魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

154 / 740
0154:釣れるかな。

 ――魔術師に逃げられた。

 

 幽閉処分を受けている第四王子殿下に、私がヴァンディリア王国へ入ったと吹き込むと、あっさりと魔術師の名を吐き容姿や特徴も告げたそうな。凄くあっさりとしている辺り、第四王子殿下の精神状態を疑ってしまうが、彼はもうヴァンディリア王国へと戻っているのだ。

 だから私がどうこうは出来ないし、考えても仕方ない。母親を生き返らせようと必死に足掻き続けていることに対して、諦めるなり目が覚めるなりして欲しいが。

 

 「聖女さま、申し訳ありません。件の魔術師に逃げられてしまいました」

 

 ヴァンディリア王がアルバトロスへお忍びでやって来た数日後。私の目の前で、珍しく眉を八の字にして困ったように口にした副団長さま。魔術の研究と称して子爵邸へ出入りをしているので、今日も天馬さまたちや屋敷の中に居る妖精さんに、畑の状態の確認に来たと思っていたのだけれど、家宰さんを通してお時間はありますかと問われたのである。

 学院も終わり戻っていたので、問題ないですよと家宰さんに返すと来客室へと連れていかれ。応接用のソファーに浅く座る副団長さまが開口一番に告げた言葉がソレだった。

 

 「逃げられた?」

 

 どういうことだろうか。アルバトロス王国の魔術師団副団長を務めている彼が、ヴァンディリア王国が血眼になって捕らえようとしている魔術師を何故捕まえるのか。はて、なにかあったかと考えていると副団長さまが更に言葉を続ける。

 

 「ええ。死者蘇生という禁術を発動させようと企んでいる無法な魔術師を捕り逃すなど、失態以外にありませんね」

 

 副団長さまは死者蘇生の禁術を使おうとしている魔術師が居ると聞き、陛下にヴァンディリア王国の協力をしたいと申し出たそうだ。直ぐに相手国へ副団長さまが魔術師の確保に協力したいと要請すると、彼の国も悪い話ではない為二つ返事で了承してくれたと。

 意気揚々と副団長さまと使節団数名はヴァンディリア王国へ向かい、相手国の騎士団や魔術師さまたちと協力し合い、第四王子殿下が齎した情報を元に居場所を特定。潜伏先へ突入を決め込んだが、そこはもぬけの殻。ただ急いで逃げたのか、いろいろと証拠品や置き土産があったそうで。

 

 「一つ、聖女さまに報告したいことがあります」

 

 そう言って副団長さまが数枚の紙を懐から取り出し、ゆっくりとした動作で机の上へ置く。見ていいものだろうけれど、念の為に確認を取ってから紙を手に取り目を通す。第四王子殿下が黒髪の聖女をおびき寄せることに失敗した。

 そう書かれてある。実際に彼のプロポーズ大作戦は失敗に終わっているのだから、紙が放置されていたことに不思議はない。

 

 問題はその次だった。

 

 どうやら件の魔術師は私と接触を図りたいらしい。第四王子殿下に近づいた目的が最初からソレだったのか、途中で何かを考えた末にそう決断したのかは分からないけれど。

 

 もし第四王子殿下が私との接触を失敗した場合には、直接アルバトロスに向かい機会を伺うと紙に書かれている。……いや、うん。こちらとしては有難い限りであるが、どうして証拠が残ってしまう紙に書いてしまうのだろうか。

 燃やすなり捨てるなり、自分の懐に隠すなりすれば良いのに、隠れ家がバレたから慌てて逃げ出したとはいえ、なんと間抜けな魔術師。

 けれどヴァンディリア王国の騎士さまたちや魔術師さま方に副団長さまを出し抜いている実力があるのは事実。警備がまた増えそうだし、私の下に何か厄介ごとが舞い込む気がひしひしと。

 

「他人の魔力を頼ろうとしている時点で魔術師としては小物でしょうが、陛下方やヴァンディリア王は貴女が狙われれば大事になると心配されております」

 

