魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――おはようございます、聖女さま。
やはりこのタイミングなのかと深い溜め息が出そうになるけれど、我慢ガマン。被っていた猫は百匹単位で逃げてしまったので、自力で笑顔を浮かべるしかない。
ポーカーフェイスや演技は苦手なのでバレなきゃ良いけれどと願いつつ、学院の教室へ入るなり狙っているように私に声を掛けた第四王子殿下の顔を見上げる。手紙の返事を書いて送っておいたけれど、待ち切れなかったらしい。
校門前で合流したソフィーアさまとセレスティアさまは般若の形相……ではないけれど、背負っているオーラが凄く怖いです、はい。
「おはようございます、殿下」
「ギド殿下は名前呼びとなっているのに、僕だけ名前を呼んで頂けないのは寂しいのですが……」
眉を八の字にして席に座っているギド殿下へと視線を向ける第四王子殿下。仕方ない、望まれてしまえば不本意だけれど名前呼びをしなければ。
「アクセル殿下」
「はい。とても嬉しいです、貴女のような素敵な女性に僕の名前を呼んで頂けるなんて」
胸に右手を当ててにっこりと笑みを浮かべながら、歯に浮く台詞を言い放った。背中がむず痒くなるのを感じながら、この会話に乗らなければと息を大きく吸い込んで頭をクリアにする。
「光栄なことでございましょう。子爵位であるわたくしが殿下のような高貴な方から名前呼びを許されたのですから」
にっこりと笑っているので、私もにっこりと笑顔を浮かべたつもりである。ちゃんと笑えていると良いのだけれど、自信はない。
「そのような謙遜をなさらなくとも。――嗚呼、本題を忘れるところでした」
貴女に名を呼ばれてつい浮かれてしまいましたと第四王子殿下。
「手紙に書いて送った通り、観劇に参りませんか? 今、アルバトロス王都の劇場では大陸で人気の劇団が公演をしているんです」
母親が好きで幼い頃に連れて行って貰い、その魅力に取りつかれたそうな。確か第四王子殿下は側妃さまの子供だったはず。王族の方が安易に街へ降りての観劇はあまりよろしくないような。
前にもいった通り警備の問題がある。これで何かが起これば護衛の首が一斉に飛んでしまいそうだけれど、ヴァンディリア王国も治安は良いから起こらなかっただけだろう。
「アクセル殿下からのお誘いは有難く存じますが、聖女として学院生として領主として多忙な日々を送っております。時間の捻出が中々難しく……」
ちょっと落ち着いてきたので、彼に構って忙しくなるのは本末転倒のような。私の予定調整を行ってくれているソフィーアさまが有能だから、上手く回っているのだけれど第四王子殿下からの横槍があるとまた再調整しなくてはならない。それだけは避けたいので観劇に行くなら、二ヶ月くらいは先になりそうだけれど、その頃には人気の劇団は別の場所で公演しているだろう。
王国から第四王子殿下の対応はおざなりでも構わないと許可を頂いているけれど、あまり強気に出ると私の評判に関わってしまうので、やんわりと断りたいけれど出来るだろうか。そろそろこの殿下からの色仕掛けというか、アプローチに対応するのが面倒になってきている。
「近々で聖女さまがお休みの日はありませんか? 僕が予定を合わせますので」
あ、また後ろの二人の空気が変わった。というよりも凄く怖い気配が更に増した。私に向けられているものではないので平常心を保っていられるけれど、普通の人なら彼女たちに気圧されてチビりそうだ。第四王子殿下も良く平気な顔をしているな。彼の雰囲気が変わらない辺りは、流石王族と言った所か。
近々の私の予定を素直に教えるつもりはない。もう諦めてまどろっこしいやり取りは止めにするべきか。私の気を引く為に彼の行為をこれ以上躱すのは面倒だし。
