魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――竜騎兵隊。
王城の魔術師団と騎士団の隊舎や関係設備がある区域の一角で、ワイバーンと騎士の方たちが訓練を行っていた。お城の魔力補填が終わった後に様子が気になって足を向けたのだけれど、どうやら上手くこなしている人と四苦八苦している人に分かれている感じ。
「痛ぇ!」
一匹のワイバーンが背中に乗ろうとした騎士さまを振り落とす。どうやら気に入らなかったらしい。
訓練の様子を見に来た私に気が付いて、ワイバーンのみなさまが私の下へとやって来ると、首を伸ばして顔を撫でろと無言の要求をされた。手を差し出して眼と鼻の間を撫でると、目を細める一匹のワイバーン。ジークやリンにも興味があるらしく、他のワイバーンが二人に同じことを求めていた。
『アイツ嫌いっ!』
「それはどうして?」
『俺の扱いが乱暴だ』
まだ若そうなワイバーンが私に文句を言ってきた。こうして意思疎通出来るはずなのだけれど、落とした騎士さまに文句を伝えているのだろうか。
「乱暴って?」
『俺を下にみているのも伝わるし、手綱捌きも雑なんだ。他の上手い騎士はちゃんと乗りこなしてるだろう?』
ワイバーンの言葉に訓練中のワイバーンへ視線を向けると、確かに乗りこなしている騎士さまは居る。上手く手綱を捌いて、空中を自在に飛んでいる様子。手綱の右を引けば右へ旋回し、緩めると真っ直ぐ進み始めている。
教会の枢機卿さまを捕まえに行く演出の為に急遽竜騎兵隊と名付け、即席訓練でどうにか騎乗と空中を飛ぶことが出来たあの時から随分と慣れたみたいで。相性があるのか上手くいかないペアはこうして振り落とされたり、指示を聞かなかったりと大変そうではあるが。
「じゃあ雑じゃなければ問題がなくなるの?」
『分からない。アイツ、見下してるのはハッキリと分かるし別の奴が良い……』
どうにも相性が悪い様子で。仕方ないかとこの場に居る指揮官さまを見つけて声を掛けた。
「聖女さま、如何なさいました?」
周りの方よりも衣装が少し豪華だし、階級章も目立つものを付けているから合っているだろう。
「この子に騎乗する騎士さまのことについてですが……」
苦言を呈したワイバーンの子と一緒に指揮官さまの下へと行き、理由を告げると微妙な顔になった。
「ああ、どうにも気が合わぬようですな。先程も振り落とされていましたし……」
そろそろ別の人間に替えようと思案していたところですが、と顎に手を置いて思案顔の指揮官さま。
「ええ。扱いが雑なことと、見下していることが伝わるみたいで」
ね、と顔を上げるとワイバーンが顔を寄せてくる。どうやらワイバーンは人と言葉を交わすには、魔力量が高くないと無理らしい。そんな理由で竜騎騎兵隊の訓練にちょいちょい顔を出して、アドバイスを残していくのが私の役目。
「やはり……では、騎手を変えてみましょう。あの者は竜に憧れているが故に彼らを舐めています」
どうやら竜の下位種族となるワイバーンがあまり気に入らないそうだ。彼が乗りたいのは大型の竜種のようで。
言葉を交わしながら自由自在に空を飛びたいらしい。代表さまに頼めば乗せてくれると思うけれど……うーん、ワイバーンを扱えない人に上位となる竜の方の背に乗る資格があるのかと考えると微妙だよねえ。
『ありがと。助かる』
「ううん。これも仕事の内だから大丈夫」
そんなこんなで彼らの通訳もどきになっているし、体調管理やらも行っている訳だ。本当にやるべきことが増えているけれど、討伐遠征時みたいに命のやり取りをしていないので気は楽。誰かが死ぬ所なんてなるべく見たくないし。
しかしまあ、アルバトロス王国が竜騎兵隊を率いることになるだなんて。それには理由がある訳だけれど。
私が教会へ預けていたお金の使い込みが発覚する少し前に、代表さまからワイバーンを賜った。というよりも預かったと言う方が正しいだろうか。
代表さま曰く、ワイバーンたちはご意見番さまの生まれ変わりが産まれたことで刺激を受け、竜種の方々と同様にベビーラッシュを迎えていると聞き。繁殖するならばご意見番さまが朽ちた辺境伯領で子育てをしたいそうなのだが、上位の竜種の方たちが先に占領してしまった。代わりの場所を探していると、一番いい場所があるではないかと思い付いたそうだ。
