魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0150:求める理由。

 ――放課後。

 

 ヴァンディリアの第四王子殿下の目的がようやくはっきりする時となった。ホームルームを終えて、第四王子殿下の方へ向き直ると確りと頷いたので、サロンの予約はバッチリ入れているようだ。第四王子殿下がそそくさと教室から出て行ったので、少しだけ時間を置く。

 そろそろ向かうべきだなとソフィーアさまとセレスティアさまを従え、途中でジークとリンたちと合流してサロンを目指す。慣れてしまったから違和感をあまり感じなくなったけれど、この大名行列一歩手前の行進は目立つよね。

 

 チビな私を筆頭にして――もちろん前には護衛の騎士さまが居る――その後ろに公爵令嬢さまと辺境伯令嬢さま。で、護衛のジークとリン。肩にはアクロアイトさまが乗って、機嫌よく周囲を観察してる。偶にマルクスさまも交じっている時もあるし、用事があればアウグストさまやアリアさまも加わる時がある。

 

 これ私たち以外の学院生はどう見ているのだろうか。成り上がりの聖女が鼻高々と高位貴族を侍らしていると思われていそうだ。その分の功績はアルバトロス王国へ齎しているので、文句を言ってくる人は居ない。居たら居たで、ソフィーアさまとセレスティアさまにひと睨みされて終わる話だ。流石に公爵家と辺境伯家に盾突く人はかなり少ない。

 

 サロンが併設されている建屋へとやって来た。部屋の前にヴァンディリア王国の騎士衣装を着込んだ方が立っていたので、分かり易かった。私の顔を見るなり『殿下がお待ちです。さあ、中へどうぞ』と告げられたので準備は整っているのだろう。

 

 「失礼致します」

 

 「ようこそ、聖女さま」

 

 第四王子殿下は笑みを浮かべてはいるものの、少し空気が張っている。ヴァンディリア王国の護衛の騎士の方々にも、その緊張感が伝わっているようで空気がピリッとしていた。

 お茶しか用意されていない辺り、あまり歓迎されていないのだろうか。初回の時にお菓子が沢山用意されていたのは、私の気を引く為だったのだろう。

 

 「どうぞお掛け下さい」

 

 「はい。失礼致します」

 

 殿下が上座、私が下座になっている。偶然と思いたいけれど目的を話すと仰ったのだから、何かを表す為の明確な意思表示なのだろうか。どう出るかは第四王子殿下次第だ。緊張感が伝わったのか、ジークとリンと私の距離が近い。

 

 「そのように警戒なさらずとも。僕は聖女さまとお話しする為にこの場にいるのですから」

 

 にっこりと笑みを深めて、アルバトロスの護衛騎士メンバーを見渡す第四王子殿下。そんなことを言っちゃうから余計に警戒心を煽るのでは。剣呑な空気に深い溜め息を零したくなるのを我慢して、第四王子殿下を確りと見据えた。そんな私を見て殿下も確りと頷き、ようやく口を開くのだった。

 

 「僕の望みを聖女さまは叶えて下さいますか?」

 

 少し背を屈めて目を潤ませてそんな言葉を発した第四王子殿下。普通の女性なら落ちるんだろうなあと、微妙な気分になる。

 

 「殿下のお話の内容を聞いてから判断させて頂きたく存じます」

 

 怖いよね。これで何も考えずに頷いて、彼の口から出た言葉が無理難題な代物だったなら、頭を抱える羽目に。

 

 「つれないですね。頷いて頂ければ話は簡単だったのですが。――まあ良いでしょう」

 

 屈めていた背を元に戻して肺の息を全て吐き出しそうな程の長い息を吐く第四王子殿下。

 

 「聖女さまへ近づいた目的は、僕の母へ貴方の魔力を注いで頂きたかった」

 

 そう言って殿下が目を伏せる。第四王子殿下は側妃さまが母親である。正妃さまは長兄と次兄を産み、第三王子殿下と第四王子殿下は側妃さまが産んでいる 側妃さまは最近表舞台に顔を出していないらしいので、一体どうなっているのやら。正妃さまは元気に外交や国内の政に後宮管理を忙しそうに執り行っているそうだ。

 

