魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0142:シスターズ。

 治癒院が開かれており、既存の人数では捌くことが大変そうだったので助勢してたら、王都の皆さまに私が入信した理由を問われ。先の一件で教会から遠ざかる人が多いと聞いたので、客寄せパンダくらいにはなれるだろうと軽い気持ちで入った訳だけれど。

 

「ありがとうございます、聖女さま」

 

 今しがた治癒を施したお婆さんにありがたやありがたやと教会の印を切って拝まれた。即身仏じゃないから、拝んでも効果はきっとないよと苦笑い。以前からままあることなのであまり気にしてはいないけど、私を拝むなら教会にある神さまの像を拝めば良いのに。

 

 「いえ。ただ無理はせず痛みを我慢してはいけません。治らなければわたくしの名前を出して下さい。今日開かれた治癒院で術を掛けてもらっても治らなかったと教会へ申し出れば良いので」

 

 そうすればもう一度治癒魔術を受けられる、といつも言っている台詞をお婆さんにも告げる。老齢の方って我慢する人が多いので気を払っておくに越したことがない。あと治らなかったのは年齢の所為だと考える人も居るからなあ。確かに年齢が起因することもあるのだろうけれど、痛みはないに越したことはない。

 

 「終わったかな。ジーク、リン、お疲れさま」

 

 アクロアイトさまもお疲れさまという意味合いを込めて、右手で頭を一撫ですると小さく一鳴きした。

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 お婆さんを最後に椅子から立ち上がると、教会の中に居る人が随分と減っていた。お手伝いにクレイジーシスターと盲目のシスターも駆り出されていたようで、聖堂の片隅で私に気付き軽く頭を下げられたので答礼しておく。

 

 「ナイさま?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、そちらへ顔を向けるとアリアさまの姿が。聖女の格好をしているので、どうやら治癒院に参加していたようだ。

 

 「アリアさま。アリアさまも治癒院に参加なされていたのですか?」

 

 分かってはいても聞いてしまうのは人間の性なのか。私の姿を見て綺麗に笑ったアリアさまが、口を開いた。

 

 「はいっ! まだまだ学ぶことが多くて大変ですが、誰かのお役に立つならと思って志願したんです!」

 

 「そうでしたか」

 

 慣れないことだから大変だろうし、魔力も消耗している筈なのに元気なアリアさま。

 

 「ナイさまは? 最初の説明の時にお姿を見かけませんでしたから」

 

 若いなあと苦笑いを浮かべていると、彼女も気になったのかどうして治癒院に参加しているのかと私に問いかける。

 

 「教会の今後をどうするのか聞きたくなってお邪魔したのですが、丁度治癒院が開かれていたのと来院者が多かったので急遽参戦させて頂きました」

 

 「そうだったのですか。予定されていた時間より早く終わったのはナイさまのお陰かもしれませんね!」

 

 「いえ、みなさんが手際よく動いて下さったからですよ」

 

 誘導とか順番を決めるのも大変だからなあ。あと病気や怪我の種類を見極めて、適切な聖女さまを見極めるのもシスターや神父さまに教会関係者の腕の見せ所。おそらくクレイジーシスターと盲目のシスターも誘導員や簡単な問診を先にして、症状を聖女さまたちに伝えていたのだろう。

 結構大変な仕事だったりするし、時折妙な人も交ざっていたりするので大変だ。ま、そういう時は教会騎士さまの出番。問答無用で聖堂から追い出される上に出入り禁止となるから、普通の思考回路の人ならまずやらないけれど。

 

 「以前にも何度か参加させて頂きましたが、今日が一番みなさんがキビキビ動いていた気がします」

 

 教会もやらかしちゃっているから、信徒の皆さまの心が離れていくのは見過ごせない。だから必死になっているんだろう。私も王都の皆さまを騒がせてしまった原因なので、助力はするつもりだけれど……。

 

 ――教会改革って何をすればいいのやら。

 

 宗教にのめり込む質ではないから、熱心な信徒の方の心の内まで知ることは出来ない。難しいねえと目を細める。

 

 「ナイちゃん」

 

 「ナイさん」

 

 クレイジーシスターと盲目のシスターに声を掛けられた。聖女と呼ばず名前で呼ばれたので私用なのだろう。アリアさまに『ちょっとだけ待って下さいね』と視線で送ると、こくりと小さく頷いてくれた。

 

 「どうしました?」

 

 「ナイちゃんこそ、どうされたのですか? 教会へ来る予定はなかったと記憶しておりますが」

 

 クレイジーシスターが首を傾げながら問いかけてきた。訪れた理由なんて単純なものなので、素直に答える。

 

 「今後の話や詰めておきたいことがあって、寄ってみただけです」

 

 「なるほど。――……ところでそちらの聖女さまをご紹介頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 あれ、アリアさまとシスターたちって自己紹介を済ませていなかったのだろうか。なるほど、の後は少し声が小さくなっているし。リーム王国へ向かう際に一緒になったから、もう済ませているとばかり。