それが私の側だった。タダで王国に住む訳にはいかないので、その対価としてワイバーンのみなさまが役に立てることがあれば使ってくれと言い残された。ワイバーンの皆さまに出来ることってなんだろうと考えた結果、空を飛ぶ宅配や荷運びに竜騎兵隊。
民間で行うとなれば信用に足る人の伝手がないので、陛下に進言して王国で預かって頂くことになった。その対価として竜騎兵隊が発足した訳で。まあちょっとというか随分と苦労をしているようだけれど。
なんでそんな結論に至るのだろうと頭を抱えるが、魔物や魔獣に亜人の方たちは魔素が濃い場所を好む性質がある。アルバトロス王国は大陸の中でも比較的魔素量が多いことと、私が無意識で魔力を放出しているが故に濃くなっているそうな。
『人には感じ辛いかも知れんが、我々には分かり易い』
代表さまの言葉にそうなのかと納得しつつ、きちんと魔力制御をしないとどんどんと私の身の回りの魔素量が高くなっていくんじゃないかと危惧している。ただ魔力量の多い生き物が完全に制御するのは難しいらしいと、エルフのお姉さんズとお婆さまに告げられている。
悪影響を及ぼす訳ではないから良いんじゃないと気軽に言われてしまったが、何かしら引き起こしている気がするから、ちょっとでもマシになるようにしないと。副団長さまや盲目のシスターに教えを乞うとして、今はワイバーンの話である。
ベビーラッシュを迎えているということで、雌のみなさまは王城の中に建てられている小屋で繁殖と子育てに励んでいる。
雄のみなさまは先ほどの通り、騎士の方たちと訓練中。卵だった子たちも順調に孵っているし、代表さまへ報告すると嬉しそうな顔をしていた。生まれた子たちが亜人連合国へ戻るのか、アルバトロス王国で生活するのかは分からないが、新しい命が産まれたというなら喜ぶべきことだろう。
「ぐえっ!」
先程ワイバーンから振り落とされた騎士さまに別のワイバーンが宛がわれたのだけれど、また背中から振り落とされている所で。
それを見て苦笑しつつ、彼が上手く乗りこなせる日が来るのだろうかと踵を返す。今後の話でも詰めておくべきかと教会へ立ち寄る。いつもより人が居るなあと眺めていると治癒院が開かれているのだった。
◇
竜騎兵隊の現状を視察した後に教会へと赴くと、治癒院が開かれていた。現場に居る聖女さまや治癒を施せるシスターと神父さまでは並んでいる人数を捌けそうにない。治癒院に参加している忙しそうなアウグストさまを偶然に見つけて、声を掛けた。
「アウグストさま」
「聖女さま、どうしてこちらへ?」
確か今日は来訪の予定はなかったはずではと驚いた顔をされた。私が教会に足を向けた理由は盲目のシスターに魔力制御のコツでも聞いてみようと思い至っただけで、特に深い理由はない。
「お忙しい所にお声掛けをして申し訳ありません。治癒院が開催されているとは露知らず、気軽に教会へ赴いただけなのですが」
盲目のシスターに話があるし、教会の様子がどうなっているのか気になっていたから訪れてみたのだけれど随分と忙しそうだった。まあ、病院なんてものはないに等しいし、体調が悪かったり、病気に怪我なら教会の治癒院を頼るのが王都の人たち……アルバトロス王国に住む人たちの常識である。
「大丈夫ですよ。教会はいつでも誰でも受け入れるのが信条です」
少し疲れた様子でアウグストさまがそんなことを言った。真面目な彼だから信者の皆さまや患者の人たちを相手に頑張っていたのだろう。このまま放置して教会の事務棟に行くのは気が引けるし、手伝ってもバチは当たりはしないかと無茶振りくんに申し出る。
「わたくしも聖女として教会信徒として参加させて頂いても良いでしょうか?」
このまま放置して教会の事務棟に行くのは気が引けるし、手伝ってもバチは当たりはしないかと無茶振りくんに申し出る。
「よ、よろしいのですかっ!?」
「もちろんです。断る理由もありませんし、この状況を見るに時間が掛かります。待たせている方にもご迷惑が掛かりましょうし、人手は多い方が良いでしょうから」
もっともらしい言葉を紡ぐと、アウグストさまが凄くキラキラさせた瞳を向けてくる。貴方はギャルゲのヒロインですかと問いたくなるくらいに、何故だか感動しているのだけれど。
いや、大したことは言っていないし請求するものはきっちりと請求するからね。タダより怖いものはないっていうし、無料で治療したと噂が広がり困るのは私自身となるので、無料の治療は外では行わないことにしている。
――さあ、きびきび仕事をしますかねえ。