「殿下、失礼を承知で述べさせて頂きます。わたくしに近づく理由はなにかしら目的があってのことかと愚考いたします」
目的がなければ普通近づこうとしないよね。もう面倒だからギド殿下みたいにぶっちゃけてくれた方が話が早く済むのだけれど。何故、私への婿入りを望んだのかは分からないけれど、何かしら切っ掛けが欲しかっただけかもしれない。
聖女の力が何かしらで必要ならば国を通して申請すれば良いが、個人的な申し出の可能性だってある。不能やら禿治療やら人に言い辛いことかも知れないのだ。婚姻してからぶっちゃけて治して貰おうと考えてもおかしくない問題なのだろう。生憎と男の人ではないから、その辺りの悩みに疎くて申し訳ないが。
後ろのお二人の空気がどんよりジメジメしたものから、カラッとした空気に変わった気がする。よく言った、と思っているのだろうか。
「……目的など。貴女と仲良くなりだいだけですよ。そして僕に振り向いて欲しいと。貴女のお婿さんに迎え入れて下さいというのも本心です」
誤魔化されたか。一瞬言葉を飲んだが悟られないように、直ぐに顔色を変えたあたり流石である。私を口説き落としたいなんて酔狂だよね。周りには綺麗な人が沢山居るし、殿下に懸想している女性だって居るだろうに。
不敬になる可能性もあるが、もう一押しかなあと粘ってみる。
あ、またしても後ろの二人の空気がどんよりジメジメしたものに。目の前の殿下よりも私の後ろに居るお二人の空気の方が気になって仕方ない。
「王族の方や貴族であればその煩わしい行為は無駄でございましょう。手早く済ませるには貴国の陛下へ請願し、正式な手続きを経た方が話が早いかと」
だよねえ。一応彼の釣書が届いているから、ヴァンディリア王も認めているだろうけれど。本気で私との婚姻を狙っているならアルバトロスの陛下と直接対談して願い出るくらいのことはするはず。
だから最初から期待されていないか、落としてくれれば運が良いくらいに考えているのではないだろうか。第四王子殿下が私を落としたいとヴァンディリア王へお願いして、留学してきた線が濃そう。
「聖女さまは現実主義者なのですね。僕の誘いに全く乗ってくれないのですから。――分かりました。では、正直に目的をお話いたしましょう」
今まで僕の魅力が通じるか幾人かの女性で試してみたのですが、と第四王子殿下。いや、殿下に落とされた女性がかわいそうだろうに。
実験扱いしちゃったよ。プレイボーイなのだろうか。取りあえず第四王子殿下の目的を引き出せたから、深くは追及すまい。墓穴掘りそうだし。もっと渋るかと考えていたけれど、あっさりと了承を頂けたので安堵する。面倒な事でなければ良いのだけれど、どんな目的なのだか。
「しかしこの場で伝えるのは憚られます。サロンを借りて本日の放課後……如何でしょうか?」
言い出したのは私の方だから、放課後に時間を作らなければ。これ以上は本気で不敬になりそうだし。
「承りました、殿下。では本日の放課後にサロンで」
復唱して彼の言葉を理解したことを示す。私がそう口にすると第四王子殿下は笑みを携え、小さく頭を下げて自席へと戻って行くのだった。
◇
――昼休み。
第四王子殿下と話をする前に、気になることがあったのでとある方を呼び出していた。
「何の前触れもなく突然お呼び立てし、申し訳ありませんギド殿下」
ということでギド殿下を学院のサロンへと呼び出ししたのだ。午前中の休み時間に声を掛けてお願いしたのだけれど、快く答えてくれた彼。犬耳を幻視しそうと思ったのは内緒である。気さくな方だし、そういう性格なのだろう。
