魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0145:礼拝中。

 私が教会信徒になった理由は客寄せパンダになって、減ってしまった教会信徒の数が少しでも増えれば良いという極々単純なもの。そして、それを理由に掲げて教会の面倒事から逃げる為でもある。何もしなきゃ、何かをお願いされそうだから。

 

 「では聖水に手を付けて、印を切って下さい」

 

 アウグストさまの指示に素直に従って、教会の印を切る。複雑なものではなく手をおでこから心臓、最後に臍の位置に持っていくだけで子供でも出来るものだ。

 彼が以前に言った通り見ていれば大丈夫なので、結構気楽。私の後ろには何故か先程挨拶をしたシスターズが笑顔を浮かべて付いてきている。礼拝の準備とかは良いのかと心配になるけれど、時間になれば彼女たちも流石に付いて来ないはず。

 

 身を清めれば席に着き、合図で一同お祈りをしたあと聖歌隊の唄を聞き、教典のお話となり最後に任意で寄付。で、出席者のみなさんとの交流なのだそうだ。交流会は自由参加でティータイムや食事会も開かれることもあるそうな。少し食べ物につられそうになるけれど、今日は交流だけとのこと。

 月に数度は炊き出しもあるそうなので、そっちは参加する予定である。貧困者救済でもあるし、私も過去に救われたから礼拝に参加して炊き出しが催される場合には必ず顔を出して手伝うつもりだ。

 

 「壇上は聖職者のみが立ち入りを許されております。心配は必要ないと思いますが、念の為伝えておきますね」

 

 彼が手を指して、教会最後方の椅子を指す。今日は初参加だし邪魔になってはならないだろうと、後ろの方で大丈夫と伝えてある。護衛の人たちも居ることだし、神聖な雰囲気を物々しいものに変えて壊しても申し訳ない。

 そういう理由から教会の中で護衛を務めるのはジークとリンのみ。教会信徒に扮装して護衛の方が紛れ込んでいる可能性もあるけれど、私には知らされていないので、知らなくとも良いことなのだ。Need To Know だったかなあ。知る必要があるなら、ちゃんと教えてくれる訳である。

 

 「あとは聞いているだけですので、聖女さまだけでも大丈夫でしょう。――申し訳ありませんが、所要で失礼致します」

 

 また後で顔を出しますのでとアウグストさまがこの場を去って行く。暫くするとシスターたちも『寝ては駄目ですよぉ』『ちゃんと拝聴して下さいね』と言い残して去って行った。

 流石シスター、私が一番危険視していることを注意して、この場から消えた。教会最後方の長椅子の端にちょこんと座って、開始時間を待つ私。まだ少し時間がある為か席に座っているひとはまばらだ。

 

 「黒髪の聖女さまだ……」

 

 「本当だわ。会えるだなんて、神のお導きかしら?」

 

 なんて言葉が耳に届く訳で。声は絞っているが、教会の造りの所為か声が通りやすいらしく、分かり易い。客寄せパンダとして教会に入信したのだから、これくらいは我慢できる。

 こんな簡単なことで教会信徒が増えてくれるなら有難いことだし、教会の収入が増えるイコール私の収入も安定するだろう。治癒依頼で時々不払いの人が現れるが、そういう時に教会が金欠だと肩代わりが出来なくて、聖女に支払われないから頭を抱える時がある。

 お貴族さま出身の聖女さまなら家の人間を使って回収する方法もあるが、平民出身の聖女さまだと泣き寝入りの可能性もあるからなあ。とはいえ、聖女のシステムは教会にとってもアルバトロス王国にとっても大事なものだから、無下に扱われることはない……はず。

 

 随分と教会の中に人が増えてきた。私の肩に乗るアクロアイトさまが気になる子供や黒髪が珍しい人は、こちらを何度も振り返っている。子供が指を指して『竜だー!』と大きな声を出して指を指すと、気を良くしたのか私の肩の上でアクロアイトさまが羽を広げて一鳴きした。