 子爵邸に暫く引き篭もっている方が安全かも。出入りは一定の人しか出来なく、屋敷の中へ入りたいならば正門を潜るしか方法がない。

 アポも必要で、一見さんはお断り状態。初見の方で子爵邸に入るなら、後ろ盾である公爵さまや辺境伯さまの許可がまずないと通れず。本当に鉄壁の布陣というか、王城よりも出入りがし辛いのかも。そういえば子爵邸への来客なんて、既知の方しか居ないよなあと。

 お城からお使いの使者の方も固定の人だし、違う人が来たとしても門前で書状を預けて帰るとか。副団長さまは事前にいついつ来ますが、研究の為なので対応は不要と書いてあるし。

 

 友人が遊びに来ることもない…………え、ぼっち? 私、ぼっちなの……。

 

 そういえば学院だと特進科クラスではソフィーアさまとセレスティアさまががっちり守ってくれているから、同じクラスの女性陣は近づけない状態。唯一話せる可能性があるのは、普通科クラスのアリアさまか。

 友達百人計画を立てるべきかと頭に過ぎるが、クラスや学院の生徒はお貴族さまばかりなので、出来たとしてもそれって真の意味で友達なのだろうか。学院ならばジークとリンが居るし、ソフィーアさまとセレスティアさまが居る。ギド殿下とも彼の性格のお陰で普通に喋っている。わざわざ作る必要もないかと結論付けるけれど、高位貴族と王子さまなんだよなあと遠い目になる。

 

 「有難い限りです」

 

 おそらく他の国から面倒な依頼や見合い話とか沢山舞い込んでいそうだけれど、そういう話は私の下に来ない。以前にギルド本部がある国へ赴いた際に、外務卿さまや陛下たちが釣書や依頼の書状を選り分けていた。時間が経っているので減ってはいるだろうけれど、しつこい相手はしつこそうである。

 

 「貴女を失えば大きな損失となりますからね。僕も貴女が齎す結果には毎回驚かされているのですから」

 

 楽しみを奪われる訳にはいきません、と副団長さま。彼の場合は研究や調べ物がはかどると言って、嬉々として私の下に飛び込む。その代わり便宜を図って貰っているけれど。

 竜騎兵隊のみなさまがどうなっているのか顔を出したついでに、魔術師団がある建屋に赴いて短い時間ではあるが、副団長さまや彼が推薦した魔術師の方に教えを乞うている最中。今は攻撃系の魔術を少しずつ習っているけれど、魔力量に任せた雑な術の構築をしないとか、魔力を無駄に込めすぎとかお叱りを受けている。

 私の後ろで見ているジークとリンは苦笑いを浮かべているし、ソフィーアさまやセレスティアさまも何とも言えない顔で眺めていた。

 

 「そこで相談です、聖女さま」

 

 にっこりと笑みを浮かべる副団長さまに、嫌な予感しかしない。兎に角は彼の話を聞くべきだろうと居住まいを正す私だった。

 

 ◇

 

 副団長さまの提案は割と普通で地味だった。

 

 時間がある時に馬車に乗り込み王都をウロウロして下さいというもので、その際には騎士団の皆さまや魔術師団の方々に軍の皆さまが、私服で王都中を守るそうだ。第四王子殿下から聞き出した情報によると、件の魔術師は転移魔術も使えるとのこと。

 移動速度は通常よりもかなり早いと考えて良いので、もうアルバトロスの王都入りを果たしていても不思議はないそうだ。警備体制は強化されたまま、学院へ通いつつ週に一度のお城の魔力陣への魔力補填、礼拝参加等々、普通に日々の生活を送って欲しいと言われ。

 

 ――礼拝日。

 

 もし狙うならこの日が一番危ないかもと危険視されていた。なので教会の中は一般の人よりも、サクラで紛れ込んでいる騎士や軍に魔術師団の方々が私の周りを固めるそうで。

 外回りは疑われないようにいつもの子爵邸で警備を務める面々が担うけれど、その中から更に精鋭の方が務めることになっていた。

 

 「私は参加しないがセレスティアが共に行く。――頼んだぞ」

 

 ソフィーアさまは子爵邸で留守番となっている。子爵邸の馬車止まりでみんなが私たちを見送りに来ていた。

 あまり多くで参加しても目立つだけだし、警戒されて件の魔術師をおびき出せなければ意味がないとのこと。礼拝にはお二人も時折参加されているので、不自然さはないはずだ。ジークとリンもいつも通りだし大丈夫。