 長めに閉じていた目を開いて、私を見据える第四王子殿下。

  

 「そう、貴女が枯らしたリーム王国の聖樹のように」

 

 随分と含みのある言い方だけれど、儀式魔術を執り行って欲しい訳はないはず。だって生きているなら治癒魔術で十分に賄えるはずだ。言い方から推測するに、重い病を患っているとか。

 

 「……殿下のお母さまは、何かしらのご病気なのでしょうか?」

 

 おそらく側妃さまはヴァンディリア王国に居るはずだから、急にどうこう出来る話でもない。なるべく情報を手に入れて、アルバトロス王国へ報告を上げるべきだ。これで私が勝手に頷いて問題となれば、不味い事態へ転びそう。

 

 「ええ。とても重いものです」

 

 「病状は?」

 

 「眠ったまま起き上がりません。さながら眠り姫といった所でしょうか」

 

 口の端を歪に歪ませて無理矢理に笑みを作った第四王子殿下。彼を産んだ母親だから、やはり心配なのだろう。親というものが居ない私にはあまり理解が出来ないが、孤児仲間が同じようなことになれば、必死になって目を覚ます方法を探す。

 

 「……わたくしの魔力を殿下のお母さまに注いだとして、目が覚める保証はどこにもありません。それに下手をすればそのまま死に晒してしまう可能性もあります」

 

 彼が言ったリームの聖樹を枯らしたように。まさか聖樹さまが森の中で精霊化したことを知っているのだろうか。

 随分と含みのある言い方だし、彼が影や草を雇っている可能性もある。リーム王国に忍び込ませて情報でも仕入れていた可能性も出て来た。けれど、今はソレを気にしている場合ではない。

 

 「ですが、数々の奇跡を起こした聖女さまです。望みがあるのならば僕はそれに賭けたい」

 

 言っていることがリーム王と一緒に聞こえて仕方ない。もし私が失敗した時には責め立てられそう。たとえ失敗しても責任は問わないと確約を取り付けていたとしても。

 

 「お断りします」

 

 取りあえず、断言しておく。妙な気を持たせる訳にはいかないし、断ったという事実も大事になってくるだろうから。証拠としては弱いが、ソフィーアさまやセレスティアさま、ジークとリン、そして護衛の騎士さまから報告書で国へ提出されるはずだから。

 

 「やはりそうなりますよね。僕が貴女へ婿入りを希望したのはそういう理由からです」

 

 情が芽生えて断り辛い状況を整えてから、本当は話すつもりだったらしい。子供が出来れば女性は弱いでしょうと第四王子殿下。普通のお貴族さまは乳母に任せるから、その辺りはどうなのだろう。ただ私は自分が産んだ子をよそ様に任せるのは憚られる。

 

 「…………」

 

 何をどう言って良いものか分からず無言になってしまう。

 

 「不快な思いをさせて申し訳ありません。ですが僕は母を救いたいのです」

 

 だから貴女を頼り婿入りを迫ったとのこと。目的ははっきりとしたけれど、すっきりとはいかない状況となってしまった。救いたい気持ちは理解できる。出来るけれど無理難題を押し付けられて失敗した時の反動が怖い。婿入りしてから話すつもりだったという計画性は、執念深さを感じてしまうし。

 

 少々彼の怖い部分を垣間見たなと考えつつ、こう言うしかないなと息を吐く。

 

 「何かしら問題が起こった時に、個人で補償できる範囲ではないことが一番の問題でしょうか。ですが国と教会を通して確約して頂ければ殿下の望みが叶えられる可能性は高いでしょう」

 

 リーム王が願い出た時と同じだけれど、ちょっと状況が違うかも。今度は人相手だから、側妃さまの症状次第で改善できるかもしれないが、なにせ情報が殿下からしか齎されないので、ちょっと怖い気がする。

 ただ国と国を介してとあれば、ある程度は凌げるはずだ。出来ればどうにかしたいけれど、個人依頼は怖いので受けない方が良い。お貴族さまや王族の方相手なら特に。

 

 「どうしてもヴァンディリアとアルバトロスを介さねばなりませんか?」

 

 「必須事項かと。そもそも何故最初からそうしなかったのですか?」

 