 

 「小さいなあ……もっと大きくてカッコいい竜が見たい!」

 

 アクロアイトさまも時間が経てばかなり大きくなるぞ少年、と竜が見たいと告げた男の子に視線を向けて苦笑する。一緒に来ていたご両親が慌てて私に向かって頭を下げたので、気にしないで欲しいと首を左右に何度か振った。

 子供の言葉が胸に刺さったのかアクロアイトさまが私の肩から膝の上に移動して、不貞寝を始めてしまう。大きく成長できるのは確定なのだから、そんなに落ち込まなくとも。将来性というのであれば、私の方は絶望的なんだけれどなあ。

 

 「お隣、よろしいでしょうか?」

 

 席が随分と埋まった所為なのか、品の良いお婆さんが柔和な笑みを浮かべて私へ問いかけた。勘の鋭いリンが止めないなら、危険な人ではないのだろう。軽く頭を下げたお婆さんに私も『はい、どうぞ』と告げたあと頭を下げて着席を促した。

 

 成長の余地があるアクロアイトさまの頭を若干強めに撫でていると、礼拝が始まったようだ。神父さまが壇上に立って『皆さん、祈りましょう』と告げると、参加している人たちが静かに目を閉じて瞑想を始めた。私もそれに倣って目を瞑り無心になる。

 

 アウグストさま曰く、無心になって神の声を聞きましょうとのことだったが、声なんてさっぱり聞こえず。啓示を受けた信徒さんも居るようだが、ちっとも神さまを信じていない人間にそんなものがある筈もなく。

 

 しばらく時間が経つと神父さまが目を開けて下さいと言い、一言二言告げると聖歌隊が入場して聖歌を歌い始める。パイプオルガンの音が耳に心地良いのだけれど、某有名な映画を思い出してゴスペルが聞きたくなってきた。

 シスターたちにあの曲を歌って貰えば、目新しさで信徒や興味を抱く人が増えそうだけれど。

 私は音楽については聞くだけで満足しているから、誰かを指導するとかは無理だから諦めるしかない。ちょっと残念だなあと目を細めていると、教典の話となった。

 

 神父さまが随分と使い込んでいる教典を広げ、抑揚をつけて語り始める。物語のように構成されている話で、慣れている所為なのか聞かせるのが上手いなと感心しつつ聞いていた。これ、本を読む機会の少ない平民の人たちは楽しいだろうなあ。

 オーソドックスな話の内容だけれど、王道を貫いた話だから面白いだろう。聞いている人たちも話に引き込まれているようで、身振り手振りで話している神父さまを真剣に見ているのだから。特に子供は顕著だった。うーん、こうして敬虔な信徒を生み出していくのだなあと感心する。

 

 「――今日は此処までに致しましょう。ではこちらを順に回します」

 

 そうして寄付を募られる訳である。これも任意だけれどお貴族さまである私がケチる訳にはいかない。暫く待っていると私の隣に座っているお婆さんの順となり、彼女から箱を手渡される。

 

 「貴女さまの番ですよ」

 

 「はい。有難うございます」

 

 にっこりと穏やかに笑うお婆さんから箱を受け取り、巾着袋を取り出した。その中には数枚の硬貨を忍ばせてあった。ちなみに目安として料金を教えて頂いたけど、割とお高い。まあお貴族さま料金なので仕方ないと言えるけれど。

 私の所へ回ってきた箱の中に硬貨を数枚入れた。気持ちの問題だから、値段は言うまい。私が最後だったので係の人が回収に来たので、お願いしますと言って手渡すと頭を深く下げて去って行った。

 