 

 「ええ、お任せください。ナイに危険が伴うならばわたくしが振り払ってみせましょう」

 

 大火力の魔術で相手を消し炭にしなきゃいいけれどと心配になる。ドワーフさんたちが打った業物の短剣を渡したので、魔術の行使は遠慮して欲しい所。ばんっと鉄扇を広げて口元を隠しつつ、自信満々で言い切ったセレスティアさまを見て頭を下げる。

 

 「よろしくお願いします」

 

 私よりも護衛役の人たちの方が心労度が高い筈だ。セレスティアさまも自信満々に言い切ったが、心の中ではどう考えているかは分からない。

 

 『気を付けて下さい。ジョセも聖女さまを心配しておりましたので』

 

 「ありがとう、エル。ジョセも大事な時期なんだから無理しないでねって伝えておいて」

 

 はいと頷いてくれたエル。彼もこの場に顔を出してくれていた。子爵邸の皆さまが気にした素振りを見せていないので、みんな慣れてしまったのだろう。

 まあジョセとエルは誰とでも話す上に腰が低い。重い物を持っている人を見ると、荷物持ちを願い出たり、背中に乗ってもらい正門から屋敷まで運んでいるものなあ。子爵邸のみなさんと打ち解けているようでなによりと、エルの顔を撫でる。

 

 ジョセのお腹は随分と膨らんでおり、厩の隣の小屋からあまり出て来なくなった。あと少しで仔馬が産まれるそうだ。何が起こるかわからないので現場に立ち会いたいが、外せない用があるので仕方ない。さっさと捕まえて戻ってくるのが良いのだろうと頭を切り替える。

 

 『私も行くわっ!』

 

 唐突に光って現れたお婆さまに少々驚いた。

 

 「お婆さま、良いのですか?」

 

 『良いもなにも死者蘇生なんて馬鹿な魔法を使おうとしている奴が居るんでしょう?』

 

 事実なので頷く私。お婆さまは腕を組んで、珍しく顔を怒らせていた。

 

 『自然に逆らっているじゃないのっ! そんなの絶対に見過ごせないんだから!』

 

 亡くなった人が生き返って欲しいという気持ちはなんとなく理解出来るらしい。人間は命が短いから余計よねと、お婆さま。

 死んだ者を供養して、心を前に向けるのが生き残った者や生きている者の役目であり、死んだ者の意思を継ぐことが出来るのも生きている者だけ。死者に囚われてずっと後ろを向いているのは駄目だとぷりぷり怒ってる。その言葉は件の魔術師よりも、第四王子殿下に聞いて欲しいものだ。お婆さまが見えるかどうか分からないけれど。

 

 「無茶はしないで下さいね」

 

 『任せてっ! 人混みの中でも怪しい奴を片っ端から見つけてあげるっ!』

 

 心配だから無茶は止めてと言ったのに……話を聞いて欲しい。だが相手はお婆さまであり妖精さんの長である。無理だと諦める方が早い。

 

 「では行って参ります」

 

 見送りの方たちに頭を下げて馬車へと乗り込み、私も遅れて馬車の中へと入ると遅れてセレスティアさまが乗り込む。馬車の中は二人のはずなのに、何故か先に乗り込んでいる人が居るという状況で。

 

 「シスター・リズ、お待たせして申し訳ありません」

 

 普段着を着込んだ彼女へ頭を下げる。

 

 「気にしないで下さい。ナイさんの身が危ないとなれば教会も黙っていられませんから」

 

 魔力探知に優れているシスター・リズ。変な魔術師に私が狙われているかもしれないから教会も気を配ってね、と王国から通達が出されていた。教会上層部が協議した結果、魔術師は警備が厳重に施されている私に接触は出来ないだろうが、何かあってからでは不味い。

 

 黒髪の聖女と接触を図りたいという下心がある魔術師ならば、魔力感知に長けているシスター・リズがいの一番に居場所を特定できるはずだから、暫くの間一緒に過ごすのは可能かと教会から私の下に打診がきた。

 