 疑問を疑問で返させて頂く。そうするのが一番の近道だと分かっているだろうに。アルバトロスへわざわざ留学しなくとも、国同士を介せば聖女は派遣され殿下の望みが叶うはずなのに。まさかアルバトロスやヴァンディリアを通すことが殿下にとって不都合なのだろうか。

 

 以前に陛下方から無下に扱っても構わないと言われていたことを思い出す。無下に扱っても良いと言っても、他国の王子さまだ。面子もあれば立場もある。

 ソフィーアさまとセレスティアさまは、第四王子殿下の面子より、私の評価が落ちることを危惧していたので、機会を伺った方が良いだろうと判断。殿下の面子を思い切り壊すようなことは、のらりくらりと躱してきたがもう無理な領域。聖女として当主として他諸々の仕事があるので、観劇に行こうと誘われても困るだけだし。王子殿下には王子殿下の面子が有り、私には私の面子がある。

 

 「申し訳ないのですが、聖女さまが知る必要はないかと」

 

 何か隠しているなと訝しむ。ならば返事は決まりだ。

 

 「では交渉決裂ですね。申し訳ありませんが、わたくしが殿下のお母さまに治癒魔術を施すことはないでしょう」

 

 「…………」

 

 悔しそうに歯噛みしている第四王子殿下には悪いけれど、内容が内容で軽く引き受けられる案件ではない。側妃さまだと言うなら国からの依頼があってもおかしくはない状況だ。

 断って正解かと席を立って、聖女としての礼を執る。ぼーっとしている第四王子殿下を横目にしながら、サロンから退室するみんなと私だった。

 

 ◇

 

 サロンからそそくさと撤退して扉の前を少し進む。どうにか面倒事には巻き込まれずに済みそうだと、息を深く吐く。

 

 「散々だったな」

 

 「これで少しは収まりましょう……」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが背中越しに声を掛けてきた。とはいえ気を付けるに越したことはないというのが、お二人の見解。ジークとリンも同意する。アクロアイトさまは呑気に私の顔へ顔を擦り付けてくる。お疲れさまとでも言いたいのだろうか。

 

 「聖女さまっ!」

 

 だんと勢いよく開かれた扉から悲痛な顔を浮かべた第四王子殿下が飛び出してくるけれど、ヴァンディリアの護衛の騎士さまたちに止められ、それ以上進むことが出来なかった。

 

 「貴女を必ず僕の母の下へ連れて行きます!」

 

 近づくのは危険だなと判断して、離れた場所から口を開く。

 

 「殿下、先ほど申した通り国と教会を通して下さい。殿下のお母上をアルバトロスへ連れて来られるならば、可能性が少しは上がるかと」

 

 そう伝えて、再び歩き始める。疲れたけれど、この後は王城の魔力陣へ魔力補填を終えた後、陛下方との面会がある。第四王子殿下の扱いは適当で良いと言われていたが、アルバトロス上層部と話し合って決めた方が良いだろうと、面会要請を出し直ぐに承認されたのだった。

 

 露骨なお誘いをどうしようか相談するつもりだったが、痺れを切らして話を進めてしまったので、アルバトロス上層部は何を思うだろうか。

 目的が分からないままよりは状況がはっきりとしたので、対策は取りやすいだろう。あとは殿下がすっぱりと諦めてくれれば良いが、先ほどの様子だと難しそうだから、それを重点的に対策を練ることになるのだろう。

 

 学院の校門を目指しつつ歩きながら、どうしようかと考える。

 

 ヴァンディリアへ赴くよりも、アルバトロスの王城で治癒を施す方が私の安全が保障されるから、殿下の願いが叶う可能性が高くなるはずだけど。

 ただ眠りから覚めないと言っていたので、搬送が大変そう。魔術転移を使ってこちらへ来ることも出来るけれど、王子さまレベル、しかも私情でこちらへ渡る許可が両国から下りるのか微妙だ。

 

 そうなれば、個人で側妃さまに治癒や魔力を注ぐなら、ヴァンディリアに赴かなければならないし、私が入国したことはバレバレになるだろう。向こうの王さまとは顔合わせを済ませているので、何を言われるか分かったものじゃないし。

 