 アリアさまは不思議そうな顔をしているけれど、男爵家のご令嬢なので勝手にシスターたちが声を掛ける訳にはいかないか。やはりお貴族さまのルールは面倒だよなあと苦笑しつつ、アリアさまの方を向く。

 

 「アリアさま、少しよろしいでしょうか」

 

 「はい?」

 

 「シスターをご紹介したいのですが、構いませんか?」

 

 「もちろんです! 私からお声掛けすべきでしたが、機会を失ってしまって……」

 

 まあ、シスター二人は独特の雰囲気があるものねえ。クレイジーシスターは始終笑みを絶やさないし、盲目のシスターは目が見えないというのに割と自由に行動しているし。

 お貴族さまの女性たちに負けないくらい美人で、顔の造形がかなり整っている。盲目のシスターはお貴族さま出身だから分かるとして、クレイジーシスターは確か平民出身だったはずだ。

 

 「ジルと申します。以後お見知りおきを」

 

 確かクレイジーシスターの名前はジュリアと言ったはず。教会のシスターたちは俗世を捨てていると言って、聖職者の道へ入った時に神父さまに付けて頂いた名前を名乗る。

 

 「リズと申します。聖女さまのご活躍耳にしております」

 

 で、盲目のシスターがエリザベスだったかな。短縮した名前を聞いているので、シスター・ジルとシスター・リズで定着してしまっている。他の教会の人たちもそう呼ぶ人が殆どで、ちゃんとした名前を知る人は少ないかも。

 

 「アリア・フライハイトと申します。シスターさま方とはリーム王国へ赴いた際にご挨拶をするべきでしたが、遅れてしまい申し訳ありません」

 

 シスター二人の独特さに気圧されず、きちんと挨拶をしている所をみるにアリアさまってメンタル強い気がする。シスター・ジルとシスター・リズには散々お世話になったこともあるし、迷惑を掛けたこともあるから余り頭が上がらない。

 

 「いえ、お気になさらず。これから良くお会いするでしょうし、よろしくお願いいたします、聖女アリアさま」

 

 「このような目ですのでご迷惑を掛けるかもしれませんが、私もシスター・ジル同様よろしくお願いします。聖女アリアさま」

 

 順調に挨拶を交わして、アリアさまが満面の笑みを浮かべる。聖女として活動を活発にするなら、シスターや神父さまたちと仲良くなっておいた方が得だ。

 

 「はいっ! 聖女として慣れないことが沢山あるので、ご迷惑を掛けることがあるかもしれませんが、よろしくお願いしますね!」

 

 純粋に交友の幅が広がったことに対して喜んでいるアリアさま。彼女の笑顔が眩しいなあと、擦れてしまっている私は遠い目になるのだった。

 

 ◇

 

 アリアさまと別れて教会の事務棟へと向かい、応接室へと案内された。部屋の中にはアウグストさまに枢機卿さまお二人と事務方のお偉いさんたちに、神父さま数名と何故かシスター・ジルとシスター・リズの姿が。壁際に控えているあたり傍聴希望でも出したのだろう。

 教会のこれからを考える席だから人数が多くなっても問題はないし、逆に密室で隠し事をするようなことにはしたくない。なので現場で活動する神父さまやシスター二人の参加は丁度良いだろうと、前を向く。

 

 「聖女さま、この度は教会信徒となって頂いたこと、真に感謝致します」

 

 枢機卿さまやアウグストさまに教会メンバーが深々と頭を下げた。

 

 「皆さま、顔をお上げ下さい。――この度わたくしが教会へ入った理由は以前申した通り、教会立て直しの為にご助力出来れば良いという単純なものです」

 

 「それでも我々は救われておりますので」

 

 「大きな期待を向けられても出来ることは今まで通り、聖女としての活動だけです」

 

 「十分でございましょう。黒髪の聖女さまともなれば、一挙手一投足が王都や王国の民から注目されているのです」

 

 今回の治癒院に私が参加したことで、教会信徒になったことは王都のみんなに知ることとなる。ロザリオもどきは教会信徒しか持たないものだから、首から下げていれば当然だ。確かに治癒を施す際に、私の胸元を凝視していた人は多くいた。

 教会の信徒であろうとなかろうと、聖女にはなれる。単純に教会預かりとなるだけで、信徒という訳でもない適当っぷり。今まで一度も入信しろと言われたことがないのが不思議になるくらいだ。

 

 「あの、教会の教えや礼拝の仕方が全く分からないのですが、誰かに手解きを受けられますか?」

 

 偶には礼拝に参加して信者であることをアピールしなければと考えている。教会宿舎で暮らしていたけれど、聖女としての活動しか行っていなかったからその辺りは、教会信徒の子供より無知だった。教典も読んだことはないし、教会宿舎で共用品として食堂に置かれていたけれど、最後まで手に取ることはなかった。