 子爵邸の中ならば安全だけれど、外となれば別の話である。学院に赴く際やお城へ出向く時、そして礼拝の時はこうしてシスター・リズが同乗していた。目が見えないので慣れない子爵邸だと苦労するかもと心配していたが、妖精さんの気配を感じ取れる上に妖精さんたちが好意的らしい。

 行きたい場所を問いかけられ、連れて行ってくれるそうだ。危ない物とかあると、先に教えてもくれるそうで。私も子爵邸で働く人たちに、気を配って欲しいと通達していたので、それも功を奏したようだ。教会よりも子爵邸の方が過ごしやすいかもしれないと、つい先日に彼女が零していた。

 

 「そろそろ出発ですわね」

 

 「ですね。――あと少しすれば正門に出ます」

 

 周りの景色が見えないシスターに状況を伝える為、セレスティアさまと私は普段よりも饒舌だった。魔力感知に長けているとはいえ、今馬車で通っている場所がどんな場所で、どんな人たちが行きかっているのかまでは分からないだろう。

 なるべく不自然にならないように馬車の窓から外を見る。時折、顔見知りの騎士さまや軍の方たちを見る。貴族街なので身綺麗なかっちりした服を着込んでいるが、装備や帯剣はしていない。

 

 暫くすると教会へと辿り着いた。ほっとしている辺り、知らぬうちに緊張していたのだろうか。お貴族さまである私が教会へと辿り着いた為、行きかう人々の足を護衛の方たちが止めて誘導を始めた。

 待っていると馬車のドアが開いてセレスティアさまが先に降り、次にシスターリズ。最後に私。今日はリンがエスコートを務めているけれど、いつもご機嫌なリンが難しい顔をしている辺り少々嫌な予感がする。

 

 「聖女さま……よ、よく参られました」

 

 アウグストさまが現れて私に挨拶をしてくれたのだけれど、事情を知っているが故の緊張なのか言葉が上ずっている。来るか来ないか分からない魔術師を気にしてこの状態、王都のみなさんの扇動が良くできたな。必死だったのだろうけど。

 

 「またいつもの場所へ座ります。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

 私が居ると彼がずっと緊張したままだろうから、やることをやってそそくさと席へと就く。即座に男性が私の横へ座ったので頭を下げようとしたら、変装した副団長さまだった。髪はいつもと違う結い方だし、分厚い眼鏡を掛けている。いつもの恰好が見慣れている所為か、違和感があるなあと苦笑い。

 

 そ知らぬふりをして前を見て開始時間まで待っていると、神父さまが現れて礼拝を始めた。あとは慣れたもので賛美歌に説法や教典の話。信者の皆さまとの交流会は参加せず、そそくさと馬車へ乗り込む。帰りも同じメンバー三人が乗ると、ゆっくりと進み始めた。

  

 「――ナイさん」

 

 『嫌な感じがするわね。この感じなにかしら……』

 

 何処を移動しているのか説明しながら帰路に就いていると、魔力に敏感なシスター・リズとお婆さまが何かを感じ取ったようだ。

 シスター・リズは表情を変えないまま私の名を呼び、お婆さまは椅子の背凭れに腰掛けたまま周りを見てる。私の肩に乗っていたアクロアイトさまもきょろきょろと周りを見たり、首を傾げているので何かを感じ取っている。

 

 「魔石……でしょうか?」

 

 『ああ、それだわ! でもこの反応って……術式か何か仕込んで……!』

 

 「感じる気配は動いておりませんが、魔力がどんどん膨れ上がっています」

 

 シスター・リズがいうやいなやお婆さまがぱっと消え、暫くすると戻ってきた。

 

 『子供が魔石を持っているじゃない! しかも後ろに居た奴は魔術師よっ! ソイツも魔石を沢山持っているわ』

 

 慌てた様子でお婆さまが叫ぶ。

 

 ――街を吹き飛ばすつもりなのっ!?

 

 お婆さまがさらに大きい声で叫んだ。一体どういうつもりなのだろうか。王都の街を吹き飛ばした所で、自分も死んでしまうのだから意味がない気がする。ただ私を誘い出す為の無茶であるならば……。理解出来てしまうことに静かに目を瞑って、今出来ることを考えるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。