 そういえばヴァンディリア王も建国際の時に私と接触を図ったけれど、第四王子殿下と同じ目的だったのだろうか。でもそれだと理由が付かない気がする。それこそ国同士でやり取りして、私や私に準ずる聖女さま方を派遣すれば話が終わる。

 

 子爵邸へ戻る為に乗り込んだ馬車の中で、深くため息を吐く。

 

 「大丈夫か?」

 

 一緒に乗り込んでいたソフィーアさまが心配そうに問いかけたので『大丈夫です』と返した。

 

 「目的はハッキリと致しましたが、気を払わねばならないことが増えましたわね」

 

 確かに。あの様子だと諦めることはなさそうで、私の護衛が増えそうな予感がひしひしと。第四王子殿下にとっては他国なので好き勝手動くことは出来ないだろうけど、念には念をと言われそうだ。

 子爵邸へ戻り着替えを済ませ、王城へと向かって魔力陣に魔力を補填して、通達されていた部屋へと近衛騎士の方に案内され。

 

 王国上層部の主だった方々が集まっており私を迎え入れてくれた後に陛下が訪れる。や、私はただの子爵位ですから、そのように丁重に扱って頂かなくともと大声で叫びたいけれど、お口はチャックしたまま。

 

 「では聖女よ。第四王子殿下への対応を協議しよう」

 

 呆れているような疲れているようなアルバトロス王に申し訳ないと考えるが、思えば亜人連合国への使節団の長を私に任命しなければ、今頃違う未来があったのでは。

 

 「申し訳ありません、陛下、皆さま方。話に進展があり、本日はそちらについて皆さまのお知恵を借りたく存じます」

 

 頭を下げて今日の経緯を話すと、みんな難しい顔をしている。一部、王子殿下の私欲の為に黒髪の聖女へ言い寄ったのかと憤りを顕わにしている方も居るが、私が目的の人なんて大体そんな感じだから今更だ。で、私の警備を強化することと、ヴァンディリア王国へ第四王子殿下の苦情を入れようと話が纏まって。

 

 ――翌朝。

 

 増えた護衛の人たちを見て苦笑いをしつつ学院へ着くなり、ソフィーアさまとセレスティアさまといつもの様に合流すると、雰囲気が違う事に気が付いて。私にソフィーアさまが近づいて耳打ちされた内容に驚く。

 

 「え?」

 

 第四王子殿下は昨夜ヴァンディリアへ帰国したと言った。あんなに私に固執していたのに何故と不思議になる。自分の意思で戻ったのか、国から帰国命令が下ったのかは定かではないが、戻ったことだけは事実なのだろう。

 

 「あの男の行動が理解出来ん」

 

 ソフィーアさま、ついに敬称を止めてしまっている。彼女の中で第四王子殿下は危険人物に認定されてしまったのかも。

 

 「ええ。昨日あれだけ貴女に拘っていたというのに……」

 

 鉄扇を広げて口元を隠すセレスティアさま。まあ帰ったというならば、取りあえずの危機は去ったと言っても良いのだろうか。

 何が起こるか分からないから暫く警備は強化されたまま。帰国したというならば安全だと思うけれど、何を考えているか分からないので当然の対処なのだろう。

 

 「戻ったならば、ヴァンディリア王が諭してくれれば良いのだが」

 

 抗議の書状がアルバトロスからヴァンディリアへ届くので、マトモな人ならばソフィーアさまが口にした通りになる。個人で無理を通そうとしことと、王子殿下という立場を利用して私と接触しようとしたことを記して貰っているから。

 

 「出来れば野放しなどにせず、自国で婿入り先を決めて頂ければ一番良いのでしょうね」

 

 本人が居ないのを良いことに言いたい放題だった。まあ私も本人が居なくなったならば好き放題言える。心の中でだけれど。

 

 ――やっとあの演技掛かった気持ち悪さから解放される。

 

 うん、これにつきる。あと暫くは警備体制が強化されるから、ちょっと我慢が続くけれど第四王子殿下からのアピールが無くなったので心が軽い。もう暫くすれば騎士科の模擬戦という名の大会があるから、ジークの活躍を楽しみにして待っていようと、背の高い門を潜る私たちだった。

 

 

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