 神父さまが今日の礼拝の終わりを告げ、あとは自由時間となった。要するに交流会の始まりなのだけれど、長居する気もないし私が居れば邪魔だから帰ろう。ジークとリンの方へと顔を向けかけると不意に視界に映った景色に驚いて、もう一度その場へ視線を確りと向ける。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 私の隣に座っていたお婆さんが胸を押さえて苦しそうにしていたので、声を掛けることになったのだった。

 

 ◇

 

 礼拝が終わってさて帰ろうかとした時、私の隣に座っていたお婆さんが胸を押さえて苦しそうにしていた。流石に見捨ててしまうのは人としてどうかと思うし、誰かを助ける為の力なら今は持っている。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 あまり騒ぎになっても彼女にとっても良いことではないだろうと、お婆さんの下へ寄って声を静かに掛けた。

 

 「……ええ。よくあることなの。――少しの間じっとしていれば治るから平気。さあ、聖女さまはみなさんの下へ」

 

 やはり黒髪は目立つのか私の事は聖女だと理解していたらしい。今はそんなことはどうでも良い。目の前の女性のことである。

 胸を押さえて息が浅いから、調子はよくはないだろう。意識があるのでそんなに酷くはない状況。なので勝手に治癒魔術を施す訳にはいかない。意識がなければ問答無用で術を施したけれど、意識があるなら術を掛けるかどうかの意思をお婆さんから聞かないと。

 

 「歩けますか? 裏でベッドを借りて安静にしていましょう」

 

 許可は得ていないけれど、アウグストさまかシスターたちに話を通せばベッドくらい貸し出してくれるはず。

 そっとお婆さんの手首に私の手を当てて、脈を測ると随分と早いものだった。心臓か呼吸器系か。魔術であれば専門知識がなくとも治せるという、摩訶不思議。医療知識もないのに私が聖女として働ける理由がコレに尽きる。

 

 「いいえ、ご迷惑を掛ける訳には……」

 

 「ここの教会の方々がそんなことを思うはずはないでしょう?」

 

 遠慮するお婆さんを押し切ってジークとリンの方へと顔を上げた。

 

 「ジーク」

 

 「ああ」

 

 これで分かってくれるから有難いよなあと、教会の人を呼ぶために走り出したジークの背中を見送って、お婆さんへと向き直る。

 

 「ごめんなさいね。本当ならば貴女はあちらの輪の中にいるべきなのでしょうけれど」

 

 みんなが集まって歓談している方をお婆さんが見て苦笑を浮かべた。苦しい筈なのに他人を気にする余裕があるのなら、自分の事を気にして下さい。

 膝上から肩へと移っていたアクロアイトさまが心配そうに一鳴きした。それに気が付いたお婆さんは少し驚いた顔を浮かべたけれど、痛みが勝ったのか目を細めて我慢している。それを見たアクロアイトさまが、小さくまた一鳴きするのだった。

 

 「気になさらないで下さい。これもお隣になった縁です」

 

 力なく笑うお婆さん。こうなれば最後まで面倒をみさせて貰おう。これでお婆さんが死んだとなれば寝覚めが悪い。ジークが教会の人を連れて戻って来る気配を感じたので、お婆さんの様子をもう一度伺ってから口を開いた。

 

 「立ち上がれますか?」

 

 「ええ、なんとか」

 

 お婆さんの右手を取って力を入れる。私だけでは頼りないのでもっと確りとした人に頼もうと、彼女へと視線を向ける。

 

 「リン、左側支えて」

 

 「うん」

 

 リンならば安心だ。騎士として力があるし私を軽々と持ち上げることが出来るのだし。ただお婆さんをお姫さまだっこしたり、俵のように担ぐ訳にもいかないので、二人で肩を貸して支えるべきだ。気を利かせてアクロアイトさまは私の肩を離れて、真横で飛んで滞空している。

 

 「ナイ」

 

 「ありがとうジーク。ベッド借りられそう?」

 

 私たちの様子に気付いた人たちがチラホラと出始めているし、騒ぎになる前にこの場から立ち去りたい所。場所の確保は出来ただろうかと、戻ってきたジークに聞いてみた。

 