少しばかり袖を上げて、一緒に付いてきているジークとリンに顔を向けると軽く頷いてくれた。アクロアイトさまは私の肩に乗って大人しくしているので問題はない。
背の高い二人は私の護衛を務め周囲を警戒しながら、状態が酷い人が居れば報告がくるので優先的にその人を見る。
で、私は目の前に居る人たちを手あたり次第に治療を施していくという寸法だ。ソフィーアさまとセレスティアさまを放ってしまうが、治癒魔術も使えないし高位貴族のご令嬢さまだ。一般人とのオーラが違い過ぎるので、裏に回って貰ってる。その代わりに教会の事務方といろいろと話を聞きだして貰って、今後の事を考えるつもり。
「今日はどうされましたか?」
調子の悪そうな男性に声を掛けると、私の顔を見てはっとした。一体何だと首を傾げたくなるけれど、今は治療に専念すべきである。
「あ、あの黒髪の聖女さまとお見受けします」
王都で黒髪の聖女は私しか居ないから間違うことはないのだけれど、念の為なのだろう。おずおずと言葉を口にした男性は私を見下ろす。身長差があるので仕方ないのだけれど、私の背もっと伸びてくれないかなあと願うが一向に伸びた試しがない。
「はい。皆さまからは、そう呼ばれております」
「教会信徒になられたのですか、何故……?」
私の胸元に視線を向けて、ある一点に注がれていることに気付く。あ、そっか。教会信徒としての参加も兼ねているからロザリオもどきを首から下げているのだった。教会上層部にお金を使い込まれて怒っているという刷り込みがあるから、その質問は仕方ないといえよう。
ただお金を使い込んだ人に怒っているだけで、教会に思う所は何もないけれど。まあ、もう少し管理をきっちりしてよと思う所もあるし、預けていたお金の管理がザルだった私も悪いけれど。
「今回の件はわたくしを始めとした聖女さま方が教会へ預けていたお金を使い込んだ方々に愛想を尽かしただけのことです」
「はあ……」
あまりピンときていない様子で私の言葉を待っている男性。
「わたくしが教会信徒となったのは、教会立て直しの為に助力できることが少しでもあるならと、洗礼を受けさせて頂いた次第です」
「で、では聖女さまはもう怒っていらっしゃらないと?」
あ、あれ? もしかして脅し過ぎたのかな。何だか私が畏怖の対象となっていないかな、コレ。それならいい機会なのかもしれない。私は既に教会や国に対して怒りを向けていないことが知れ渡れば、その方が良い事だろうし、陛下や教会の人たちも安堵するだろう。
「そうですね。わたくしが怒りを向けているのは聖女さま方のお金を使い込んだ者のみと断言して良いでしょう」
ん。許すまじは私たちのお金を使い込んだ人だけ。王都の人たちやアルバトロス王国や教会に怒っていない。
むしろ国や教会が無くなると困るのは私の方だから、皆さま方には頑張って貰わないと。その分のしわ寄せが私にも寄せられている気もするが、気にしちゃ負けである。最近、図太くなってきたようなとも思うが、いろいろと起こり過ぎてメンタルが鈍くなってきているとも言う。
「アルバトロス王国には忠誠を。教会には尊崇を捧げましょう」
お貴族さまなのだからアルバトロス王国に忠誠を誓うのは何らおかしなことではない。教会が崇めている神さまを私は崇める気にはなれないけれど、目の前に存在する教会自体には尊ぶ気持ちはあるのだ。孤児から救い上げてくれたし、仲間内もみんな引き上げて貰ったし。
ロザリオもどきに右手を添えてそんなことを口にすると、横で様子を見ていたアウグストさまが何故か泣きそうな顔で『聖女さま……』と感動してる。いや貴方が感動しているような綺麗さは持ち合わせていないし、単純に無くなると困るからという軽い考えからなのだけれどと、ちょっと引いてる。
「聖女さま……」
そして私の治癒魔術をこれから受けようとする男性も何故か感動している雰囲気だし。なんでこう妙な方向に解釈してしまうのだろうかと別の方向を見ると、枢機卿さま二人が立ち尽くしていた。
もしかして今の会話を聞いていたのだろうかと疑問になるけれど、もうアウグストさまに聞かれているので関係ないかも。助力はするけれどメインで立て直さなきゃいけないのは、ちゃんとした信徒の人じゃなきゃいけないんだから、感動していないで頑張って欲しいものである。
取りあえず、治癒を待っている人たちに術を施すべきかと、前を向き片っ端から症状や日常のことを聞き出しつつ術を掛けるのだった。