学院に居られるので少し気楽だし、聖女さまが学院で勉強に励んでいる日は、使用人たちみんなが集まり一緒に昼食を済ませている。使用人用の食堂へと向かうと同僚たちが既に席へと座っていた。

 

 「こっちにおいで~」

 

 最近仲良くなった年の頃が近い子に手招きされて彼女の横へ座る。席には食事が既に並べれており、あとは食すだけとなっていた。

 

 「ご当主さまがまた何か起こしたみたいだよ」

 

 「またって……それで何があったの?」

 

 人好きのする笑みを浮かべた彼女は楽しそうに語り始めた。少しお行儀が悪いけれど、五月蠅くしなければこうした会話も許可されている。禁止している厳しい家もあるそうだが、生憎と私には縁がなかった。

 

 「何日か前に裏庭に畑が用意されたのは知っているよね?」

 

 「確かリーム王国の王子さまから芋を賜ったから、ご当主さまが託児所の子供たちと一緒に植えたって聞いてるけれど」

 

 これも家宰さまたちから通達がされていた。聖女さまの思い付きで裏庭に家庭菜園を作るから、何があっても驚かないように、そして口外しないようにとも。どうして家庭菜園で緘口令を敷かれるのか不思議だったけれど、彼女の口から告げられた事実。家宰さまたちが口外しないようにと割と厳しい口調で、私たちに通達した理由を理解した。

 

 「嘘でしょう?」

 

 だって種芋を植えて数日しか経っていないのに、畑にはびっしりと大きくなって生い茂っているそうだ。屋敷の裏手に行く機会が最近なかったので、見てはいないが彼女が嘘を吐く必要はない。

 

 「嘘じゃないよ。天馬さまが住み始めた時点で……ううん、ご当主さまが幼い竜を肩に乗せてる時点で気付くべきだったかも」

 

 今まで数々の奇跡を引き起こしている聖女さまだから、不思議ではないけれど。こうして起こったことを聞くと毎回驚かされる。週に一度行われている教会の礼拝に参加した時に、教会で保護された日から聖女さまを知るシスターと話をしたことがあるけれど、聖女さまは保護された時から目立っていたようだ。

 

 魔力の覚醒と魔力量の測定を同時に行える魔術具を壊したり、貧民街で別れた仲間に食料を届ける為に教会から脱走したり、それを止められてキレて魔力を暴走させたり。割と直ぐ習得できる魔力制御が未だに甘いとか、食い意地が張っているとかよく食べるのに太らないとか、本当にいろいろと聞いた。

 

 学院へ入学した後も聖女さまの逸話は絶えないし、数日前には芋を植えた日に天馬さまが空から降りてきて、あれよあれよという間に子爵邸で過ごすこととなった。他にも黒髪の聖女さまは沢山のことを引き起こしているから、今更のような気も。

 

 「夜番の子が光る玉を見たって興奮気味に言ってたこともあったなあ」

 

 「え、幽霊?」

 

 「かもしれないね。移築した屋敷だからいわくつきのものかもしれないし」

 

 貴族が住まう屋敷なので、後ろ暗い事のひとつやふたつあるかも知れないし、この手の噂は良く聞く話。苦手な人は嫌かも知れないけれど、私は余り気にする口ではない。

 

 「そういえば、物が勝手に動いていたって話も聞いたことがある」

 

 同僚に聞いた話だけれど、夜に定位置に置いていた置物が翌朝少し移動していたとか、干していた洗濯物が風も吹いていないのに勝手に落ちていたとか。

 

 「お隣は亜人連合国の方たちが常駐しているから、その影響なのかな?」

 

 「確か妖精だっけ? 見たことないけれど、いたずら好きって聞くからもしかすればそうかも」

 

 「あ、ご当主さまが誰も居ないのに話していたことがあったけれど、もしかして……」

 

 妖精と会話していたのだろうか。伝承によると妖精は、気に入った相手にしか姿を見せず気紛れで悪戯好きと聞いている。魔素量が多い場所を好むそうだから、魔力量が凄く多いと言われている聖女さまの側がお気に入りなのかもしれない。

 

 「本当、この屋敷には不思議が沢山だねえ」

 

 「うん。でも怖いって感じはしないし、ご当主さまや家宰さまたちも優しい方だから問題ないかも」

 

 待遇は良いし、子爵家当主である聖女さまはお優しく良識的だ。いろいろと外でやらかしてはいるけれど、この屋敷で働く人間にとって彼女は良き当主そのもの。

 

 「そうだね、解雇されるような失敗は絶対にしちゃ駄目だよ」

 

 「貴女もね」

 

 くすくすと笑い合い食事を終えて、また仕事へと戻る私たちだった。

 

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