用意された紅茶からは湯気が立っており、熱そうだなあと遠い目になる。私が口にするのはもう少し冷ましてからだ。猫舌にはつらい熱さである。アクロアイトさまは膝の上に移動して頂き、お茶が冷めるまでナデナデしている。甘鳴きしているので気持ちいいようだ。
「聖女殿の頼みだ。気にすることはないさ」
それに学院生だから然程忙しくもないしな、とニッと笑う殿下。お貴族さまなのに白い歯を見せているけれど、それがNGなのって女性だけだったかなあ。取り敢えず今は関係ないかと頭の片隅へと追いやる。
「あまり時間もないので本題を言いますね。――アクセル殿下をどう思われますか?」
ぶっちゃけてみた。ギド殿下になら遠回しに聞くより、直球で聞いた方が正しい回答や思いを聞きだせそうだ。
「おや、聖女殿はアクセル殿に気があるのか?」
意外、みたいな顔をギド殿下は浮かべる。
「いえ、これといって全く」
私の言葉でリームの護衛の皆さまが吹きそうになったし、一緒に来ていたソフィーアさまは『うわぁ、ぶっちゃけたコイツ』みたいな顔をし、セレスティアさまは鉄扇で顔を隠している。口元ではなく顔全体。そんなに顔に出てたかなあと首を捻る。後で聞いた話になるけれど、私の目から光が失われていたとのこと。
第四王子殿下を無意識のうちに苦手だと思い込んでいたみたい。確かに気色悪い行動が多い人だったけれど、私の個人的な感覚の問題。アレが受け入れられる人も居る可能性だってあるから、完全否定する訳にはいかない。
「もう少し婉曲に言っても良いんじゃないのか、聖女殿。歯牙にもかけていないと丸わかりだ」
まさかギド殿下に男女の仲の保ち方というか、アドバイスを頂くとは。意外だなあとギド殿下の顔を見ると、苦笑いを浮かべている。
恋や愛はまだまだ私には早いというか、そんな暇がないというか。そりゃ良い人が居るならお付き合いとかしてみたいけれど。前世も自分の生活で手一杯でそういう機会には恵まれなかったし、気付いていなかった節もある。会社の男性同僚から食事を誘われたりしたけれど、もしかしてアプローチだったのだろうか。
「まあ、聖女殿の生まれを聞けば仕方ないと言えようが。――すまない、貴女の過去を知るつもりはなかったが偶然に耳にした」
椅子に座ったまま頭を深く下げるギド殿下。知られても問題はないからそんなに気にしなくて良いのに。お貴族さまが貧民街の孤児と聞けば蔑みそうだけれど、有難いことに私の周りに居る人たちは差別せず受け入れてくれているし。
「お気になさらないで下さい。調べれば直ぐに分かることですし、隠していませんので」
事実なので隠す必要はないし、貧民街出身という事実に後ろめたいことはない。生きる為に犯罪に手を染めたことがあるけれど時効だろう。あと大陸の技術力だと、現行犯でないと立証できないだろうし。謝る為にワザと口にした可能性もあるな、ギド殿下と考えつつ私の問うた答えが欲しい所なのだけれど。
「本当に済まない。――で、アクセル殿のことだな」
「はい。第一印象でも何でも構いませんので、ギド殿下が感じたことを教えて頂きたいのです」
腕を組んで頭を傾げて考え始める殿下。そう難しく捉えられても困るし、単純に私の知らない所の第四王子殿下がどんな感じなのか情報が欲しかっただけ。
「と、言われてもなあ。俺よりも頭の回る方だし、ヴァンディリア王国よりリームの方が格下だが態度も丁寧。不快なことは特段なかったし普通ではないのか?」
男性同士だから気楽に言い合えた部分があるのだろうか。私には目的を持って近づいたのだから、本性があるとするなら隠すだろう。どうにか彼の人となりを知りたいと考えて、ギド殿下を頼ってみたけれど収穫はなしか。
「そうでしたか。ギド殿下も見ていたでしょうけれど、最初のお婿さん宣言がどうしても理解出来なくて」