 

 「もちろんでございます。直ぐに手配いたしましょう」

 

 「よろしくお願いします。あともう一つ個人的なお願いがありまして……」

 

 「おや、どう致しましたかな?」

 

 「私の魔力制御が甘く漏れ出ているようなのですが、もう一度シスター・リズに教えを乞うことは可能でしょうか?」

 

 副団長さまでも良いけれど魔術師団副団長としての仕事もあるし、天馬さまたちの研究と言って子爵邸い出入りもしており、最近忙しそうなんだよね。学院で魔術の特別講師を務めると言っていたので、その時にお世話になるだろうし、別ルートでも教えを乞うのは悪いことではなさそうだ。

 二人に師事を乞うと教え方が違ったり、理念が違うかも知れないが、相性もありそうだから無駄になることはないような。私の魔力量が多いと知り教会上層部が現場に即出られるようにと、即席で魔術を叩き込まれた事情もあるから、もう一度師事し直すのも良い機会。

 防御や治癒系の魔術だけだと自身や周りの身を守れないと抗議してくれたのは、現場に居た神父さまやシスターたちだった。ただ彼ら彼女らに上層部に抗うだけの力がなく、悔やんでいた所も知っている。

 

 「あら」

 

 小さくシスター・リズが声を漏らした。目が見えないと言うのに確りと私の方を向いて、こくりと頷いた。

 

 「それは構いませんが、聖女さまはお忙しいのでは?」

 

 学院に通いつつ賜った領地の事を考えなきゃいけないし、教会のことも見捨てられない。子爵邸も切り盛りしなきゃならないし本当に忙しくはある。ただ私をお館さまやご主人さまと呼び、慕って敬ってくれる人たちがいること。ジークやリンにサフィールとクレイグたちも居る。託児所で預かっている子供たちは勿論、子爵邸の警備を担ってくれている人たち、亜人連合国の方々に天馬さま。

 私の肩にいろんなものが乗っかってしまったので、止まる訳にはいかないよねえ。まあ、たまに適度な休みを下さいと言いたくなる状況ではあるけれど。若いし体力はある方で、精神的に弱っている訳じゃないからまだ走れる。

 

 「あまり時間は取れませんが、少しでも改善したいと考えておりますので無駄にはならないかと」

 

 「シスター・リズ。時間は取れそうかな?」

 

 「もちろんでございます。黒髪の聖女さまに教えを施すなど、名誉、喜んでお受けいたします」

 

 盲目のシスターもといシスター・リズは割と手厳しい人である。出来ないと容赦ない言葉が飛んで来るけれど、正論だし間違っていないから反論が出来ないという。まあ、四年前に戻っただけだなあと苦笑いしつつシスターから視線を外して前を向く。

 

 「あとは礼拝ですが、そちらに関しては参加されることが一番の早道かと」

 

 礼拝は小難しく考える必要はなさそうかな。取りあえず時間が合う所に予定を組み込んでもらえば良いか。

 

 「ありがとうございます。――空いた枢機卿さまの席には誰が就くのでしょうか」

 

 アルバトロス王国教会の枢機卿さまの空席は三つ。一つはアウグストさまが担うとして、残りの二席には誰が座すのだろうか。適任者が居るのならばその人に担って頂ければ良いが、高位聖職者にそんな人は居なさそうな雰囲気。

 

 「まだ適任者が見つかっておらず、難儀しております」

 

 「高位の聖職者の方に拘らなくとも事務の方や神父さまシスターたちから選出されても良いのでは?」

 

 無茶振りくん、もといアウグストさまも生え抜きで枢機卿さまの座に就くのだし、無茶な話ではないと思うけれど。あと下の意見をくみ取り易くなりそうだし、悪い事ではないけれど。あと一般の信徒の人たちも、話しかけやすいだろう。

 

「確かに良い事ではありますが……」

 

 枢機卿さまは渋い顔になって、言葉を詰まらせる。何か問題があるとすれば、ルールを変えれば良いだけだしお試し運用だって出来るのだからそう堅く考えずとも良いような。真面目な人たちが多いので掟やルールを変えることに抵抗感が湧くのかもしれない。

 

 「問題があるのですか?」

 

 「女性の枢機卿は前例がありませんし、位の低い神職が枢機卿の座に就いたことはなく」

 

 あら、危惧していたことそのままを枢機卿さまは告げた。

 

 「仮運用するのは如何でしょう? 前例のない事態に陥っているのですから、前例に囚われる必要はないかと」

 

 枢機卿さま二人が考える素振りを見せて、二人で顔を見合わせて確りと頷き私を見据える。

 

 「では、聖女さまが枢機卿の座に就くというのは如何でございましょう?」

 

 「――え?」

 

 なんでそうなるのでしょうか、という言葉は驚きのあまりに私の口から出ることはなかった。

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