 「用意してくれるそうだ」

 

 「聖女さま、参りましょう。――……」

 

 先程の礼拝で登壇していた年配の神父さまがこちらへやってきていた。一瞬何か気付いたような雰囲気を見せたが、直ぐに鳴りを潜める。

 

 「ご迷惑をお掛けして誠に申し訳なく」

 

 「お気になされるな。このような時こそ神の教えに倣い、弱きを助けねばなりますまい」

 

 良いから早く行こうとは口に出来ず、やり取りを終えてようやく裏手へ回ることが出来た。

 

 「どうしました?」

 

 シスター・ジルとシスター・リズが私たちに気が付いて声を掛けてくれた。お婆さんの顔を見て何か感じたようだけれど、それよりも先にやるべきことがあると気が付いてくれたようだった。

 

 「ナイちゃん、代わりましょう。貴女より私の方が適任です」

 

 「シスター・ジル、お願いします」

 

 いつも飄々とした笑みを浮かべているシスターだけれど、この時ばかりは真剣な表情で交代を申し出てくれた。

 お婆さんがお貴族さまだとあまり男性は適当ではないので、こうしてリンと私でお婆さんの肩を支えていた。お婆さんと私では身長差があるので、シスターの方が楽だし背の高さも合うので、さっさと入れ替わる。

 

 「すみません」

 

 「お気になさらないで。さあベッドでゆっくりと落ち着きましょう」

 

 シスター・ジルと入れ替わったのでシスター・リズの手を私が代わりに取った。慣れた教会内なので盲目であれど自由に闊歩できる彼女だけれど、導き手が居る方が神経をすり減らさずに済む。

 

 「ありがとう、ナイさん」

 

 「いえ。少し急ぎますので気を付けて」

 

 はい、と私の言葉にシスター・リズが返事をしてベッドのある部屋を目指す。部屋に入るなりお婆さんをベッドの縁に腰掛けて貰って様子を伺う。

 時間が経ってマシになっていたのか、顔色は聖堂の中の時より良くなっていた。呼吸も普通に戻っているし、取りあえずは凌げたようだ。ただこれから先が問題だよなあと、お婆さんの顔を見ると、何故か凄く優しい目で見つめられている。

 

 「?」

 

 「貴女が覚えていなくとも当然です。私が聖女を引退したのが五年前。丁度貴女が、いえ貴女たちが教会へ保護された時期ですものね」

 

 私の後ろで控えていたジークとリンにも視線を向けて、意味深いことをお婆さんが告げる。私の記憶の中にはお婆さんのものは全くなく、今日で初対面。

 そしてお婆さんの言葉を推測するに、私たちが知らなくともおかしくない状況。彼女が一方的に知っていたと言うことなのだろう。 彼女の言葉を聞いてジークとリンも不思議そうな顔をしていた。

 

 「ナイちゃんたちが知らないのも当然です」

 

 「このお方は元聖女さまで、先ほど申された通り五年前に引退なさっておりますから」

 

 シスターズが補足を入れてくれたけれど、元聖女さまだったのか。公爵さまより少し若いくらいの彼女の年齢ならば、現役を続行している方も居るが……おそらく先程の持病の為にでも引退したのだろうか。 

 

 「大きくなりましたね。とはいえ一方的に知っていたのは私なので、貴女にとっては何のことだか分からないでしょうが」

 

 くすくすと笑うお婆さん。偶々席が隣になったというよりは、懐かしさ故に惹かれて座ったということだろうか。

 胸の痛みは演技ではないだろう。そのような人ならばリンが最初に気が付いて警戒しているはずだから。なんともいえぬ状況だけれど、まずは治癒を施すか施さないかの選択をお婆さんに決めて頂くことが先決だなあと、まだ柔らかく笑っている彼女を見据えるのだった。

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