「確かにあれには驚いた。聖女殿に婿入り宣言だったからな。確かに理解はし辛いが、君と縁を持てば自国と直接繋がることが出来る」
緊急時に国同士を通さず直接依頼出来るなら旨味なのではないか、とギド殿下。確かに早いけれど国を通さなければ厄介な事になりそうだ。
「ですが、私はアルバトロスの聖女です。その立場は変わるものではなく、個人で勝手に他国に渡る訳には……」
失敗した時に責任を取らされかねないし、自国……アルバトロス王国も勝手をした聖女なんて守ってくれないだろうから。保身と言われればそれまでだけれど、自分の立ち位置を確りと見定めて置かないと呑み込まれてしまいそう。
「今の聖女殿はそうして割り切ることが出来るから良いのだろうが、情が芽生えた時にそう振舞えるかどうかが問題じゃないか?」
「確かに愛や恋心を抱いていれば、相手の言葉に惑わされるのかもしれませんが」
それでも国と国を通して欲しいと願うと思うけれど。まあ、情があったり愛があれば動かされてしまうものなのだろう。
愛は盲目と言うし、仮に第四王子殿下に懸想して甘い事を囁かれたら、彼の言う通りにしてしまうのだろうか。……あり得ないなと言い切れる辺り、第四王子殿下にあまり良い感情を抱いていないのかも。
――コレで悩むのも今日までだ。
腹を割って話してくれるかどうかは第四王子殿下次第だけれど、私に目的は告げてくれるみたいだし。ただ目的次第で何か騒動が起こってしまいそうな気がするのは、どうしたものか。
「済まないな。聖女殿が希望するような回答はできなかったようだ」
「いえ、私が一方的にお願いしただけなので、無理を申し出た上に快諾頂き本日は有難うございました」
ギド殿下と話している間に熱かったお茶がある程度冷えたようで、猫舌の私に丁度良い温度となっていた。残すのは勿体ないのでティーカップを持ちあげて飲み干していると、何故か苦笑しているギド殿下。
この辺りは単純に貧乏性なだけだから仕方ない。私の出自を知ったなら問題なく見逃してくれるだろう。殿下は私が飲み干すまで待ってくれて、特進科の教室へ戻ろうとする。
「ああ、そうだ。騎士科では近々模擬戦があると聞いた。君と対戦出来ると良いのだが……」
ギド殿下が私の護衛を務めていたジークへ声を掛ける。殿下の言葉通り、近いうちに学年別の模擬戦が開催される。騎士科の人たちの純粋な真剣勝負となり、魔力は魔術具で同じ値になるように調整される。
そんな理由からかなり白熱したものになるらしい。ジークも腕試しに出場する為、みんなでお客として見学する予定だ。家族も見学できる為、クレイグとサフィールも誘ってある。魔術科も披露会があるらしい。娯楽が少ないし、こういう時はお祭り扱いだった。入場者は事前申請となっているし、警備も強化されるから妙な人が交ざる心配はない。ちょっと楽しみなイベントだったりする。
「殿下も出場予定で?」
「ああ。申請すれば普通科や特進科の者でも出られると聞いてな。魔力が制限され純粋な身体能力勝負、挑戦せずにはいられんよ」
他国の王子さまが出場するとなれば忖度がありそうだけれど、その辺りはどうなのだろう。王子殿下だからあっさり負けたなんてカッコ悪い所を見せれば、彼の面子が丸つぶれである。
「試合で殿下と当たるとなれば、手加減は出来ません」
ジークが珍しく真剣な顔でギド殿下の言葉に答えた。魔術具で魔力を制限しての勝負だから、いつもと勝手が違うのかも。私の祝福を受けているけれど、その効果が魔術具によって制限されるかどうかは分からないし。
「もちろん、手加減などしてくれるな。勝っても負けてもあと腐れなく笑い合えれば良いさ」
もし対戦となったときはよろしくとジークに片手を差し出すギド殿下。ジークも笑みを返しつつ、力強く手を握るのだった。